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17:ご対面・2

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クラウディオと息子達の会話は和やかに続いている。主にロヴィーノとフリオがサンガレアでのフェリの様子をクラウディオに聞いていた。話は弾み、フェリについてだけでなく、マーサの話もしている。


「『土の神子マーサ様ファンクラブ』というものがありまして。年に4回会報誌が出るのですが、これが結構面白いんですよ。マーサ様やご家族の写真が沢山載っていますし」

「それ確か母上版もあるよな」

「えぇ。フェリだけでなくて、マルク様とリー様のファンクラブもありますよ。残念ながらそちらの会報誌は年に1度だけですけど。興味がおありなら見てみますか?会報誌」

「持ってるのか?」

「俺は4人の神子様ファンクラブ全てに加入してますから、会報誌も全部持っていますよ」

「父上。俺みたい」

「見せてもらっても?」

「はい。書斎に既刊は全て揃っています」


クラウディオの書斎にはフェリは入ったことがない。にこやかに笑いながら、書斎へどうぞと案内してくれるクラウディオにゾロゾロとついていく。
そんなに広くない部屋は本棚でほぼ埋まっていた。小さなテーブルの上には綺麗な装飾がされている箱がいくつも積まれている。あと本の置いていない棚が1つあった。そこには、どこか見覚えのある銃が飾られていた。フェリが聞く前に、魔術師のフリオが置いてある銃に食いついた。


「クラウディオ殿は銃が使えるのか?銃は馬鹿みたいに魔力を消費するから使える者が限られているだろう」

「俺は使えませんよ。魔力が人並みちょい上くらいですから。ものすごく頑張れば1発くらいなら撃てるかもしれませんが、多分間違いなく魔力が枯渇して、ヘタすればそのまま死にますね」

「使えないものを持っているのか?」

「実はそれ、魔導銃ではないんです」

「……どうみても魔導銃だが」

「マーサ様愛用の魔導銃型水鉄砲です」

「……は?水鉄砲?」

「グリップのあたりに水を入れられるところがあって、引き金を引くと水が出ます。ただ、銃の大きさが小さめなので、3発分しか水は入りませんけど」

「水が出るだけなのか?」

「はい」

「飛距離や威力は?」

「武器になるレベルではないですね。なにせ水鉄砲は基本的に子供の玩具なので。それは今年の春先に発売された完全予約制数量限定の玩具なんです」

「……玩具」

「はい。何度かマーサ様がご自分の銃を使うところを見ているのですが、前々から格好いいなぁ、と思ってまして。そしたらマーサ愛用銃型水鉄砲が販売されるって聞いたので、つい予約して買っちゃいました」

「父上。俺この水鉄砲欲しい。格好いい」

「期間限定だったのだろう?今は売ってないんじゃないか?」

「クラウディオ殿。まだ売ってる?」

「完全予約制ですから、普通に販売はしておりませんね。あ、ただマーサにおねだりしたら、もしかしたら販売元ではなく、職人に直接口利きをしてくださるかもしれないです。この水鉄砲を売り出すと決めたのはマーサ様らしいので」

「そうなの?」

「はい。ただお値段がかなり高めですよ」

「どれくらい?俺のお小遣いで足りる?」

「んー。どうでしょうか。俺の給料半月分くらいでしたから」

「え、クラウディオって分隊長だから給料いいよな」

「それなりに貰っていますね」

「……相当高価な玩具だな、これ」

「まぁ、普通の子供のお小遣いではまず買えないですね」

「父上。マーサ様におねだりしていい?」

「んー……まぁ、1度言ってみて無理とか駄目とか言われたら、すぐに諦めるんだぞ」

「うん!帰ったらおねだりする!」

「いいのか?ロヴィーノ。玩具にしては高すぎるけど」

「まぁ、たまのことですから。普段は我が儘もそんなに言いませんし」

「それもそうか。マーサが口利きしてくれるといいな、フェルナンド」

「うん!ねぇ、クラウディオ殿。あの箱は何が入っているの?あの綺麗な箱」

「あぁ。あれは俺が作ったピアスとか髪飾りが入っています。ご覧になりますか?」

「みたい!」

「あ、それは俺もみたいわ」


クラウディオが1番上の箱をとって、中身を見せてくれる。繊細な細工のピアスやマーサが好きそうなシンプルなリングピアスなど、様々な種類のピアスが箱の中にキレイに入っていた。


「これはピアスだけの箱です。この箱も自分で作りました」

「箱もか。手先が器用なんだな。見事な細工だ」

「細かい作業が好きなだけの、下手の横好きですよ」


フリオに褒められて、クラウディオが照れたように頭を掻いた。フェリもフェルナンドと一緒に箱を覗きこむ。フェルナンドが小さな鳥を象った飾りのピアスを指差した。


「これもクラウディオ殿が作ったの?」

「そうですよ」

「可愛い」

「ありがとうございます」


クラウディオとフェルナンドが顔を見合わせて笑った。フェリも知らず知らずのうちに微笑んでいた。クラウディオが箱を片付けた。フェリはピアス型の魔導通信具を1つつけているが、子供達は同じくピアス型魔導通信具をつけているアルジャーノ以外はピアスホールが開いていないので、貰ってもつけられない。フェルナンドは何だか欲しそうな顔をしていたが、つけられないのが分かるのか、欲しいとは口に出さなかった。


「ここのあたりは全てマーサ様ファンクラブの会報誌で、フェリのはここらへんです。大体30年くらい前から出てるので、そんなに数はないんですけど」

「見ても?」

「どうぞ。あ、去年出たフェリの写真集もありますよ」

「写真集まであるのか」

「はい。あと、フェリの画集とか挿し絵を描いてる絵本も全部揃っています」


マーサとムティファ神官長が主に執筆して発行している『風の神子フェリ様ファンクラブ』の会報誌やサンガレアでのフェリ達の姿を載せている写真集の売上の半分はフェリの収入になっている。残りの半分は土の宗主国内にある風の神殿(厳密に言うと祠のような小規模なもの)の維持費に充てられている。『気兼ねなく自由に使えるお金があった方がいいでしょ』とマーサがそうしてくれた。フェリの画集も偽名で出版してもらったが、これが意外と人気があり、フェリは実はそこそこ小金持ちだったりする。風の神子のフェリもそうだが、水の神子のマルクも、神子の務め上1ヶ所に長く留まっていられない。当然、何かしらの仕事をして収入を得ることは難しい。マルクは水の王一家や神官達との関係が良好だから、金銭が必要な時はわりとなんとかなるが、フェリは神官達との関係も未だによくない。息子が王になって、王家との関係は良くなったが、息子にお小遣いをねだるのもなんだか嫌だ。だから実はかなり助かっている。


「写真集など買わなくても、自分で写真を撮ればいいんじゃないか?」

「撮影機は一応持ってはいるんですけど、領令で神子様方や王族、領主家の方々を勝手に撮影することは禁じられているんです。ですから、神子様方の写真が欲しい場合は会報誌や写真集を買うしかないんです」

「なるほど」

「然程高くありませんし、皆ちょっとしたお布施気分で気軽に購入してますよ」

「ちなみに何処で売ってるんだ?本屋では見かけなかったが。やっぱり土の神殿か?」

「聖地神殿と、あとはサンガレア資料館の物販で販売してます」

「兄上。買って帰りましょう」

「そうだな」


ロヴィーノはマーサの会報誌を1冊目から読んでおり、フリオはフェリの会報誌をパラパラ眺めていた。フェルナンドは写真集を見ている。


「……その……」

「はい?」

「マーサ様のも……できれば欲しいのだが」

「既刊の在庫は多分ムティファ神官長に聞いてみたら分かりますよ。執筆も発行も在庫管理もムティファ神官長がされてるそうですから」

「そ、そうか……」


ロヴィーノがちょっと嬉しそうに笑った。クラウディオが微笑ましいものでも見るような顔で、マーサ関連出版物の話を始めると、ロヴィーノの目がキラキラ輝きだした。


「……母上」

「ん?なんだ?フリオ」

「クラウディオ殿との写真がないようですが」

「撮ったことがないからな」

「折角だから撮りましょうか?昨日買ったばかりの最新式撮影機を使ってみたいですし」

「いいのか?」

「はい」

「……じゃあ、頼もうかな」


フリオがクラウディオに声をかけて、皆で居間に戻ってからクラウディオとフェリの写真を撮ってくれた。なんだか照れくさいが、それ以上に嬉しい。クラウディオもすごく喜んでいた。現像したら、フェリの分も焼き増ししてくれるそうなので、部屋に飾るための写真立てが欲しい。そう言うと、昼食の後に買い物に行こうということになった。クラウディオも一緒に。
クラウディオと息子達は普通に楽しそうに話をしている。なんだか早くも打ち解けたみたいだ。ちょっとむず痒い気がするが、すごく嬉しい。フェリは微笑んで、フェルナンドと手を繋いで皆一緒に昼食をとるためにクラウディオの家を出た。
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