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41:続いていく日々
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家政夫生活3年目のある日の夜。
アイディーは深夜遅くにロバートの部屋にいた。ヨザックと恋人になろうが、ガーディナと暮らし始めようが、ハルファがロバートとミケーネに会いに来るようになろうが、夜の仕事はやっている。性欲旺盛なロバートに溜め込ませるとろくなことにならないし、契約内容は遵守しなければならない。ロバートには本当に恩を感じているので、キスはしないが、ロバートとのセックスはこっそり色々頑張っている。
ベッドの上に脚を広げて座っているアイディーの股間に顔を埋め、すーはーすーはーとアイディーの股間の匂いを嗅いでいる変態臭いオッサンの頭を撫でていると、ロバートがそのままの体勢で口を開いた。
「そろそろハルファと再婚しようかと思うんだ」
「それは俺の股間に顔突っ込みながら言うことじゃねぇな」
「細かいことは気にするな」
「細かくねぇよ」
「契約内容を変更することができると聞いた」
「あ?マジで?」
「あぁ。再婚を機に、給料はそのままで女装とセックスを止めるか?」
「単なる家政夫に毎月400も出していいのかよ」
「構わん。お前がいないと俺もハルファもミケーネも駄目だ」
「……セックスをしなくていいなら、しない方がいい。アンタとセックスをするの嫌いじゃねぇけど、俺ヨザックが好きだし。ヨザックともセックスしてるからよ。アンタにもヨザックにも申し訳ない気がして、なんつーか、心苦しい」
「俺のことは別に気にしなくていいが。恋人ならセックスくらいするだろう」
「まぁ、そうかもしんねぇけど。……ガーディナにいつバレるかってハラハラしなくてよくなるから、できればセックスはなしがいい」
「……ガーディナに知られたら、俺不能にされるかな……」
「多分な」
「……異様な執念で不能にする魔術を習得したからな。ガーディナ、ブラコン過ぎじゃないか?」
「可愛いだろ」
「マジか」
「おう」
「……じゃあ、セックスはなしで」
「とか言いつつ、ぐりぐりしてくんなよ」
「まだ契約内容を変更していない」
「そうだけど」
「女装も止めるだろ?」
「んあー……どうすっかな。女装にすっかり慣れてっしよぉ。女装なら服とか経費扱いになんだろ?少しでも出費したくねぇから女装は継続で」
「それでいいのか」
「おーう。ちっとの出費が積み重なれば、それなりの額になんだろ。俺の出費抑えて、ガーディナに使ってやりてぇ。学校行ってりゃ友達と遊ぶこともあるだろうしよ。少しでも小遣いとか渡してやりてぇじゃん」
「ガーディナの小遣いくらい俺がやる」
「そこまでしなくていい。小遣いとか、俺の自己満足みてぇなもんだしよぉ」
「そうか……じゃあ女装は継続で、セックスだけ契約内容から外すってことでいいな」
「おう。旦那様」
「ん?」
「わりぃな。アンタの好意に甘えちまってよ」
「……別に。セックスしなくても、側にいてくれたらそれでいい」
「そっか」
「その、まだ先の話なんだが……借金を返し終えてからも家政夫を続けてほしいんだ」
「…………」
「金の問題じゃないかもしれないが、給料はちゃんと払うし、ヨザックと結婚したら通いでも構わない。その、なんだ……本当の家族になれなくても、側にいて、家族のようでいてほしい……お前もガーディナも大事なんだ」
「アンタお人好し過ぎないか?」
「そうか?我ながら自分勝手なだけの気がするが。借金を返した後も給料は同じだけ払うぞ。俺はお前の子供も見てみたい」
「マジかよ」
「今の給料なら施設で子供を1人つくる金が1年くらいで貯まるだろ。4000ちょいだっただろ?確か」
「いや、貯まるけど……それでいいのかよ」
「あと少しで趣味でやってた研究が一段落する。一応新しい魔術陣で汎用性が高いものだから、多分利権とかの関係で収入が増える」
「アンタどんだけ稼いでんだよ」
「まぁ、それなりに」
なにやら照れているのか、ロバートがぐりぐりと鼻先でスカートの上からアイディーの股間を刺激してくる。アイディーはそんなロバートに呆れつつ、わしゃわしゃとロバートの頭を撫で回した。
「子連れで仕事していいのかよ」
「勿論。ハルファもミケーネも喜ぶだろうしな」
「旦那様」
「なんだ」
「アンタの老後の世話まできっちりやるわ」
「……うん」
アイディーの股間に顔を埋めているロバートの耳は真っ赤になっていた。
ーーーーーー
アイディーが家政夫を始めて、ちょうど10年目の秋。
アイディーはヨザックと共に花街に出かけ、軽い足取りでロバートの家に戻った。居間にはロバート、ハルファ、ミケーネ、ガーディナが揃っていた。
アイディーは笑顔でペラリと1枚の紙を皆に見せた。
「借金。完!済!」
皆に見せた紙は借金完済の証明書である。利子も含めて、アイディーが背負っていた借金は全て返し終えた。ロバート達が笑顔で拍手をしてくれて、ガーディナは涙ぐんでアイディーに抱きついた。
「兄ちゃん。お疲れ様でした」
「おーう」
アイディーはぎゅっと泣いているガーディナの身体を抱き締めた。長かったような、あっという間だったような10年だった。
出会った時は2歳だったミケーネは、来年には中学生になる。ガーディナは無事魔術師になり、今は魔術研究所で働いている。ロバートは相変わらずだ。ハルファは再婚した今でも小さな出版社で働いている。
ヨザックも変わらず軍人として働いており、アイディーの恋人のままだ。
ミケーネがソファーから立ち上がって、パタパタとアイディー達に近づき、むぎゅっとアイディーの背中に抱きついた。
「あーちゃん。家政夫辞めて出ていっちゃうの?」
「家政夫は辞めねぇよ。旦那様の老後の世話まできっちりやるわ」
「じゃあ、今まで通り?」
「あー……それなんだがよぉ……ガーディナ、坊っちゃん、ちょっと離れてくれ」
アイディーは2人から離れて、1人自室に戻り、用意していたあるものを持って、自分の背中にそれを隠すようにして居間に戻った。
アイディーは柄じゃないと自覚しているので、どうにも気恥ずかしい気持ちと緊張で顔が熱くて堪らないが、それでもどうしてもやりたくて、それをぐっとヨザックに突き出した。
「結婚してくれ」
それは真っ赤な薔薇の花束だ。ヨザックがぽかんと間抜けに口を開け、目を見開いた。沈黙が暫し続き、アイディーが背中に嫌な汗をかき始めた頃に、ヨザックがぶはっと吹き出した。
「嘘だろ!マジか!」
「おう」
「俺も用意してたのに!」
「早い者勝ちだな」
「この後で家に来てもらおうと思ってたんだぜ?」
「マジか」
「おう。アイディー」
「ん」
「俺と一緒に生きてくれるか?」
「おう。責任持って俺より長生きしてくれよ」
「ははっ!分かってる」
ヨザックが弾けるような笑顔で薔薇の花束ごとアイディーを抱き締めた。
「俺のハニーは本当にいい男だな」
「まぁな」
「顔真っ赤だぜ。ハニー」
「……うっせぇ。柄じゃねぇのは分かってんだよ」
アイディーが少し唇を尖らせると、ヨザックが声を上げて笑い、アイディーの唇に軽く触れるだけの優しいキスをした。
ーーーーーー
アイディーが合鍵を使ってロバートの家に入り、台所へ向かうと、ハルファが朝食を作っていた。
眠そうな顔で欠伸をしながらスープを作っているハルファに挨拶をして、昨日のうちに下拵えしておいた材料を使って弁当を作り始める。
「アイディー。今日はドルーガは一緒じゃないの?」
「おう。ヨザックが今日は休みだからよぉ。一緒に朝寝坊してんだよ」
「ははっ。朝寝坊いいねぇ。僕も今すぐベッドに戻りたいや」
「あー……昨日はお楽しみか?」
「うん」
「元気過ぎんだろ、オッサン」
「ねー。ロバートもう50近い筈なんだけど」
「夫婦仲がよくて何よりだな」
「まぁね」
アイディーとヨザックは結婚し、2年後に子供を1人つくった。ドルーガと名付けた男の子は目元がアイディーそっくりで、それ以外はヨザックに似ていた。割と凶悪な目付きの悪さを自覚しているアイディーは、ドルーガが気の毒で少し複雑な気持ちになったが、それでも可愛い我が子である。ヨザックもデレデレして、ドルーガを可愛がっている。
普段はドルーガを連れて家政夫の仕事に通っている。アイディーは結婚を機にロバートの家を出て、家族用の領軍官舎で暮らしている。
パタパタと階段を駆け下りてくる足音が聞こえ、ミケーネが台所に駆け込んできた。
「おっはよー!あーちゃん!ドルーガ!って、あれ?ドルーガは?」
「おはよう。坊っちゃん。ドルーガは今日はヨザックと朝寝坊してんだよ」
「えー。ドルーガにあげるぬいぐるみがやっと出来たのに」
「ありがとな。明日は俺と一緒に来るからよ。明日あげてくれるか?」
「うん」
ミケーネは魔術師になるべく高等学校に通っている。ミケーネがまだ小学生の頃に、アイディーが縫い物の基本を教えたのだが、ドルーガが生まれてからはドルーガに手作りのものをあげたいからと、街の手芸教室に通い、ぬいぐるみ作りを始めた。ミケーネは手先が器用なので、ドルーガはとても可愛らしいぬいぐるみを沢山持っている。ミケーネはドルーガを本当に可愛がってくれている。
朝食と弁当が出来上がる頃に、身支度をしていない寝間着姿のロバートが食堂へやって来た。
「おはよう。旦那様」
「おはよう。アイディー。ドルーガは?」
「今日はヨザックと朝寝坊」
「そうか。俺も寝たい」
「今日は仕事だろ」
「うん」
「弁当オムライスにしたから頑張れ」
「うん。ガーディナの分は?」
「作ってっから持っていってくれよ」
「分かった」
ロバートが小さく嬉しそうに笑った。今朝はガーディナは家にいない。所属している研究部の研究が佳境らしく、最近は研究所に泊まり込むことが多い。ロバートも同じ研究部らしいが、ロバートはどれだけ遅い時間になっても家に帰ってくる。ミケーネの顔を見て余裕があれば勉強をみてやり、ハルファと一緒に寝て、アイディーと朝の挨拶をしなければ気が済まないそうだ。
ハルファが作った朝食を美味しそうに食べるロバートは本当に幸せそうである。ヨザックとドルーガも、そろそろアイディーが作った朝食を食べている頃だろう。
アイディーは一緒に朝食を食べ、朝食の後片付けを手早くした後、仕事と学校に行く3人を玄関で見送った。
「いってらっしゃい」
「「「いってきます」」」
アイディーは何気なく空を見上げた。今日は雲1つない快晴である。洗濯物がよく乾きそうだ。
アイディーは気合いを入れて腕捲りをし、洗濯に取りかかるべく、家の中に入った。
爽やかな初夏の風がアイディーが着ているワンピースの裾をひらりと揺らした。
<完>
アイディーは深夜遅くにロバートの部屋にいた。ヨザックと恋人になろうが、ガーディナと暮らし始めようが、ハルファがロバートとミケーネに会いに来るようになろうが、夜の仕事はやっている。性欲旺盛なロバートに溜め込ませるとろくなことにならないし、契約内容は遵守しなければならない。ロバートには本当に恩を感じているので、キスはしないが、ロバートとのセックスはこっそり色々頑張っている。
ベッドの上に脚を広げて座っているアイディーの股間に顔を埋め、すーはーすーはーとアイディーの股間の匂いを嗅いでいる変態臭いオッサンの頭を撫でていると、ロバートがそのままの体勢で口を開いた。
「そろそろハルファと再婚しようかと思うんだ」
「それは俺の股間に顔突っ込みながら言うことじゃねぇな」
「細かいことは気にするな」
「細かくねぇよ」
「契約内容を変更することができると聞いた」
「あ?マジで?」
「あぁ。再婚を機に、給料はそのままで女装とセックスを止めるか?」
「単なる家政夫に毎月400も出していいのかよ」
「構わん。お前がいないと俺もハルファもミケーネも駄目だ」
「……セックスをしなくていいなら、しない方がいい。アンタとセックスをするの嫌いじゃねぇけど、俺ヨザックが好きだし。ヨザックともセックスしてるからよ。アンタにもヨザックにも申し訳ない気がして、なんつーか、心苦しい」
「俺のことは別に気にしなくていいが。恋人ならセックスくらいするだろう」
「まぁ、そうかもしんねぇけど。……ガーディナにいつバレるかってハラハラしなくてよくなるから、できればセックスはなしがいい」
「……ガーディナに知られたら、俺不能にされるかな……」
「多分な」
「……異様な執念で不能にする魔術を習得したからな。ガーディナ、ブラコン過ぎじゃないか?」
「可愛いだろ」
「マジか」
「おう」
「……じゃあ、セックスはなしで」
「とか言いつつ、ぐりぐりしてくんなよ」
「まだ契約内容を変更していない」
「そうだけど」
「女装も止めるだろ?」
「んあー……どうすっかな。女装にすっかり慣れてっしよぉ。女装なら服とか経費扱いになんだろ?少しでも出費したくねぇから女装は継続で」
「それでいいのか」
「おーう。ちっとの出費が積み重なれば、それなりの額になんだろ。俺の出費抑えて、ガーディナに使ってやりてぇ。学校行ってりゃ友達と遊ぶこともあるだろうしよ。少しでも小遣いとか渡してやりてぇじゃん」
「ガーディナの小遣いくらい俺がやる」
「そこまでしなくていい。小遣いとか、俺の自己満足みてぇなもんだしよぉ」
「そうか……じゃあ女装は継続で、セックスだけ契約内容から外すってことでいいな」
「おう。旦那様」
「ん?」
「わりぃな。アンタの好意に甘えちまってよ」
「……別に。セックスしなくても、側にいてくれたらそれでいい」
「そっか」
「その、まだ先の話なんだが……借金を返し終えてからも家政夫を続けてほしいんだ」
「…………」
「金の問題じゃないかもしれないが、給料はちゃんと払うし、ヨザックと結婚したら通いでも構わない。その、なんだ……本当の家族になれなくても、側にいて、家族のようでいてほしい……お前もガーディナも大事なんだ」
「アンタお人好し過ぎないか?」
「そうか?我ながら自分勝手なだけの気がするが。借金を返した後も給料は同じだけ払うぞ。俺はお前の子供も見てみたい」
「マジかよ」
「今の給料なら施設で子供を1人つくる金が1年くらいで貯まるだろ。4000ちょいだっただろ?確か」
「いや、貯まるけど……それでいいのかよ」
「あと少しで趣味でやってた研究が一段落する。一応新しい魔術陣で汎用性が高いものだから、多分利権とかの関係で収入が増える」
「アンタどんだけ稼いでんだよ」
「まぁ、それなりに」
なにやら照れているのか、ロバートがぐりぐりと鼻先でスカートの上からアイディーの股間を刺激してくる。アイディーはそんなロバートに呆れつつ、わしゃわしゃとロバートの頭を撫で回した。
「子連れで仕事していいのかよ」
「勿論。ハルファもミケーネも喜ぶだろうしな」
「旦那様」
「なんだ」
「アンタの老後の世話まできっちりやるわ」
「……うん」
アイディーの股間に顔を埋めているロバートの耳は真っ赤になっていた。
ーーーーーー
アイディーが家政夫を始めて、ちょうど10年目の秋。
アイディーはヨザックと共に花街に出かけ、軽い足取りでロバートの家に戻った。居間にはロバート、ハルファ、ミケーネ、ガーディナが揃っていた。
アイディーは笑顔でペラリと1枚の紙を皆に見せた。
「借金。完!済!」
皆に見せた紙は借金完済の証明書である。利子も含めて、アイディーが背負っていた借金は全て返し終えた。ロバート達が笑顔で拍手をしてくれて、ガーディナは涙ぐんでアイディーに抱きついた。
「兄ちゃん。お疲れ様でした」
「おーう」
アイディーはぎゅっと泣いているガーディナの身体を抱き締めた。長かったような、あっという間だったような10年だった。
出会った時は2歳だったミケーネは、来年には中学生になる。ガーディナは無事魔術師になり、今は魔術研究所で働いている。ロバートは相変わらずだ。ハルファは再婚した今でも小さな出版社で働いている。
ヨザックも変わらず軍人として働いており、アイディーの恋人のままだ。
ミケーネがソファーから立ち上がって、パタパタとアイディー達に近づき、むぎゅっとアイディーの背中に抱きついた。
「あーちゃん。家政夫辞めて出ていっちゃうの?」
「家政夫は辞めねぇよ。旦那様の老後の世話まできっちりやるわ」
「じゃあ、今まで通り?」
「あー……それなんだがよぉ……ガーディナ、坊っちゃん、ちょっと離れてくれ」
アイディーは2人から離れて、1人自室に戻り、用意していたあるものを持って、自分の背中にそれを隠すようにして居間に戻った。
アイディーは柄じゃないと自覚しているので、どうにも気恥ずかしい気持ちと緊張で顔が熱くて堪らないが、それでもどうしてもやりたくて、それをぐっとヨザックに突き出した。
「結婚してくれ」
それは真っ赤な薔薇の花束だ。ヨザックがぽかんと間抜けに口を開け、目を見開いた。沈黙が暫し続き、アイディーが背中に嫌な汗をかき始めた頃に、ヨザックがぶはっと吹き出した。
「嘘だろ!マジか!」
「おう」
「俺も用意してたのに!」
「早い者勝ちだな」
「この後で家に来てもらおうと思ってたんだぜ?」
「マジか」
「おう。アイディー」
「ん」
「俺と一緒に生きてくれるか?」
「おう。責任持って俺より長生きしてくれよ」
「ははっ!分かってる」
ヨザックが弾けるような笑顔で薔薇の花束ごとアイディーを抱き締めた。
「俺のハニーは本当にいい男だな」
「まぁな」
「顔真っ赤だぜ。ハニー」
「……うっせぇ。柄じゃねぇのは分かってんだよ」
アイディーが少し唇を尖らせると、ヨザックが声を上げて笑い、アイディーの唇に軽く触れるだけの優しいキスをした。
ーーーーーー
アイディーが合鍵を使ってロバートの家に入り、台所へ向かうと、ハルファが朝食を作っていた。
眠そうな顔で欠伸をしながらスープを作っているハルファに挨拶をして、昨日のうちに下拵えしておいた材料を使って弁当を作り始める。
「アイディー。今日はドルーガは一緒じゃないの?」
「おう。ヨザックが今日は休みだからよぉ。一緒に朝寝坊してんだよ」
「ははっ。朝寝坊いいねぇ。僕も今すぐベッドに戻りたいや」
「あー……昨日はお楽しみか?」
「うん」
「元気過ぎんだろ、オッサン」
「ねー。ロバートもう50近い筈なんだけど」
「夫婦仲がよくて何よりだな」
「まぁね」
アイディーとヨザックは結婚し、2年後に子供を1人つくった。ドルーガと名付けた男の子は目元がアイディーそっくりで、それ以外はヨザックに似ていた。割と凶悪な目付きの悪さを自覚しているアイディーは、ドルーガが気の毒で少し複雑な気持ちになったが、それでも可愛い我が子である。ヨザックもデレデレして、ドルーガを可愛がっている。
普段はドルーガを連れて家政夫の仕事に通っている。アイディーは結婚を機にロバートの家を出て、家族用の領軍官舎で暮らしている。
パタパタと階段を駆け下りてくる足音が聞こえ、ミケーネが台所に駆け込んできた。
「おっはよー!あーちゃん!ドルーガ!って、あれ?ドルーガは?」
「おはよう。坊っちゃん。ドルーガは今日はヨザックと朝寝坊してんだよ」
「えー。ドルーガにあげるぬいぐるみがやっと出来たのに」
「ありがとな。明日は俺と一緒に来るからよ。明日あげてくれるか?」
「うん」
ミケーネは魔術師になるべく高等学校に通っている。ミケーネがまだ小学生の頃に、アイディーが縫い物の基本を教えたのだが、ドルーガが生まれてからはドルーガに手作りのものをあげたいからと、街の手芸教室に通い、ぬいぐるみ作りを始めた。ミケーネは手先が器用なので、ドルーガはとても可愛らしいぬいぐるみを沢山持っている。ミケーネはドルーガを本当に可愛がってくれている。
朝食と弁当が出来上がる頃に、身支度をしていない寝間着姿のロバートが食堂へやって来た。
「おはよう。旦那様」
「おはよう。アイディー。ドルーガは?」
「今日はヨザックと朝寝坊」
「そうか。俺も寝たい」
「今日は仕事だろ」
「うん」
「弁当オムライスにしたから頑張れ」
「うん。ガーディナの分は?」
「作ってっから持っていってくれよ」
「分かった」
ロバートが小さく嬉しそうに笑った。今朝はガーディナは家にいない。所属している研究部の研究が佳境らしく、最近は研究所に泊まり込むことが多い。ロバートも同じ研究部らしいが、ロバートはどれだけ遅い時間になっても家に帰ってくる。ミケーネの顔を見て余裕があれば勉強をみてやり、ハルファと一緒に寝て、アイディーと朝の挨拶をしなければ気が済まないそうだ。
ハルファが作った朝食を美味しそうに食べるロバートは本当に幸せそうである。ヨザックとドルーガも、そろそろアイディーが作った朝食を食べている頃だろう。
アイディーは一緒に朝食を食べ、朝食の後片付けを手早くした後、仕事と学校に行く3人を玄関で見送った。
「いってらっしゃい」
「「「いってきます」」」
アイディーは何気なく空を見上げた。今日は雲1つない快晴である。洗濯物がよく乾きそうだ。
アイディーは気合いを入れて腕捲りをし、洗濯に取りかかるべく、家の中に入った。
爽やかな初夏の風がアイディーが着ているワンピースの裾をひらりと揺らした。
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はじめまして。
最後は誰と誰が結ばれるのかな?とそわそわしながら読ませていただきました!
結果、私が一番好きなみんなハッピーエンド✨で本当に良かったです😊
また子供たちの番外編など書いていただけたら嬉しいです!
感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!
はじめまして。
まーと申します。
お読み下さり、本当にありがとうございますーー!!
私の『楽しい!』と萌えっ!と性癖を、これでもかぁ!と詰め込んで、非常に楽しく執筆した作品になります。
私の『楽しい!』をお楽しみいただけたことが、何よりも嬉しいです!!
ちょっとした小話も書いてみたいですね!!
いつになるかは分かりませんが、トライしてみようと思います!
重ねてになりますが、お読み下さり、本当にありがとうございました!!
感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!
お気に召していただけて、本当に嬉しいですーー!!(泣)
全力で!心の奥底からありがとうございます!!
アルファポリスさんだとシリーズ管理がどうもできないようなので、分かりにくいかと思います。なんとも申し訳ないです(汗)
これからものんびりマイペースに楽しく執筆していこうと思います!!
お読みくださり、本当にありがとうございました!!
完結お疲れ様でした!!
皆が幸せでとても楽しかったです🥹
感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!
お読みくださり、ありがとうございましたっ!!
私の楽しいっ!と萌えっ!と性癖を、これでもかぁ!と詰め込んで、非常に楽しく執筆した作品になります。
お楽しみいただけたのでしたら、なによりも嬉しいです!!
重ねてになりますが、本当にありがとうございました!!