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8:秋の豊穣祭
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フレディはいつもより少し早い時間に起きた。
今日は年に1度の大きな祭り、秋の豊穣祭である。毎年、父や友人達と祭りに繰り出して楽しんできた。去年は、父は旅に出て不在、友人達は皆所帯持ちで家族と祭りに出かけたので、フレディは1人で祭りに行った。今年は押しかけ女房ことシュルツがいる。1人でもそれなりに賑やかな祭りは楽しいが、やはり誰かと一緒の方がもっと楽しい。
フレディはいそいそとお気に入りの赤いチェックのシャツと黒いベストを着て、洗面所でいつもより丁寧に自慢の髭を整えた。気合いを入れて洗面所から出ると、今日もとても旨そうな味噌汁の匂いがしている。フレディはすっかりシュルツに餌付けされていた。悲しいかな、その自覚があるレベルでシュルツが作る料理の虜なのである。だって本当に旨いのだ。シュルツが押しかけてきてから、フレディはじわじわ太ってきている。あんまりにも食事が旨いし、シュルツがニコニコと嬉しそうにしているから、ついついおかわりをしてしまうのだ。ズボンが若干キツくなってきている。フレディのサイズの服は中々店に置いていない。自分に合うサイズの服を見つけるのが結構大変なのだ。健康の為にも、これ以上太るわけにはいかないが、ついシュルツに笑顔で勧められると食べてしまう。おのれ。全ては旨すぎる料理が悪い。
旨そうな朝食が並ぶテーブルに行くと、シュルツはいつもの仕事着の上から家用の熊の刺繍が入った可愛らしいエプロンを着けていた。シュルツ用になってしまっている椅子には、仕事用のエプロンもかけてある。フレディは首を傾げた。
「おはようございます!旦那様っ!」
「おはようございます。アンタ祭りにその格好で行くんですか?」
「え?祭り?」
「今日は豊穣祭ですよ。店も休みです」
「あれ?そうなんですか?」
「あれ?言ってませんでした?」
「あ、はい」
「あー、すいません。今日は店は休んで祭りに行きますよ」
「い、い、い、一緒にですかっ!?」
「え?はい。あ、祭りは嫌いですか?」
「いえ!好きです!仕事以外じゃ豊穣祭に行ったことないけど好きですっ!」
「ん?普通に豊穣祭に参加したことないんですか?」
「ないですね。子供の頃は普通にバーバラの祭りに行ってましたけど、領軍に入って中央の街に来てからは毎年仕事で祭りの警備とかしてました」
「それはまた……絶対損してますよ、それ。豊穣祭は色んな屋台や露天があって、すっごく楽しいのに。今日は色んな店を回りましょう。祭りの時しか食べられないものも色々あるんですから」
「は、はいっ!」
シュルツが物凄く嬉しそうに笑った。豊穣祭に行けることがきっと嬉しいのだろう。そんなに行ってみたかったのなら、仕事を休んで行けばよかったのに。シュルツはいそいそと朝食を食べて片付けると、バタバタとシュルツの自室と化しているフレディの父親の部屋に戻り、すぐに着替えて居間にいるフレディの元へと戻ってきた。シンプルな黒い無地のシャツがやたら似合っている。顔もスタイルもいいとなんでも似合う。羨ましい話だ。
シュルツは豊穣祭がそんなに楽しみなのか、頬を赤く染めていた。祭りにはしゃぐ子供か。呆れると同時になんだか少し微笑ましくなる。
「じゃあ行きますか」
「はいっ!」
大変元気ないいお返事をしたシュルツを連れて、フレディはワクワクしながら家を出た。
ーーーーーー
シュルツは浮かれきっていた。フレディとまさかのデートである。嬉しいにも程がある。今まで秋の豊穣祭なんてクソ忙しいだけの忌々しいものだったが、今は違う。豊穣祭様々である。だってフレディとデートができるんだもの。シュルツは軽い足取りでフレディと並んで人混みの中を歩いていた。うんざりする程人が多いが、すぐ隣にフレディがいるのでまるで不快ではない。むしろ人が多過ぎて、ちょいちょいフレディの腕とシュルツの腕が当たるのだ。腕が当たる度にぷにっとする。役得である。でも欲を言えば手を繋ぎたい。繋いでほしいなー。繋いでくれないかなー。
そんなことを考えながら歩いていると、フレディが鈴カステラの屋台の前で立ち止まった。どうやら知り合いがいたらしい。屋台の前にいた男にフレディが声をかけた。
「やぁ、ブルース。1人か?奥さんは?」
「よぉ、フレディ。嫁さん今妊娠してるんだわ。まだ安定期じゃないからな。でも鈴カステラだけは食べたいって言うから買いに来たんだよ」
「おぉ!おめでとう!お前も父親かー」
「へへっ。来年の春に産まれるんだ」
「楽しみだな」
「まぁな。お前も最近押しかけ女房ができたんだろ?後ろの超美形のお兄さんがそうなのか?」
「え、あー……まぁ、その、なんだ……」
「よかったな。俺らの中じゃお前だけ独り身だったしよ。お前いいやつなのに全然モテないからさー。このまま結婚できないんじゃないかって心配してたんだよ。お前の魅力の気づいてくれる人がいてよかったな」
「あー……ははは……」
「じゃあ嫁さん待ってるし、俺行くな。また店に顔だすよ」
「あ、うん。ありがとう。奥さんによろしくな」
「おー」
フレディの友人らしき男は笑顔で、鈴カステラの入った大きな袋を抱えて去っていった。友人を見送ると、フレディは小さく溜め息を吐いた。
「今のお友達ですか?」
「あ、はい。小学校からの友達です。去年結婚したばっかりなんですよ」
「へぇ。あ、旦那様。鈴カステラ買いますか?」
「あー、そうですね。僕も好きなんです。美味しいし、女の子が食べてると可愛いですよね」
「んっ!?旦那様鈴カステラ食べる人が好きなんですかっ!?」
「女の子がチマチマ食べてるのって可愛くないですか?」
「オッサン!1番デカい袋のやつくれっ!」
「いや何でだよ」
「え?だって鈴カステラ食べてるとこは可愛いんでしょ?」
「アンタが食べても可愛くねぇよ。1番大きい袋買っちゃったら鈴カステラだけでお腹いっぱいになっちゃうでしょ。今日は他にもいっぱい屋台回るんだから。オジサン、1番小さい袋でお願いします」
「まいどー」
シュルツが財布を出す前にフレディがさっさと小銭を屋台のオッサンに渡して、鈴カステラが入った1番小さな袋を受け取った。袋の口をその場で開けて、鈴カステラを1つ取り出した。
「はい。まだ温かいですよ」
「あ、はい」
シュルツはフレディから差し出された鈴カステラを受け取った。フレディも自分の分を袋から取り出して1つ口に放り込んだ。にまーと美味しそうに笑って、もぐもぐしている。可愛い。シュルツも鈴カステラを口に入れた。優しい甘さが中々美味しい。
フレディと分けあいながら鈴カステラを摘まみつつ、次の屋台へと歩いていく。甘辛いタレの絡んだ牛肉の串焼きも1本を2人で分けて食べ(間接キッス!)、焼きトウモロコシも2人で分けあい(間接キッス!)、林檎飴も2人で分けあい(間接キッス!)、綿菓子は間接キッスではなかったが、やはり2人で分けて食べた。
途中で冷たいエールを買って、飲みながらブラブラ屋台を冷やかしていく。
「おーいしーい」
「旦那様はお酒がお好きなんですか?」
「んー。好きと言えば好きですけど、祭りの時くらいにしか飲みませんね」
「晩酌をおつけしますか?」
「いいですよ。たまーに楽しむくらいがちょうどいいんです。アンタが好きなら別に毎日アンタが飲んでもいいですけど」
「いえ。俺も酒はそんなに飲まないので」
「そうですか。あ、焼き鳥だ。買いましょうよ。タレと塩、どっちがいいですか?」
「じゃあ塩で」
「オジサーン。塩1本ください」
「まいどー」
塩で味付けしてある焼き鳥も2人で分けて食べた。なんだかもう幸せ最高潮である。豊穣祭最高。もう毎日が豊穣祭でいい。
普段は酒を飲まない分、早くもじわじわ酔いが回ってきたふわふわした頭で、シュルツは馬鹿みたいにニコニコ笑っていた。本当に幸せ過ぎる。
日が暮れて、そこそこ遅い時間まで2人でのんびり豊穣祭を楽しんだ。
フレディが『いつも世話になっているから』と言って、雑貨が置いてある露天で可愛らしいデフォルメされた熊が描かれているマグカップをシュルツに買ってくれた。嬉しすぎて、いっそ泣いてしまいそうなくらいである。
この日は、シュルツにとって、一生忘れられない幸せな1日となった。
今日は年に1度の大きな祭り、秋の豊穣祭である。毎年、父や友人達と祭りに繰り出して楽しんできた。去年は、父は旅に出て不在、友人達は皆所帯持ちで家族と祭りに出かけたので、フレディは1人で祭りに行った。今年は押しかけ女房ことシュルツがいる。1人でもそれなりに賑やかな祭りは楽しいが、やはり誰かと一緒の方がもっと楽しい。
フレディはいそいそとお気に入りの赤いチェックのシャツと黒いベストを着て、洗面所でいつもより丁寧に自慢の髭を整えた。気合いを入れて洗面所から出ると、今日もとても旨そうな味噌汁の匂いがしている。フレディはすっかりシュルツに餌付けされていた。悲しいかな、その自覚があるレベルでシュルツが作る料理の虜なのである。だって本当に旨いのだ。シュルツが押しかけてきてから、フレディはじわじわ太ってきている。あんまりにも食事が旨いし、シュルツがニコニコと嬉しそうにしているから、ついついおかわりをしてしまうのだ。ズボンが若干キツくなってきている。フレディのサイズの服は中々店に置いていない。自分に合うサイズの服を見つけるのが結構大変なのだ。健康の為にも、これ以上太るわけにはいかないが、ついシュルツに笑顔で勧められると食べてしまう。おのれ。全ては旨すぎる料理が悪い。
旨そうな朝食が並ぶテーブルに行くと、シュルツはいつもの仕事着の上から家用の熊の刺繍が入った可愛らしいエプロンを着けていた。シュルツ用になってしまっている椅子には、仕事用のエプロンもかけてある。フレディは首を傾げた。
「おはようございます!旦那様っ!」
「おはようございます。アンタ祭りにその格好で行くんですか?」
「え?祭り?」
「今日は豊穣祭ですよ。店も休みです」
「あれ?そうなんですか?」
「あれ?言ってませんでした?」
「あ、はい」
「あー、すいません。今日は店は休んで祭りに行きますよ」
「い、い、い、一緒にですかっ!?」
「え?はい。あ、祭りは嫌いですか?」
「いえ!好きです!仕事以外じゃ豊穣祭に行ったことないけど好きですっ!」
「ん?普通に豊穣祭に参加したことないんですか?」
「ないですね。子供の頃は普通にバーバラの祭りに行ってましたけど、領軍に入って中央の街に来てからは毎年仕事で祭りの警備とかしてました」
「それはまた……絶対損してますよ、それ。豊穣祭は色んな屋台や露天があって、すっごく楽しいのに。今日は色んな店を回りましょう。祭りの時しか食べられないものも色々あるんですから」
「は、はいっ!」
シュルツが物凄く嬉しそうに笑った。豊穣祭に行けることがきっと嬉しいのだろう。そんなに行ってみたかったのなら、仕事を休んで行けばよかったのに。シュルツはいそいそと朝食を食べて片付けると、バタバタとシュルツの自室と化しているフレディの父親の部屋に戻り、すぐに着替えて居間にいるフレディの元へと戻ってきた。シンプルな黒い無地のシャツがやたら似合っている。顔もスタイルもいいとなんでも似合う。羨ましい話だ。
シュルツは豊穣祭がそんなに楽しみなのか、頬を赤く染めていた。祭りにはしゃぐ子供か。呆れると同時になんだか少し微笑ましくなる。
「じゃあ行きますか」
「はいっ!」
大変元気ないいお返事をしたシュルツを連れて、フレディはワクワクしながら家を出た。
ーーーーーー
シュルツは浮かれきっていた。フレディとまさかのデートである。嬉しいにも程がある。今まで秋の豊穣祭なんてクソ忙しいだけの忌々しいものだったが、今は違う。豊穣祭様々である。だってフレディとデートができるんだもの。シュルツは軽い足取りでフレディと並んで人混みの中を歩いていた。うんざりする程人が多いが、すぐ隣にフレディがいるのでまるで不快ではない。むしろ人が多過ぎて、ちょいちょいフレディの腕とシュルツの腕が当たるのだ。腕が当たる度にぷにっとする。役得である。でも欲を言えば手を繋ぎたい。繋いでほしいなー。繋いでくれないかなー。
そんなことを考えながら歩いていると、フレディが鈴カステラの屋台の前で立ち止まった。どうやら知り合いがいたらしい。屋台の前にいた男にフレディが声をかけた。
「やぁ、ブルース。1人か?奥さんは?」
「よぉ、フレディ。嫁さん今妊娠してるんだわ。まだ安定期じゃないからな。でも鈴カステラだけは食べたいって言うから買いに来たんだよ」
「おぉ!おめでとう!お前も父親かー」
「へへっ。来年の春に産まれるんだ」
「楽しみだな」
「まぁな。お前も最近押しかけ女房ができたんだろ?後ろの超美形のお兄さんがそうなのか?」
「え、あー……まぁ、その、なんだ……」
「よかったな。俺らの中じゃお前だけ独り身だったしよ。お前いいやつなのに全然モテないからさー。このまま結婚できないんじゃないかって心配してたんだよ。お前の魅力の気づいてくれる人がいてよかったな」
「あー……ははは……」
「じゃあ嫁さん待ってるし、俺行くな。また店に顔だすよ」
「あ、うん。ありがとう。奥さんによろしくな」
「おー」
フレディの友人らしき男は笑顔で、鈴カステラの入った大きな袋を抱えて去っていった。友人を見送ると、フレディは小さく溜め息を吐いた。
「今のお友達ですか?」
「あ、はい。小学校からの友達です。去年結婚したばっかりなんですよ」
「へぇ。あ、旦那様。鈴カステラ買いますか?」
「あー、そうですね。僕も好きなんです。美味しいし、女の子が食べてると可愛いですよね」
「んっ!?旦那様鈴カステラ食べる人が好きなんですかっ!?」
「女の子がチマチマ食べてるのって可愛くないですか?」
「オッサン!1番デカい袋のやつくれっ!」
「いや何でだよ」
「え?だって鈴カステラ食べてるとこは可愛いんでしょ?」
「アンタが食べても可愛くねぇよ。1番大きい袋買っちゃったら鈴カステラだけでお腹いっぱいになっちゃうでしょ。今日は他にもいっぱい屋台回るんだから。オジサン、1番小さい袋でお願いします」
「まいどー」
シュルツが財布を出す前にフレディがさっさと小銭を屋台のオッサンに渡して、鈴カステラが入った1番小さな袋を受け取った。袋の口をその場で開けて、鈴カステラを1つ取り出した。
「はい。まだ温かいですよ」
「あ、はい」
シュルツはフレディから差し出された鈴カステラを受け取った。フレディも自分の分を袋から取り出して1つ口に放り込んだ。にまーと美味しそうに笑って、もぐもぐしている。可愛い。シュルツも鈴カステラを口に入れた。優しい甘さが中々美味しい。
フレディと分けあいながら鈴カステラを摘まみつつ、次の屋台へと歩いていく。甘辛いタレの絡んだ牛肉の串焼きも1本を2人で分けて食べ(間接キッス!)、焼きトウモロコシも2人で分けあい(間接キッス!)、林檎飴も2人で分けあい(間接キッス!)、綿菓子は間接キッスではなかったが、やはり2人で分けて食べた。
途中で冷たいエールを買って、飲みながらブラブラ屋台を冷やかしていく。
「おーいしーい」
「旦那様はお酒がお好きなんですか?」
「んー。好きと言えば好きですけど、祭りの時くらいにしか飲みませんね」
「晩酌をおつけしますか?」
「いいですよ。たまーに楽しむくらいがちょうどいいんです。アンタが好きなら別に毎日アンタが飲んでもいいですけど」
「いえ。俺も酒はそんなに飲まないので」
「そうですか。あ、焼き鳥だ。買いましょうよ。タレと塩、どっちがいいですか?」
「じゃあ塩で」
「オジサーン。塩1本ください」
「まいどー」
塩で味付けしてある焼き鳥も2人で分けて食べた。なんだかもう幸せ最高潮である。豊穣祭最高。もう毎日が豊穣祭でいい。
普段は酒を飲まない分、早くもじわじわ酔いが回ってきたふわふわした頭で、シュルツは馬鹿みたいにニコニコ笑っていた。本当に幸せ過ぎる。
日が暮れて、そこそこ遅い時間まで2人でのんびり豊穣祭を楽しんだ。
フレディが『いつも世話になっているから』と言って、雑貨が置いてある露天で可愛らしいデフォルメされた熊が描かれているマグカップをシュルツに買ってくれた。嬉しすぎて、いっそ泣いてしまいそうなくらいである。
この日は、シュルツにとって、一生忘れられない幸せな1日となった。
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