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6:まるでダメなオッサンの反省
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昼食を食べた後に、給料の振り込み手続き等をしに出かけていたロバートが帰宅すると、居間でデカいのと小さいのが重なって寝息を立てていた。仰向けに寝ているアイディーの身体の上で、ミケーネが横向きになって眠っている。寝苦しそうな体勢なのに、アイディーは穏やかな顔で眠っていた。静かな居間に、ふすーふすーと2人分の小さな寝息だけが聞こえる。
ロバートは2人を起こさないように、静かにソファーに座った。眠る2人をじっとソファーから観察する。犬と猫のぬいぐるみが2人の側に置いてあり、絵本も2冊近くにある。遊んで、絵本を読んでから、昼寝を始めたのだろう。
今日の朝食も昼食も、温かくて素朴で美味しかった。ミケーネは少しぐずったが、それでもアイディーが笑いながら少しずつミケーネに食べさせると、ミケーネはアイディーが用意していた料理の半分以上を食べた。ミケーネの食事にかかる時間は今までよりずっと短くなり、しかし、食べてくれる量は増えている。アイディーを雇って、まだほんの2、3日程しか経っていないのに、ミケーネはアイディーにかなり懐いており、『あーちゃん』『あーちゃん』と、ずっとアイディーにくっついている。悪人面の何か企んでいるんじゃないかというようなアイディーの笑顔を見ると、ミケーネも笑顔になることが多い。何故だ。どこからどう見ても、アイディーは厳つくて目付きも悪くて、子供に泣かれそうな見た目なのに。
ロバートはじっとアイディーの顔を見た。キツい三白眼を閉じていると、少しだけ悪人面がマシになる。それでも可愛くなんてないが。本当に微塵も可愛さなどないが。
そういえば、昨夜はアイディーとセックスをしたのだった。あれをセックスと言っていいのかは微妙なところだが。ロバートは昨夜のことを思い出して、今更ながらに罪悪感がじわじわと込み上げてきた。アイディーはまだ16歳だ。ペニスもアナルも、あまり使ったことがないようなキレイな色をしていた。アイディーのアナルはかなりキツい締めつけだったので、もしかしたら初めてだったのかもしれない。アイディーが気持ちいいかなんて、全然考えていなかった。ただ妄想しながら、腰を振って、精液を出しただけだ。アイディーのアナルを使ってオナニーをしたようなものである。どう考えても最低だ。ロバートが給料を払って雇っているので、アイディーにとっては単なる仕事なのだが、アイディーは本当にロバートとミケーネを助けてくれた。疲労や心労はまだ癒えきっていないが、少しだけマシになっている。何より、ミケーネが食事をとって、笑ってくれている。それなのに、思い返せば思い返す程、ロバートのアイディーに対する態度が酷かった気がして、昨夜のことも含めて罪悪感がどんどん胸の中で重くなっていく。
ロバートは小さく溜め息を吐いて、ソファーの上で膝を抱えてお山座りをした。ロバートはいつもこうだ。馬鹿なことをして、後からそれに気づいて、後悔する。150年以上生きているというのに、全く成長していない。自分が情けなくて、馬鹿すぎて、泣いてしまいそうだ。ロバートは何の役にも立たない。本当に愛している伴侶と助け合うことも、自分の子供を笑わせてやることもできなかった。
ロバートはじんわり涙が滲んできた目元を自分の膝に押しつけた。情けない。自分の価値なんて、そこら辺の石ころ以下だ。ロバートはソファーの上で小さくなり、静かに泣き始めた。
ーーーーーー
アイディーは小さく鼻を啜るような音で目が覚めた。眠れないと思っていたのに、いつの間にか寝てしまっていたようだ。身体の上にのっているミケーネの温かい体温と静かで規則的な寝息に、また意識が沈みそうになる。
アイディーがうっすら目を開けると、ずずっとまた鼻を啜るような音が聞こえた。音がしたソファーの方を、顔を少しだけ動かして見てみれば、ロバートがソファーの上でお山座りをしていた。靴を履いたまま。後でソファーを掃除しなければ。
どうやらロバートは泣いているらしい。オッサンでも泣くんだな、と、アイディーはぼんやり思った。ロバートはいい歳した大人なので、別に放置していても構わない気がするが、ミケーネが起きた時まで泣いていたら、ミケーネがつられて泣くかもしれない。面倒臭いが、泣いているロバートを今すぐなんとかしなければならない。心底面倒臭いが。
アイディーは静かにロバートに声をかけた。
「旦那様」
「…………何だ」
「何泣いてんだ」
「……泣いてない」
「泣いてんじゃねぇか」
「……ずずっ……泣いてない」
「いや、泣いてっし」
「……ないて、ない……」
「あー、うん。泣いてねぇな。うんうん。旦那様は泣いてねぇな」
「…………うん」
子供か。アイディーは呆れた。このオッサン、情けないにも程があるだろう。本当にどうしたものか、とアイディーは少しだけ眉間に皺を寄せた。チラッと壁の時計を見れば、もうそろそろミケーネを起こして、おやつを食べさせなければならない時間だ。情けないオッサンの相手を長々としている場合ではない。優先すべきは泣きべそをかいているオッサンよりも、マジで天使なミケーネだ。
アイディーは少しだけ考えて、口を開いた。
「旦那様ってよぉ、すげぇ魔術師だったんだろ」
「…………別に」
「娼館の奴が話してたぜ。100年以上魔術研究所で働いてたってよぉ」
「……そうだけど」
「もう仕事やんねぇの?」
「…………」
「魔術の研究やってたんだろ?好きだから100年以上やってたんじゃねぇの?」
「…………まぁ……」
「何で好きなことやらねぇの?アンタはやろうと思えばできるじゃねぇか」
「…………」
「何で辞めたか知らねぇけどよぉ。やりてぇならやったら?家ん中にずっといるより、よっぽどいいだろ。稼いで俺の給料増やしてくれや」
「……既に破格の給料だろっ!?」
「じゃあボーナスくれ」
「1週間も働いてないのにっ!?」
「働きに出るなら早めに言ってくれよ。弁当箱買ってこねぇと」
「……弁当?」
「おう。節約できっところは節約しねぇとよ。そんで節約した分は俺の給料に反映してくれ」
「がめついなっ!」
「人間、がめついくれぇが、いいんだよ」
「……ミケーネは……」
「俺がいるしよぉ、問題ねぇよ。あぁ。でも夜は遊んでやってくれよ」
「……遊ぶって、何をすればいいんだ……」
「一緒に積み木したり、絵本読んでやりゃ喜ぶ。あと歌。坊っちゃん、歌が好きだからよぉ」
「……俺にできるのか……」
「できっぞ」
「……本当に?」
「おう。練習すりゃいいだけだろ。付き合ってやっからよぉ」
「……うん」
話していると、漸くロバートが泣き止んだ気配がした。時計を見れば、おやつの時間である。今日のおやつは奮発して買ったバナナだ。バナナは中央の街よりもかなり南側の土地で栽培されているので、高価な果物である。アイディーが食べてみたかったので、ちゃっかり買った。バナナみたいな高級品を口にしたことなんてない。初めて食べるバナナはどんな味なのだろうか。アイディーは寝る前に考えていたこと等を丸っと忘れて、おやつのバナナにワクワク期待しながら、ミケーネを優しく起こした。
ーーーーーー
ロバートは風呂に入りながら、ぼんやり考え事をしていた。
自分は本当に仕事をしてもいいのだろうか。魔術の研究が好きだ。魔術は3年前までは空気のように身近にあるのが普通だった。ハルファと結婚したから辞めたが、そのハルファはもうロバートの側にはいない。ミケーネをアイディーが世話してくれるのなら、また働きに出てもいい気がする。というか、ミケーネが産まれるまでの約1年はハルファと2人きりで、まさに蜜月な状態で楽しかった。でも、ミケーネが産まれてからは、ロバートはダメな役立たずでしかなくなった。何もできない馬鹿で役立たずな自分のことをどんどん嫌いになり、息が詰まるようだった。ミケーネのことは本当に可愛いと思っている。でも、何もできない石ころ以下の価値しかない自分を自覚して、苦しかった。
アイディーが言っていたように、本当に仕事をしていいのだろうか。仕事をしたら、また前のように穏やかに息ができるようになるのだろうか。自分を最低の何の価値もないダメ人間だと詰らなくてよくなるのだろうか。
ロバートはじっくり考えて、2つのことを決めた。1つは再び魔術研究所で働くこと。もう1つはアイディーに謝ることだ。アイディーへロバートがやらかしたことは、どう考えても酷い。ぶっちゃけ、ロバートは女装をした美少年が好きだ。美少年が可愛らしい女装をして、もじもじしながら、『僕には似合わないよ……』とか言いながら頬を染めているところを見たい。女装をしている美少年のスカートの中に手を突っ込んで悪戯したりとか、そういう妄想をしてオナニーをするのが日課だったレベルでロバートは女装をした美少年が好きだ。誰にも言ったことがないロバートの性癖が、今回のことで思いっきりバレてしまった。アイディーはガラは悪いが真面目だ。契約書にある以上、今後も女装を続けるだろう。本人が好きでやっているのなら別に構わないが、確実にアイディーが望んでやっているわけがない。疲労と心労で朦朧とし過ぎて、求人表と雇用契約書にうっかり自分の願望を書いてしまったロバートのせいで、アイディーはしたくもない女装をして、多分初めてだったのにオナホのような扱いを受けた。あまりにも酷すぎる。
ロバートは自分がやらかしたことを深く反省した。アイディーに申し訳ない。アイディーは契約内容を遵守しようとするだろうから、女装はやめないだろうが、せめてセックスはしないようにしよう。ロバートはどちらかと言えば精力旺盛で絶倫な方だが、アイディーには淡白な体質だから頻繁には無理とでも言えばいい。完全にやらないのは多分無理だと思う。アイディーはとても真面目っぽいから。見た目は厳つい犯罪者だが、アイディーは本当に軍人を目指して頑張っていたのだろう。動きがキビキビとしていて、何をするでもテキパキとやることが早い。昨夜見たアイディーの裸は、ロバートとは比べ物にならないくらい鍛えられていた。何年も努力しないと、あそこまでムキムキにはならないだろう。まだ16歳だし。そう。アイディーはまだ16歳なのだ。ロバートよりも、ものすごくしっかりしているが、まだ16歳だ。多分、夢を諦めなければならなかった少年だ。じくじくと罪悪感で胸が痛む。せめて、せめてもう少しまともなセックスをすればよかった。あんなオナホみたいな扱いではなく、ちゃんと大事に優しく抱けばよかった。きっと痛かっただろう。……次は、ちゃんと優しく抱く。アイディーはロバートの好みからかけ離れているので、そもそも普通に勃起するかどうか不安だが、ものすごく頑張れば大丈夫だ。多分、大丈夫だ。大丈夫だと思いたい。
とりあえず、今夜はアイディーに一言謝ってから、ミケーネとの遊び方を習い、明日は朝一で魔術研究所に行こう。多分間違いなく、ロバートは雇ってもらえるだろう。
やることが明確になると、なんだかずっとぼんやりしていたような頭がクリアになっていく。
ロバートは浴槽から出て、まずはアイディーに謝る為に大急ぎで服を着始めた。
ロバートは2人を起こさないように、静かにソファーに座った。眠る2人をじっとソファーから観察する。犬と猫のぬいぐるみが2人の側に置いてあり、絵本も2冊近くにある。遊んで、絵本を読んでから、昼寝を始めたのだろう。
今日の朝食も昼食も、温かくて素朴で美味しかった。ミケーネは少しぐずったが、それでもアイディーが笑いながら少しずつミケーネに食べさせると、ミケーネはアイディーが用意していた料理の半分以上を食べた。ミケーネの食事にかかる時間は今までよりずっと短くなり、しかし、食べてくれる量は増えている。アイディーを雇って、まだほんの2、3日程しか経っていないのに、ミケーネはアイディーにかなり懐いており、『あーちゃん』『あーちゃん』と、ずっとアイディーにくっついている。悪人面の何か企んでいるんじゃないかというようなアイディーの笑顔を見ると、ミケーネも笑顔になることが多い。何故だ。どこからどう見ても、アイディーは厳つくて目付きも悪くて、子供に泣かれそうな見た目なのに。
ロバートはじっとアイディーの顔を見た。キツい三白眼を閉じていると、少しだけ悪人面がマシになる。それでも可愛くなんてないが。本当に微塵も可愛さなどないが。
そういえば、昨夜はアイディーとセックスをしたのだった。あれをセックスと言っていいのかは微妙なところだが。ロバートは昨夜のことを思い出して、今更ながらに罪悪感がじわじわと込み上げてきた。アイディーはまだ16歳だ。ペニスもアナルも、あまり使ったことがないようなキレイな色をしていた。アイディーのアナルはかなりキツい締めつけだったので、もしかしたら初めてだったのかもしれない。アイディーが気持ちいいかなんて、全然考えていなかった。ただ妄想しながら、腰を振って、精液を出しただけだ。アイディーのアナルを使ってオナニーをしたようなものである。どう考えても最低だ。ロバートが給料を払って雇っているので、アイディーにとっては単なる仕事なのだが、アイディーは本当にロバートとミケーネを助けてくれた。疲労や心労はまだ癒えきっていないが、少しだけマシになっている。何より、ミケーネが食事をとって、笑ってくれている。それなのに、思い返せば思い返す程、ロバートのアイディーに対する態度が酷かった気がして、昨夜のことも含めて罪悪感がどんどん胸の中で重くなっていく。
ロバートは小さく溜め息を吐いて、ソファーの上で膝を抱えてお山座りをした。ロバートはいつもこうだ。馬鹿なことをして、後からそれに気づいて、後悔する。150年以上生きているというのに、全く成長していない。自分が情けなくて、馬鹿すぎて、泣いてしまいそうだ。ロバートは何の役にも立たない。本当に愛している伴侶と助け合うことも、自分の子供を笑わせてやることもできなかった。
ロバートはじんわり涙が滲んできた目元を自分の膝に押しつけた。情けない。自分の価値なんて、そこら辺の石ころ以下だ。ロバートはソファーの上で小さくなり、静かに泣き始めた。
ーーーーーー
アイディーは小さく鼻を啜るような音で目が覚めた。眠れないと思っていたのに、いつの間にか寝てしまっていたようだ。身体の上にのっているミケーネの温かい体温と静かで規則的な寝息に、また意識が沈みそうになる。
アイディーがうっすら目を開けると、ずずっとまた鼻を啜るような音が聞こえた。音がしたソファーの方を、顔を少しだけ動かして見てみれば、ロバートがソファーの上でお山座りをしていた。靴を履いたまま。後でソファーを掃除しなければ。
どうやらロバートは泣いているらしい。オッサンでも泣くんだな、と、アイディーはぼんやり思った。ロバートはいい歳した大人なので、別に放置していても構わない気がするが、ミケーネが起きた時まで泣いていたら、ミケーネがつられて泣くかもしれない。面倒臭いが、泣いているロバートを今すぐなんとかしなければならない。心底面倒臭いが。
アイディーは静かにロバートに声をかけた。
「旦那様」
「…………何だ」
「何泣いてんだ」
「……泣いてない」
「泣いてんじゃねぇか」
「……ずずっ……泣いてない」
「いや、泣いてっし」
「……ないて、ない……」
「あー、うん。泣いてねぇな。うんうん。旦那様は泣いてねぇな」
「…………うん」
子供か。アイディーは呆れた。このオッサン、情けないにも程があるだろう。本当にどうしたものか、とアイディーは少しだけ眉間に皺を寄せた。チラッと壁の時計を見れば、もうそろそろミケーネを起こして、おやつを食べさせなければならない時間だ。情けないオッサンの相手を長々としている場合ではない。優先すべきは泣きべそをかいているオッサンよりも、マジで天使なミケーネだ。
アイディーは少しだけ考えて、口を開いた。
「旦那様ってよぉ、すげぇ魔術師だったんだろ」
「…………別に」
「娼館の奴が話してたぜ。100年以上魔術研究所で働いてたってよぉ」
「……そうだけど」
「もう仕事やんねぇの?」
「…………」
「魔術の研究やってたんだろ?好きだから100年以上やってたんじゃねぇの?」
「…………まぁ……」
「何で好きなことやらねぇの?アンタはやろうと思えばできるじゃねぇか」
「…………」
「何で辞めたか知らねぇけどよぉ。やりてぇならやったら?家ん中にずっといるより、よっぽどいいだろ。稼いで俺の給料増やしてくれや」
「……既に破格の給料だろっ!?」
「じゃあボーナスくれ」
「1週間も働いてないのにっ!?」
「働きに出るなら早めに言ってくれよ。弁当箱買ってこねぇと」
「……弁当?」
「おう。節約できっところは節約しねぇとよ。そんで節約した分は俺の給料に反映してくれ」
「がめついなっ!」
「人間、がめついくれぇが、いいんだよ」
「……ミケーネは……」
「俺がいるしよぉ、問題ねぇよ。あぁ。でも夜は遊んでやってくれよ」
「……遊ぶって、何をすればいいんだ……」
「一緒に積み木したり、絵本読んでやりゃ喜ぶ。あと歌。坊っちゃん、歌が好きだからよぉ」
「……俺にできるのか……」
「できっぞ」
「……本当に?」
「おう。練習すりゃいいだけだろ。付き合ってやっからよぉ」
「……うん」
話していると、漸くロバートが泣き止んだ気配がした。時計を見れば、おやつの時間である。今日のおやつは奮発して買ったバナナだ。バナナは中央の街よりもかなり南側の土地で栽培されているので、高価な果物である。アイディーが食べてみたかったので、ちゃっかり買った。バナナみたいな高級品を口にしたことなんてない。初めて食べるバナナはどんな味なのだろうか。アイディーは寝る前に考えていたこと等を丸っと忘れて、おやつのバナナにワクワク期待しながら、ミケーネを優しく起こした。
ーーーーーー
ロバートは風呂に入りながら、ぼんやり考え事をしていた。
自分は本当に仕事をしてもいいのだろうか。魔術の研究が好きだ。魔術は3年前までは空気のように身近にあるのが普通だった。ハルファと結婚したから辞めたが、そのハルファはもうロバートの側にはいない。ミケーネをアイディーが世話してくれるのなら、また働きに出てもいい気がする。というか、ミケーネが産まれるまでの約1年はハルファと2人きりで、まさに蜜月な状態で楽しかった。でも、ミケーネが産まれてからは、ロバートはダメな役立たずでしかなくなった。何もできない馬鹿で役立たずな自分のことをどんどん嫌いになり、息が詰まるようだった。ミケーネのことは本当に可愛いと思っている。でも、何もできない石ころ以下の価値しかない自分を自覚して、苦しかった。
アイディーが言っていたように、本当に仕事をしていいのだろうか。仕事をしたら、また前のように穏やかに息ができるようになるのだろうか。自分を最低の何の価値もないダメ人間だと詰らなくてよくなるのだろうか。
ロバートはじっくり考えて、2つのことを決めた。1つは再び魔術研究所で働くこと。もう1つはアイディーに謝ることだ。アイディーへロバートがやらかしたことは、どう考えても酷い。ぶっちゃけ、ロバートは女装をした美少年が好きだ。美少年が可愛らしい女装をして、もじもじしながら、『僕には似合わないよ……』とか言いながら頬を染めているところを見たい。女装をしている美少年のスカートの中に手を突っ込んで悪戯したりとか、そういう妄想をしてオナニーをするのが日課だったレベルでロバートは女装をした美少年が好きだ。誰にも言ったことがないロバートの性癖が、今回のことで思いっきりバレてしまった。アイディーはガラは悪いが真面目だ。契約書にある以上、今後も女装を続けるだろう。本人が好きでやっているのなら別に構わないが、確実にアイディーが望んでやっているわけがない。疲労と心労で朦朧とし過ぎて、求人表と雇用契約書にうっかり自分の願望を書いてしまったロバートのせいで、アイディーはしたくもない女装をして、多分初めてだったのにオナホのような扱いを受けた。あまりにも酷すぎる。
ロバートは自分がやらかしたことを深く反省した。アイディーに申し訳ない。アイディーは契約内容を遵守しようとするだろうから、女装はやめないだろうが、せめてセックスはしないようにしよう。ロバートはどちらかと言えば精力旺盛で絶倫な方だが、アイディーには淡白な体質だから頻繁には無理とでも言えばいい。完全にやらないのは多分無理だと思う。アイディーはとても真面目っぽいから。見た目は厳つい犯罪者だが、アイディーは本当に軍人を目指して頑張っていたのだろう。動きがキビキビとしていて、何をするでもテキパキとやることが早い。昨夜見たアイディーの裸は、ロバートとは比べ物にならないくらい鍛えられていた。何年も努力しないと、あそこまでムキムキにはならないだろう。まだ16歳だし。そう。アイディーはまだ16歳なのだ。ロバートよりも、ものすごくしっかりしているが、まだ16歳だ。多分、夢を諦めなければならなかった少年だ。じくじくと罪悪感で胸が痛む。せめて、せめてもう少しまともなセックスをすればよかった。あんなオナホみたいな扱いではなく、ちゃんと大事に優しく抱けばよかった。きっと痛かっただろう。……次は、ちゃんと優しく抱く。アイディーはロバートの好みからかけ離れているので、そもそも普通に勃起するかどうか不安だが、ものすごく頑張れば大丈夫だ。多分、大丈夫だ。大丈夫だと思いたい。
とりあえず、今夜はアイディーに一言謝ってから、ミケーネとの遊び方を習い、明日は朝一で魔術研究所に行こう。多分間違いなく、ロバートは雇ってもらえるだろう。
やることが明確になると、なんだかずっとぼんやりしていたような頭がクリアになっていく。
ロバートは浴槽から出て、まずはアイディーに謝る為に大急ぎで服を着始めた。
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