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86:まさかの赤ちゃんラッシュ

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年始を風の宗主国の城で過ごしたフェリは孫や曾孫達に見送られて、城から飛び立った。今年も年末間近にサンガレアにジャンを置いてきたので1人である。まずはサンガレアに行って、ジャンと合流しなければならない。
フェリが殆んど全速力に近い速度で風竜を飛ばしていると、風竜経由でマルクから連絡があった。『すぐにきて』と。何かあったのだろうか。マルクの現在地は土の宗主国を通り越した火の宗主国近くの海のど真ん中である。到着予定を風竜経由でマルクに知らせると、フェリは完全に全速力でマルクがいる地点を目指した。
休憩なしで全速力で飛ぶと、3日でなんとかマルクがいる場所に着いた。マルクは知らせがあった時の位置から1番近い海辺の砂浜にぽつんと1人お山座りをしていた。大陸の南の方なので北にある風の宗主国程寒さが厳しいわけではないが、それでも真冬の真っ只中だ。しかも海辺である。フェリは慌てて風竜から降りて、膝をかかえて小さくなっているマルクに駆け寄り、抱き締めた。マルクの身体は別に震えたりなどはしていないが、ひんやりと冷たくなっている。


「マルク。どうした」

「兄さん……」


マルクが震える声でフェリを呼んで、ぎゅっと強く抱きついてきた。


「……できた」

「ん?」

「子供ができたぁぁぁぁ!」

「はぁ!?マッジかっ!」

「嬉しいぃぃぃぃ!!」


マルクはぶわっと涙を溜めたかと思ったら、勢いよく垂れ流し始めた。ついでに鼻水もすごい勢いで垂れていく。水の神子だからか、マルクは泣くと汁っ気が多過ぎてすごいことになる。泣きながらしがみついてくるマルクをフェリは更にぎゅうぎゅうに抱き締めた。


「やったじゃないか!マルク!」

「うんっ。うんっ」

「どっちだ?」

「多分ナーガ」

「ははっ!そうか!皆喜ぶぞ!今すぐマーサんとこに連れていこう」

「うんっ!」


フェリは泣き止まない折角の美形が大量の汁で台無しになっているマルクを風竜の後ろに乗せ、再び全速力で今度はサンガレアを目指して風竜を飛ばした。

妊娠したマルクを連れていくと、皆大喜びした。なんとマルクの義理の娘になるアーダルベルトの妻であるドリーシャも2人目を妊娠していることが発覚して、実家であるマーサの元に来ていた。子供と孫が1度にできた!とアルジャーノは大喜びだ。喜ばしいことはそれだけではない。マーサの長女・ミーシャの娘のミリアも初めての妊娠をしていた。土の宗主国の王都で薬師をしている彼女は仕事を辞め、同じ職場で働いていた旦那を連れてサンガレアに移住することになっていた。サンガレアの方が育児休暇や保育所等が充実しており、子育てをしやすいかららしい。現在妊娠中のマーサはなんと今度は3つ子らしい。ということで、マーサの家には現在妊婦が4人いて、産まれてくる予定の赤ちゃんは6人である。これは賑やかになると、皆して嬉しそうに笑っていた。

その3か月後。
フェリは今度は火の宗主国のリーに呼び出された。『今すぐ迎えにきて!』と。水の宗主国辺りを飛んでいたので、一緒に飛んでいたジャンを置いて、フェリ1人で風竜をかっ飛ばしてリーの元に行くと、笑顔のリーがフェリに勢いよく抱きついた。


「兄さん!」

「どうした、リー」

「子供ができたっ!俺妊娠しちゃった!しかも多分双子!」

「マッジか!やったじゃないか!リー!」

「うん!頑張ってジン誘いまくって子作りした甲斐があるわー」

「おー。じゃあ、マーサんとこ連れてくな」

「お願いしやっす!」


なんとビックリなことにリーまで妊娠した。リーを風竜に乗せ、マーサの元に連れていくと、更に驚くことが起きていた。
トリッシュが妊娠していたのだ。トリッシュだけではなく、なんとアマーリエまで子供ができていた。更に更にトリッシュと同い年のフェーシャとマーサの次女・エーシャまで妊娠が発覚した。しかもエーシャも双子だ。マジか。
この時点で妊婦が9人で、産まれてくる予定の赤ちゃんが13人である。流石に人数多くて大変だけど、皆で頑張りましょー、とマーサ達家族は笑っていた。

それから更に時が過ぎ、秋の豊穣祭前にサンガレアに戻ると、なんとまた妊婦が増えていた。王妃になったばかりのマーサの娘・ナターシャ、子供が4人目になるマリアンナ、それからヒューゴの長男エドモントの妻デイジー、春に結婚したばかりのマーサの娘・サーシャ、合わせて妊婦が13人、産まれてくる赤ちゃんが17人である。マーサは顔をひきつらせていた。現在、マーサの家、通称母屋の近くに建つ離れを改築して子育て専用施設にする工事の真っ最中である。クラウディオも暇をつくっては工事に参加している。

フェリがサンガレアで一緒に飛び回っているジャンと一時の休息を楽しんでいたサンガレア滞在4日目の朝。
クラウディオと寝ていたフェリは眷属の風竜の言葉に度肝を抜かれた。なんとフェリまで妊娠した。クラウディオとジャンや子供達は大喜びだし、フェリも子供ができて嬉しいが、マーサが少し前に無事3つ子を出産したので、現在フェリも含めて妊婦が13人、合計の赤ちゃんの数は18人だ。マジか……。
マーサの家に知らせに行くと、全員驚いた後大喜びして、その後冷静になって頭を抱えた。既に臨月の子もいる。いくらなんでも産まれてくる赤ちゃんの人数が多過ぎてキツくないか?マーサは据わった目で宣言した。『こうなりゃ自棄よ!子供がほしい男夫婦も子供つくりな!おっぱい要員は何人もいるわよ!皆まとめて面倒みたらぁ!』と。
そんな訳で、マーサの息子マーシャル・ジル夫婦、同じくマーサの息子トゥーリャ・シャーリー夫婦、マルクの息子アーベル・リカルド夫婦、フェリの息子フリオ・エドガー夫婦が子供をつくることになった。ちなみに男夫婦達は既に1人息子がいるマーシャル・ジル夫婦以外は、子供が2人ほしいとのことで、結果、産まれてくる赤ちゃんは合計25人である。
女の子達が更に2人目、3人目……となる可能性も当然あるので、僅か数年以内に産まれてくる赤ちゃんの数はもっと増えるかもしれない。
この事をもはや非常事態と判断したサンガレア領公的機関の重役達は、サンガレアで働いている新たに子供ができた神子の血縁並びにその伴侶に、本来ならば3年の育児休暇を、小学生になるまでのまるっと6年にまで延ばして与えた。軍人組は領軍副団長に全員呼び出され、『馬車馬の如く、ひたすら嫁と子供の世話をしろ』と言われたらしい。クラウディオがそう言っていた。医療機関から全面バックアップを受けることになり、必要な機材等の提供は勿論、マーサやマルクの身内の医者と薬師に全員助産師の資格を急遽取得させ、マーサの家に常駐させることになった。その実地研修等も医療機関の全面協力の体制で行われた。アーベルも専門外の知識と技術を突貫で身につけることになった為、悲鳴をあげながら寝る間を惜しんで猛勉強して、ひたすら実地研修をこなしていた。他の医者や薬師の子達も同様である。マーサの母屋も少々手を加えて、同時に3人までなら出産できるよう準備を整えた。それ以上の数の妊婦が同時に産気付いたら、その時は臨機応変に対応するしかない。フェリ達神子を含めた、妊娠中の女の子達の伴侶らや家族達は皆目まぐるしく動き回って、女性陣の出産に備えた。

新年を迎える前にマルクが無事女の子を出産した。それから妊娠第1陣の女の子達も次々と無事に出産、元気な赤ちゃんが何人も産まれた。マーサの家の中は毎日てんやわんやである。毎日元気な赤ちゃんの泣き声が響き渡り、かなり賑やかなことになっている。

慌ただしく毎日が過ぎていき、リーも無事出産した。身内全員協力体制で赤ちゃん達の世話をしている。トリッシュもなんとか無事に男の子を産んだ。産まれたばかりの孫の世話で、フェリはつわりでぐったり……なんて言っている余裕がなくなった。それからどんどん妊娠していたフェリの身内も無事出産を終えていった。産まれてきた赤ちゃん達の世話で毎日バタバタしていると、ある日の朝、最後に妊娠したフェリの陣痛が始まった。
産み終えてスッキリしたお腹の神子3人に助けられ、なんとかその日の夜更けに無事に男の子を出産した。顔も髪色もジャンにそっくりな子だ。産み終えてぐったりしながら、フェリは産まれたばかりの赤ちゃんを大事に抱っこした。何はともあれ、健康で元気に産まれてくれた。それだけが何よりも嬉しい。嬉し泣きしているクラウディオ達の相手をしつつ、フェリは幸せな気持ちで微笑んだ。






ーーーーーー
男夫婦達の赤ちゃんも1人目が全員無事に産まれ、なんとか気分的に少し落ち着いた。息子と孫と曾孫と夜叉孫がほぼ同時にできたフェリ達は毎日を兎に角慌ただしく過ごしていた。もはや誰が誰の子供とか関係なく、本当に大人全員で協力しあって、大勢いる赤ちゃんの世話をしている。

あっという間に日々が過ぎ、そろそろフェリの出産後2ヶ月が近くなっているある日の午後。2ヶ月を過ぎたら、また神子の務めに戻らなくてはいけない。ジェラルドと名付けた息子は毎日元気に泣いている。トリッシュはあまり夜泣きをしなかったし、寝ぐずりも少ない方だったが、ジェラルドは本当に1日中泣いてるんじゃないか?っていうくらい、よく泣く子だ。クラウディオが抱っこすると何故か少し大人しくなるのだが、フェリやジャンだと本当にギャン泣きする。何故だ。必然的にジェラルドの世話はクラウディオが殆んどすることになった。他の大人だと何故か嫌がって泣くのだ。ジェラルドにひたすらギャン泣きされるジャンの方が涙目になっていた。
ジェラルドは粉ミルク主体で時折マーサや女の子達のおっぱいを飲ませてもらう形で育てている。しかし、おっぱいは素直に吸うのだが、粉ミルクを飲ませる時はクラウディオじゃないと嫌がって中々飲んでくれない。フェリも涙目になった。
トリッシュの時と同様、フェリはクラウディオとジャンと1日置きに交代で寝ている。クラウディオはジェラルド専属で、ジャンは孫達の世話を昼も夜も関係なくしているので、フェリとベッドに入ると即座に寝落ちる。2人とも体力には自信があるが、子育ては兎に角気を使うし、常時気を張っていなきゃいけないので、特に精神的に疲れる。クラウディオは普段の伊達男っぷりを完全に捨てている。
トリッシュの時はもはや意地だけでこだわりのある髭だけは整えていたが、今回は髭を整える余裕もないらしく、面倒だからと全部剃ってしまった。トレードマークのようだった顎髭がないクラウディオは少し若く見える。なんだか新鮮で、フェリはちょっとときめいてしまった。

泣いていたジェラルドがやっと寝てくれた。泣き疲れて寝落ちしたともいう。ジャンは少しだけ飛んでくると言って、育児施設と化した離れからフラフラと出ていった。クラウディオは今はトイレに行っている。
フェリは赤ちゃんベッドに寝かせたジェラルドを見ながら、ふぅと小さく溜め息を吐いた。なんかムラムラする。神子は出産したら消耗はするが即座に元通りの身体に戻るので、すぐにセックスをすることができる。しかしクラウディオもジャンも毎日お疲れで、セックスなんてしている余裕はない。マーサも大勢いる赤ちゃん達におっぱいを1日中あげ続けているので無理だ。何故かムラムラして熱くなる身体に、どうしたもんかな、とフェリは眉間に皺を寄せた。トリッシュの時はこんなことなかった。火照る身体を冷やそうと、冷たい水を飲んでみたが効果はない。悶々としているとクラウディオが戻ってきた。ぐっすり寝ているジェラルドを見て、ほっと息を吐いた。


「ジェラルドは本当によく泣くな」

「なー。トリッシュはこんなに泣かなかったよな」

「あと何年かは大変そうだ」

「俺もずっといられたらいいんだけど」

「仕方ないさ。ロヴィーノも始めたばかりの仕事を休んで協力してくれているし、まぁなんとかなる」

「そうだな」


クラウディオがフェリの肩を抱いて、優しく触れるだけのキスをした。あー、ヤバい。本当にムラムラする。ていうかもう濡れている。フェリはいよいよもって我慢できなくなってきた。今すぐクラウディオが欲しい。ジェラルドは寝たばかり。多分1時間くらいは寝てくれる。仮に起きても離れにはロヴィーノ達もいる。フェリは少しだけ浮き上がって、クラウディオの耳元で小さく囁いた。


「俺の家いかないか?」

「フェリ?」

「今すぐほしい」


クラウディオが驚いたように目をパチパチさせた。が、すぐに頷いて、母屋にある土竜の森の中にあるフェリの家と繋がっている短距離用の転移陣を使って、フェリの家へと移動した。
家に入るなり、フェリは浮き上がってクラウディオの首に腕を絡めて夢中で貪るようにキスをした。
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