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10:不審者の相談

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最近、家の周りを彷徨く不審者をよく見かける。
小柄な若い男が、ロバートの家の庭の入り口辺りをうろうろして、家の中を覗こうとしたりしているところをアイディーが見かけるのは、もう6度目だ。そろそろ領軍に通報するべきか。
アイディーはミケーネを抱っこしたまま、窓のカーテンの隙間から去っていく不審者を見送り、ロバートが買い与えた端末を手に取った。端末は『お前が持っていないと俺が不便だ』と言って、ロバートがある日突然渡してきた。アイディーの今の端末には、ロバートと世話になっているサンガレア領軍務めをしている高等学校時代の先輩の2人の連絡先しか入っていない。不審者のことをロバートに報告してもクソの役にも立たないことは明白なので、アイディーは迷わず先輩に連絡をした。

翌日。アイディーがミケーネと居間でぬいぐるみおままごとをしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。アイディーは犬のぬいぐるみを持ったミケーネを抱っこして、玄関へと向かった。
玄関を開けると、格好いいサンガレア領軍の制服を着た伊達男風の男前が立っていた。先輩であるヨザックである。


「先輩、ちぃーっす」

「よーっす。ミー坊も元気そうだな」

「よーちゃん!」

「おう!よーちゃんこと未来のパパの登場だぜ!」

「意味わかんねぇ」

「ん?俺とアイディーが結婚したら、ミー坊は自動的に俺達の息子になるだろ?」

「ならねぇよ。坊っちゃんは雇い主のオッサンの子供だ」

「養子にすりゃいいじゃん。そんだけ懐いてるんだから。ミー坊もアイディーがママの方がいいよなー?」

「うん」

「いや、坊っちゃん。『うん』じゃねぇから」

「ほら。ミー坊だって、いいって言ってるぜ」

「言ってねぇよ」

「そろそろ俺と付き合えよ。いっそ結婚でもいいぜ?」

「趣味悪すぎじゃね?ゲテモノ食いかよ、先輩」

「趣味はいいと思うけど?」

「どこが?つーか、借金返すまで結婚とかマジで無理」

「ま、だろうな。通いでもいいなら、俺と結婚して2馬力で働いて、借金返せるんだけどな」

「先輩にメリットねぇじゃん」

「あるわ。めちゃくちゃあるわ。お前が俺のハニーになるじゃねぇか」

「言い方がきめぇ」

「で?どうよ?ハニー」

「普通に断るわ。つーか、通いじゃこの家の面倒みきれねぇし。あと、こんだけ馬鹿みてぇな給料もらえっとこ、他にねぇし」

「まぁな。まあ、気長に待ってっから」

「いや、待たなくていいし」

「はっはっは!で?」

「あ?」

「最近不審者がこの家の周りを彷徨いてるんだろ?」

「おう」

「詳しく話せよ」


ロバートの家の家政夫を始めて、最初にアイディーが不審者として通報された時に、たまたま駆けつけてきた軍人の1人がヨザックだった。ヨザックは2歳年上で、高等学校での付き合いは半年ちょいという短いものだったが、何故かアイディーを気に入って可愛がってくれた。ヨザックはつまらない冗談ばかりを言うのがたまに傷だが、高等学校時代は常に主席だったというすごい人で、アイディーは勉強を教えてもらったり、剣の稽古をつけてもらったりしていた。ものすごく頼れる先輩なのである。
ヨザックと再会した時に、アイディーの事情は全て話してある。ヨザックは『どんだけキツい思いをしても、歯を食いしばって前を向け。そしたら絶対に苦労したこと以上に、すげぇいいことが沢山ある』と言って、がしがしとアイディーの頭を撫でてくれた。兄貴がいたらこんな感じだろうかと、アイディーは少しだけ泣きたくなった。

アイディーはヨザックに目撃した不審者の特徴や今まで現れた時間帯を告げた。実を言えば、もう少しで不審者が現れるかもしれない時間帯である。いつもミケーネの昼寝の時間の少し前くらいに現れる。最初に見つけた時は大して気にもとめなかったが、同じ人物が2度、3度と現れたら、流石に不審に思う。この家には幼いミケーネがいる。そして金蔓のロバートも。マジで天使なミケーネは勿論、大事な金蔓のロバートに何かあってはいけない。
不審者は毎日来るわけではないが、たまにでも領軍の制服を着ているヨザックがこの家に出入りしていれば牽制にはなるだろう。
ヨザックも勤務中の休憩時間や休日に、できる範囲内でこの家に顔を出すと言ってくれた。本当にありがたいことである。アイディーは単なる一般人だ。剣も体術もそれなりに使えるので、そこら辺の男に容易く負ける気はしないが、ミケーネを守りながら誰かと戦える程、アイディーは場慣れしていない。過信こそが最大の敵である。頼れるものは頼るべきだ。だからアイディーはヨザックを頼った。より確実にミケーネを守る為に。あとついでにロバートも。

この日は不審者は現れなかった。ヨザックはミケーネと暫く遊んでから、また来ると言って帰っていった。『雇い主にも一応報告しとけよ』とヨザックに言われてしまったので、ロバートにも話さなくてはならない。ミケーネが寝た後に部屋に行くしかないだろう。夜にロバートの部屋に行くのは、実はかなり嫌だ。ロバートとのめちゃくちゃ痛かったセックスの記憶が今でも鮮明に残っていて、どうにも気後れしてしまう。ロバートは淡白な方らしいが、最初のセックスから、そろそろ1ヶ月半が経とうとしている。淡白でも、ぼちぼち溜まる頃ではないだろうか。ロバートが溜まっているのなら、相手をしなければならない。痛いのは嫌だ。睡眠時間が減るのも嫌だ。しかし、仕事だ。給料をもらっている以上、契約した職務内容はきっちりやらねばならない。
アイディーは念のためセックスの準備をしてから、今夜ロバートの部屋に行くと決めた。






ーーーーーー
アイディーはミケーネを寝かしつけた後、どんよりとした気持ちで、自室のベッドの上で自分でアナルを解していた。慣れないローションのぬるぬる感が不快だし、異物感が気持ち悪いし、じくじく痛い。アイディーは歯を食いしばって、兎に角アナルを拡げることだけを考えて指を動かした。
なんとか自分の指を3本入れられるようになると、アイディーは大きな溜め息を吐いて、指を引き抜き、先が細くなっているローションのボトルから、直接アナルの中へと冷たいローションを注ぎ込み、尻に力を入れてアナルの中からローションが垂れ流しにならないように気をつけながら服を着た。こんなこと全然平気だ。アイディーは運がいいのだ。ロバートはアイディーの身体を無駄に傷つけない。アイディーの心を折るような酷いことも言わない。花街の娼館で見せられたようなことをアイディーにしたりしない。だから大丈夫だ。
アイディーはのろのろと自室から出て、冷え込む廊下を歩いてロバートの部屋の前に立った。
ノックをしようとして、一瞬躊躇して、ぐっと、短く切っている爪が掌の肉に食い込む程強く拳を握ってから、アイディーは小さくロバートの部屋のドアをノックした。中から『入れ』とロバートの声が聞こえたので、アイディーは微かな震える吐息を吐いてから、静かにロバートの部屋のドアを開けた。
ロバートはベッドの上でだらしなく寝転がって本を読んでいた。ベッドの横にある小さなテーブルの上には、酒の瓶とグラスが置いてある。
ロバートが俯せの状態で本に視線を落としたまま、アイディーに声をかけた。


「なんだ。夜の相手はいらんぞ」

「最近、不審者が出るんだよ」


ロバートが本から顔を上げ、アイディーを見た。


「不審者?」

「おう。庭の入り口辺りを彷徨いて、家ん中覗こうとする若い男」

「いつからだ」

「ここ半月くれぇ。毎日じゃねぇよ。俺が見つけたのは今んとこ6回」

「そういうことは早く言え。領軍への通報は?」

「俺の先輩に相談済みだ。軍人の。ちょいちょい、ここに来てくれるってよ。牽制にはなんだろ。運が良ければ確保してもらえっだろうし」

「そんな面倒で悠長なことをしなくても、お前が捕まえた方が早いだろ。一応騎士科だったんだろう?」

「あ?坊っちゃん守りながらじゃ自信ねぇもん」

「なんだ。見た目のわりに弱いのか」

「はん。場数の問題だ。誰かを守りながら戦うなんてやったことねぇし。その点、先輩なら安心だもんよ。めちゃくちゃ強ぇし」

「ふーん」

「ま、そういうことだから。暫く、先輩がここに出入りすっから。坊っちゃんも先輩に懐いてっから、そっちの意味でも問題ねぇよ」

「……まぁ、いい。さっさと捕まえろよ」

「おう」


必要な話は終わった。夜の仕事はしなくていいらしい。さっさと自室に引き上げて寝るか。準備が無駄になったが、それはそれで全然構わない。アイディーは少しほっとしながら、自室に引き返そうとした。
背を向けたアイディーにロバートが声をかけた。


「……待て」

「あ?」

「準備はしてきたのか?」

「……してきてっけど」

「なら、来い」

「……いらねぇんじゃねぇの?」

「気が変わった」

「……あっそ」


アイディーはロバートに聞かれないように、静かに小さく吐息のような溜め息を吐いた。気なんぞ変わるな。アイディーは1度ぎゅっと強く目を閉じた。これは仕事だ。給料の為に必要なことだ。ガーディナを守る為だ。
アイディーは微かに震える指先をぐっと拳に握り込んで、ロバートの方へ振り返った。

アイディーがその場で服を脱ごうとするのを、ロバートが止めた。アイディーが今着ているのは足首までの丈のワンピースタイプの寝間着だ。淡いピンク色のふかふかした感じの布地で、胸元に犬の絵が刺繍されており、温かいし、手触りもいいし、ミケーネがとても気に入っている。下には黒いゆったりめの同じような布地でできたズボンを穿いている。
アイディーはロバートに言われて、ズボンだけ脱いで、ロバートのベッドに近づいた。
ベッドの上に起き上がり、胡座をかいて座るロバートの目の前に立つと、ロバートが無言でワンピースを手繰りよせ、裾から手を入れてきた。スカートの下のアイディーの太腿に手を這わせてくる。


「……固い」

「だろうな」


露骨に残念そうな顔をする変態ロバートが気持ちが悪い。太腿を撫で回されるのも気持ちが悪い。いっそ前回のように、さっさと突っ込んで終わりにしてほしいのに、ロバートはまるで愛撫でもするかのようにアイディーの太腿を撫で回し、アイディーの尻も撫でた。ロバートがアイディーのワンピースの中に頭を突っ込み、アイディーのペニスを薄い下着の上から舐めた。初めて感じるぞわっとした快感に、アイディーは思わず身体を震わせた。ワンピースの中に頭と手を突っ込んでいるロバートに、尻を撫で回されながら、ペニスを舐められる。自慰も滅多にしない若いアイディーの身体は、慣れない快感にすぐに熱を持った。勃起すると、布面積が小さな下着が窮屈で、割と不快である。変態ロバートにアイディーの大事なところを舐め回されているのも不快だ。快感は確かにある。でも不快感の方が大きい。アイディーはキツく眉間に皺を寄せ、口内の頬の肉を噛んだ。『嫌だ』とも『やめろ』とも言ってはいけない。これは仕事だ。


「おい」

「あ?」

「ベッドに上がれ」

「……おう」


アイディーはベッドに上がり、ワンピースタイプの寝間着を着たまま、ロバートに言われるがままに四つん這いになった。嫌な緊張で、じんわり背中に汗が滲む感覚がする。
ロバートが四つん這いになったワンピースを捲り上げ、露になったアイディーの尻を撫でてから、薄い下着を下にずらした。尻が直接外気に触れる。

尻に触れるロバートの手に鳥肌を立てながら、アイディーは目を閉じて、ただ早く終わることだけを祈った。
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