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3:さようなら平凡な日常
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フレディは珈琲を淹れながら溜め息を吐いた。
そんなに広くない喫茶店の店内では、ノリのきいた真新しい白いシャツと黒いズボン、黒地に熊の刺繍が施されている微妙に可愛らしいエプロンを身につけたシュルツが客が帰った後のテーブルをキレイに拭いている。
カウンター席に座っている長年の常連客であるお爺さんが、微妙に暗い顔をしているフレディに話しかけてきた。
「熊さんマスター。随分と派手な子を雇ったね」
「……雇ったわけじゃないんですけどね……」
「ん?どういうことだい?」
「……押しかけ女房らしいです」
「熊さんマスターの?」
「……えぇ」
「おやま。熊さんマスターに春が来たのかい」
「……僕の気分は真冬ですよ……」
不思議そうな顔をする常連客のお爺さんの前で、フレディはまた溜め息を吐いた。
昨日の昼前に突然現れた自称・押しかけ女房ことシュルツは、あまりのしつこさに根負けしたフレディがとりあえず家に入れて、疲れきってぐったりと居間のソファーに座り込んでしまったフレディをよそに、いそいそと鞄の中から可愛らしい熊の刺繍がされているエプロンを取り出して、家主の許可も得ずに台所へ行き、作りかけだったサンドイッチを完成させて、更には魔導冷蔵庫の中にあった残り物の野菜とベーコンでミネストローネとサラダを作ってきた。
ニコニコと機嫌よさそうな笑顔で勧められて、フレディは色々と麻痺した頭でそのままシュルツと一緒にシュルツが作った昼食を食べてしまった。これが本当にめちゃくちゃ旨かったのだ。自称・押しかけ女房なんていう色んな意味で怪しげな男が作ったという事実も、その人物が目の前にいることも忘れて、がっついて、更にはおかわりまでしてしまうくらい旨かったのだ。
驚くほど旨かった昼食に満腹になって、おまけに精神的に疲れていたフレディは食べ終えるとすぐにソファーでうたた寝してしまった。初対面の自称・押しかけ女房がいるにも関わらずだ。
ハッと気がついた時にはもう夕方で、居間兼食堂である部屋のテーブルの上には、ものすごくいい匂いがする料理がいくつも並んでいた。あまりにもいい匂いがするものだから、ついフラフラとフレディはテーブルに近寄ってしまった。ニコニコと上機嫌なシュルツに勧められるがまま、また本当にビックリする程旨い料理をしこたま腹におさめてしまった。夢中で食べるフレディをシュルツはニコニコと嬉しそうに微笑んで眺めていた。
食べ終える頃にはすっかり日が暮れており、本当に帰る家がないらしいシュルツを、つい今は不在の父親の部屋へと案内してしまった。流石に日が暮れた時間帯に追い出すのは気がとがめたのだ。多分普通の宿はもう空いていないだろう。花街に行けば一晩くらい泊まれるだろうが、昼食も夕食も本当に本当に旨いものを食べさせてもらった。いやまあ、シュルツが勝手にしたことなのだが。フレディはつい仏心を出してしまい、一晩だけシュルツを泊めてやることにした。
後になって冷静になり考えてみると、フレディはもしかしたら人恋しかったのかもしれない。ずっと父親と2人で暮らしていた。家に帰るといつも父親がいてくれていた。しかし、この1年近くたった1人で暮らしている。当然毎日3食1人だけで食べている。一緒に食事をとる相手も、家で会話をする相手もいなかった。極々たまに友人が訪ねてくるが、数少ない友人達は皆結婚して自分の家庭を持っている。伴侶どころか恋人もいない1人ぼっちなのはフレディだけだった。
随分と久しぶりに家の中に自分以外がいるという状況が、なんだか捨てがたかった。それが自称・押しかけ女房でも。
翌朝である今日、フレディが目覚めて自室から出ると、家の中はすごく旨そうな匂いがしていた。居間に行くと、可愛らしい熊のエプロンをつけた超美形シュルツが上機嫌でテーブルに皿を並べていた。
食欲をそそる味噌汁の香りに、ついついフラフラとフレディはテーブルに近寄ってしまい、またシュルツに勧められるがまま、めちゃくちゃ旨い朝食を食べてしまった。
サンガレアには味噌や醤油など様々な調味料がある。なんでも何千年も前の土の神子がもたらして普及させたらしい。お陰でサンガレアの食文化は非常に豊かである。
父親と暮らしている時は毎朝必ず味噌汁を作っていた。しかし1人になると面倒で、朝は適当にパンと珈琲で済ませるようになった。約1年ぶりの朝食での味噌汁がなんだか嬉しくて、おまけにものすごく旨かったものだから、ついついフレディはおかわりまでしてしまった。
いつもの時間に喫茶店へと降りたフレディの後を、仕事着だという服に着替えたシュルツが当然の顔をしてついてきて、開店の準備をするフレディを手伝うように、店内の掃除などを始めてしまった。
そして現在に至る。完全に追い出すタイミングを逃してしまった感がある。実に馬鹿である。そもそも、いくら驚くほど旨かったとはいえ、訳が分からない初対面の自称・押しかけ女房の男が作った料理を食べて、うっかり泊めてしまったのが間違いだったのだ。これではまるでフレディがシュルツの存在を受け入れてしまったかのようではないか。フレディは女の子が好きなのである。男なんて無理だ。第一、シュルツは本当に驚くほど美形なのである。太って熊みたいな見た目のフレディは釣り合うような相手ではない。仮に一緒に街を歩いたら、フレディは多分周囲の人達から非難轟々浴びせられるだろう。そのくらいシュルツは超美形で、フレディは単なるデブ熊だ。
シュルツが何を考えているのか、全く分からない。フレディは間違っても人に好かれる見た目ではない。サンガレアの、特に中央の街には、お洒落や体型に気を使う細身やマッチョな男達がいっぱいいる。フレディのようにぶくぶく太っている者は少数派だ。小さい頃から『デブ』と言われて馬鹿にされることの方が多かった。そんなフレディがシュルツのような超美形に好かれる理由がまるで分からない。本当に初対面なのだ。あんなとんでもない美形、1度見たら男に興味がないフレディでさえ忘れるわけがない。シュルツは一目惚れとかふざけたことを言っていた。フレディは一目惚れなんてものはあり得ないと思っている。一目惚れなんて、結局見た目が好きというだけだろう。その人そのものが好きなわけではない。信じがたいが、もしかしたらシュルツはフレディの見た目が好きな、ものすごく変わった趣味嗜好をしているのかもしれない。フレディは見た目はおっとりのんびりしているっぽく見えるらしいが、実際の中身はそこそこ毒舌で、それなりに気が強く、性格は卑屈な方である。自分が人に好かれるような見た目でも中身でもないのは自覚している。だからこそ、自称・押しかけ女房のシュルツのことが信用できない。きっとシュルツもフレディの嫌な性格にすぐに嫌気がさす筈だ。そして、そのまま出ていき、フレディのことなんかすぐに忘れるだろう。その日がくるのが待ち遠しい反面、憂鬱である。誰だって無駄に傷つきたくないのだ。なんとも思っていない相手であっても『思ってたのと違う』とか『好きだと思ったのは単なる勘違いだった』とか言われたら正直傷つく。
フレディは珈琲を淹れながら、重い溜め息をまた吐いた。
ーーーーーー
自称・押しかけ女房シュルツがやって来て2週間。
シュルツはなんと完全にフレディの家に住み着き、フレディがやる前に家事を全て完璧にこなし、毎食めちゃくちゃ旨い料理を作って、喫茶店を手伝っている。信じがたいがマジである。
シュルツは毎日、それはそれは楽しそうに過ごしている。楽しそうなシュルツとは対照的に、フレディはげんなりしていた。マジで押しかけ女房状態なのだ。訳がわからない。押しかけ女房を自称しているシュルツは家事も仕事も、てきぱきと完璧にやっている。しかしフレディを好きだと言うわりに、性的に襲ってくる気配はない。だからこそフレディはとても困惑している。好きな相手と1つ屋根の下なのに、シュルツはフレディに触れてこようとはしない。手を握ろうとさえしない。ただ、フレディが快適に過ごせるよう、家の中を掃除したり、旨い料理を沢山作ったり、フレディの少し解れているシャツを修繕したりと、まるでフレディに尽くしているような行動をとっている。自分がそんなことをされるような人間ではないとフレディは自覚している。だからこそシュルツの行動の意味も目的もよく分からない。本当になんなのだ。
シュルツが喫茶店で働くようになり、客が急激に増えている。皆、シュルツが目的の女の子や多分男が好きな見た目のいい男ばかりである。特にここ数日、珈琲1杯で長時間居座る客ばかりになった。客の回転率が落ちてきている。喫茶店の中は常に満員だし、なんなら外に並んでいる客までいるが、売上自体は落ちてきていた。
そもそもフレディの喫茶店はメニューが少ない。熱い珈琲、冷たい珈琲、ハムのサンドイッチ、生クリームと季節の果物たっぷりのフルーツサンドイッチだけである。
それでもやっていけているのは、メニューが少ない分どれもとことん味にこだわっていることと、尚且つ昔からの常連客がそれなりの数いるからだ。嫌煙家が増え、煙草が吸えない飲食店で多くなってきている昨今では珍しく、煙草を吸ってもいい店だからという理由もある。
フレディの喫茶店はいつも物静かで、ゆったりと煙草とフレディが淹れた香り高い珈琲を楽しむ客ばかりだったのだ。
だというのに、ここ数日、きゃぴきゃぴとはしゃぐ女の子集団やらにフレディの喫茶店は占拠されてしまっている。喫茶店に入れなくて、帰っていく常連客が何人も何人もいた。ちょっとこれは許しがたいことである。
フレディはじわじわと怒りを溜めていた。別にシュルツが悪いわけではないのは分かっている。ただシュルツは本当に無駄なまでに見た目がいい。おまけに喫茶店がこんな状態になる前に常連客の1人に教えてもらったのだが、シュルツはかなり有名な分隊長だったらしい。何度も大衆雑誌にシュルツの記事が載っているのだそうだ。シュルツの追っかけをやっている者も男女問わず多く、なんならストーカー騒ぎになることも頻繁らしい。どんだけだ。そんなシュルツがいるせいで、フレディの大事な喫茶店は中々に酷い有り様になってしまった。
フレディはむすっとしながら、急いで珈琲を淹れている。シュルツ目当ての客達はフレディの珈琲を楽しむなんてことはしてくれない。シュルツを眺めたり、馴れ馴れしくシュルツに話しかけたりしていて、珈琲なんて見向きもしない。冷めて折角の香りが飛んだ珈琲を適当に飲んで帰るのだ。酷い者だと殆んど残して帰る。あんまりな者だと、うがい飲みして帰るのだ。あんまりだ。一生懸命丁寧に美味しい珈琲を淹れているというのに。フレディはもうそろそろ我慢の限界である。フレディはわりと気が短い方なのだ。
そんな怒りを溜めているフレディの前に、軍服を着た頭がつるぴかな感じの男がやって来た。じろじろとフレディの顔を見て、不機嫌そうな顔をしている。フレディも失礼だが、据わった目で客っぽいハゲの男を見た。
ここ数日、何人もの男女にフレディは絡まれている。『見苦しいデブのくせに、シュルツ分隊長をこんな貧相な喫茶店で働かせてるなんてあり得ない』とか、シュルツが自分のことをフレディの押しかけ女房だと言い触らしているので『どんな汚い手を使ったの?クソデブ』とか、『自分の顔鏡で見たことあるわけ?髭デブ』とか、『アンタみたいなデブ、シュルツ分隊長に相応しくない』とか、言われたい放題なのである。フレディが望んでシュルツに働いてもらっているわけでもないし、押しかけ女房してくれと言ったわけでもない。シュルツが勝手にやって来て、勝手にフレディの家に居座って、勝手に喫茶店でも働いているのだ。フレディがそれとなーく出ていってくれと言っても、聞き流されている。
イライラしながら手を止めずに、目の前のハゲを見ていると、ハゲが口を開いた。
「お前さんがシュルツを誑かしたのか?」
「……はぁ?」
「シュルツは優秀な軍人だ。こんな喫茶店で働くような男じゃない」
「じゃあ連れて帰ってください」
「……は?」
「2週間前に突然やって来て、押しかけ女房を自称して僕の家に居座って勝手に店で働いているんです。僕の店は静かに珈琲を楽しむ為の店なのに、今じゃあの人目当ての客でいっぱいで常連客は殆んど来れなくなっちゃったんです。珈琲1杯だけで長居する人ばっかりだから、回転率が下がって売上も落ちてきてるんです。このままじゃ店が潰れます。本当にどうにかしてください」
「……その、お前さんがシュルツを誘うなりなんなりしたわけじゃないのか?」
「まさか。本当に突然僕の家に来たんです。誓って真実ですけど、本当に初対面でした」
「……あいつ、もしかして初対面のお前さんの家に押しかけて、住み着いて、勝手に働いてるのか?」
「その通りです」
「…………なんで?」
「知りませんよ。自称・押しかけ女房殿に聞いてください」
「…………はぁ。おい。シュルツ」
目の前のハゲがシュルツの名前をそこそこデカい声で呼んだ。珈琲を下げていたシュルツがこちらを向き、嫌そうに顔を歪めた。露骨に嫌そうな顔をしたシュルツがハゲの近くにやって来た。
「何の用ですか?副団長」
「何の用じゃねーよ。お前何考えてるんだ。突然辞表出すわ、勝手にコンラッドを街の領軍詰所の責任者にするわ、突然こっちの彼の家に押しかけるわ」
「だって俺、旦那様の押しかけ女房だもん」
「……は?」
「もうとっくに領軍は辞めたし、俺は今旦那様の押しかけ女房するので忙しいんで」
「いやいやいやいや。待て待て待て。お前、自分が何やってるか分かってんのか?」
「分かってますよ。失敬なハゲですね。俺は今愛に生きているんです」
「意味が分からん。ハゲ言うなボケ。これはハゲじゃない。剃ってるんだ馬鹿野郎」
「ハゲ隠しでしょ?」
「違うわボケ。シバくぞクソ野郎」
「むきになるとこがあーやしーい」
「よしシバく」
「やめてくださーい。俺はもう善良な一般市民ですー。一般市民に副団長ともあろうお方が暴力ふるっていいんですかぁー?」
「くっそ腹立つ」
「はっ。で?何の用ですか?」
「お前とっとと領軍に戻れ」
「寝言は寝てるときに言ってくださいよ。俺は愛に生きるって決めたんで。長生き手続きも放棄したんで」
「……こっちの彼ん家にいきなり押しかけたそうだな?」
「だって俺押しかけ女房だもん」
「『だもん』じゃねーよ。腹立つ」
「ここはもう俺と旦那様の愛の巣なんですぅー。元上司のハゲはとっととお帰りくださいー」
「うっぜぇ!きっめぇ!腹立つっ!お前なぁ!お前のせいでこっちの彼は迷惑してんだぞ!うちの軍にだって迷惑かけてる!」
「もう辞めた領軍は心底どうでもいいけど、俺が旦那様に迷惑かけてるってなんですか」
「こ・の・み・せ・の!現状をよく見やがれ!お前目当ての客で溢れてんだろうが!」
「大変腹立たしいことにそうですね」
「そのせいで常連客が来れなくなってるし、売上も落ちてんだとっ!」
「え?そこまで?」
「だよなっ!」
ハゲが勢いよくフレディの方を向いた。フレディは無言で何度も首を縦に振った。
シュルツは無言で眉間に皺を寄せると、なんと店にいた客を全て追い出し、バタバタと走って店から出ていき、喫茶店の入り口のドアにばんっと何かを貼り付けた。
いきなりのシュルツの行動に唖然としていたフレディとハゲが喫茶店の外に出て張り紙を見ると、『店員目当ての客お断り。入ってきても即座に追い出す』と書かれている。
「旦那様!安心してください!糞にたかる蠅みたいな連中は俺が責任もって追い出すんで!」
「その例えだとお前糞だぞ」
「うっさいハゲ。アンタも帰れ」
「ハゲじゃねぇってんだろうがクソ野郎。上官侮辱罪で牢屋にぶちこむぞゴラ」
「だからもう領軍辞めたし俺。今は素敵な奥さんだし俺」
「頭沸いてんのか馬鹿野郎」
「ふん。何度も言ってますけど、俺は愛に生きるんですぅ。ねぇ、旦那様?」
とびきりの笑顔で意味不明なことを言うシュルツに、フレディはなんだかもう兎に角精神的にぐったりしてしまい、無言で喫茶店の中に肩を落として戻った。
そんなに広くない喫茶店の店内では、ノリのきいた真新しい白いシャツと黒いズボン、黒地に熊の刺繍が施されている微妙に可愛らしいエプロンを身につけたシュルツが客が帰った後のテーブルをキレイに拭いている。
カウンター席に座っている長年の常連客であるお爺さんが、微妙に暗い顔をしているフレディに話しかけてきた。
「熊さんマスター。随分と派手な子を雇ったね」
「……雇ったわけじゃないんですけどね……」
「ん?どういうことだい?」
「……押しかけ女房らしいです」
「熊さんマスターの?」
「……えぇ」
「おやま。熊さんマスターに春が来たのかい」
「……僕の気分は真冬ですよ……」
不思議そうな顔をする常連客のお爺さんの前で、フレディはまた溜め息を吐いた。
昨日の昼前に突然現れた自称・押しかけ女房ことシュルツは、あまりのしつこさに根負けしたフレディがとりあえず家に入れて、疲れきってぐったりと居間のソファーに座り込んでしまったフレディをよそに、いそいそと鞄の中から可愛らしい熊の刺繍がされているエプロンを取り出して、家主の許可も得ずに台所へ行き、作りかけだったサンドイッチを完成させて、更には魔導冷蔵庫の中にあった残り物の野菜とベーコンでミネストローネとサラダを作ってきた。
ニコニコと機嫌よさそうな笑顔で勧められて、フレディは色々と麻痺した頭でそのままシュルツと一緒にシュルツが作った昼食を食べてしまった。これが本当にめちゃくちゃ旨かったのだ。自称・押しかけ女房なんていう色んな意味で怪しげな男が作ったという事実も、その人物が目の前にいることも忘れて、がっついて、更にはおかわりまでしてしまうくらい旨かったのだ。
驚くほど旨かった昼食に満腹になって、おまけに精神的に疲れていたフレディは食べ終えるとすぐにソファーでうたた寝してしまった。初対面の自称・押しかけ女房がいるにも関わらずだ。
ハッと気がついた時にはもう夕方で、居間兼食堂である部屋のテーブルの上には、ものすごくいい匂いがする料理がいくつも並んでいた。あまりにもいい匂いがするものだから、ついフラフラとフレディはテーブルに近寄ってしまった。ニコニコと上機嫌なシュルツに勧められるがまま、また本当にビックリする程旨い料理をしこたま腹におさめてしまった。夢中で食べるフレディをシュルツはニコニコと嬉しそうに微笑んで眺めていた。
食べ終える頃にはすっかり日が暮れており、本当に帰る家がないらしいシュルツを、つい今は不在の父親の部屋へと案内してしまった。流石に日が暮れた時間帯に追い出すのは気がとがめたのだ。多分普通の宿はもう空いていないだろう。花街に行けば一晩くらい泊まれるだろうが、昼食も夕食も本当に本当に旨いものを食べさせてもらった。いやまあ、シュルツが勝手にしたことなのだが。フレディはつい仏心を出してしまい、一晩だけシュルツを泊めてやることにした。
後になって冷静になり考えてみると、フレディはもしかしたら人恋しかったのかもしれない。ずっと父親と2人で暮らしていた。家に帰るといつも父親がいてくれていた。しかし、この1年近くたった1人で暮らしている。当然毎日3食1人だけで食べている。一緒に食事をとる相手も、家で会話をする相手もいなかった。極々たまに友人が訪ねてくるが、数少ない友人達は皆結婚して自分の家庭を持っている。伴侶どころか恋人もいない1人ぼっちなのはフレディだけだった。
随分と久しぶりに家の中に自分以外がいるという状況が、なんだか捨てがたかった。それが自称・押しかけ女房でも。
翌朝である今日、フレディが目覚めて自室から出ると、家の中はすごく旨そうな匂いがしていた。居間に行くと、可愛らしい熊のエプロンをつけた超美形シュルツが上機嫌でテーブルに皿を並べていた。
食欲をそそる味噌汁の香りに、ついついフラフラとフレディはテーブルに近寄ってしまい、またシュルツに勧められるがまま、めちゃくちゃ旨い朝食を食べてしまった。
サンガレアには味噌や醤油など様々な調味料がある。なんでも何千年も前の土の神子がもたらして普及させたらしい。お陰でサンガレアの食文化は非常に豊かである。
父親と暮らしている時は毎朝必ず味噌汁を作っていた。しかし1人になると面倒で、朝は適当にパンと珈琲で済ませるようになった。約1年ぶりの朝食での味噌汁がなんだか嬉しくて、おまけにものすごく旨かったものだから、ついついフレディはおかわりまでしてしまった。
いつもの時間に喫茶店へと降りたフレディの後を、仕事着だという服に着替えたシュルツが当然の顔をしてついてきて、開店の準備をするフレディを手伝うように、店内の掃除などを始めてしまった。
そして現在に至る。完全に追い出すタイミングを逃してしまった感がある。実に馬鹿である。そもそも、いくら驚くほど旨かったとはいえ、訳が分からない初対面の自称・押しかけ女房の男が作った料理を食べて、うっかり泊めてしまったのが間違いだったのだ。これではまるでフレディがシュルツの存在を受け入れてしまったかのようではないか。フレディは女の子が好きなのである。男なんて無理だ。第一、シュルツは本当に驚くほど美形なのである。太って熊みたいな見た目のフレディは釣り合うような相手ではない。仮に一緒に街を歩いたら、フレディは多分周囲の人達から非難轟々浴びせられるだろう。そのくらいシュルツは超美形で、フレディは単なるデブ熊だ。
シュルツが何を考えているのか、全く分からない。フレディは間違っても人に好かれる見た目ではない。サンガレアの、特に中央の街には、お洒落や体型に気を使う細身やマッチョな男達がいっぱいいる。フレディのようにぶくぶく太っている者は少数派だ。小さい頃から『デブ』と言われて馬鹿にされることの方が多かった。そんなフレディがシュルツのような超美形に好かれる理由がまるで分からない。本当に初対面なのだ。あんなとんでもない美形、1度見たら男に興味がないフレディでさえ忘れるわけがない。シュルツは一目惚れとかふざけたことを言っていた。フレディは一目惚れなんてものはあり得ないと思っている。一目惚れなんて、結局見た目が好きというだけだろう。その人そのものが好きなわけではない。信じがたいが、もしかしたらシュルツはフレディの見た目が好きな、ものすごく変わった趣味嗜好をしているのかもしれない。フレディは見た目はおっとりのんびりしているっぽく見えるらしいが、実際の中身はそこそこ毒舌で、それなりに気が強く、性格は卑屈な方である。自分が人に好かれるような見た目でも中身でもないのは自覚している。だからこそ、自称・押しかけ女房のシュルツのことが信用できない。きっとシュルツもフレディの嫌な性格にすぐに嫌気がさす筈だ。そして、そのまま出ていき、フレディのことなんかすぐに忘れるだろう。その日がくるのが待ち遠しい反面、憂鬱である。誰だって無駄に傷つきたくないのだ。なんとも思っていない相手であっても『思ってたのと違う』とか『好きだと思ったのは単なる勘違いだった』とか言われたら正直傷つく。
フレディは珈琲を淹れながら、重い溜め息をまた吐いた。
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自称・押しかけ女房シュルツがやって来て2週間。
シュルツはなんと完全にフレディの家に住み着き、フレディがやる前に家事を全て完璧にこなし、毎食めちゃくちゃ旨い料理を作って、喫茶店を手伝っている。信じがたいがマジである。
シュルツは毎日、それはそれは楽しそうに過ごしている。楽しそうなシュルツとは対照的に、フレディはげんなりしていた。マジで押しかけ女房状態なのだ。訳がわからない。押しかけ女房を自称しているシュルツは家事も仕事も、てきぱきと完璧にやっている。しかしフレディを好きだと言うわりに、性的に襲ってくる気配はない。だからこそフレディはとても困惑している。好きな相手と1つ屋根の下なのに、シュルツはフレディに触れてこようとはしない。手を握ろうとさえしない。ただ、フレディが快適に過ごせるよう、家の中を掃除したり、旨い料理を沢山作ったり、フレディの少し解れているシャツを修繕したりと、まるでフレディに尽くしているような行動をとっている。自分がそんなことをされるような人間ではないとフレディは自覚している。だからこそシュルツの行動の意味も目的もよく分からない。本当になんなのだ。
シュルツが喫茶店で働くようになり、客が急激に増えている。皆、シュルツが目的の女の子や多分男が好きな見た目のいい男ばかりである。特にここ数日、珈琲1杯で長時間居座る客ばかりになった。客の回転率が落ちてきている。喫茶店の中は常に満員だし、なんなら外に並んでいる客までいるが、売上自体は落ちてきていた。
そもそもフレディの喫茶店はメニューが少ない。熱い珈琲、冷たい珈琲、ハムのサンドイッチ、生クリームと季節の果物たっぷりのフルーツサンドイッチだけである。
それでもやっていけているのは、メニューが少ない分どれもとことん味にこだわっていることと、尚且つ昔からの常連客がそれなりの数いるからだ。嫌煙家が増え、煙草が吸えない飲食店で多くなってきている昨今では珍しく、煙草を吸ってもいい店だからという理由もある。
フレディの喫茶店はいつも物静かで、ゆったりと煙草とフレディが淹れた香り高い珈琲を楽しむ客ばかりだったのだ。
だというのに、ここ数日、きゃぴきゃぴとはしゃぐ女の子集団やらにフレディの喫茶店は占拠されてしまっている。喫茶店に入れなくて、帰っていく常連客が何人も何人もいた。ちょっとこれは許しがたいことである。
フレディはじわじわと怒りを溜めていた。別にシュルツが悪いわけではないのは分かっている。ただシュルツは本当に無駄なまでに見た目がいい。おまけに喫茶店がこんな状態になる前に常連客の1人に教えてもらったのだが、シュルツはかなり有名な分隊長だったらしい。何度も大衆雑誌にシュルツの記事が載っているのだそうだ。シュルツの追っかけをやっている者も男女問わず多く、なんならストーカー騒ぎになることも頻繁らしい。どんだけだ。そんなシュルツがいるせいで、フレディの大事な喫茶店は中々に酷い有り様になってしまった。
フレディはむすっとしながら、急いで珈琲を淹れている。シュルツ目当ての客達はフレディの珈琲を楽しむなんてことはしてくれない。シュルツを眺めたり、馴れ馴れしくシュルツに話しかけたりしていて、珈琲なんて見向きもしない。冷めて折角の香りが飛んだ珈琲を適当に飲んで帰るのだ。酷い者だと殆んど残して帰る。あんまりな者だと、うがい飲みして帰るのだ。あんまりだ。一生懸命丁寧に美味しい珈琲を淹れているというのに。フレディはもうそろそろ我慢の限界である。フレディはわりと気が短い方なのだ。
そんな怒りを溜めているフレディの前に、軍服を着た頭がつるぴかな感じの男がやって来た。じろじろとフレディの顔を見て、不機嫌そうな顔をしている。フレディも失礼だが、据わった目で客っぽいハゲの男を見た。
ここ数日、何人もの男女にフレディは絡まれている。『見苦しいデブのくせに、シュルツ分隊長をこんな貧相な喫茶店で働かせてるなんてあり得ない』とか、シュルツが自分のことをフレディの押しかけ女房だと言い触らしているので『どんな汚い手を使ったの?クソデブ』とか、『自分の顔鏡で見たことあるわけ?髭デブ』とか、『アンタみたいなデブ、シュルツ分隊長に相応しくない』とか、言われたい放題なのである。フレディが望んでシュルツに働いてもらっているわけでもないし、押しかけ女房してくれと言ったわけでもない。シュルツが勝手にやって来て、勝手にフレディの家に居座って、勝手に喫茶店でも働いているのだ。フレディがそれとなーく出ていってくれと言っても、聞き流されている。
イライラしながら手を止めずに、目の前のハゲを見ていると、ハゲが口を開いた。
「お前さんがシュルツを誑かしたのか?」
「……はぁ?」
「シュルツは優秀な軍人だ。こんな喫茶店で働くような男じゃない」
「じゃあ連れて帰ってください」
「……は?」
「2週間前に突然やって来て、押しかけ女房を自称して僕の家に居座って勝手に店で働いているんです。僕の店は静かに珈琲を楽しむ為の店なのに、今じゃあの人目当ての客でいっぱいで常連客は殆んど来れなくなっちゃったんです。珈琲1杯だけで長居する人ばっかりだから、回転率が下がって売上も落ちてきてるんです。このままじゃ店が潰れます。本当にどうにかしてください」
「……その、お前さんがシュルツを誘うなりなんなりしたわけじゃないのか?」
「まさか。本当に突然僕の家に来たんです。誓って真実ですけど、本当に初対面でした」
「……あいつ、もしかして初対面のお前さんの家に押しかけて、住み着いて、勝手に働いてるのか?」
「その通りです」
「…………なんで?」
「知りませんよ。自称・押しかけ女房殿に聞いてください」
「…………はぁ。おい。シュルツ」
目の前のハゲがシュルツの名前をそこそこデカい声で呼んだ。珈琲を下げていたシュルツがこちらを向き、嫌そうに顔を歪めた。露骨に嫌そうな顔をしたシュルツがハゲの近くにやって来た。
「何の用ですか?副団長」
「何の用じゃねーよ。お前何考えてるんだ。突然辞表出すわ、勝手にコンラッドを街の領軍詰所の責任者にするわ、突然こっちの彼の家に押しかけるわ」
「だって俺、旦那様の押しかけ女房だもん」
「……は?」
「もうとっくに領軍は辞めたし、俺は今旦那様の押しかけ女房するので忙しいんで」
「いやいやいやいや。待て待て待て。お前、自分が何やってるか分かってんのか?」
「分かってますよ。失敬なハゲですね。俺は今愛に生きているんです」
「意味が分からん。ハゲ言うなボケ。これはハゲじゃない。剃ってるんだ馬鹿野郎」
「ハゲ隠しでしょ?」
「違うわボケ。シバくぞクソ野郎」
「むきになるとこがあーやしーい」
「よしシバく」
「やめてくださーい。俺はもう善良な一般市民ですー。一般市民に副団長ともあろうお方が暴力ふるっていいんですかぁー?」
「くっそ腹立つ」
「はっ。で?何の用ですか?」
「お前とっとと領軍に戻れ」
「寝言は寝てるときに言ってくださいよ。俺は愛に生きるって決めたんで。長生き手続きも放棄したんで」
「……こっちの彼ん家にいきなり押しかけたそうだな?」
「だって俺押しかけ女房だもん」
「『だもん』じゃねーよ。腹立つ」
「ここはもう俺と旦那様の愛の巣なんですぅー。元上司のハゲはとっととお帰りくださいー」
「うっぜぇ!きっめぇ!腹立つっ!お前なぁ!お前のせいでこっちの彼は迷惑してんだぞ!うちの軍にだって迷惑かけてる!」
「もう辞めた領軍は心底どうでもいいけど、俺が旦那様に迷惑かけてるってなんですか」
「こ・の・み・せ・の!現状をよく見やがれ!お前目当ての客で溢れてんだろうが!」
「大変腹立たしいことにそうですね」
「そのせいで常連客が来れなくなってるし、売上も落ちてんだとっ!」
「え?そこまで?」
「だよなっ!」
ハゲが勢いよくフレディの方を向いた。フレディは無言で何度も首を縦に振った。
シュルツは無言で眉間に皺を寄せると、なんと店にいた客を全て追い出し、バタバタと走って店から出ていき、喫茶店の入り口のドアにばんっと何かを貼り付けた。
いきなりのシュルツの行動に唖然としていたフレディとハゲが喫茶店の外に出て張り紙を見ると、『店員目当ての客お断り。入ってきても即座に追い出す』と書かれている。
「旦那様!安心してください!糞にたかる蠅みたいな連中は俺が責任もって追い出すんで!」
「その例えだとお前糞だぞ」
「うっさいハゲ。アンタも帰れ」
「ハゲじゃねぇってんだろうがクソ野郎。上官侮辱罪で牢屋にぶちこむぞゴラ」
「だからもう領軍辞めたし俺。今は素敵な奥さんだし俺」
「頭沸いてんのか馬鹿野郎」
「ふん。何度も言ってますけど、俺は愛に生きるんですぅ。ねぇ、旦那様?」
とびきりの笑顔で意味不明なことを言うシュルツに、フレディはなんだかもう兎に角精神的にぐったりしてしまい、無言で喫茶店の中に肩を落として戻った。
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ファンタジー要素があります。
ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。
全体的にシリアスです。
色々とガッツリなのでR-15指定にしました。
好きか?嫌いか?
秋元智也
BL
ある日、女子に振られてやけくそになって自分の運命の相手を
怪しげな老婆に占ってもらう。
そこで身近にいると宣言されて、虹色の玉を渡された。
眺めていると、後ろからぶつけられ慌てて掴むつもりが飲み込んでしまう。
翌朝、目覚めると触れた人の心の声が聞こえるようになっていた!
クラスでいつもつっかかってくる奴の声を悪戯するつもりで聞いてみると
なんと…!!
そして、運命の人とは…!?
【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ
pino
BL
恋愛経験0の秋山貴哉は、口悪し頭悪しのヤンキーだ。でも幸いにも顔は良く、天然な性格がウケて無自覚に人を魅了していた。そんな普通の男子校に通う貴哉は朝起きるのが苦手でいつも寝坊をして遅刻をしていた。
夏休みを目の前にしたある日、担任から「今学期、あと1日でも遅刻、欠席したら出席日数不足で強制退学だ」と宣告される。
それはまずいと貴哉は周りの協力を得ながら何とか退学を免れようと奮闘するが、友達だと思っていた相手に好きだと告白されて……?
その他にも面倒な事が貴哉を待っている!
ドタバタ青春ラブコメディ。
チャラ男×ヤンキーorヤンキー×チャラ男
表紙は主人公の秋山貴哉です。
BLです。
貴哉視点でのお話です。
※印は貴哉以外の視点になります。
第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?
藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。
悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥
すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。
男性妊娠可能な世界です。
魔法は昔はあったけど今は廃れています。
独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥
大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。
R4.2.19 12:00完結しました。
R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。
お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。
多分10話くらい?
2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
倫理的恋愛未満
雨水林檎
BL
少し変わった留年生と病弱摂食障害(拒食)の男子高校生の創作一次日常ブロマンス(BL寄り)小説。
体調不良描写を含みます、ご注意ください。
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