8 / 20
8:秋の豊穣祭
しおりを挟む
フレディはいつもより少し早い時間に起きた。
今日は年に1度の大きな祭り、秋の豊穣祭である。毎年、父や友人達と祭りに繰り出して楽しんできた。去年は、父は旅に出て不在、友人達は皆所帯持ちで家族と祭りに出かけたので、フレディは1人で祭りに行った。今年は押しかけ女房ことシュルツがいる。1人でもそれなりに賑やかな祭りは楽しいが、やはり誰かと一緒の方がもっと楽しい。
フレディはいそいそとお気に入りの赤いチェックのシャツと黒いベストを着て、洗面所でいつもより丁寧に自慢の髭を整えた。気合いを入れて洗面所から出ると、今日もとても旨そうな味噌汁の匂いがしている。フレディはすっかりシュルツに餌付けされていた。悲しいかな、その自覚があるレベルでシュルツが作る料理の虜なのである。だって本当に旨いのだ。シュルツが押しかけてきてから、フレディはじわじわ太ってきている。あんまりにも食事が旨いし、シュルツがニコニコと嬉しそうにしているから、ついついおかわりをしてしまうのだ。ズボンが若干キツくなってきている。フレディのサイズの服は中々店に置いていない。自分に合うサイズの服を見つけるのが結構大変なのだ。健康の為にも、これ以上太るわけにはいかないが、ついシュルツに笑顔で勧められると食べてしまう。おのれ。全ては旨すぎる料理が悪い。
旨そうな朝食が並ぶテーブルに行くと、シュルツはいつもの仕事着の上から家用の熊の刺繍が入った可愛らしいエプロンを着けていた。シュルツ用になってしまっている椅子には、仕事用のエプロンもかけてある。フレディは首を傾げた。
「おはようございます!旦那様っ!」
「おはようございます。アンタ祭りにその格好で行くんですか?」
「え?祭り?」
「今日は豊穣祭ですよ。店も休みです」
「あれ?そうなんですか?」
「あれ?言ってませんでした?」
「あ、はい」
「あー、すいません。今日は店は休んで祭りに行きますよ」
「い、い、い、一緒にですかっ!?」
「え?はい。あ、祭りは嫌いですか?」
「いえ!好きです!仕事以外じゃ豊穣祭に行ったことないけど好きですっ!」
「ん?普通に豊穣祭に参加したことないんですか?」
「ないですね。子供の頃は普通にバーバラの祭りに行ってましたけど、領軍に入って中央の街に来てからは毎年仕事で祭りの警備とかしてました」
「それはまた……絶対損してますよ、それ。豊穣祭は色んな屋台や露天があって、すっごく楽しいのに。今日は色んな店を回りましょう。祭りの時しか食べられないものも色々あるんですから」
「は、はいっ!」
シュルツが物凄く嬉しそうに笑った。豊穣祭に行けることがきっと嬉しいのだろう。そんなに行ってみたかったのなら、仕事を休んで行けばよかったのに。シュルツはいそいそと朝食を食べて片付けると、バタバタとシュルツの自室と化しているフレディの父親の部屋に戻り、すぐに着替えて居間にいるフレディの元へと戻ってきた。シンプルな黒い無地のシャツがやたら似合っている。顔もスタイルもいいとなんでも似合う。羨ましい話だ。
シュルツは豊穣祭がそんなに楽しみなのか、頬を赤く染めていた。祭りにはしゃぐ子供か。呆れると同時になんだか少し微笑ましくなる。
「じゃあ行きますか」
「はいっ!」
大変元気ないいお返事をしたシュルツを連れて、フレディはワクワクしながら家を出た。
ーーーーーー
シュルツは浮かれきっていた。フレディとまさかのデートである。嬉しいにも程がある。今まで秋の豊穣祭なんてクソ忙しいだけの忌々しいものだったが、今は違う。豊穣祭様々である。だってフレディとデートができるんだもの。シュルツは軽い足取りでフレディと並んで人混みの中を歩いていた。うんざりする程人が多いが、すぐ隣にフレディがいるのでまるで不快ではない。むしろ人が多過ぎて、ちょいちょいフレディの腕とシュルツの腕が当たるのだ。腕が当たる度にぷにっとする。役得である。でも欲を言えば手を繋ぎたい。繋いでほしいなー。繋いでくれないかなー。
そんなことを考えながら歩いていると、フレディが鈴カステラの屋台の前で立ち止まった。どうやら知り合いがいたらしい。屋台の前にいた男にフレディが声をかけた。
「やぁ、ブルース。1人か?奥さんは?」
「よぉ、フレディ。嫁さん今妊娠してるんだわ。まだ安定期じゃないからな。でも鈴カステラだけは食べたいって言うから買いに来たんだよ」
「おぉ!おめでとう!お前も父親かー」
「へへっ。来年の春に産まれるんだ」
「楽しみだな」
「まぁな。お前も最近押しかけ女房ができたんだろ?後ろの超美形のお兄さんがそうなのか?」
「え、あー……まぁ、その、なんだ……」
「よかったな。俺らの中じゃお前だけ独り身だったしよ。お前いいやつなのに全然モテないからさー。このまま結婚できないんじゃないかって心配してたんだよ。お前の魅力の気づいてくれる人がいてよかったな」
「あー……ははは……」
「じゃあ嫁さん待ってるし、俺行くな。また店に顔だすよ」
「あ、うん。ありがとう。奥さんによろしくな」
「おー」
フレディの友人らしき男は笑顔で、鈴カステラの入った大きな袋を抱えて去っていった。友人を見送ると、フレディは小さく溜め息を吐いた。
「今のお友達ですか?」
「あ、はい。小学校からの友達です。去年結婚したばっかりなんですよ」
「へぇ。あ、旦那様。鈴カステラ買いますか?」
「あー、そうですね。僕も好きなんです。美味しいし、女の子が食べてると可愛いですよね」
「んっ!?旦那様鈴カステラ食べる人が好きなんですかっ!?」
「女の子がチマチマ食べてるのって可愛くないですか?」
「オッサン!1番デカい袋のやつくれっ!」
「いや何でだよ」
「え?だって鈴カステラ食べてるとこは可愛いんでしょ?」
「アンタが食べても可愛くねぇよ。1番大きい袋買っちゃったら鈴カステラだけでお腹いっぱいになっちゃうでしょ。今日は他にもいっぱい屋台回るんだから。オジサン、1番小さい袋でお願いします」
「まいどー」
シュルツが財布を出す前にフレディがさっさと小銭を屋台のオッサンに渡して、鈴カステラが入った1番小さな袋を受け取った。袋の口をその場で開けて、鈴カステラを1つ取り出した。
「はい。まだ温かいですよ」
「あ、はい」
シュルツはフレディから差し出された鈴カステラを受け取った。フレディも自分の分を袋から取り出して1つ口に放り込んだ。にまーと美味しそうに笑って、もぐもぐしている。可愛い。シュルツも鈴カステラを口に入れた。優しい甘さが中々美味しい。
フレディと分けあいながら鈴カステラを摘まみつつ、次の屋台へと歩いていく。甘辛いタレの絡んだ牛肉の串焼きも1本を2人で分けて食べ(間接キッス!)、焼きトウモロコシも2人で分けあい(間接キッス!)、林檎飴も2人で分けあい(間接キッス!)、綿菓子は間接キッスではなかったが、やはり2人で分けて食べた。
途中で冷たいエールを買って、飲みながらブラブラ屋台を冷やかしていく。
「おーいしーい」
「旦那様はお酒がお好きなんですか?」
「んー。好きと言えば好きですけど、祭りの時くらいにしか飲みませんね」
「晩酌をおつけしますか?」
「いいですよ。たまーに楽しむくらいがちょうどいいんです。アンタが好きなら別に毎日アンタが飲んでもいいですけど」
「いえ。俺も酒はそんなに飲まないので」
「そうですか。あ、焼き鳥だ。買いましょうよ。タレと塩、どっちがいいですか?」
「じゃあ塩で」
「オジサーン。塩1本ください」
「まいどー」
塩で味付けしてある焼き鳥も2人で分けて食べた。なんだかもう幸せ最高潮である。豊穣祭最高。もう毎日が豊穣祭でいい。
普段は酒を飲まない分、早くもじわじわ酔いが回ってきたふわふわした頭で、シュルツは馬鹿みたいにニコニコ笑っていた。本当に幸せ過ぎる。
日が暮れて、そこそこ遅い時間まで2人でのんびり豊穣祭を楽しんだ。
フレディが『いつも世話になっているから』と言って、雑貨が置いてある露天で可愛らしいデフォルメされた熊が描かれているマグカップをシュルツに買ってくれた。嬉しすぎて、いっそ泣いてしまいそうなくらいである。
この日は、シュルツにとって、一生忘れられない幸せな1日となった。
今日は年に1度の大きな祭り、秋の豊穣祭である。毎年、父や友人達と祭りに繰り出して楽しんできた。去年は、父は旅に出て不在、友人達は皆所帯持ちで家族と祭りに出かけたので、フレディは1人で祭りに行った。今年は押しかけ女房ことシュルツがいる。1人でもそれなりに賑やかな祭りは楽しいが、やはり誰かと一緒の方がもっと楽しい。
フレディはいそいそとお気に入りの赤いチェックのシャツと黒いベストを着て、洗面所でいつもより丁寧に自慢の髭を整えた。気合いを入れて洗面所から出ると、今日もとても旨そうな味噌汁の匂いがしている。フレディはすっかりシュルツに餌付けされていた。悲しいかな、その自覚があるレベルでシュルツが作る料理の虜なのである。だって本当に旨いのだ。シュルツが押しかけてきてから、フレディはじわじわ太ってきている。あんまりにも食事が旨いし、シュルツがニコニコと嬉しそうにしているから、ついついおかわりをしてしまうのだ。ズボンが若干キツくなってきている。フレディのサイズの服は中々店に置いていない。自分に合うサイズの服を見つけるのが結構大変なのだ。健康の為にも、これ以上太るわけにはいかないが、ついシュルツに笑顔で勧められると食べてしまう。おのれ。全ては旨すぎる料理が悪い。
旨そうな朝食が並ぶテーブルに行くと、シュルツはいつもの仕事着の上から家用の熊の刺繍が入った可愛らしいエプロンを着けていた。シュルツ用になってしまっている椅子には、仕事用のエプロンもかけてある。フレディは首を傾げた。
「おはようございます!旦那様っ!」
「おはようございます。アンタ祭りにその格好で行くんですか?」
「え?祭り?」
「今日は豊穣祭ですよ。店も休みです」
「あれ?そうなんですか?」
「あれ?言ってませんでした?」
「あ、はい」
「あー、すいません。今日は店は休んで祭りに行きますよ」
「い、い、い、一緒にですかっ!?」
「え?はい。あ、祭りは嫌いですか?」
「いえ!好きです!仕事以外じゃ豊穣祭に行ったことないけど好きですっ!」
「ん?普通に豊穣祭に参加したことないんですか?」
「ないですね。子供の頃は普通にバーバラの祭りに行ってましたけど、領軍に入って中央の街に来てからは毎年仕事で祭りの警備とかしてました」
「それはまた……絶対損してますよ、それ。豊穣祭は色んな屋台や露天があって、すっごく楽しいのに。今日は色んな店を回りましょう。祭りの時しか食べられないものも色々あるんですから」
「は、はいっ!」
シュルツが物凄く嬉しそうに笑った。豊穣祭に行けることがきっと嬉しいのだろう。そんなに行ってみたかったのなら、仕事を休んで行けばよかったのに。シュルツはいそいそと朝食を食べて片付けると、バタバタとシュルツの自室と化しているフレディの父親の部屋に戻り、すぐに着替えて居間にいるフレディの元へと戻ってきた。シンプルな黒い無地のシャツがやたら似合っている。顔もスタイルもいいとなんでも似合う。羨ましい話だ。
シュルツは豊穣祭がそんなに楽しみなのか、頬を赤く染めていた。祭りにはしゃぐ子供か。呆れると同時になんだか少し微笑ましくなる。
「じゃあ行きますか」
「はいっ!」
大変元気ないいお返事をしたシュルツを連れて、フレディはワクワクしながら家を出た。
ーーーーーー
シュルツは浮かれきっていた。フレディとまさかのデートである。嬉しいにも程がある。今まで秋の豊穣祭なんてクソ忙しいだけの忌々しいものだったが、今は違う。豊穣祭様々である。だってフレディとデートができるんだもの。シュルツは軽い足取りでフレディと並んで人混みの中を歩いていた。うんざりする程人が多いが、すぐ隣にフレディがいるのでまるで不快ではない。むしろ人が多過ぎて、ちょいちょいフレディの腕とシュルツの腕が当たるのだ。腕が当たる度にぷにっとする。役得である。でも欲を言えば手を繋ぎたい。繋いでほしいなー。繋いでくれないかなー。
そんなことを考えながら歩いていると、フレディが鈴カステラの屋台の前で立ち止まった。どうやら知り合いがいたらしい。屋台の前にいた男にフレディが声をかけた。
「やぁ、ブルース。1人か?奥さんは?」
「よぉ、フレディ。嫁さん今妊娠してるんだわ。まだ安定期じゃないからな。でも鈴カステラだけは食べたいって言うから買いに来たんだよ」
「おぉ!おめでとう!お前も父親かー」
「へへっ。来年の春に産まれるんだ」
「楽しみだな」
「まぁな。お前も最近押しかけ女房ができたんだろ?後ろの超美形のお兄さんがそうなのか?」
「え、あー……まぁ、その、なんだ……」
「よかったな。俺らの中じゃお前だけ独り身だったしよ。お前いいやつなのに全然モテないからさー。このまま結婚できないんじゃないかって心配してたんだよ。お前の魅力の気づいてくれる人がいてよかったな」
「あー……ははは……」
「じゃあ嫁さん待ってるし、俺行くな。また店に顔だすよ」
「あ、うん。ありがとう。奥さんによろしくな」
「おー」
フレディの友人らしき男は笑顔で、鈴カステラの入った大きな袋を抱えて去っていった。友人を見送ると、フレディは小さく溜め息を吐いた。
「今のお友達ですか?」
「あ、はい。小学校からの友達です。去年結婚したばっかりなんですよ」
「へぇ。あ、旦那様。鈴カステラ買いますか?」
「あー、そうですね。僕も好きなんです。美味しいし、女の子が食べてると可愛いですよね」
「んっ!?旦那様鈴カステラ食べる人が好きなんですかっ!?」
「女の子がチマチマ食べてるのって可愛くないですか?」
「オッサン!1番デカい袋のやつくれっ!」
「いや何でだよ」
「え?だって鈴カステラ食べてるとこは可愛いんでしょ?」
「アンタが食べても可愛くねぇよ。1番大きい袋買っちゃったら鈴カステラだけでお腹いっぱいになっちゃうでしょ。今日は他にもいっぱい屋台回るんだから。オジサン、1番小さい袋でお願いします」
「まいどー」
シュルツが財布を出す前にフレディがさっさと小銭を屋台のオッサンに渡して、鈴カステラが入った1番小さな袋を受け取った。袋の口をその場で開けて、鈴カステラを1つ取り出した。
「はい。まだ温かいですよ」
「あ、はい」
シュルツはフレディから差し出された鈴カステラを受け取った。フレディも自分の分を袋から取り出して1つ口に放り込んだ。にまーと美味しそうに笑って、もぐもぐしている。可愛い。シュルツも鈴カステラを口に入れた。優しい甘さが中々美味しい。
フレディと分けあいながら鈴カステラを摘まみつつ、次の屋台へと歩いていく。甘辛いタレの絡んだ牛肉の串焼きも1本を2人で分けて食べ(間接キッス!)、焼きトウモロコシも2人で分けあい(間接キッス!)、林檎飴も2人で分けあい(間接キッス!)、綿菓子は間接キッスではなかったが、やはり2人で分けて食べた。
途中で冷たいエールを買って、飲みながらブラブラ屋台を冷やかしていく。
「おーいしーい」
「旦那様はお酒がお好きなんですか?」
「んー。好きと言えば好きですけど、祭りの時くらいにしか飲みませんね」
「晩酌をおつけしますか?」
「いいですよ。たまーに楽しむくらいがちょうどいいんです。アンタが好きなら別に毎日アンタが飲んでもいいですけど」
「いえ。俺も酒はそんなに飲まないので」
「そうですか。あ、焼き鳥だ。買いましょうよ。タレと塩、どっちがいいですか?」
「じゃあ塩で」
「オジサーン。塩1本ください」
「まいどー」
塩で味付けしてある焼き鳥も2人で分けて食べた。なんだかもう幸せ最高潮である。豊穣祭最高。もう毎日が豊穣祭でいい。
普段は酒を飲まない分、早くもじわじわ酔いが回ってきたふわふわした頭で、シュルツは馬鹿みたいにニコニコ笑っていた。本当に幸せ過ぎる。
日が暮れて、そこそこ遅い時間まで2人でのんびり豊穣祭を楽しんだ。
フレディが『いつも世話になっているから』と言って、雑貨が置いてある露天で可愛らしいデフォルメされた熊が描かれているマグカップをシュルツに買ってくれた。嬉しすぎて、いっそ泣いてしまいそうなくらいである。
この日は、シュルツにとって、一生忘れられない幸せな1日となった。
17
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる