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【おまけ】看板息子

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フリッツはカウンターに来た客から本を受け取り、その場で計算して合計金額を客に伝えた。
フリッツの隣から、パタパタと小さな音がしている。フリッツが客から金を受け取り、おつりを渡すと、フリッツの横から小さな手が客に本を差し出した。


「ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとう。お父さんのお手伝いかい?」

「うん」

「小さいのに偉いね。また来るよ」

「ありがとうございます」


フリッツの隣で客と話しているのは、長男のハイルである。もう5歳になる。ハイルは大人しい子で、4歳の頃から毎日カウンターに置いてある子供用の椅子に座って、絵本を眺めたり読み書きの練習をしながら、たまにフリッツと共に接客をする。
ハイルはバーバラにそっくりで、垂れた耳もクリクリのつぶらな瞳も、今もご機嫌に動いているふさふさの尻尾も、どこをどう見ても可愛らしい。フリッツ自慢の可愛い息子だ。
フリッツの隣で客がカウンターに来ると耳や尻尾を嬉しそうにパタパタさせるハイルはとても評判がよく、ハイル目当てで訪れる客までいるくらいだ。どうだ。俺の息子は可愛いだろう。とフリッツは内心、鼻高々である。

ハイルの頭を優しく撫でていると、カウンターにドーバがやって来た。


「や!こんにちは。フリッツ。ハイル」

「こんにちは」

「こんにちは!ドーバおじさん」

「やー。今日も可愛いねぇ、ハイル」

「えへへっ」


ドーバが褒めながらハイルの頭を撫でると、ハイルは嬉しそうにブンブン尻尾を激しく振った。そんなハイルをドーバが微笑ましいものをみる目で眺めている。


「あのね、ドーバおじさん。俺ね、もう2桁の計算ができるようになったの」

「おぉ。それはすごいなぁ。ハイルは大きくなったらおじさんと同じ文官にならないかい?」

「んっとね、俺ね、本屋さんが好き」

「おや、残念。でも文官に興味を持ったら、いつでも言ってね」

「ありがとう、おじさん」

「いいよいいよー」


ドーバがニコニコ笑いながらハイルの頭を撫で回す。ハイルは大喜びで、尻尾は全速力で動いている。


「フリッツ。今日はこれをもらうよ」

「まいどどーも」

「君の大事な看板息子は評判がいいね。昨日うちの職場でも話が出たよ。可愛い犬獣人の子供が接客してくれる本屋があるってさ」

「へぇ」

「獣人の子育てに関する本がまた少し増えた印象だけど、そんなに売れるのかい?」

「……子供が産まれてから俺が読む用に仕入れ始めたら、なんか子持ちの獣人の客が増えてな。買っていくんだよ」

「あぁ。なるほど。今日は店にいるのはハイルだけ?」

「あぁ。ナートはまだ2歳だから家でお義母さんが見てくれている。クレスも家だ。多分今日も父上から剣を習っている筈だ」

「クレスはいくつになるんだい?」

「もうすぐ4歳だな」

「剣を習うなんて随分早いんじゃないかい?」

「獣人の子供なら早いと2歳くらいから習い始めるらしいぞ。クレスが始めたのは最近だから、少し始めるのが遅いくらいだ」

「へぇー。やっぱり人間とは少し違うね」

「あぁ」

「ところでさ、フリッツその腕の包帯どうしたの?」

「遊んでて興奮しすぎたナートに噛まれた」

「わぉ」

「結構血が出たんだ。……まぁ噛まれた時は傷の痛みより怒り狂ったバーバラの方が怖くて、痛み自体は然程気にならなかったんだがな」

「バーバラって怒るの?」

「たまにな。獣人と人間は違うだろう?獣人に比べれば人間なんて脆いもんだ。それを子供達には小さいうちに教え込まないと危険だからって、遊んでて俺が怪我する度にめちゃくちゃ怒る」

「あー。なるほどね。確かにそうだね」

「バーバラは怒ると怖いんだよ」

「怒ってるバーバラを想像しようと思ったけど、脳ミソの限界かな?全然想像できないね」

「……1度ドーバも見たらいい……本当に本当に怖いんだ……」

「どんだけなんだよ」

「でもお母さん優しいよ。お父さん」

「そうだな。お母さんは優しくて可愛くて逞しくて最高だよな」

「うん!」

「……ご馳走さま」


ドーバが何故か呆れた顔で本を買って帰っていった。その後も何人も客がカウンターに本を買うためにやって来る。
ハイルはその度に尻尾をパタパタ嬉しそうに振りながら、可愛らしくフリッツのお手伝いをしてくれる。
ハイルが看板息子になってから、明らかに売り上げが増えてきている。客達を夢中にさせるなんて。どんだけ可愛いんだハイル。超絶可愛いんだよハイル。
フリッツとバーバラの愛の結晶は大人気である。


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