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11:天国

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シュルツはふ、と目を覚ました。視界には真っ白な天井しかない。何故か身体が動かず、目だけで今いる場所が何処かを探る。視線を右にやる。窓のない、白い壁紙が見えた。どうやら自分はベッドに寝かされているようだ。
シュルツが反対側に視線を向けると、くわっと目を見開いた。フレディがいる。それも何故かフレディがシュルツの手を両手で包み込むようにして握っていた。あのフレディが!シュルツの手を!握っているっ!
シュルツは1つの結論に達した。
ここは天国だ。

天国でもフレディに会えるなんて!
何故かフレディは悲しそうな憔悴しきった顔をしているが、死んだと聞かされたフレディがいて、自分もがっつり首を切ったので死んだ筈である。つまりここは天国だ。
天国はなんていい所なんだろう。フレディが優しくシュルツの手を握ってくれるなんて。今ならフレディの名前も恥ずかしがらずに呼べそうな気がする。シュルツはじっとフレディを見つめながら、口を開いた。


「……フレディ」

「……っ!?」


シュルツがフレディの名前を呼ぶと、フレディがバッと勢いよくシュルツの顔を見た。途端にくしゃっとフレディの顔が歪んだ。


「シュルツ!意識が戻ったんですね!すぐにお医者さん連れてきますっ!」

「あ、まって」

「え!?なんですか!?何処か痛いんですか!?苦しいですか!?」

「ううん。でもさ、何で俺もフレディも天国にいるのに、医者なんて呼ぶのよ」

「……何でここが天国だと思うんですか」

「フレディがいるもの。それに俺の手を握ってくれてる。フレディはそんなことしないもん。きっと俺の願いを天国で叶えてくれたんだ」

「…………アンタ馬鹿ですか」

「馬鹿でも何でもいいよ。フレディと一緒で、フレディに触ってもらえるなら」

「……なんで……」

「ん?」

「……なんで、死のうとしたんですか」

「フレディがいないのに、生きている意味なんてないじゃない。フレディ以外には死んでも触られたくないもん。俺」

「…………アンタは馬鹿だ」

「違うよ。フレディがただ好きなだけだよ」

「……僕なんかの何処がいいんだよ」

「優しくてー、ぷにぷにしててー、優しいとこ」

「……僕は優しくなんてない」

「優しいよ。フレディは。すっごく。あー、でも……生きてるうちにもっとフレディの名前を呼んどけばよかったなぁ」

「……なんで呼ばなかったんですか」

「なんだか恥ずかしくて、照れ臭くてさ。名前を口に出そうとするだけで、胸がドキドキするんだもん」

「…………」

「ねぇ。俺さぁ。たったの半年だったけど、本当に幸せだったんだよ?フレディと一緒に暮らせて。フレディの事をね、少しずつ知る度にドンドン好きになっていくんだ。ふふっ。デートもできたしね。欲を言えばさ、生きてる間にこうして手を繋いで、できたらキスくらいはしたかったなぁ……」

「……アンタどんだけ僕のこと好きなんですか」

「もう愛しちゃってるもん。どうしようもないくらい」

「…………アンタは馬鹿だ」

「ふふふっ。馬鹿でもいいよ。フレディと一緒にいられるなら。ねぇ、フレディ」

「なんですか」

「ずっと言いたかったんだ」

「何の文句ですか?苦情ですか?」

「違う。フレディ。俺はフレディを愛しているよ」

「…………アンタって人はっ!もうっ!本っ当に馬鹿ですねっ!」

「フレディ馬鹿なのは認める」

「そんなもん認めんな」

「正式なフレディの奥さんになってさ。フレディの子供をね、つくってあげたかったんだ。夫婦2人でもいいけど、家族は多い方が楽しいでしょう?きっとフレディに似た可愛い子が産まれてたと思うんだよね」

「……僕に似てどうするんですか。デブになるだけでしょ」

「デブじゃなくて、ぽっちゃり。ぽっちゃりと言ってよ」

「…………アンタに似た方が絶対可愛い」

「えー?そうかなぁ」

「そうですよ」

「できたら俺達一緒のお墓に埋められてるといいなぁ。そんくらい気を利かせてくれてもよくない?」

「死んでませんよ。僕も……シュルツも」

「死んでるよ。確実に死ぬように刺したもん」

「ギリギリ応急処置が間に合いました」

「いやでも、ここ天国でしょ?じゃなかったら、フレディが俺の手なんか握らないし、名前だって呼ばないもの」

「自然治癒力が衰えない程度の医療魔術をかけて、傷口自体は縫合してあります。……出血が酷くて、アンタはもう10日近く生死を彷徨ってたんです」

「ふふっ。またまたー」

「本当ですよ。ちなみにここは領軍病院の地下にある秘密治療室です」

「何でそんなとこにいるの?」

「アンタが死んだことになってるからですよ。まぁ、僕もですけど」

「やっぱり死んでるんじゃない」

「死んだことになってるだけです。僕もアンタも生きてます」

「…………もしかして、マジでマジの現実?」

「マジでマジの現実です」

「……旦那様」

「名前で呼ばないんですか?」

「天国だと思ったから名前で呼べてたのっ!現実じゃ恥ずかしくて無理なのっ!」

「あ、左様で」

「あれ、結局どうなったんですか?クソ神子」

「あのクソガキには、僕のことは『処分』して、アンタのことは『間に合わずに死亡した』って報告したらしいです」

「誰が?」

「ハゲ」

「何でハゲが?」

「詳しいことはまた後日に教えますよ。先ずは傷を治してしまわないと」

「もう平気です。一緒に帰りましょうよ」

「アンタ、出血が多過ぎて本当にヤバかったんですからね。お医者さんの診断次第ですけど、自力で立って歩いて長距離移動できるまで体力を戻さないと」

「長距離移動?街の自宅に帰るだけなのに?」

「兎に角、今は身体を癒すことだけ考えてください。諸々の事情は、後日にまるっと説明しますから。……僕はずっとここに居ますし」

「本当に?」

「トイレくらいには普通に行きますけど。まぁ、ここ個室の病室なんで、トイレも部屋の中にありますけどね」

「ふふふっ。やっぱり天国だ。フレディとずっと一緒だもの」

「あー、うん。もう、とりあえずその認識でいいです。お医者さんを連れてきますね。すぐに戻りますから」

「戻ってきたら、また手を握ってくれる?」

「……いいですよ。診察や治療の邪魔にならない範囲でなら」

「ふふーっ。やったぁ」


シュルツは嬉しくてにんまり笑った。そんなシュルツをフレディは呆れた顔で見て、シュルツの頭を優しく撫でてから、シュルツの手を離して、部屋から出ていった。
事情なんてどうでもいい。ただフレディが無事だった。シュルツも生きているらしい。そしてフレディと一緒にいられるみたい。それだけで十分だ。
シュルツはフレディが医者を連れて戻ってくる前に、また目を閉じて眠りに落ちた。

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