俺と僕とオイラの『家族ごっこ』

丸井まー(旧:まー)

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5:お留守番再び

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 アキッレの家に来て2日目の朝。
 昨日もキッカを真ん中に3人で寝た。アキッレに起こされて、寝間着から普通の服に着替え、階下の居間に向かうと、朝食が並んでいた。

 朝食を食べながら、アキッレが口を開いた。


「今日は仕事だ。昼飯も作っておいたから温めて食べろ。魔導コンロはママが使え。昨日使い方を教えたから分かるだろう」

「あ、はい。……多分」

「パンを魔導オーブンで焼き直す時は火傷に気をつけろ」

「あ、はい」

「ミルクを温める時はかき混ぜながら小さめの火で温めろ。必ず蜂蜜も入れろ」

「あ、はい」

「食器の洗い方は教えた。俺はこれを食べたら着替えて仕事に行く。後片付けをしたら、洗濯と掃除をしておけ。家の敷地の外には出るなよ」

「あ、はい。分かりました」


 先に食べ終えたアキッレが椅子から立ち上がり、手早く自分の食器を重ねてから、食器を片手にすたすたと歩いていった。
 ぱんぱんに頬を膨らませているキッカが、そのまま喋りだした。


「あのおっさんの仕事ってなに」

「騎士をしてるって言ってたよ。あ、キッカ。口にものが入ったまま喋っちゃダメだよ。喋るのは、ちゃんと飲み込んでからね」

「んー。……んっ。『きし』ってあれだろ? 城で働いてる奴」

「そうだと思うよ。うちの国、ちょっと前まで戦してたから、もしかしたらパパも戦に行ってたかもね」

「ふぅん。なぁなぁ」

「なに?」

「昼飯の時はミルクをもっと甘くしようぜ」

「……パパには内緒だからね?」

「おぅ」


 キッカが悪戯っぽく笑ったので、ユキルもゆるく笑った。
 売れっ子だった頃は、騎士の客もいた。具体的にどんな仕事をしているのかは分からないが、皆金払いがよかったから、儲かる仕事なんだと思う。

 ユキルは食べ終えた食器を重ねて、キッカと一緒に台所へ運んでから、騎士の服に着替えたアキッレを玄関の所で見送った。今日もアキッレの頬にキスをしたが、何も言われなかったから、多分間違ってはいないのだと思う。

 キッカと手を繋いで台所へ行き、ユキルは腕捲りをした。


「さっ。洗ってから、まずは洗濯をしようね」

「おう。『せんたく』ってなに?」

「服を洗って干すことかなぁ。洗うのは魔導洗濯機だから、僕達は魔導洗濯機に服とか入れて、洗剤入れて、スイッチを押すだけだね。干すのは普通にやるけど」

「ふぅん? 知らないもんばっかだ。この家」

「僕も知らないものがあるなぁ。これが『普通』の家なのかな? よく分かんないね」

「ん。金持ちの家なんじゃねぇの?」

「金持ちの家は使用人? とかいう人がいるよ。多分。掃除とか洗濯とかする人」

「ふーん。これ、ぬるぬるする」

「ねー。キレイになったかな? 水で流そう」

「……こんなキレイな水、じゃーじゃー使うのもったいねぇ」

「分かるなぁ。僕も娼館で初めてお風呂に入った時は同じこと思ったよ。まともな飲める水なのにって」

「だよなぁ。ここ、オイラが住んでたとこと、全然違う」

「僕が住んでた所とも違うよ」


 昨日、アキッレに教えてもらった通りに食器を洗って濯ぎ、キレイな布巾で濡れた食器を拭いた。
 食器類を棚の元あったところに片付けたら、次は洗濯である。洗濯は普通にできる。……筈である。

 キッカと一緒に脱衣場へ行き、脱衣場に置いてある魔導洗濯機に服やタオルを入れ、魔導洗濯機の近くに置いてあった洗剤を量ってから入れる。蓋をして、スイッチを押すと、ごぅんごぅんと魔導洗濯機が動き始めた。
 音に驚いたのか、キッカがビクッとして、ばっとユキルの背中にくっついた。


「大丈夫だよ。洗濯してるだけだから」

「……おう」

「洗濯が終わるまで、掃除しとこうか。あ、シーツも洗った方がいいよね。先に干すところを確認しておこう」

「ん」


 ユキルはキッカと手を繋いで、玄関から恐る恐る出て、庭へと向かった。草ぼーぼーの庭には、洗濯物を干す用と思わしきロープが張ってあった。シーツも干せそうだ。
 洗濯物を干すための金属製のハンガーなどがあるのは確認済みだ。居間の隅っこに置いてあった。

 ユキルはキッカと一緒に家の中に戻り、魔導掃除機を居間に運んで、居間の掃除を始めた。
 キッカに魔導掃除機をかけさせると、キッカがちょっと楽しそうにしていた。ユキルは小さく笑って、テーブルの上を拭いたりした。

 居間と寝室の掃除が終わる頃に、魔導洗濯機から洗濯終了の音が聞こえた。ぴーぴー鳴る音にキッカが驚いていたが、ユキルが説明すると、ちょっとほっとした顔をした。

 寝室からシーツと枕に巻いていた大判のタオルを取って来て、二回目の洗濯を仕掛けてから、洗濯物を入れた籠などを持って、庭に出る。外は寒いが、よく晴れていて風もあるから、きっと夕方までには乾くだろう。
 ユキルは洗濯物の干し方をキッカに教えながら、洗濯物を干した。

 廊下と階段、台所の床の掃除をし終える頃に、二度目の洗濯が終わったので、シーツ類をまた庭に干していく。ユキルは少しだけ考えて、キッカを連れて二階の寝室に行き、寝室のベランダの手すりなどが汚れていないことを確認してから、ベランダの手すりに布団を干した。枕は部屋の日当たりがいい所に置いておく。


「なんでこんなことすんの?」

「こうすると布団や枕がふわふわになるんだ。今夜はお日様の匂いがする布団で寝れるよ」

「よく分かんねぇ」

「夜のお楽しみかな。お腹空いたね。そろそろご飯にしよっか」

「おぅ。……あの火が出るやつ、ママだけで使えんの?」

「……頑張ってみる……」


 正直、ちゃんと魔導コンロや魔導オーブンを使えるか自信はない。が、やらなくてはいけない。

 キッカがユキルの手を握って、見上げてきた。


「おしっこ」

「トイレに行こうか」

「ん」


 キッカはトイレを使ったことがなかった。ユキルも娼館に売られるまでは、ボロい家の裏で用を足していたので、トイレに慣れるまで、なんとなく怖かった覚えがある。
 キッカと手を繋いでトイレに行き、キッカが用を足してから、便器についているレバーを引いて水を流す。脱衣場の洗面台で手を洗って、台所へと向かった。

 魔導コンロの上にある鍋の蓋を開けてみれば、野菜と塊のベーコンがゴロゴロのスープが入っていた。魔導冷蔵庫の中には、丸いパンもある。
 ユキルはドキドキしながら、魔導コンロのスイッチを押した。ぼわっと火がついたので、怖いからつまみを回して、ちょっと火を弱める。

 魔導オーブンに二人分のパンを入れてから教えてもらった通りに魔導オーブンのスイッチを押し、小さめの鍋にミルクを入れて、また魔導コンロのスイッチを恐る恐る押して、つまみを回して火を弱める。キッカにミルクを入れた鍋を木のへらでかき混ぜてもらっている間に、棚から黄金色の蜂蜜が入った瓶を取り出した。

 アキッレはスプーンで三杯の蜂蜜を入れていたが、こっそり蜂蜜を四杯入れた。
 ユキルは小さく笑って、キッカに声をかけた。


「パパには内緒ね」

「おぅ。へへっ。甘い匂いがする」

「スープも温まったね。ぐつぐつし始めたから、多分大丈夫だと思う。……多分?」

「あ、パンが焼けた」

「パンを取り出すよ。えーと、先に火をとめて……あちちっ! キッカ! 皿ちょうだい!」

「おぅ! ……すげー。ちゃんと焼けてる」

「ほんと便利だねぇ。スープとミルクも注ぐよ」

「おぅ。腹減った」


 スープを深皿に注ぎ、甘いミルクはマグカップに注ぐ。スプーンも用意したら、全部お盆にのせて居間に運んだ。
 野菜とベーコンゴロゴロのスープも、香ばしいふわふわパンも、特別甘いミルクも、どれも美味しい。


「キッカ。食べ終わったら、トイレとお風呂の掃除をしようね」

「んー」

「キッカ。スプーンをこうやって持ってごらん。で、僕の真似をして食べてごらんよ。最初は食べにくいかもしれないけど、すぐに慣れるから」

「なんで?」

「キレイな食べ方の方が単純に格好いいよ。それに、まともな生活してたら、食べ方もキレイじゃないとおかしいと思われるからかなぁ」

「そんなもんかよ。……食べにくい……」

「慣れるまで頑張って。パンも一口大にちぎってから食べようね」

「齧りついた方が早い」

「それはそうなんだけど、これも格好よく食べるためかなぁ。キレイに食べられたら、パパが褒めてくれるかも」

「むぅ。……しょうがねぇ。『家族ごっこ』を途中でやめられても困るし」

「一気にできようとしなくてもいいよ。少しずつ慣れていこうね」

「んー」


 ユキルは、不慣れな手つきで食べ始めたキッカのお手本になるように、できるだけ上品に食べ始めた。
 キレイな食べ方を娼館で習っていてよかった。上客が望めば食事を共にすることがあったので、キレイな食べ方は一応身についている。

 四苦八苦しながら食べているキッカを褒めながら、ユキルもできるだけキレイな食べ方で昼食を食べきった。


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