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74:気持ちの変化と性の目覚め

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アーベルがリカルドと恋人のフリをするようになって1年が過ぎた。その間にアーベルは魔導コンロや調理器具その他をリカルドの家に持ち込んで、リカルドの家で料理をするようになった。リカルドが現役で動いているのが不思議な古い魔導冷蔵庫を捨て、最新式の魔導冷蔵庫と魔導洗濯機を買ってくれた。まだ使えてた魔導冷蔵庫は兎も角、魔導洗濯機は有り難い。毎回リカルドが溜め込んでいた洗濯物を持って帰るのが荷物が嵩張り少し大変だったのだ。今は休みの前日にリカルドの家に行って、簡単に掃除をしてから一緒にベッドで眠り、翌朝、朝から本格的な掃除と洗濯をするという過ごし方をしている。食料品は官舎の近くにある生鮮食品等も扱っている店で買っている。ちなみにお金は全てリカルドが出している。アーベルが買い物に行くと言うと、自分の財布をポンと渡してくるのだ。いや、そんなに気軽に他人に財布を預けるなよ、と言いたかったが、ぐっと堪えた。多分言っても無駄だ。なんというか、リカルドは魔術や魔導具に関すること以外には、かなり頓着しないのだ。風呂には毎日入るが、食事は美味しいに越したことはないが別に食べられたら何でもいい、掃除も別にしなくてもいい、洗濯も酷く匂わなければ別にいい、という感じなのである。風呂に毎日入るのも、風呂が好きな訳ではなく、ただ単にマーサ様が怖いだけだ。アーベルも聞いた話なのだが、風呂に5日以上入っていないことがマーサ様に知られると、問答無用でマーサ様に風呂に入れられるのだ。縛られて拘束されたうえで、全身を文字通りまるっとマーサ様に洗われる。ナニの皮まで剥いてしっかり洗われるとか。そのうえ、髭を整えられ、手足の爪を切られヤスリまでかけられる。歯磨きまでされるとか。それを衆目の前でやられるのだ。エッグいしキッツい。リカルドも1度やられたらしい。それ以来、どんなに忙しくても、研究が順調で夢中になっていても風呂にだけは入るようにしているそうだ。……まぁ、どんな理由であれ、身体が清潔なことはいいことだ。
リカルドはアーベルが来る日は必ず家に帰るようになった。合鍵も渡されているので、翌日リカルドが仕事の時は、朝食を作って一緒に食べた後出勤するリカルドを見送り、一通りのことを終わらせてから合鍵を使って戸締まりをして研究所の所長室へと向かう。アーベルはそこで掃除や書類の整理をしたり、お茶を淹れてやったりしながら、暇な時はのんびり本を読んで過ごす。夕方の勤務時間終了の時間になると、2人で魔術研究所を出て官舎の家に行き、アーベルが洗濯物を取り込んで、パパっと夕食を作って2人で食べ、食事の片付けと洗濯物を畳んで片付けをしてからアーベルは領館に帰る。リカルドも手伝うと言ってくれるのだが、手先が器用な筈なのに、何故か上達しない洗濯物畳みを見て、アーベルは遠い目をしてやんわり断った。リカルドが畳むと、折角皺を伸ばして干したシャツがしわくちゃになるのだ。ぶっちゃけリカルドにお手伝いさせる方が二度手間になる。料理についても似たような感じだ。掃除など論外である。リカルドは大人しく本を読むなり研究を進めるなりしてくれていた方が家事が早く済む。アーベルはいつもリカルドを部屋の隅っこで大人しくさせている間に、手早く家事をこなしている。
前は所長室主体で過ごしていたが、今は官舎の家主体で過ごしている。とはいえ、所長室の方も休みの度に掃除しているのだが。
端から見れば大変そうに見えるアーベルの行動は、本人からすれば単に楽しいだけである。掃除も洗濯も料理も好きだ。そこそこ汚い部屋や服をキレイにするのは気持ちがいい。自分の作った料理を誰かに美味しそうに食べてもらえるのも嬉しい。アーベルは今の生活にとても満足している。

アーベルは仕事が終わり、医学研究所から領館に向けて帰りながら、小さく溜め息を吐いた。
リカルドと恋人のフリをする原因になった違う部署の男がここ最近全く話しかけてこなくなった。噂では恋人ができたらしい。それは別にいい。煩わしくなくて、すごく有り難い。ただ、男に言い寄られないという状況では、リカルドと恋人のフリをする意味がなくなってしまう。アーベルはリカルドにこの事を言えずにいる。言ってしまったら恋人のフリが終わるからだ。アーベルは今のリカルドと過ごす生活が楽しい。身内以外でここまで気を許した相手は初めてなのだ。この関係を終わらせるのは、なんだか嫌だ。別に恋人のフリをしていなくても会いに行ってもいいのだろうが、今ほど頻繁に会いに行って家に上がり込んで世話をやくのは、ちょっとどうかと思う。恋人でも伴侶でもないのに。

リカルドは年に数回遊ぶ相手がいると言っていた。今はアーベルがいるので、それを断っているが。アーベルと恋人のフリをしなくてよくなったら、また誰かと遊ぶのだろうか。アーベルもリカルドとよく寝るあのベッドで。少し想像するだけで、なんだかムカムカする。実に不快だ。頭を撫でてくれるリカルドの優しい手は今はアーベルのものだ。……?アーベルのものってなんだ。リカルドは別にアーベルのものではない。おかしいだろう。
アーベルは足早に歩きながら、ごちゃごちゃしてきた自分の思考回路を、他人事のように、あ、これ良くないやつだ、と頭の端で思った。
多分自分はリカルドが好きなのだと思う。恋愛的な意味ではなく、人として。でも、そのわりにリカルドを独占したいと思う自分がいる。子供じみた独占欲だろうか。こう……仲良しの人を誰かにとられたくない!みたいな。友達がいたことがないから、身内以外の人との距離感が全然分からない。友達や親しい人にも独占欲を感じるものなのだろうか。よく分からない。
出向期間がハッキリしていないことにも、なんだか最近不安を感じてしまう。多分、アーベルはリカルドと離れて、また単なる他人に戻ってしまうのが嫌なのだ。どうしたらいいのだろうか。アーベルはぐるぐる頭を悩ませながら、何度も溜め息を吐きつつ領館の自分の部屋へと帰った。







ーーーーーー
ある夜のこと。
アーベルは夢をみた。何故か裸のリカルドに抱き締められてキスをされる夢だ。なんだかすごく心地よくて、アーベルはリカルドに身を任せていた。
ハッと目が覚めた時、アーベルはすぐに顔から血の気が引いた。下着に違和感がある。確実に濡れている。朝日が昇る前の薄暗い中、確かめたくはないが、おそるおそる寝間着のズボンと下着をずらすと、白い精液がペニスと下着の間で糸を引いていた。夢精である。思わずアーベルは顔をしかめて低く唸った。アーベルはかなり淡泊な方である。普段自慰なんてしないし、夢精なんて精通した時以来だ。それがよりにもよってリカルドの裸を夢見て夢精してしまった。訳が分からない。アーベルはリカルドのことを性的な目で見たことなどない。
アーベルは10代の潔癖な女の子並みに性的なことに対して嫌悪感を抱いている。普段男に性的な目で見られることがわりとよくあるからかもしれない。自慰をするのも、自分がいやらしい人間になった気がするので、絶対にしたくないと思うほどである。
それなのに、リカルドの裸で夢精してしまった。自分自身に嫌悪感を抱くが、夢の中や実際に風呂で見たことがあるリカルドの裸をつい脳裏に思い浮かべてしまった。……なんで愚息さんは勃起しているの?朝勃ちとは少し違う感じがする。頭の中のリカルドの裸を追い出そうとするが、中々うまくいかない。リカルドは風呂の時は誰がいても前を隠さないので、見たことがあるリカルドのペニスまでしっかり思い出してしまった。アーベルのペニスが益々熱を持ってしまう。こんなのおかしい。男のペニスに興奮するなんてことあってたまるか。そう思うが、引っ込みがつかない程アーベルのペニスは熱く固く勃起してしまっている。アーベルは頭を抱えた。水風呂にでも入ればおさまる気はするが、勃起したまま部屋から出るなんてこと絶対にできない。ついには朝勃ちでテント状態になっているリカルドの股関まで思い浮かべてしまった。あのペニスが勃起したらどんな感じなのだろうか、とまで一瞬考えてしまう。自分の脳ミソが信じられない。自分の頭なのに自分の思い通りにいかないことに苛立つ。リカルドの裸やペニスが頭から離れてくれない。
アーベルはゴクッと生唾を飲んで、おそるおそる自分の勃起したペニスに触れた。やんわり握ってゆっくり擦ると、今まで感じたことがない快感を感じる。自分の精液で濡れた先っぽを指先で優しく擦ると、ゾクゾクして腰が震え、思わず小さく声をもらした。アーベルは気づけば夢中で自分のペニスを擦っていた。頭に浮かぶのはリカルドの逞しい裸とペニスだけである。はぁはぁと荒い息を吐き、時折小さな喘ぎ声をもらしながら、アーベルは夢中でペニスを擦って射精した。精液が飛び出る感覚が信じられない程気持ちがいい。アーベルは荒い息を吐きながら、手にべったりついた自分の精液を見た。精液まみれの手で、なんとなくまた自分のペニスを掴んでしまう。
アーベルは完全に朝日が昇って部屋が明るくなるまで、リカルドの裸を思い浮かべながら、夢中で自分のペニスを弄っていた。






ーーーーーー
アーベルはリカルドの洗濯物を魔導洗濯機に放り込みながら、こっそり小さな溜め息を吐いた。リカルドは今日は仕事なので、朝食を食べた後、先に魔術研究所へと行っている。
最近アーベルはおかしいのだ。1度リカルドの裸を夢にみて夢精してから、毎晩のようにリカルドの裸を思い浮かべて自慰をしている。いけないことだと分かっていても、どうしてもやめられない。
昨日はいつも通りリカルドにくっついて寝た。うっかり勃起してしまったらどうしようとドキドキしていたのだが、そんなことはなく、慣れたリカルドの体温と匂いに落ち着いて、すぐに眠りに落ちてしまった。水の中を回っているリカルドの洗濯物をぼんやり眺めながら、昨夜勃起してしまっていたら、どうなっていただろうかと考えてしまう。リカルドには遊び相手がいる。セックスがうまければ美醜はどうでもいいと言っていた。アーベルはセックスなどしたことがないから、上手い下手以前の問題である。チラッと残っている洗濯物の山を見ると、リカルドの黒い下着があった。いけないことだとは分かっている。でもどうしても、自分の手を止められない。アーベルはリカルドの使用済みの下着を手にとった。そのまま、ゆっくり鼻に下着を押しつけた。ほんのり香る匂いに、なんだか急速にひどく興奮してしまう。自分は変態になってしまったのだろうか、と頭の片隅でぼんやり思うが、とめられない。アーベルのペニスはすぐに完全に勃起してしまった。
アーベルは下着を掴んだまま、すぐにトイレに駆け込んだ。念のため鍵までしっかりかけて、リカルドの下着を片手にズボンのベルトを外して、ボタンを外しチャックを下ろして下着ごとズボンをずり下ろした。早くも先走りが滲む自分のペニスを掴む。リカルドの下着の匂いを嗅いで、下着に舌を這わせながら、夢中でペニスをしごく。はぁはぁと荒い息を吐きながら、アーベルはキツくペニスをしごいて、便器に向かって勢いよく射精した。全部出しきるようにゆるくペニスを擦る。……やってしまった。リカルドの家でリカルドの下着の匂いを嗅ぎながら自慰をしてしまった。完全に変態ではないか。アーベルはズーンっと気分が落ち込んだ。
自分の精液で汚れた手とペニスをトイレットペーパーで拭いて、水を流し、静かにトイレから出た。ちょうど洗濯が終わっていたので、1度手を洗ってから、洗濯が終わったものを籠に取り出し、自慰に使った下着を魔導洗濯機の中に突っ込んだ。他の洗濯物もどさどさと入れ、洗剤を入れてから魔導洗濯機を回す。アーベルはトイレに戻って、トイレの小窓を全開にして、トイレ掃除を始めた。なんだか酷く情けない気分になってしまう。アーベルは全ての思考を振り払うように家事にひたすら集中した。家のことが終わるとすぐに魔術研究所へ行き、所長室の掃除や書類整理に没頭した。夕方近くになると、やっとなんとなく落ち着いてきた。
アーベルはリカルドと一緒に歩いて官舎の家へと戻り、パタパタと急いで家事をこなした。
すっかり暗くなった帰り際、リカルドに『今日もありがとうございました』と頭を優しく撫でられた。素直に嬉しい反面、なんだかリカルドの手の感触にゾクゾクしてしまう。
アーベルは帰りの馬の上でリカルドの優しい手を思い出して、また勃起してしまった。こんなの絶対におかしい。外で自慰をするわけにも、勃起しているところを見られるわけにもいかない。アーベルは必死で萎えさせようと、トリッシュやフリン達のゆるい会話を思い浮かべた。

アーベルは完全におかしくなってしまったのだ。じゃなかったら、こんな変態みたいなことになっていない。アーベルは自分の部屋で布団を頭から被って丸くなったまま、強く下唇を噛んだ。自室に戻って気が緩んだ途端、また勃起してしまった。どうしてもリカルドの手の感触や体温、匂いを思い出してしまう。こんなの絶対におかしい。そう思うが、自分のペニスに伸びる手を止められない。
アーベルはこの日も夜遅くまで1人自慰に耽ってしまった。
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