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23:そうだ花街に行こう

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2日後。
仕事を終えたクラウディオが領軍詰所から出ると、入り口にフェルナンドが1人で立っていた。少し驚いてフェルナンドに駆け寄る。


「あ、お祖父様。お疲れ様」

「あぁ、ありがとう。1人か?フェルナンド」

「うん。ちょっと話というか、相談があって」

「俺に?」

「うん」

「晩飯は食べたか?」

「まだ。一緒に食べるって言って出てきたから」

「フェリやロヴィーノ達はマーサ様のところか?」

「うん」

「じゃあ、とりあえず飯を食いに行こう。……店で話せるような話か?」

「んー。人が多いところだと微妙」

「なら個室がある所にするか」

「うん」


クラウディオはフェルナンドを連れて個室のある鍋料理の店に入った。寒い冬だけではなく、暑い夏でもそこそこ人気がある店で、最初に鍋や追加の分の肉などを頼んでおけば呼ばない限り店員も入ってこない。


「ここ初めて来た。鍋料理って結構種類あるんだね」

「フェルナンド達はあまり暑さに慣れていないだろう?夏に鍋料理はちょっとキツイかと思ってな。連れてこなかったんだ。好きなのを選ぶといい」

「どれが美味しいかな」

「そうだな……まぁ好みもあるが、夏場は辛いピリ辛鍋が人気だな。暑い時にあえて熱くて辛いものを食べるんだ」

「何それキツくない?」

「暑いとどうしても食欲が落ちるんだが、冷たいものばかり食べていると内臓が冷えて良くないんだよ。だから逆に熱くて辛いものを食べるといいんだ。唐辛子の刺激で食欲も出るし、キンキンに冷えたエールを飲みながら食べると最高だぞ」

「んー。じゃあピリ辛鍋にする。辛いものってカレーくらいしか食べたことがないけど大丈夫かな?」

「唐辛子を追加しなければ子供でも食べられる辛さだから、多分大丈夫だろう」

「うん」

「とりあえず4人前くらい頼んでおくか。あとエールと、フェルナンドは酒は飲むか?」

「うん。冷たくて甘いのがいい」

「甘いのなら……米の酒と果実酒とカクテルがあるな」

「このカシスオレンジって何?」

「カシスという果実の酒をオレンジジュースで割っているんだよ。甘くて旨いぞ」

「じゃあ、それで」

「エールは?」

「1杯だけいる」

「とりあえず注文はこれだけでいいか?」

「うん」


クラウディオはテーブルの上にあるベルを鳴らして店員を呼んだ。やって来た店員に注文を伝え、酒やピリ辛鍋が運ばれてくるまでフェルナンドと雑談をして過ごす。
運ばれてきたピリ辛鍋に具材を追加しながら、2人でエールを片手に鍋をつつく。


「辛いけど美味しい。豚肉が甘い」

「だろう?ピリ辛鍋は牛肉より豚肉の方が旨いんだ。豆腐も味が染みてるから旨いぞ」

「うん」


暫く2人で旨い鍋に舌鼓を打つ。1度店員を呼んで追加のエールをグラスではなくピッチャーでもらい、運んできた店員が出ていくと、フェルナンドの話を聞くことにした。


「それで話って?」

「あのさ、セックスって気持ちいいの?」

「ん?気持ちいいし、楽しいぞ」

「実は1度してみたくてさ」

「フェルナンドはもう17歳だったか」

「うん」

「興味津々なお年頃か」

「まぁね」

「セックスしてみたいなら、フェルナンドは王太子だし城で女を用意してくれるんじゃないのか?」

「頼んでないのに、たまに寝室に女が来るけどさ。皆香水臭いから秒で追い返してる」

「あー」

「父上達には気まずくて、こんなこと言えないし」

「まぁな。んー……女は紹介できないが、男相手でもいいなら花街には連れていけるぞ」


女は男よりも数が少ないのでとても大事にされる。花街で身体を売るような者は基本的に男だけだ。


「花街……香水臭くない?」

「サンガレアは香りが柔らかくて薄い練り香が主流だからな。花街でも皆練り香を使っているんだ。そもそもマーサ様が香水が苦手なんだよ。だからサンガレアに住んでいる者は香水は使わない。それにうちの花街は領営で、マーサ様が取り仕切ってて安全が1番の売りだから、性病の心配も少ない」

「……男相手に勃つかな、俺」

「さて。こればかりはやってみないとな。とりあえず女みたいな綺麗どころを試してみたらどうだ?興奮しなかったら、なんなら口や手でやってもらったらいい」

「口でやるって何を?」

「舐めるんだよ」

「え。その、アレを?」

「そう」

「マジで?」

「かなり気持ちいいぞ?」

「マジかー。うーん……」


フェルナンドが悩むように、少し眉間に皺を寄せた。クラウディオはその様子をなんだか微笑ましい気持ちで眺める。フェルナンドと初めて会った時は、まだクラウディオの腰くらいの身長の小さい無邪気な子供だったのに、いつの間にやらセックスに興味を示す程大きくなった。その事がなにやら感慨深い。


「ん。行ってみる」

「いいぞ。この後連れていこう」

「……お祖父様もついてきてよ。1人じゃちょっと怖い」

「あぁ。いいぞ。ちょっとトイレに行ってくるから、その間にデザートでも食べてるといい。おすすめは桃のシャーベットだ」

「うん」


クラウディオは席を立って個室を出た。トイレに向かいながらピアス型の魔導通信具を起動させ、マーサ様に連絡をとる。手短に事情を伝えてマーサ様から花街の娼館に話を通してもらい、続いて副官のバージルに連絡をして、花街の警備の人員を急遽増やすよう伝えた。最後にフェリに連絡をした。
クラウディオが個室に戻ると、フェルナンドはデザートのシャーベットを美味しそうに食べていた。フェルナンドが食べ終わると、会計をしてから店を出る。そのままフェルナンドを連れて花街へと足を向けた。

賑やかで華やかな花街の通りを2人並んで歩き、目的の娼館へと到着した。今回マーサ様に頼んだ店は、サンガレアの花街で1番人気の高級娼館だ。フェリと恋人になる前はクラウディオもたまに訪れていた。
少し緊張した顔のフェルナンドと共に店に入る。店内は落ち着いた雰囲気の内装で、フロアには客待ちの美しい、女と見間違うような男娼達が穏やかにお喋りしている。
中年の美しく着飾った男がクラウディオ達の側に来た。


「いらっしゃいませ」

「やぁ。こっちの彼に1番いい子を頼みたいんだが」

「畏まりました。ちょうど1番人気の者が空いております」

「じゃあ、その子で。フェルナンド。彼が部屋に案内してくれるから、ついていくといい。後は相手の子が色々教えてくれるから」

「う、うん」

「朝にここのフロアで合流しよう。楽しんでこいよー」

「うん」


緊張した顔のフェルナンドが中年の男についていくと、別の男がクラウディオの側に来た。


「マーサ様より話は伺っております」

「あぁ。よろしく頼むよ。一応この店周辺の警備は増やした。フェルナンドは初めてだから、そこら辺もよろしくな」

「畏まりました。クラウディオ分隊長はどうされますか?」

「空いている近くの部屋を貸してくれるか?」

「はい。すぐ隣の部屋をご用意いたします」

「すまないな。頼んだ」


男がクラウディオに一礼してから、1度下がった。その場で待っていると、またすぐにやって来て、部屋へと案内してくれる。フェルナンドが入った部屋のすぐ隣の部屋に入ると、男娼が酒を運んできた。酒だけ受け取り、男娼は断る。マーサ様が店側に頼んで、部屋に各々ついている防音結界をフェルナンドの部屋だけ念のため外してもらった。部屋に鍵はついてはいない。これで何かあれば、すぐに部屋に駆けつけられる。ここの店は特に男娼の教育が行き届いているし、別に何もないとは思うが、念のためだ。
隣の部屋に1番近い部屋の窓を開けて、窓の外を眺めながらちびちび酒を飲んでいると、そのうち隣から微かに男娼の喘ぎ声やベッドの軋む音が聞こえてきた。どうやらフェルナンドはちゃんと勃起したらしい。今1番人気の男娼は美しい上にすこぶる床上手だと評判なので、きっと楽しめているだろう。

ぼんやり聞き耳を立てていると、フェリが飛んでやって来た。開いている窓から、ふわりと部屋に入ってくる。


「やぁ。フェリ」

「クラウディオ。フェルナンドは?」

「お楽しみ中だよ」

「あー……そのようだな。悪いな、なんか」

「いいさ。父親達には言いにくいもんだ。こういうのは友達や先輩とかから教えてもらうもんだが、フェルナンドはそれが難しいからな」

「まぁなー」

「マーサ様に頼んで1番人気の子を用意してもらったし、この店周辺の警備も強化してある。まぁ、大丈夫だろう」

「何から何まで悪いな」

「なに。可愛い孫の為だ。なぁ、フェリ」

「ん?」

「俺達も楽しむか?聞いているだけってのもつまらないし」

「ここで?」

「あぁ。そのつもりで部屋を借りたんだ。勿論、何かあればすぐに隣の部屋に行くけど」

「んー……やる」


フェリが小さめのソファーに座るクラウディオの膝にのり、軽いキスをした。クラウディオはクックッと上機嫌に小さく笑いながら、酒の入ったグラスを近くのテーブルに置いた。
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