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62:ぎこちない歩みより

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フリオの息子の存在が明らかになって1ヶ月程が経ったある日のこと。
フリオが目の下に隈をつくって、サンガレアの家に帰って来た。たまたま休みで家にいたクラウディオに無言で抱きついてくる。どうやらかなりお悩み中なようである。


「父上……」

「うん」

「エドガーに何て言ったらいいと思う?」

「ヒューゴ……君?様?のことか?」

「……うん」

「そのまま事実を伝えるしかないだろ」

「……それで幻滅されてフラれたらどうしよう……」

「いや?大丈夫だろ。言うなればフリオは強姦の被害者なわけだし」

「でも……」

「エドガーには今日会ったか?」

「……会ってない」

「それじゃあ会いに行こう。今すぐ」

「今すぐっ!?いや!でもっ、ほら、エドガーは仕事中な筈だし……」

「大丈夫大丈夫。フェリックスに許可もらえば問題ない。こういうのは早く済ませといた方がいいんだよ。ちょっと待ってろ。フェリックスに連絡するから」

「えっ!?いや、でも、こ、心の準備がっ!」

「俺も同席するし、大丈夫だって」

「えぇぇぇ……」


酷く不安そうな顔をするフリオの頭を優しく撫でつつ、クラウディオはピアス型魔導通信具を起動させてフェリックス神殿警備隊隊長に連絡をとった。簡単に事情を話すと、今すぐエドガーを家に行かせるとのこと。話が分かる男で助かる。


「エドガー、今から家に来るってさ」

「うぅ……」

「そんな顔しなくても本当に大丈夫だって。俺もついてるし」

「……話が終わるまで絶対にエドガーと2人にしないでくれ……」

「分かったよ」


それから、不安ですと顔に書いてあるフリオと共に居間でエドガーが来るのを待った。余程不安なのか、フリオはずっとクラウディオのすぐ隣に座って、クラウディオのシャツの裾を強く握りしめていた。玄関の呼び鈴が鳴った途端、フリオがビクッと身体を震わせた。フリオが半ばクラウディオにしがみついていて動けないので、大きな声を出してエドガーを呼んだ。玄関の鍵は開いているので問題ない。すぐに居間にエドガーがやって来て、クラウディオにくっついているフリオを見て不思議そうな顔をした。


「よぉ。エドガー。悪いな、わざわざ」

「いえ。こんにちは、クラウディオ分隊長。フリオさん、どうしたの?」

「…………」


フリオは横からクラウディオに完全に抱きついて、クラウディオの肩に顔を埋めていた。どんだけエドガーに話すのが怖いんだ。ぎゅうぎゅうに抱きついているフリオを宥めるようにフリオの頭を撫でながら、エドガーを向かい側のソファーに座らせた。


「フリオー。どうする?俺から話すか?」

「……頼む」

「了解。さて。エドガーにわりと大事な話をしよう。フリオに関する事だ」

「あ、はい」


クラウディオはヒューゴの存在と諸々の経緯を話した。エドガーは真剣な顔で全部聞いてくれた。フリオはその間ずっと無言でクラウディオに強くしがみついていた。


「……と、まぁそういうわけなんだ」

「はぁ……お話は分かりました。フリオさん」

「…………」

「別に知らなかった息子がいたからって俺は気にしないよ。ていうか、普通に考えてフリオさん被害者じゃん」

「だよな」

「まぁ、そのヒューゴ様って方も同時に被害者みたいなものなんだしさ。今後もマーサ様の家に出入りする限り絶対顔を合わせることになるんだから、1度ヒューゴ様と2人で話してみたら?1人じゃ嫌なら俺もついていくし」

「……い、嫌だ。何話したらいいか、全然分からん……」

「先ずはとりあえず自己紹介的なのでいいんじゃないか?フリオ。そう難しく考えずにさ」

「そうそう。大丈夫だって!アレク様が選んだ方なんだから、きっと話の分かるいい人だよ」

「……でも……」

「と、いうわけで。エドガーには話したし、じゃあ次はアレク様の家に行くか。いっそジャンにも同行してほしいところだが、残念ながらトリッシュと一緒に明日まで帰ってこないからな。3人で行こう」

「あのー。ちなみにフェリ様はなんと?」

「この事に関してはフリオ自身がどうするか決めることだから口出ししないってさ」

「あ、結構シビアというか、ドライなところもあるんですね」

「んー。まぁ、それだけフリオのことを信頼してるって感じかな?」

「なるほど」

「よぉーし。じゃあ、行くぞー。今日は休日だからアレク様も家にいるだろうし、ヒューゴ君?様?も一緒にいるはずだ」

「い、いやだ」

「駄目だよ、フリオさん。こういうのは最初にちゃんとしとかないと。後々面倒くさいことになったりしちゃうよ?」

「エ、エドガー……」

「俺も一緒に行くから。ね」

「うー……い、いく……」

「よぉーし。行くぞー。アレク様の家は結構ここから近いんだよ」

「あ、そうなんですか?」

「そうそう。あ、エドガー。悪いが台所の魔導冷蔵庫の中にな、俺が作ったマドレーヌがあるんだ。人にあげる時用のキレイな紙袋も近くに置いてあるから、冷蔵庫の横にある棚のナプキンで包んでから紙袋に入れて持ってきてくれないか?」

「分かりました」

「すまん。頼んだ」


仕事が早いエドガーはすぐに紙袋片手に戻ってきた。


「一応全部持ってきたんですけど、よろしかったですか?」

「ん?いいぞいいぞ。ありがとな」

「はい」

「というわけで出発だ」

「フリオさん。なんなら俺がおんぶする?」


クラウディオにしがみついていたフリオがのろのろとした動作でエドガーの背中にしがみついた。行きたくない欲よりもエドガーにくっつきたい欲が勝ったらしい。よし。さりげなく逃走防止ができた。ナイスだ。エドガー。
クラウディオとしてはエドガーはもう身内みたいな感じである。いずれ結婚するだろうし。大事な時にぐだぐだ悩んでヘタレるフリオをしっかり操縦してもらいたい。

クラウディオはフリオをおんぶしたエドガーを連れて、歩いてわりかし近所なアレク様の家へと向かった。アレク様は薬事研究所で働く薬師で、数年前に中古住宅を購入、改築して住んでいる。改築したのは当然マーサ様と愉快な趣味仲間だ。クラウディオも含まれる。一時期毎日のように通っていた道を歩いていると、20分もしないうちにアレク様の家に着いた。


「本当にご近所さんなんですね」

「街の本当に端っこだからな。ここら辺からうち方面は家自体が少ないし」

「…………」

「さ、呼び鈴鳴らすぞー」

「はい」

「……やっぱ帰らないか?」

「「駄目」」

「うぅ……」


情けない声を出すフリオに構わず、クラウディオは呼び鈴を押した。エドガーががっしり背負ったフリオの両足を押さえているので、フリオに逃亡は不可能である。フリオも飛竜に乗るから多少は鍛えているが、所詮室内派魔術師。強者揃いで有名なサンガレア領軍の、更に精鋭部隊であり、その中でも10本の指に入る実力者であるエドガーの腕力に勝てる筈がない。頼もしいお婿さんで父親的には安心である。
呼び鈴を鳴らすと、すぐにアレク様が出てきた。


「あれ?クラウディオ分隊長じゃん」

「こんにちは、アレク様。今よろしいですか?」

「うん。って、フリオ様だ。あー……うん。やって来た目的は分かったわ」

「お察しいただけて、話が早くて助かります」

「今いるから呼んでくるわ。入ってくれ。……どうでもいいけど、何でおんぶされてんの?おんぶしてんのって、確か神殿警備隊の子だろ?」

「逃走防止です。こっちはエドガー。フリオの恋人でして」

「エドガー・スルトと申します」

「あー……噂の。歌が上手いって評判の」

「楽器も上手ですよ」

「へぇ。是非とも聴いてみたいもんだな。すまんな。うち薬臭いだろ?」

「気になりませんよ」

「ならいいけど。居間で座って待っててくれ。ヒューゴ呼んだらお茶淹れるし」

「お構い無く。あ、これよろしかったら召し上がってください。俺が作ったマドレーヌなんですけど」

「おー。ありがとう。早速お茶と一緒にもらっていいか?」

「勿論」

「じゃあ、少し待っててくれ」

「「はい」」


アレク様が居間の端にある、ちょっとした螺旋階段を上がって2階へと向かった。それを見送ってからソファーに座らせてもらう。逃走防止にエドガーとフリオを挟んで、両側からがっちりフリオの腕を掴んだ。エドガーも何年もフリオの恋人をやっているので、なんとなく性格が分かっているのだろう。クラウディオが言う前にしっかり腕を掴んでくれていた。実にナイスだ。エドガー。やはりフリオの伴侶はお前しかいないな。
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