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19:夏休み

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昼前にケリーがアニーの身体をブラッシングしてやっていると、大荷物のカーラが帰って来た。


「おかえり」

「ただいま。……おっもい」

「随分と荷物が多いな」

「明日から夏休みだもん。普段教室に置いてるもん全部持って帰らなきゃいけないんだよ」

「子供も大変だなぁ」

「まぁね」

「荷物置いたら昼飯食いに行くか」

「行くー。僕ピッツァがいい」

「いいな。今はバジルが時期だしな。トマトとバジルのシンプルなピッツァ食いてぇ」

「僕はサラミがいっぱいのがいい」

「2枚頼んで半分こしようぜ」

「うん」


カーラが大荷物を自室に置いて戻ってきたら、カーラと手を繋いで家を出た。すっかり夏本番になっており、強い日射しにケリーのツルピカの頭がジリジリ照らされている。


「帽子被ってくりゃよかったぜ」

「おっちゃん。頭光ってるぜ」

「マジか」

「僕タオル持ってる。既に僕の汗でしっとりしてるけど。はい。頭に巻いたら?」

「おー。ありがとな、って。本当にしっとりしてんだけど」

「学校帰りにちょー汗拭いたもん」

「マジか……」


頭が焦げそうなくらい日に照らされているので、ケリーは妥協してカーラの汗でしっとりしているタオルを頭に巻いた。


「お。汗吸いとってくれる分、帽子よりいいな。これ」

「家建てたりしてる人みたい」

「あー。夏場に職人達が頭にタオル巻いてる理由が分かったわ。これ楽」

「ふーん。あ、そうだ。おっちゃん」

「んー?」

「今年も絵の宿題が出たからさ。アニー描いていい?」

「題材は自由なのか?」

「うん」

「アニーでも別にいいが、去年とは違うものがいいんじゃねぇの?あぁ……なんならアニーに乗って出かけるか?遠足で行った原っぱの近くに小川があっただろ?あの辺りの絵を描くのもいいんじゃねぇか?」

「んー……じゃあ、それにする。思いつかないし、アニーに乗りたいし」

「近いうちに行くか」

「うん」


話していると美味しいピッツァの店に着いた。店内は子連れの客が多く、賑わっている。きっと子供達が夏休みに入ったからだろう。ピッツァを2枚とフレッシュチーズがたっぷりのサラダ、それから冷たいジャガイモのスープを注文した。店がサービスで出してくれる冷たいおしぼりで顔を拭くと、なんだか生き返った気がする。氷が浮かぶ冷たい水もありがたい。


「今年もいっぱい宿題が出たのか?」

「もううんざりするくらいね。基本の教科の宿題とー。絵と工作と自由研究。あと絵日記」

「ふーん。工作はガーナに頼んで教えてもらえよ」

「そうする。絵はアニーに乗って描きに行くし、問題は自由研究なんだよなー。考えるのがめんどい」

「自由研究って何でもいいんだろ?」

「うん。今年も資料館でネタ探すかなぁ」

「んー……それかよ。今度の料理教室ってパン焼くだろ?」

「うん」

「なんだっけ?こ、酵母?パンを発酵させるやつ。あれを調べて作ってみたらどうだ?料理教室では粉末にしてあるやつ使うんだろ?つーことは粉末にする前があるってことだろ」

「あー……なるほど。次の料理教室は4日後だっけ?酵母のことキャシーちゃんに聞いてみる」

「おう。キャシーちゃんなら酵母とやらについて詳しく知ってそうだしな」

「よし。キャシーちゃん次第だけど、今年はそれでいこう。あと1番面倒なのは算数の宿題だ」

「それは毎日コツコツやるしかないな」

「……めんどい」

「がんばれ」


話しているとピッツァが運ばれてきた。2枚とも美味しそうである。サラダもキレイだし、スープもいい匂いがしている。サラダを小皿に分け、早速トマトとバジルのピッツァを1切れ手に取り、かぶりつく。チーズが火傷しそうな程熱いが、新鮮な生のバジルの香りがすごくいい。


「うめぇー」

「うめぇー」


パクパク1切れを食べ終えると、今度はサラミがたっぷりのったピッツァを1切れ手に取る。こっちも抜群に旨い。少しスパイシーなサラミに散らされているトウモロコシの甘さがいいアクセントになっている。カーラも旨そうにピッツァを頬張っている。カーラの口周りはすぐにトマトソースまみれになった。


「お前さん、ピッツァの食い方上達しねぇなぁ。ほれ。顔を貸せ」

「むむむむむ……ぷはっ。滅多に食わないし」

「まぁ、そうだけどよぉ。あ、パンをよー、作れるようになったら家でピッツァ作れるんじゃねぇかなぁ」

「ん!?マジで?」

「これって、結局パン生地薄くしたもんじゃねぇの?」

「おっちゃん。帰りに本屋寄ろうぜ。料理本に載ってるかも」

「そうだな。今年の昼飯は家で自分達で作るようにするか?毎日外に出るのもいいが、練習せんと上達しないしな」

「うん。あ、あと朝飯も作ろうよ。僕達だけじゃ作るのに時間がかかるから少し早起きして。そしたら父さんが少し長く寝れるし」

「お、いいな。今夜早速言ってみようぜ。俺パーシーの作る飯好きだからさ。夜は3人で作るのがいい」

「いいよ。それも言っとこう」

「おう」


ピッツァなどを食べ終わって、満腹のままカーラと手を繋いで本屋に行ってみた。ピッツァの作り方が載っている料理本を探しているうちに、初心者向けの料理本とパン専門の料理本を見つけた。パン専門の料理本には酵母の作り方なども詳しく載っていた。


「カーラ。キャシーちゃんに聞く前に見つけたぜ。干し葡萄で作れるんだと」

「あ、本当だ。意外と楽だね。ふーん。これにしよう。で、ピッツァ作ろう。ピッツァ」

「おーう。んー……あ、これピッツァの作り方も載ってら。ほら」

「あ、トマトソースってそんなに難しくなさそう」

「このさ、バジルソースも旨そうじゃないか?パスタでもいいって書いてるし。バジルは今が旬だし、安くで手に入るぜ」

「へぇー。この本買う?」

「買う。あとこっちの初心者向けのも買う。結構レシピが載ってるしよ。毎日メニュー考えずにすむぜ」

「それ楽。難しそうなのはキャシーちゃんにちょっと聞けばいいし」

「そうそう。失敗したやつとかな。料理本以外で欲しい本はないか?ついでに買ってやるぞ。子供の頃に読んだ本ってよ。意外と大人になっても覚えてるもんだし、その後のやりたいことにも繋がったりするもんだ」

「んー……なんだろ。ほら、僕は一応女でしょ」

「あぁ」

「10歳になったから魔力量検査したけど人並みだったわけ」

「そうだったな」

「普通の常識でいったらさ、魔力量足りないから魔術師とか医者とか女でもなれる職業にはつけないじゃん」

「まぁな」

「となると、中学校卒業したら、あとは結婚するのが普通じゃん」

「あー……まぁなぁ」

「それなのに、やりたいことをさ、わざわざ見つけてもなぁって思うわけよ。女が働ける場所ってさ、本当に少ないじゃん。そんでそういう所で働くには魔力をいっぱい持ってないとダメじゃん。基本」

「なるほど。確かにそうだな」

「やりたいこととか好きなこと見つけてもさ、いつまで続けられるか分かんないし。すっげぇ好きなことをさ、やめさせられるとツラいし。なんか、わざわざそういうの探すのもなぁ、って」

「んー……結婚して子供できたら、難しくなるのは確かだよなぁ。どんなものであれ」

「でしょ?裁縫とかならさ、別にいいんだろうけど。僕裁縫嫌いだし」

「ん?そうなのか?」

「なんかチマチマやんのがめんどい」

「あー……俺も針に糸通す段階で無理だわ。なんかよー、糸がさ、ぶわってなるんだよな。なんつーの?広がるっていうか」

「言いたいことはなんとなく分かる」

「そうさなぁ……ま、あんまり先のことばかり考えても始まらん。そもそもだ。カーラのやりたいこととか好きなことを否定するような相手とは結婚なんぞするな。うまくいかんのが目に見えてるし、第一カーラがしんどい思いする必要ないだろ」

「そうかな?」

「そうだよ。別に働けないから結婚して子供産むってのも変な話だしよ」

「まぁ……そうなのかな?」

「そうそう。お前さんが生きたいように生きるのが1番だ。パーシーだってそれを望んでる」

「……うん」

「別に無理してやりたいことや好きなものを見つける必要もない。ただ、かといって興味がひかれたことをわざわざ無視してやることもない。やるだけ無駄って思うのが1番ダメだと思うぞ。人生どこで何が役に立つか分からんしな。無駄な経験ってよ、いいことでも悪いことでも意外とないもんなんだよ。いいことはいい記憶になるし、悪いことも自然と自省を促したりして次の成長に繋がったりするもんだ」

「うん」

「ま、気楽にいこうぜ」

「うん。んー……じゃあ本屋の中ぐるっと見ていい?」

「勿論!」


ケリーはカーラと共に、そこそこ広い本屋の中をゆっくり見て回った。カーラは色んな髪型のやり方が載っている本を1冊選んだ。


「これ見てやってよ。おっちゃん」

「俺がやんのかよ。まぁ、いいけどな」

「へへーっ」


バレッタをしているから髪が乱れないように、ケリーは静かにそっと笑うカーラの頭を撫でた。
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