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82:年の瀬のある日のこと
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年末も間近な寒い冬の日の朝。
フェリとジャンは2人でサンガレアの家に帰って来た。フェリは1人でこれから風の宗主国へと向かう。風竜が本気で飛んだら、遠く離れた風の宗主国まで4日もかからない。フェリ1人で風の宗主国の城の年明けの行事に参加する。ロヴィーノが即位してから、フェリはトリッシュを妊娠していた時以外は必ず参加していた。風の神子であるフェリがロヴィーノの後ろについていれば、それだけロヴィーノの王としての権威が上がる。特に即位したばかりの頃は、正直面倒に感じる城の行事に頻繁に参加していた。ジャンはサンガレアでお留守番である。ジャンだけ転移陣を使って移動してもいいが、モルガと何日も離れた生活などジャンには無理なので、素直に家で留守番しとくと言っていた。安定の飛竜馬鹿である。
家に帰ると、ベイヤードが竜舎にいた。どうやらトリッシュも帰ってきてるらしい。フェリ達が家に入ったら、トリッシュは居間の掃除をしていた。
「あ、おかえり。母上、父様」
「ただいまー」
「ただいま、トリッシュ。帰ってたんだな」
「うん。昨日の夕方にね。父上が今はちょー忙しい時期だからさー。やっぱ家のことやる余裕ないっぽいわ。結構荒れてたのよ」
「あー。この時期はなぁ」
「母上と父様も暫くいるの?」
「俺はすぐに出るよ。じゃないと年明けに間に合わない」
「俺は家で留守番だよ」
「そ。じゃあ今年の年越しは父様と2人ね。マーサ様から一緒に年越ししないかって誘われてるの。どうする?」
「お邪魔しようか。どうせクラウディオは帰ってこないし」
「そうね」
「じゃあ、俺はもう行くな」
「あら。お茶でも飲んだら?母上」
「折角だけどさ。眷属から連絡があって再来年の春にロヴィーノが退位するって正式に決定したんだよ。それで退位に伴う式典とかフェルナンドの即位式の打ち合わせとかもしたいんだって」
「あら。少し早まったのね。ていうか、再来年なのにもうそんな打ち合わせするの?」
「退位と即位はそれだけ準備に時間もかかるんだよ。王が亡くなって急に即位って場合とかじゃない限りね」
「ふーん」
「じゃあな、ジャン。トリッシュ。寒いから身体に気をつけるんだぞ」
「はーい」
「いってらっしゃい。フェリ」
フェリはトリッシュの頬にキスをして、ジャンの唇に軽いキスをしてから家を出た。そのまま風竜に飛び乗り、勢いよく上昇して、真っ直ぐ風の宗主国を目指して飛び出した。
ーーーーーー
ジャンは飛んでいくフェリの姿を玄関先から見送った。フェリがいないのは寂しいが、仕方がない。トリッシュがいるから、1人で寂しい年越しなんてことにならなくてよかった。
ジャンは家に入ると、旅の荷物を自室に置いて、風呂に入って旅の汚れを落とした。着替えた後で、掃除をするトリッシュを手伝う。多分シーツ等を洗うどころか交換する余裕もないクラウディオの部屋に行き、シーツを洗濯済みのものに取り替えてやって、部屋に脱ぎっぱなしのしわくちゃのシャツを拾い上げた。クラウディオは基本的に生活能力が高く、普段は脱いだシャツをそこらへんに放置するようなことはしないのだが、年末年始を挟んだ約2ヶ月の間は本当に仕事が忙しいらしく、家には寝に帰るだけ、なんなら家にすら帰ってこない日も多い。洗濯部屋を見れば、クラウディオの洗濯物で籠が山のようになっている。ジャンも洗濯する衣服を荷物から取り出してきて、早速洗濯を始めた。台所の掃除をしているトリッシュに声をかける。
「トリッシュ。今洗濯してるけど」
「あ、私のもついでにおねがーい。持ってくるわ」
「うん」
「聞いてよ、父様。父上ったらまた今年も酒瓶の山つくってるのよ」
「あー。忙しすぎて酒だけ飲んで寝てるんじゃないか?」
「ちゃんとご飯食べなきゃ身体に悪いのに」
「まぁな。俺がいた頃はクラウディオの分の晩飯も作っていたし、たまに詰所に差し入れ持っていってたけど。今は基本1人だからなぁ」
「魔導冷蔵庫の中身も寂しいし、洗濯終わったら買い物に行きましょうよ。父上に差し入れ持っていかないと、父上倒れちゃうわ」
「そうだな。それがいい。すぐに終わらせるよ」
「私もさっさと掃除を終わらせるわ。あ、ついでにお昼は街で食べましょうよ」
「いいね。そうしよう」
トリッシュが部屋から持ってきた中々の量の洗濯物もまとめて魔導洗濯機で洗って、庭に全て干し終える頃には昼前になっていた。今日は冷えるが天気がいいし、空気も乾燥しているので夕方までには全て乾くだろう。
トリッシュも掃除が一応終わったようで、2人で予備の馬にタンデムし、街へと向かった。昼食を食べた後、持ち帰り専門店をいくつか回ってクラウディオへの差し入れを買ってから領軍詰所へと向かった。詰所の顔見知りと挨拶しながらクラウディオの執務室を目指して歩いていると、バタバタと後ろから誰か走ってきた。足音に振り向くと、アルフだ。
「あら。アルフ。お疲れ様」
「あ、トリッシュ様とジャン様。お久しぶりです」
「久しぶり。忙しそうだな」
「そうなんです。唯でさえ忙しいこの時期に殺人事件が起きちゃって。さっき通報があったばかりなんです。クラウディオ分隊長に報告したら、すぐに行かなきゃいけないので。すいません。失礼します」
「気をつけてね」
「頑張れよ」
「はいっ!ありがとうございますっ!」
バタバタとまた走ってアルフの背中はあっという間に見えなくなった。
「……差し入れに行くの邪魔かしら?」
「まぁ、どれも多少日保ちがするし、さっと渡して帰ればいいんじゃないか?殺人事件まで起きたのなら、それこそ飯を買いにいく時間もなくなるだろうし」
「そうね。いきましょうか」
「うん」
ジャンはトリッシュと2人でのんびり詰所の廊下の端を歩いてクラウディオの執務室に行き、慌ただしく部下達に指示を出しているクラウディオの側にいた顔見知りの副官バージルを手招きした。こっそりクラウディオに渡してくれ、とバージルに差し入れを預けた。クラウディオは本当に忙しそうなので、ジャンとトリッシュは声をかけずに執務室から出た。領軍詰所を出た後、買い出しをしてから家へと戻る。
「この時期の軍人さんは大変ねー。アルフも走り回ってたし」
「そうだなぁ」
「アルフも殺人事件とかない時は街の警備に出るんですって。前に言ってたわ」
「アルフは鑑識課だろ?」
「そうだけど。本当に軍人総動員らしいわよ」
「まぁ、この時期のサンガレアは1年で1番領地の内外から人が集まるからなぁ。領主家主催の年越しイベントも毎年やってるし」
「マーサ様も必ず出るしね。やっぱ土の神子様を生で拝みたいっ!って人が多いのかしら?」
「そりゃそうだよ。トリッシュは産まれた頃からマーサ様といるし、そもそも神子の娘だから実感が湧かないだろうけど。本来は神子様って本当に特別な、一般人からしたら雲の上の上のそのまた上くらいの存在なんだよ。王族よりもずっと上」
「ふーん。そのわりにサンガレアの人達ってマーサ様と親しいわよね」
「マーサ様がとっても気さくな方で堅苦しいのがお嫌いだからだよ。街や色んな場所に行くの好きだし。まぁ、街の人からすれば、尊いけど身近な存在ではあるかな」
「そんなもんなの?」
「そうそう」
「ふーん」
「そういえば。フリンちゃんには会いに行くのかい?」
「うーん。昨日の夜連絡したらね、今修羅場ってるらしいのよ。色々あって薬の製造が遅れてて、フリンちゃん達も駆り出されてるんですって。年明け5日目に領館に顔出すらしいから、その時に会うわ」
「フリンちゃんも忙しいのか。大変だな、皆」
「そーよねー」
暢気に話していると家に着いた。馬を馬小屋に入れて世話をしてやってから、家の中に入る。先に入っていたトリッシュが生鮮食品を全て魔導冷蔵庫に入れていてくれた。
「父様。今晩は何にする?」
「適当に鍋でいいんじゃないか?2人だし」
「それもそうね」
2人でピリ辛鍋を作って、酒を片手に食べた。トリッシュもジャンに似たのか、酒が好きでおまけにかなり強い。2人で鍋をつつきながら、何本も酒瓶を空にした。
夕食の後片付けをして、交代で風呂に入った後に2人でチェスをしながら酒を飲んでいると、疲れてげっそりした顔のクラウディオが帰って来た。
「「おかえり」」
「……ただいま」
「ご飯食べる?すぐに用意するわ」
「いや、着替えを取りに来ただけだからすぐに戻るよ。殺人事件が起きた上に他領の貴族が面倒な問題起こしてな。暫く帰れんと思う」
「分かったわ。気をつけてね」
「明日も差し入れ持っていこうか?」
「あー……頼んでいいか?食堂に行く暇も買いに行かせる余裕もないんだ。あ、今日の差し入れありがとな。助かった」
「いいよ。明日はもっと多めに用意しておくよ。いつでも摘まめるようなやつ」
「助かるわ。じゃあ着替えとったら行ってくる」
「うん」
疲れた身体を引きずるようにして、クラウディオは本当に着替えだけ自室から取って来ると、再び馬に乗って、中々のスピードで街に向けて駆けていった。思わず玄関先でトリッシュと顔を見合わせる。
「なんだか私達以外、皆忙しそうね」
「そうだな。アーベル夫婦もこの時期は忙しいだろうし」
「エドガー君もこの時期は自慢の筋肉が萎れるくらい忙しいって前に言ってたわ」
「風の宗主国の面々も忙しいだろうし。俺達だけ暇ってのも、なんか微妙だな」
「そうねー」
「ま、仕方がない。年越しの日まではクラウディオに毎日差し入れして過ごそう」
「そうね。あ、渡せる余裕があれば、アルフにも差し入れしていい?」
「勿論」
トリッシュとアルフは恋仲ではないが、仲はいいようである。このまま恋仲に発展してくれたらいいのだが。
暇だと言っていたが、翌日に顔を出したマーサ様の家でリチャード殿に捕まり、ジャンとトリッシュは公的機関の急ぎの書類を届けるためにひたすら年越し当日までサンガレア中を飛び回ることになった。
慌ただしく年を越して、新年を迎えた。今年こそはトリッシュに恋人ができるといい。愛と豊穣を司る土の神を祀る聖地神殿で、ジャンは必死に祈りを捧げた。
フェリとジャンは2人でサンガレアの家に帰って来た。フェリは1人でこれから風の宗主国へと向かう。風竜が本気で飛んだら、遠く離れた風の宗主国まで4日もかからない。フェリ1人で風の宗主国の城の年明けの行事に参加する。ロヴィーノが即位してから、フェリはトリッシュを妊娠していた時以外は必ず参加していた。風の神子であるフェリがロヴィーノの後ろについていれば、それだけロヴィーノの王としての権威が上がる。特に即位したばかりの頃は、正直面倒に感じる城の行事に頻繁に参加していた。ジャンはサンガレアでお留守番である。ジャンだけ転移陣を使って移動してもいいが、モルガと何日も離れた生活などジャンには無理なので、素直に家で留守番しとくと言っていた。安定の飛竜馬鹿である。
家に帰ると、ベイヤードが竜舎にいた。どうやらトリッシュも帰ってきてるらしい。フェリ達が家に入ったら、トリッシュは居間の掃除をしていた。
「あ、おかえり。母上、父様」
「ただいまー」
「ただいま、トリッシュ。帰ってたんだな」
「うん。昨日の夕方にね。父上が今はちょー忙しい時期だからさー。やっぱ家のことやる余裕ないっぽいわ。結構荒れてたのよ」
「あー。この時期はなぁ」
「母上と父様も暫くいるの?」
「俺はすぐに出るよ。じゃないと年明けに間に合わない」
「俺は家で留守番だよ」
「そ。じゃあ今年の年越しは父様と2人ね。マーサ様から一緒に年越ししないかって誘われてるの。どうする?」
「お邪魔しようか。どうせクラウディオは帰ってこないし」
「そうね」
「じゃあ、俺はもう行くな」
「あら。お茶でも飲んだら?母上」
「折角だけどさ。眷属から連絡があって再来年の春にロヴィーノが退位するって正式に決定したんだよ。それで退位に伴う式典とかフェルナンドの即位式の打ち合わせとかもしたいんだって」
「あら。少し早まったのね。ていうか、再来年なのにもうそんな打ち合わせするの?」
「退位と即位はそれだけ準備に時間もかかるんだよ。王が亡くなって急に即位って場合とかじゃない限りね」
「ふーん」
「じゃあな、ジャン。トリッシュ。寒いから身体に気をつけるんだぞ」
「はーい」
「いってらっしゃい。フェリ」
フェリはトリッシュの頬にキスをして、ジャンの唇に軽いキスをしてから家を出た。そのまま風竜に飛び乗り、勢いよく上昇して、真っ直ぐ風の宗主国を目指して飛び出した。
ーーーーーー
ジャンは飛んでいくフェリの姿を玄関先から見送った。フェリがいないのは寂しいが、仕方がない。トリッシュがいるから、1人で寂しい年越しなんてことにならなくてよかった。
ジャンは家に入ると、旅の荷物を自室に置いて、風呂に入って旅の汚れを落とした。着替えた後で、掃除をするトリッシュを手伝う。多分シーツ等を洗うどころか交換する余裕もないクラウディオの部屋に行き、シーツを洗濯済みのものに取り替えてやって、部屋に脱ぎっぱなしのしわくちゃのシャツを拾い上げた。クラウディオは基本的に生活能力が高く、普段は脱いだシャツをそこらへんに放置するようなことはしないのだが、年末年始を挟んだ約2ヶ月の間は本当に仕事が忙しいらしく、家には寝に帰るだけ、なんなら家にすら帰ってこない日も多い。洗濯部屋を見れば、クラウディオの洗濯物で籠が山のようになっている。ジャンも洗濯する衣服を荷物から取り出してきて、早速洗濯を始めた。台所の掃除をしているトリッシュに声をかける。
「トリッシュ。今洗濯してるけど」
「あ、私のもついでにおねがーい。持ってくるわ」
「うん」
「聞いてよ、父様。父上ったらまた今年も酒瓶の山つくってるのよ」
「あー。忙しすぎて酒だけ飲んで寝てるんじゃないか?」
「ちゃんとご飯食べなきゃ身体に悪いのに」
「まぁな。俺がいた頃はクラウディオの分の晩飯も作っていたし、たまに詰所に差し入れ持っていってたけど。今は基本1人だからなぁ」
「魔導冷蔵庫の中身も寂しいし、洗濯終わったら買い物に行きましょうよ。父上に差し入れ持っていかないと、父上倒れちゃうわ」
「そうだな。それがいい。すぐに終わらせるよ」
「私もさっさと掃除を終わらせるわ。あ、ついでにお昼は街で食べましょうよ」
「いいね。そうしよう」
トリッシュが部屋から持ってきた中々の量の洗濯物もまとめて魔導洗濯機で洗って、庭に全て干し終える頃には昼前になっていた。今日は冷えるが天気がいいし、空気も乾燥しているので夕方までには全て乾くだろう。
トリッシュも掃除が一応終わったようで、2人で予備の馬にタンデムし、街へと向かった。昼食を食べた後、持ち帰り専門店をいくつか回ってクラウディオへの差し入れを買ってから領軍詰所へと向かった。詰所の顔見知りと挨拶しながらクラウディオの執務室を目指して歩いていると、バタバタと後ろから誰か走ってきた。足音に振り向くと、アルフだ。
「あら。アルフ。お疲れ様」
「あ、トリッシュ様とジャン様。お久しぶりです」
「久しぶり。忙しそうだな」
「そうなんです。唯でさえ忙しいこの時期に殺人事件が起きちゃって。さっき通報があったばかりなんです。クラウディオ分隊長に報告したら、すぐに行かなきゃいけないので。すいません。失礼します」
「気をつけてね」
「頑張れよ」
「はいっ!ありがとうございますっ!」
バタバタとまた走ってアルフの背中はあっという間に見えなくなった。
「……差し入れに行くの邪魔かしら?」
「まぁ、どれも多少日保ちがするし、さっと渡して帰ればいいんじゃないか?殺人事件まで起きたのなら、それこそ飯を買いにいく時間もなくなるだろうし」
「そうね。いきましょうか」
「うん」
ジャンはトリッシュと2人でのんびり詰所の廊下の端を歩いてクラウディオの執務室に行き、慌ただしく部下達に指示を出しているクラウディオの側にいた顔見知りの副官バージルを手招きした。こっそりクラウディオに渡してくれ、とバージルに差し入れを預けた。クラウディオは本当に忙しそうなので、ジャンとトリッシュは声をかけずに執務室から出た。領軍詰所を出た後、買い出しをしてから家へと戻る。
「この時期の軍人さんは大変ねー。アルフも走り回ってたし」
「そうだなぁ」
「アルフも殺人事件とかない時は街の警備に出るんですって。前に言ってたわ」
「アルフは鑑識課だろ?」
「そうだけど。本当に軍人総動員らしいわよ」
「まぁ、この時期のサンガレアは1年で1番領地の内外から人が集まるからなぁ。領主家主催の年越しイベントも毎年やってるし」
「マーサ様も必ず出るしね。やっぱ土の神子様を生で拝みたいっ!って人が多いのかしら?」
「そりゃそうだよ。トリッシュは産まれた頃からマーサ様といるし、そもそも神子の娘だから実感が湧かないだろうけど。本来は神子様って本当に特別な、一般人からしたら雲の上の上のそのまた上くらいの存在なんだよ。王族よりもずっと上」
「ふーん。そのわりにサンガレアの人達ってマーサ様と親しいわよね」
「マーサ様がとっても気さくな方で堅苦しいのがお嫌いだからだよ。街や色んな場所に行くの好きだし。まぁ、街の人からすれば、尊いけど身近な存在ではあるかな」
「そんなもんなの?」
「そうそう」
「ふーん」
「そういえば。フリンちゃんには会いに行くのかい?」
「うーん。昨日の夜連絡したらね、今修羅場ってるらしいのよ。色々あって薬の製造が遅れてて、フリンちゃん達も駆り出されてるんですって。年明け5日目に領館に顔出すらしいから、その時に会うわ」
「フリンちゃんも忙しいのか。大変だな、皆」
「そーよねー」
暢気に話していると家に着いた。馬を馬小屋に入れて世話をしてやってから、家の中に入る。先に入っていたトリッシュが生鮮食品を全て魔導冷蔵庫に入れていてくれた。
「父様。今晩は何にする?」
「適当に鍋でいいんじゃないか?2人だし」
「それもそうね」
2人でピリ辛鍋を作って、酒を片手に食べた。トリッシュもジャンに似たのか、酒が好きでおまけにかなり強い。2人で鍋をつつきながら、何本も酒瓶を空にした。
夕食の後片付けをして、交代で風呂に入った後に2人でチェスをしながら酒を飲んでいると、疲れてげっそりした顔のクラウディオが帰って来た。
「「おかえり」」
「……ただいま」
「ご飯食べる?すぐに用意するわ」
「いや、着替えを取りに来ただけだからすぐに戻るよ。殺人事件が起きた上に他領の貴族が面倒な問題起こしてな。暫く帰れんと思う」
「分かったわ。気をつけてね」
「明日も差し入れ持っていこうか?」
「あー……頼んでいいか?食堂に行く暇も買いに行かせる余裕もないんだ。あ、今日の差し入れありがとな。助かった」
「いいよ。明日はもっと多めに用意しておくよ。いつでも摘まめるようなやつ」
「助かるわ。じゃあ着替えとったら行ってくる」
「うん」
疲れた身体を引きずるようにして、クラウディオは本当に着替えだけ自室から取って来ると、再び馬に乗って、中々のスピードで街に向けて駆けていった。思わず玄関先でトリッシュと顔を見合わせる。
「なんだか私達以外、皆忙しそうね」
「そうだな。アーベル夫婦もこの時期は忙しいだろうし」
「エドガー君もこの時期は自慢の筋肉が萎れるくらい忙しいって前に言ってたわ」
「風の宗主国の面々も忙しいだろうし。俺達だけ暇ってのも、なんか微妙だな」
「そうねー」
「ま、仕方がない。年越しの日まではクラウディオに毎日差し入れして過ごそう」
「そうね。あ、渡せる余裕があれば、アルフにも差し入れしていい?」
「勿論」
トリッシュとアルフは恋仲ではないが、仲はいいようである。このまま恋仲に発展してくれたらいいのだが。
暇だと言っていたが、翌日に顔を出したマーサ様の家でリチャード殿に捕まり、ジャンとトリッシュは公的機関の急ぎの書類を届けるためにひたすら年越し当日までサンガレア中を飛び回ることになった。
慌ただしく年を越して、新年を迎えた。今年こそはトリッシュに恋人ができるといい。愛と豊穣を司る土の神を祀る聖地神殿で、ジャンは必死に祈りを捧げた。
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