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3:家政夫生活スタート
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話がサクッと決まっちゃったので、祥平は一度神殿に戻ることにした。ピエリーが離れる気配がまるで無いので、早速、今日からダンテの家で住み込みで働くことになった。ダンテは、今日は休日らしい。予想外に早く、ドーラと離れることになったが、週に一度は完全な休暇をくれるし、ダンテが任務で不在の時も休暇にしてくれるそうなので、その時に神殿に会いに行けばいいだろう。
ダンテも神官長に挨拶をするということで、3人で丘を上って、神殿へと戻った。
神殿に戻ると、まずは神官長の部屋に向かう。神官長の部屋で、ざっくりとした経緯を話すと、神官長が穏やかに微笑んだ。
「これも何かの縁でしょうな。市井で暮らしながら、やりたい仕事を見つけてもよい。必要な時は、いつでも神殿に帰っておいで。必要じゃなくても、いつでも帰ってきて構わないがの」
「ありがとうございます。ドーラちゃんに話してから、荷物をまとめます」
「ドーラが寂しがるじゃろうから、休みの日には会いに来てやっておくれ」
「はい。勿論」
「ダンテ殿。ショーヘイを頼みますぞ」
「はい。神官長様」
祥平達は、神官長の部屋を出ると、ドーラが勉強している部屋に向かった。部屋のドアをノックして、静かに部屋に入ると、勉強中のドーラがきょとんとした顔をした。
「どうしたの? ショーヘイ。そっちの男前は誰?」
「ドーラちゃん。早速仕事が見つかってさ。家政夫をやることになったよ。この人は雇い主のダンテさん。今日から住み込みで働くことになったわ」
「えぇーーーー!! 早過ぎるわよ!! こんな急にお別れなんて!!」
「どうどう。お別れじゃないよ。休みの日にはドーラちゃんに会いに来るし」
「でも、もうショーヘイのご飯、食べられないじゃない」
「うーん。そこは諦めて?」
「……アルモンの収穫とジュース作り、苦手なくせに」
「まぁ、そこは頑張る?」
「むぅ。ダンテとやら! ショーヘイに酷いことしたら、この私が許さないんだからね!」
「分かりました。お嬢さん」
「じゃあ、行ってくるよ。ドーラちゃん。休みの日には必ず会いに来るから」
「絶対よ! 絶対だからね!」
「うん」
ドーラが勢いよく椅子から立ち上がって、祥平に抱きついてきた。祥平は、軽くドーラの背中をポンポンと叩いた。
ドーラは、突然異世界に放り出されて、右も左も分からなかった祥平を、随分と助けてくれた。同じ地球人のドーラの存在のお陰で、酷く取り乱すことにはならなかった。いつでも元気で明るいドーラが、妹のように可愛かった。
ドーラと暫しのお別れをすると、祥平は使わせてもらっていた部屋に移動した。祥平の持ち物は少ない。何着かの服と、ちょっとした身の回りのものを、ディータが持ってきてくれた鞄に詰めれば、引っ越しの準備完了である。
神殿の入り口でディータとは別れた。暫くの間は、数日おきに、様子を見に来てくれるそうだ。
祥平はディータにお礼を言って、頭を下げると、ダンテと一緒に丘を下り始めた。ちなみに、ピエリーはずっと祥平の肩に乗ったままである。
歩きながら、祥平はダンテに話しかけた。
「ダンテさんは何歳ですか? 俺は33です」
「今年で26になります」
「ご結婚は?」
「してません。一応、貴族の出ですが、六男なので、継ぐものも無いですし、婿入りする当てもないので、好きに生きています」
「そうなんですね。ピエリーちゃんが好きなものはなんですか?」
「アルモンが一番好きですよ。飛竜は基本的に雑食ですが、ピエリーはアルモンが大好きなので、庭に小さな畑を作って、アルモンを植えています」
「アルモンかぁ……アルモンの世話と収穫も仕事になりそうですね」
「そうなるかと思います。ショーヘイ様は、本当によろしいのですか? その、望めば、どんな仕事もできますし、ご結婚だって、いくらでもお相手が見つかるかと思うのですが」
「雇い主さんなので、呼び捨てにしてください。俺は普通に働いて、普通に生きたいだけなんで、家政夫をやりながら、市井のことを学べると助かります」
「そうですか。分かりました。では、ショーヘイと呼ばせていただきます。ミミーナさんは今日も来てくれているので、家に着いたら、まずはミミーナさんを紹介します」
「ありがとうございます。……ところで、ピエリーちゃん、寝ちゃったみたいなんですけど」
「……本当に信じられないな。こんなに他人に懐くなんて」
「そんなに珍しいんですか?」
「はい。私以外には、相手が誰でも、絶対に触れさせようともしませんでした。一度だけ、王太子殿下とお会いしたことがあるのですが、触れようとした殿下に威嚇してしまって、物理的に首が飛ぶのを覚悟したことがあります」
「こわっ! え、大丈夫だったんですか?」
「なんとか。殿下はまだ幼かったので、癇癪を起こされましたが、王妃殿下がとりなしてくださいました」
「あ、それはよかったですね」
「はい。あんなに肝が冷えたのは、あの時が最初で最後です。あ、あそこです。あの家が私の家です」
「……すいません。どこの家も真っ白で、見分けがつかないです」
「あー……それは慣れてもらうしかないですね」
「頑張ります」
ダンテの家は二階建てで、周りの家よりもちょっと大きかった。広めの庭もあり、見慣れたアルモンの葉っぱがいっぱい見えた。
玄関のドアから中に入ると、すぐにパタパタと軽い足音が聞こえてきて、背が高いふくよかな老婦人が現れた。
「おかえりなさいませ。旦那様。あら? あらあらあら? 旦那様!? も、もしかして、そちらの方は『神様からの贈り人』では……?」
「ただいま。ミミーナさん。この方は、ショーヘイ。うちで家政夫として働くことになったよ」
「祥平と申します。よろしくお願いいたします」
「まぁ! まぁまぁまぁ。どうしましょう。ショーヘイ様。ミミーナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「あー。あの、できたら呼び捨てでお願いします。家事は神殿で一通り習いましたが、教えていただくことの方がずっと多いでしょうから」
「『神様からの贈り人』を呼び捨てだなんて、畏れ多いのですが……」
「俺は、市井で普通に働いて、普通に生きていきたいんです。市井に慣れる為にも、是非ともご指導よろしくお願いいたします」
「……それでは、ショーヘイと呼ばせていただきます。私に教えて差し上げられることは、何でもお教えいたしますので、どうぞ何でも気軽にお尋ねください」
「ありがとうございます。あー。その、我儘で申し訳ないんですが、もっとこう……気軽に接していただけるとありがたいです。あの、ほら、お互いに疲れるじゃないですか」
祥平が、へらっと笑ってそう言うと、ミミーナがきょとんとしてから、穏やかに笑った。ミミーナは、特別美人と言うわけではないが、笑うととても可愛らしい印象を受ける。きっと、若い頃はとてもモテていただろう。
「では、ショーヘイ。今日からよろしくね。旦那様。昼食は如何されますか? もし、よろしかったら、ささやかながら、ショーヘイの歓迎会をしたいのですが……」
「あぁ。是非ともそうしてくれるかな。今日の昼食はミミーナさんに任せるよ。その間に、家の案内をしておくから」
「ありがとうございます。旦那様。では、気合を入れて作ってまいりますわ!」
ミミーナが、にっこり笑って、パタパタと家の奥へと小走りで向かった。
祥平は、ダンテに家の中を案内されながら、ミミーナがいい人そうでよかったなと、ちょっと安心した。
家の中を一通り見て回り終わると、もう昼食が出来上がっていた。ミミーナが作ってくれた料理は、神殿では見たことがないものばかりで、祥平は、存外覚えることが多いなと、腹を括った。ミミーナの料理は、どれも美味しかった。これだけ美味しい料理が作れるようになれば、今後の人生がよりよいものになりそうだ。ご飯は美味しい方がいい。ドーラに作って食べさせてやりたいし、特に料理は気合を入れて覚えようと決意した。
美味しい料理をたらふく食べた後は、早速お仕事開始である。祥平は、ミミーナとぎこちなくお喋りをしながら、手早く後片付けをした。
ダンテも神官長に挨拶をするということで、3人で丘を上って、神殿へと戻った。
神殿に戻ると、まずは神官長の部屋に向かう。神官長の部屋で、ざっくりとした経緯を話すと、神官長が穏やかに微笑んだ。
「これも何かの縁でしょうな。市井で暮らしながら、やりたい仕事を見つけてもよい。必要な時は、いつでも神殿に帰っておいで。必要じゃなくても、いつでも帰ってきて構わないがの」
「ありがとうございます。ドーラちゃんに話してから、荷物をまとめます」
「ドーラが寂しがるじゃろうから、休みの日には会いに来てやっておくれ」
「はい。勿論」
「ダンテ殿。ショーヘイを頼みますぞ」
「はい。神官長様」
祥平達は、神官長の部屋を出ると、ドーラが勉強している部屋に向かった。部屋のドアをノックして、静かに部屋に入ると、勉強中のドーラがきょとんとした顔をした。
「どうしたの? ショーヘイ。そっちの男前は誰?」
「ドーラちゃん。早速仕事が見つかってさ。家政夫をやることになったよ。この人は雇い主のダンテさん。今日から住み込みで働くことになったわ」
「えぇーーーー!! 早過ぎるわよ!! こんな急にお別れなんて!!」
「どうどう。お別れじゃないよ。休みの日にはドーラちゃんに会いに来るし」
「でも、もうショーヘイのご飯、食べられないじゃない」
「うーん。そこは諦めて?」
「……アルモンの収穫とジュース作り、苦手なくせに」
「まぁ、そこは頑張る?」
「むぅ。ダンテとやら! ショーヘイに酷いことしたら、この私が許さないんだからね!」
「分かりました。お嬢さん」
「じゃあ、行ってくるよ。ドーラちゃん。休みの日には必ず会いに来るから」
「絶対よ! 絶対だからね!」
「うん」
ドーラが勢いよく椅子から立ち上がって、祥平に抱きついてきた。祥平は、軽くドーラの背中をポンポンと叩いた。
ドーラは、突然異世界に放り出されて、右も左も分からなかった祥平を、随分と助けてくれた。同じ地球人のドーラの存在のお陰で、酷く取り乱すことにはならなかった。いつでも元気で明るいドーラが、妹のように可愛かった。
ドーラと暫しのお別れをすると、祥平は使わせてもらっていた部屋に移動した。祥平の持ち物は少ない。何着かの服と、ちょっとした身の回りのものを、ディータが持ってきてくれた鞄に詰めれば、引っ越しの準備完了である。
神殿の入り口でディータとは別れた。暫くの間は、数日おきに、様子を見に来てくれるそうだ。
祥平はディータにお礼を言って、頭を下げると、ダンテと一緒に丘を下り始めた。ちなみに、ピエリーはずっと祥平の肩に乗ったままである。
歩きながら、祥平はダンテに話しかけた。
「ダンテさんは何歳ですか? 俺は33です」
「今年で26になります」
「ご結婚は?」
「してません。一応、貴族の出ですが、六男なので、継ぐものも無いですし、婿入りする当てもないので、好きに生きています」
「そうなんですね。ピエリーちゃんが好きなものはなんですか?」
「アルモンが一番好きですよ。飛竜は基本的に雑食ですが、ピエリーはアルモンが大好きなので、庭に小さな畑を作って、アルモンを植えています」
「アルモンかぁ……アルモンの世話と収穫も仕事になりそうですね」
「そうなるかと思います。ショーヘイ様は、本当によろしいのですか? その、望めば、どんな仕事もできますし、ご結婚だって、いくらでもお相手が見つかるかと思うのですが」
「雇い主さんなので、呼び捨てにしてください。俺は普通に働いて、普通に生きたいだけなんで、家政夫をやりながら、市井のことを学べると助かります」
「そうですか。分かりました。では、ショーヘイと呼ばせていただきます。ミミーナさんは今日も来てくれているので、家に着いたら、まずはミミーナさんを紹介します」
「ありがとうございます。……ところで、ピエリーちゃん、寝ちゃったみたいなんですけど」
「……本当に信じられないな。こんなに他人に懐くなんて」
「そんなに珍しいんですか?」
「はい。私以外には、相手が誰でも、絶対に触れさせようともしませんでした。一度だけ、王太子殿下とお会いしたことがあるのですが、触れようとした殿下に威嚇してしまって、物理的に首が飛ぶのを覚悟したことがあります」
「こわっ! え、大丈夫だったんですか?」
「なんとか。殿下はまだ幼かったので、癇癪を起こされましたが、王妃殿下がとりなしてくださいました」
「あ、それはよかったですね」
「はい。あんなに肝が冷えたのは、あの時が最初で最後です。あ、あそこです。あの家が私の家です」
「……すいません。どこの家も真っ白で、見分けがつかないです」
「あー……それは慣れてもらうしかないですね」
「頑張ります」
ダンテの家は二階建てで、周りの家よりもちょっと大きかった。広めの庭もあり、見慣れたアルモンの葉っぱがいっぱい見えた。
玄関のドアから中に入ると、すぐにパタパタと軽い足音が聞こえてきて、背が高いふくよかな老婦人が現れた。
「おかえりなさいませ。旦那様。あら? あらあらあら? 旦那様!? も、もしかして、そちらの方は『神様からの贈り人』では……?」
「ただいま。ミミーナさん。この方は、ショーヘイ。うちで家政夫として働くことになったよ」
「祥平と申します。よろしくお願いいたします」
「まぁ! まぁまぁまぁ。どうしましょう。ショーヘイ様。ミミーナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「あー。あの、できたら呼び捨てでお願いします。家事は神殿で一通り習いましたが、教えていただくことの方がずっと多いでしょうから」
「『神様からの贈り人』を呼び捨てだなんて、畏れ多いのですが……」
「俺は、市井で普通に働いて、普通に生きていきたいんです。市井に慣れる為にも、是非ともご指導よろしくお願いいたします」
「……それでは、ショーヘイと呼ばせていただきます。私に教えて差し上げられることは、何でもお教えいたしますので、どうぞ何でも気軽にお尋ねください」
「ありがとうございます。あー。その、我儘で申し訳ないんですが、もっとこう……気軽に接していただけるとありがたいです。あの、ほら、お互いに疲れるじゃないですか」
祥平が、へらっと笑ってそう言うと、ミミーナがきょとんとしてから、穏やかに笑った。ミミーナは、特別美人と言うわけではないが、笑うととても可愛らしい印象を受ける。きっと、若い頃はとてもモテていただろう。
「では、ショーヘイ。今日からよろしくね。旦那様。昼食は如何されますか? もし、よろしかったら、ささやかながら、ショーヘイの歓迎会をしたいのですが……」
「あぁ。是非ともそうしてくれるかな。今日の昼食はミミーナさんに任せるよ。その間に、家の案内をしておくから」
「ありがとうございます。旦那様。では、気合を入れて作ってまいりますわ!」
ミミーナが、にっこり笑って、パタパタと家の奥へと小走りで向かった。
祥平は、ダンテに家の中を案内されながら、ミミーナがいい人そうでよかったなと、ちょっと安心した。
家の中を一通り見て回り終わると、もう昼食が出来上がっていた。ミミーナが作ってくれた料理は、神殿では見たことがないものばかりで、祥平は、存外覚えることが多いなと、腹を括った。ミミーナの料理は、どれも美味しかった。これだけ美味しい料理が作れるようになれば、今後の人生がよりよいものになりそうだ。ご飯は美味しい方がいい。ドーラに作って食べさせてやりたいし、特に料理は気合を入れて覚えようと決意した。
美味しい料理をたらふく食べた後は、早速お仕事開始である。祥平は、ミミーナとぎこちなくお喋りをしながら、手早く後片付けをした。
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