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11:会えない日々

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ブライアンは頬杖をついて、小さく溜め息を吐いた。カーティスに会えない日が続いており、そろそろ二週間になる。研究が佳境に入り、忙しくなるとは聞いていたが、カーティスに会いたくて会いたくて堪らない。
しかし、仕事の邪魔はしたくない。ブライアンだって、繁忙期に仕事の邪魔をされるのは困るし、素直に迷惑だと思う。元カレの中には、繁忙期だろうが構わず家に来て、ブライアンに食事を作らせたり、セックスを半ば無理矢理するような男もいた。そんな男のような事はしたくない。でも、本当にすごく会いたい。

カーティスとは、お互いに告白などしていないので、まだ恋人ではない。脈はあると思う。ブライアンが告白したら、多分恋人になってくれると思う。既に何度かセックスをしている仲だし、ブライアンとしては、そろそろカーティスと恋人になりたい。とはいえ、誰かに自分から告白するのは、相当久しぶりである。どう告白したらいいのか、いまいち分からないし、万が一フラレたら暫く立ち直れない自信がある。自分は意外と臆病でヘタレだったらしい。

カーティスに会えない日々を送る中で、毎日のようにカーティスの事ばかりを考えている。
カーティスのはにかんだ照れた笑顔が好きだ。ブライアンが作った料理を美味しそうに食べてくれるのを見るのが好きだ。ベッドの中での熱の篭った視線が好きだ。意外とゴツい温かい手が好きだ。カーティスから香る薬の匂いも好きだ。低くて落ち着いた声も好きだ。

ブライアンはまた小さく溜め息を吐いた。
カーティスに会えない日が増えるにつれ、カーティスへの想いがどんどん大きくなっていく気がする。

カーティスの笑顔を思い浮かべながら、ぼーっと窓の外を眺めていると、ディビットが話しかけてきた。今は昼休憩の時間である。


「先輩。最近、なんかありました?」

「んー?……まぁ、あったような……」

「もしかして、カーティスさんですか?好きなんでしょう?」

「……俺、そんなに分かりやすい?」

「前に一緒に山に散策に行った時、手を繋いでたじゃないですか」

「……見られてたか……」

「カーティスさんは珍しくダメ男じゃないっぽいですし、いいんじゃないですか?もう付き合ってるんですか?」

「……まだ」

「おや。先輩の片思いですか」

「そうなのかなぁ。脈はある気はするんだけど」

「ですねぇ」

「今、仕事が忙しいらしくて、中々会えないんだよなぁ」

「ありゃ。それでさっきから溜め息吐いてたんですね」

「んー。まぁ。いい加減会いたいなぁと」

「連絡蝶を飛ばしてみたらどうですか?忙しいなら、カーティスさんの家に行って、ご飯を作ってあげたりとか」

「迷惑にならないかな」

「迷惑なら普通に断りそうな感じの人ですし、ダメ元でやってみたらどうです?そんな切ない顔で溜め息連発するくらい、カーティスさんに会いたいんでしょう?」

「うん。……ダメ元で送ってみるか」


ブライアンは机の引き出しから、魔術用の紙を取り出した。今はピアス型の通信用魔導具があり、サンガレアの公的機関に務める者には支給されるが、あくまで仕事用のものである。個人で持っている者もいるが、個人で買うとなると、結構な値段がする魔導具だ。ブライアンは個人用は持っていない。個人で連絡を取り合う時は、連絡蝶という魔術を使うことが多い。専用の紙に伝えたい事を書き、魔術で相手に届ける。蝶々の形をして飛んでいくので、連絡蝶と呼ばれている。少ない魔力で使える魔術なので、割と誰でも簡単に使えるものだ。

ブライアンは言葉を選びながら文章を書き、紙を折りたたんで、カーティスの顔を頭に思い浮かべながら、魔術を発動させた。ひらひらと窓の外へと飛んでいった連絡蝶を見送り、ブライアンはカーティスを想って、また小さく切ない溜め息を吐いた。





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カーティスは寝不足でしぱしぱする目を擦りながら、大きく欠伸をした。
研究が佳境に入り、ここ数日は研究室に泊まり込んでいる。2年がかりで試行錯誤を繰り返しながら研究開発してきた新薬が、あとほんの少しで完成しそうである。カーティスが新たに作った薬事魔術陣も上手くいっているし、薬の調合比率も安定したものになってきた。小さな実験用の鼠では、薬の効果が満足いくものになっている。もう殆ど完成していると言ってもいい。
研究の最後の仕上げももう少しで終わる。一段落ついたら、一週間の休みももらえるし、あとひと踏ん張りである。

カーティスは床でダイナミックな寝相を晒して寝ているフリンに毛布をかけ直してやってから、部長のミーシャに声をかけて、実験結果を記した紙を片手に、これ以上の改善点がないかを話し合い始めた。

ミーシャや他の先輩達と話していると、窓からふわりと連絡蝶が飛んできた。連絡蝶はふわふわと飛び、カーティスの肩にとまって、ひらりと紙になった。
カーティスにわざわざ連絡蝶を送る相手なんて、いない気がする。カーティスの人脈は狭く、研究室の面々と馴染みの定食屋の主人と、個人的に作った薬を売ったり、材料を仕入れたりする薬屋の主人くらいしか親しい人はいない。あとはブライアンくらいだ。

ミーシャに一言断って紙を見れば、ブライアンからだった。几帳面な文字に思わず心臓が高鳴った。ブライアンとは、もう二週間くらい会えていない。仕事中だが、カーティスはブライアンからの手紙を読んだ。
手紙の内容は、『貴方の仕事が落ち着いたら、ご飯を作りにお邪魔したいのだけど、いいだろうか』というものだった。
カーティスは思わずガッツポーズをした。そんなのいいに決まっている。むしろお願いしたいくらいだ。
手紙を眺めてニヤニヤし始めたカーティスを見て、ミーシャが首を傾げた。


「何かいい事でも書いてあったの?」

「はいっ!恋人……では、まだないんですけど、好きな人からでした!」

「あら。いいわねぇ」

「仕事が落ち着いたら家に来てくれるそうっす!」

「じゃあ、早く終わらせなきゃね。ふふっ。カーティス君にもついに春がきたのね」

「えへへへ」


カーティスは照れ臭くなって、頭をカシカシと掻いた。
ブライアンに今すぐ会いたいが、まずは目の前の仕事を終わらせなければ。ブライアンの手紙のお陰で、なんだか疲れが吹き飛んだ気がする。
ブライアンに早く会いたい。
カーティスは仮眠中のフリンも起こして、研究の最終確認作業へと入った。

翌日の昼休憩の時に、連絡蝶をブライアンに送った。休暇に入ったら、また連絡蝶を飛ばすという内容なのだが、一言だけ、勇気を出して書き加えた。
『貴方に早く会いたい』
書くかどうか、本当にすっごく悩んだ一言だが、思い切って書いてみた。
カーティスの正直な気持ちである。ブライアンと過ごす時間が、本当に好きだ。

カーティスはやる気満々で、報告書も含めた残りの仕事を頑張った。


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