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19:新しい家族
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フレディとシュルツが中央の街で死んだことになり、バーバラへと引っ越してから5年が経った。最初の1年程でなんとか夜の夫婦生活もできるようになり、今のところ順調である。
シュルツは毎日楽しそうに家事をして、喫茶店を手伝ってくれている。
新しく店を開くにあたり、メニューを1つだけ増やした。ふわふわの分厚くて甘いオムレツを挟んだオムレツサンドイッチである。ケチャップとマスタード入りのマヨネーズをバターと共に各々パンに塗って、オムレツを挟んであるという代物だ。シュルツが作ってくれた分厚くふわふわの美味しいオムレツを食べている時に思いついたのだ。これをパンに挟んだら絶対に旨いのではないかと。主にマスタード入りのマヨネーズの試行錯誤をしつつ、シュルツにふわふわ分厚いオムレツの作り方を特訓してもらって、なんとか開店にまで間に合わせた。これがかなり好評で、フレディの喫茶店の目玉商品となり、喫茶店は中々繁盛している。常連客もそれなりに増えているし、そこそこ安定した収入が得られている。開店してすぐはシュルツ目当ての客が多かったが、今ではオムレツサンドイッチと珈琲目当ての客の方が多い。煙草も引き続き吸えるようにしたので、開店当初はシュルツ目当ての女性客ばかりだったが、そのうち愛煙家の男性客の方が多くなっていった。フレディの喫茶店は繁盛しているが、どこか物静かな落ち着く雰囲気になっている。
夕方。最後の客が帰り、店仕舞いをしてから自宅に上がり、フレディは何気なく壁のカレンダーを見た。もうシュルツと夫婦になって、5年と2ヶ月が経とうとしている。フレディよりも先に家に上がって、今はご機嫌に台所で夕食を温めているシュルツの所へと向かった。
「シュルツ」
「なんですー?」
「子供つくりましょう」
「ふぇっ!?」
突然のフレディの言葉に、シュルツが持っていたお玉を落とした。この5年、最初にセックスをした時以外、フレディは子供の話題を出したことはない。シュルツからも何も言われなかった。シュルツは驚いているのか、目をパチパチさせて、ポカンとフレディを見た。
「そろそろいいと思うんですよ。ていうか、アンタもう肉体年齢30でしょ。あんまり遅くなると子育てがキツくなりますよ。体力的に」
「き、鍛えてるから平気ですぅ!」
「今年のうちに施設で仕込んでも産まれるのは早くて来年の秋頃ですし。アンタ31になるじゃないですか。子供が成人する頃には50手前ですよ」
「いやいやいや。16歳で成人ですから、まだ47ですよ。全然若いです」
「50手前じゃん」
「……まぁ、そうですけど」
「と、いうことで。新年迎える前にサクッと施設につくりに行きましょう。明日領主様直通の特別封筒で手紙出します」
「あ、あしたぁ!?」
「こういうのは思い立った時に行動するのが1番いいんですよ」
「え、ていうか、領主様直通の特別封筒ってなんですか?」
「そのまんまの代物ですよ。領主様に直接渡されて、領主様にしか開封できない特別な封筒です。1枚だけ貰ってるんですよ。子供がつくりたくなったら連絡しろって」
「あ、そうなんですか」
「はい。領主様に手紙を出して、明日のうちに父さん達にも話しましょう。父さん達の協力なしじゃ無理ですし」
「あ、はい。そうですね」
「シュルツ」
「はい」
「家族が増えますよ」
「……はいっ!」
シュルツがパァっと笑顔になって、フレディに勢いよく抱きついてきた。嬉しいらしく、何度もフレディの頬にキスをしてくる。そんなシュルツを抱き締めて、フレディは穏やかに笑った。
ーーーーーー
新年を迎える前に、フレディとシュルツは中央の街からバーバラへと戻った。
領主へと手紙を送り、その後何度か手紙のやり取りをして、絶対にフレディとシュルツが生きていることを土の神子に知られないよう綿密な計画を立てた。中央の街まで領主が手配した馬車を使って移動し、領主が用意した街中の宿に一晩泊まって、施設へと朝早くに行って子供をつくるのに必要な諸々のことをしてから、その日の昼前には中央の街を出て、領主が手配した馬車でバーバラへと向かった。中央の街からバーバラへの移動は、ほぼまる1日かかる。途中で小さな町に泊まって、翌日の昼過ぎには2人はバーバラへと戻った。
中央の街に行くにあたり、念のため2人は少々変装することにした。フレディは成人した頃からのトレードマークである髭を全て剃り、眼鏡をかけた。逆にシュルツはいつもキレイに剃っている髭を伸ばした。『フレディとお揃いにするっ!』と髭を伸ばし始めた頃はテンションが高かったが、残念ながらシュルツは髭が薄い質で、伸ばして整えても非常に微妙だった。どう見ても無精髭にしか見えずに、思わずフレディが『微妙に小汚ない』と言ってしまい、シュルツがマジで泣いて髭を剃ろうとしたので慌てて止める羽目になった。シュルツも眼鏡をかけ、小汚ない髭も相まって、かなり印象が変わった。そんな状態で中央の街に行き、なんとか無事何事もなくバーバラの自宅へと帰ることができた。
子供は来年の秋頃に誕生する予定である。フレディとシュルツはもう中央の街には入れない為、原則として施設には子供の両親が引き取りに行く決まりではあるが、フレディの父親ジャックとニルグが代わりに行ってくれる。3年前にジャックとニルグは入籍し、正式に夫婦になった。ニルグは雑貨屋を営んでいるので、ジャックが1人中央の街に残り、子供の乳離れがすんで長距離移動ができるまで育ててくれる。ニルグも頻繁に中央の街に行くつもりで、ニルグが中央の街に行っている間は、シュルツが店員と共に雑貨屋を切り盛りすることになった。それまでジャックと2人で雑貨屋を切り盛りしていたニルグが雇った店員は、シュルツの領軍入隊以来の友人であるコンラッドである。驚くことに、2年前にコンラッドまで『処分』されたのだ。魔術師である伴侶がたまたま仕事で領館を訪れた時に土の神子に見初められたらしい。コンラッドの伴侶はその時ぶちキレて暴れ、領館の一部を半壊させた。あまりにも派手に暴れたので、土の神子がそんなコンラッドの伴侶にドン引きして無理矢理後宮に入れられることはなかったが、もれなくコンラッド夫婦は『処分』されることになった。土の神子の蛮行を知ってしまったからだ。コンラッドの子供や孫達も皆バーバラへと引っ越した。領主が仕事を斡旋してくれたので、皆各々好きな仕事についている。コンラッドの伴侶は自宅で個人的に魔術の研究をすることにし、もう軍人としては働けないコンラッドは、たまたま店員を募集していたニルグの雑貨屋で働くことにした。フレディの父親ジャックがその少し前にぎっくり腰になったのだ。雑貨屋は地味に力仕事もある。ニルグもそこそこいい歳だし、若い力仕事もできる店員が必要になったのだ。コンラッドはシュルツの友人だし、ということでトントン拍子でコンラッドがニルグの雑貨屋で働くことが決まった。ニルグの雑貨屋はフレディの喫茶店の近くなので、コンラッドはいつも昼食を食べにフレディの喫茶店を訪れる。大事な常連客の1人である。
そして月日は流れて、いよいよ秋になった。フレディとシュルツはバーバラの街の入り口で、子供を引き取りに行くジャックとニルグを見送った。2人が子供に会えるのは、ざっくり1年後になる。『端末で毎日写真を送るねっ!』とジャックが言ってくれたので、それが非常に楽しみだ。
その3日後にジャックからフレディの端末に写真が送られてきた。ドキドキしながら写真を見ると、シュルツそっくりな鮮やかな赤毛の火の民の赤ちゃんが写っていた。完全にシュルツに似ている気がする。フレディとシュルツは新たな家族の誕生に大喜びした。その日の夕食は、滅多に飲まない酒を飲み、テンションが上がりまくったシュルツが作った豪華な料理の数々を2人で楽しんでお祝いをした。
それから毎日、夜にジャックから送られてくる写真を見るのが2人の日課になった。2人の子供は男の子で、オーランドと名付けた。オーランドは食欲旺盛でミルクをよく飲み、夜泣きはあまりしないみたいである。よく笑う子で、近所でも評判になる程可愛い赤ちゃんらしい。ジャックもだが、ニルグが孫になるオーランドにメロメロで、当初の予定よりも頻繁に中央の街へとジャックとオーランドに会いに行っている。ニルグは中央の街から帰る度に、分厚いアルバムを持って帰ってはフレディとシュルツにオーランドの成長を話して聞かせてくれる。
オーランドが産まれてから、シュルツはバーバラの街の手芸教室に通い、子供服の作り方を習い始めた。器用なうえに凝り性なシュルツはすぐに上達し、毎日せっせと縫い物をして、ニルグが中央の街に行く度にオーランドの服を渡して持っていってもらっている。
オーランドが誕生して1年程で、オーランドは完全に乳離れした。いよいよオーランドがフレディとシュルツの元にやって来る。
ニルグが2人を迎えに行ってくれたので、2人は何日も前からずっとソワソワして、オーランドを出迎える準備をしていた。
オーランドはまだ小さいから、途中の小さな町で一泊して、2日かけてバーバラへとやって来る。バーバラへとやって来るその日は、待ちきれずに2人で朝からずっとバーバラの街の入り口に1番近い喫茶店に居座っていた。オーランドが到着するのは昼過ぎの予定である。2人はずーーっとソワソワしながら、オーランドの到着を待った。
オーランドを連れたジャックとニルグは予定より少し遅れて、午後のお茶の時間帯くらいにバーバラへと到着した。
街の入り口で3人を出迎え、その時初めてフレディとシュルツはオーランドと対面した。フレディが抱っこすると、オーランドはキョトンとフレディを見上げた後、にこーっと笑ってくれた。半端なく可愛い。マジで天使か。うちの子は。シュルツにオーランドを渡すと、シュルツはボロボロ泣き出した。嬉しさが頂点に達して、感極まったらしい。泣き出したシュルツにビックリしたのか、オーランドも泣き出した。中々に元気がいい大きな泣き声である。フレディはガチ泣きするシュルツの手を握り、片腕で泣いているオーランドを抱っこして、ジャック達と共に自宅に帰った。
オーランドは慣れない新しい家に1週間くらいは戸惑っていたようだが、ジャックが頻繁にフレディ達の家に顔を出してくれるので、家にもフレディ達にも無事に慣れてくれた。
昼間はシュルツがジャックに手伝ってもらいながら、2階の自宅でオーランドの面倒をみている。フレディは1人でなんとか喫茶店を切り盛りしている。たまにニルグが手伝いだと言ってコンラッドを派遣してくれるので、正直かなり助かっている。コンラッドも器用なようで、すぐに接客に慣れ、フレディの喫茶店の手伝いの日には、仕事が終わるとオーランドと少し遊んでから自分の家へと帰っていく。
喫茶店が休みの日には、いつも3人でお弁当を持って街の外にあるちょっとした原っぱに遊びに行く。オーランドはとても元気で、そこに行くと、ずっと楽しそうに走り回っている。オーランドは歌が好きで、ジャックやシュルツが歌うと、とても楽しそうに一緒に歌う。フレディは残念ながら相当な音痴である。最初にオーランドに歌ってやった時、その時一緒にいたジャックとシュルツから『オーランドの情操教育に良くない』と、歌うのを禁止された。どんだけ酷いんだ。自分ではそこまで酷くないと思うのだが、フレディにベタ惚れのシュルツでさえ、『……ごめん。本当無理』と言っていた。フレディはそのレベルの音痴だ。
オーランドが寝た後、シュルツと2人でベッドに横になる。オーランドがフレディ達の家に来てからは2人とも寝間着を着て寝るようになった。いつでもオーランドが起きて泣いたりした時にすぐに対応できるようにだ。
シュルツがフレディの腕に自分の腕を巻きつけて、フレディの肩にピタリと頬をくっつけた。
「幸せ過ぎて怖いくらいですね。フレディ」
「そうですね」
「ふふっ。今日ね、昼間にオーランドが『パパ』って呼んでくれましたよ」
「えっ!?ズルいっ!」
「ふっふっふー。いいでしょー」
「くぅ……僕も『パパ』って呼ばれたい」
「2人とも『パパ』じゃ訳がわからないじゃないですか。俺が『パパ』で、貴方は『お父さん』でいいでしょ」
「……『お父さん』って言えるようになるのいつですか?」
「さぁ?何せ子供を育てるの初めてなんで」
「ですよねー」
「ねぇ、フレディ」
「なんです?」
「幸せですね」
「そうですね」
フレディはシュルツの唇に触れるだけのキスをした。シュルツは嬉しそうに笑う。2人でくっついて眠る夜は静かに過ぎていった。
シュルツは毎日楽しそうに家事をして、喫茶店を手伝ってくれている。
新しく店を開くにあたり、メニューを1つだけ増やした。ふわふわの分厚くて甘いオムレツを挟んだオムレツサンドイッチである。ケチャップとマスタード入りのマヨネーズをバターと共に各々パンに塗って、オムレツを挟んであるという代物だ。シュルツが作ってくれた分厚くふわふわの美味しいオムレツを食べている時に思いついたのだ。これをパンに挟んだら絶対に旨いのではないかと。主にマスタード入りのマヨネーズの試行錯誤をしつつ、シュルツにふわふわ分厚いオムレツの作り方を特訓してもらって、なんとか開店にまで間に合わせた。これがかなり好評で、フレディの喫茶店の目玉商品となり、喫茶店は中々繁盛している。常連客もそれなりに増えているし、そこそこ安定した収入が得られている。開店してすぐはシュルツ目当ての客が多かったが、今ではオムレツサンドイッチと珈琲目当ての客の方が多い。煙草も引き続き吸えるようにしたので、開店当初はシュルツ目当ての女性客ばかりだったが、そのうち愛煙家の男性客の方が多くなっていった。フレディの喫茶店は繁盛しているが、どこか物静かな落ち着く雰囲気になっている。
夕方。最後の客が帰り、店仕舞いをしてから自宅に上がり、フレディは何気なく壁のカレンダーを見た。もうシュルツと夫婦になって、5年と2ヶ月が経とうとしている。フレディよりも先に家に上がって、今はご機嫌に台所で夕食を温めているシュルツの所へと向かった。
「シュルツ」
「なんですー?」
「子供つくりましょう」
「ふぇっ!?」
突然のフレディの言葉に、シュルツが持っていたお玉を落とした。この5年、最初にセックスをした時以外、フレディは子供の話題を出したことはない。シュルツからも何も言われなかった。シュルツは驚いているのか、目をパチパチさせて、ポカンとフレディを見た。
「そろそろいいと思うんですよ。ていうか、アンタもう肉体年齢30でしょ。あんまり遅くなると子育てがキツくなりますよ。体力的に」
「き、鍛えてるから平気ですぅ!」
「今年のうちに施設で仕込んでも産まれるのは早くて来年の秋頃ですし。アンタ31になるじゃないですか。子供が成人する頃には50手前ですよ」
「いやいやいや。16歳で成人ですから、まだ47ですよ。全然若いです」
「50手前じゃん」
「……まぁ、そうですけど」
「と、いうことで。新年迎える前にサクッと施設につくりに行きましょう。明日領主様直通の特別封筒で手紙出します」
「あ、あしたぁ!?」
「こういうのは思い立った時に行動するのが1番いいんですよ」
「え、ていうか、領主様直通の特別封筒ってなんですか?」
「そのまんまの代物ですよ。領主様に直接渡されて、領主様にしか開封できない特別な封筒です。1枚だけ貰ってるんですよ。子供がつくりたくなったら連絡しろって」
「あ、そうなんですか」
「はい。領主様に手紙を出して、明日のうちに父さん達にも話しましょう。父さん達の協力なしじゃ無理ですし」
「あ、はい。そうですね」
「シュルツ」
「はい」
「家族が増えますよ」
「……はいっ!」
シュルツがパァっと笑顔になって、フレディに勢いよく抱きついてきた。嬉しいらしく、何度もフレディの頬にキスをしてくる。そんなシュルツを抱き締めて、フレディは穏やかに笑った。
ーーーーーー
新年を迎える前に、フレディとシュルツは中央の街からバーバラへと戻った。
領主へと手紙を送り、その後何度か手紙のやり取りをして、絶対にフレディとシュルツが生きていることを土の神子に知られないよう綿密な計画を立てた。中央の街まで領主が手配した馬車を使って移動し、領主が用意した街中の宿に一晩泊まって、施設へと朝早くに行って子供をつくるのに必要な諸々のことをしてから、その日の昼前には中央の街を出て、領主が手配した馬車でバーバラへと向かった。中央の街からバーバラへの移動は、ほぼまる1日かかる。途中で小さな町に泊まって、翌日の昼過ぎには2人はバーバラへと戻った。
中央の街に行くにあたり、念のため2人は少々変装することにした。フレディは成人した頃からのトレードマークである髭を全て剃り、眼鏡をかけた。逆にシュルツはいつもキレイに剃っている髭を伸ばした。『フレディとお揃いにするっ!』と髭を伸ばし始めた頃はテンションが高かったが、残念ながらシュルツは髭が薄い質で、伸ばして整えても非常に微妙だった。どう見ても無精髭にしか見えずに、思わずフレディが『微妙に小汚ない』と言ってしまい、シュルツがマジで泣いて髭を剃ろうとしたので慌てて止める羽目になった。シュルツも眼鏡をかけ、小汚ない髭も相まって、かなり印象が変わった。そんな状態で中央の街に行き、なんとか無事何事もなくバーバラの自宅へと帰ることができた。
子供は来年の秋頃に誕生する予定である。フレディとシュルツはもう中央の街には入れない為、原則として施設には子供の両親が引き取りに行く決まりではあるが、フレディの父親ジャックとニルグが代わりに行ってくれる。3年前にジャックとニルグは入籍し、正式に夫婦になった。ニルグは雑貨屋を営んでいるので、ジャックが1人中央の街に残り、子供の乳離れがすんで長距離移動ができるまで育ててくれる。ニルグも頻繁に中央の街に行くつもりで、ニルグが中央の街に行っている間は、シュルツが店員と共に雑貨屋を切り盛りすることになった。それまでジャックと2人で雑貨屋を切り盛りしていたニルグが雇った店員は、シュルツの領軍入隊以来の友人であるコンラッドである。驚くことに、2年前にコンラッドまで『処分』されたのだ。魔術師である伴侶がたまたま仕事で領館を訪れた時に土の神子に見初められたらしい。コンラッドの伴侶はその時ぶちキレて暴れ、領館の一部を半壊させた。あまりにも派手に暴れたので、土の神子がそんなコンラッドの伴侶にドン引きして無理矢理後宮に入れられることはなかったが、もれなくコンラッド夫婦は『処分』されることになった。土の神子の蛮行を知ってしまったからだ。コンラッドの子供や孫達も皆バーバラへと引っ越した。領主が仕事を斡旋してくれたので、皆各々好きな仕事についている。コンラッドの伴侶は自宅で個人的に魔術の研究をすることにし、もう軍人としては働けないコンラッドは、たまたま店員を募集していたニルグの雑貨屋で働くことにした。フレディの父親ジャックがその少し前にぎっくり腰になったのだ。雑貨屋は地味に力仕事もある。ニルグもそこそこいい歳だし、若い力仕事もできる店員が必要になったのだ。コンラッドはシュルツの友人だし、ということでトントン拍子でコンラッドがニルグの雑貨屋で働くことが決まった。ニルグの雑貨屋はフレディの喫茶店の近くなので、コンラッドはいつも昼食を食べにフレディの喫茶店を訪れる。大事な常連客の1人である。
そして月日は流れて、いよいよ秋になった。フレディとシュルツはバーバラの街の入り口で、子供を引き取りに行くジャックとニルグを見送った。2人が子供に会えるのは、ざっくり1年後になる。『端末で毎日写真を送るねっ!』とジャックが言ってくれたので、それが非常に楽しみだ。
その3日後にジャックからフレディの端末に写真が送られてきた。ドキドキしながら写真を見ると、シュルツそっくりな鮮やかな赤毛の火の民の赤ちゃんが写っていた。完全にシュルツに似ている気がする。フレディとシュルツは新たな家族の誕生に大喜びした。その日の夕食は、滅多に飲まない酒を飲み、テンションが上がりまくったシュルツが作った豪華な料理の数々を2人で楽しんでお祝いをした。
それから毎日、夜にジャックから送られてくる写真を見るのが2人の日課になった。2人の子供は男の子で、オーランドと名付けた。オーランドは食欲旺盛でミルクをよく飲み、夜泣きはあまりしないみたいである。よく笑う子で、近所でも評判になる程可愛い赤ちゃんらしい。ジャックもだが、ニルグが孫になるオーランドにメロメロで、当初の予定よりも頻繁に中央の街へとジャックとオーランドに会いに行っている。ニルグは中央の街から帰る度に、分厚いアルバムを持って帰ってはフレディとシュルツにオーランドの成長を話して聞かせてくれる。
オーランドが産まれてから、シュルツはバーバラの街の手芸教室に通い、子供服の作り方を習い始めた。器用なうえに凝り性なシュルツはすぐに上達し、毎日せっせと縫い物をして、ニルグが中央の街に行く度にオーランドの服を渡して持っていってもらっている。
オーランドが誕生して1年程で、オーランドは完全に乳離れした。いよいよオーランドがフレディとシュルツの元にやって来る。
ニルグが2人を迎えに行ってくれたので、2人は何日も前からずっとソワソワして、オーランドを出迎える準備をしていた。
オーランドはまだ小さいから、途中の小さな町で一泊して、2日かけてバーバラへとやって来る。バーバラへとやって来るその日は、待ちきれずに2人で朝からずっとバーバラの街の入り口に1番近い喫茶店に居座っていた。オーランドが到着するのは昼過ぎの予定である。2人はずーーっとソワソワしながら、オーランドの到着を待った。
オーランドを連れたジャックとニルグは予定より少し遅れて、午後のお茶の時間帯くらいにバーバラへと到着した。
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オーランドは慣れない新しい家に1週間くらいは戸惑っていたようだが、ジャックが頻繁にフレディ達の家に顔を出してくれるので、家にもフレディ達にも無事に慣れてくれた。
昼間はシュルツがジャックに手伝ってもらいながら、2階の自宅でオーランドの面倒をみている。フレディは1人でなんとか喫茶店を切り盛りしている。たまにニルグが手伝いだと言ってコンラッドを派遣してくれるので、正直かなり助かっている。コンラッドも器用なようで、すぐに接客に慣れ、フレディの喫茶店の手伝いの日には、仕事が終わるとオーランドと少し遊んでから自分の家へと帰っていく。
喫茶店が休みの日には、いつも3人でお弁当を持って街の外にあるちょっとした原っぱに遊びに行く。オーランドはとても元気で、そこに行くと、ずっと楽しそうに走り回っている。オーランドは歌が好きで、ジャックやシュルツが歌うと、とても楽しそうに一緒に歌う。フレディは残念ながら相当な音痴である。最初にオーランドに歌ってやった時、その時一緒にいたジャックとシュルツから『オーランドの情操教育に良くない』と、歌うのを禁止された。どんだけ酷いんだ。自分ではそこまで酷くないと思うのだが、フレディにベタ惚れのシュルツでさえ、『……ごめん。本当無理』と言っていた。フレディはそのレベルの音痴だ。
オーランドが寝た後、シュルツと2人でベッドに横になる。オーランドがフレディ達の家に来てからは2人とも寝間着を着て寝るようになった。いつでもオーランドが起きて泣いたりした時にすぐに対応できるようにだ。
シュルツがフレディの腕に自分の腕を巻きつけて、フレディの肩にピタリと頬をくっつけた。
「幸せ過ぎて怖いくらいですね。フレディ」
「そうですね」
「ふふっ。今日ね、昼間にオーランドが『パパ』って呼んでくれましたよ」
「えっ!?ズルいっ!」
「ふっふっふー。いいでしょー」
「くぅ……僕も『パパ』って呼ばれたい」
「2人とも『パパ』じゃ訳がわからないじゃないですか。俺が『パパ』で、貴方は『お父さん』でいいでしょ」
「……『お父さん』って言えるようになるのいつですか?」
「さぁ?何せ子供を育てるの初めてなんで」
「ですよねー」
「ねぇ、フレディ」
「なんです?」
「幸せですね」
「そうですね」
フレディはシュルツの唇に触れるだけのキスをした。シュルツは嬉しそうに笑う。2人でくっついて眠る夜は静かに過ぎていった。
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