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12:秘密の面会
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ナハトは待ち合わせの喫茶店に入り、キョロキョロと店内を見回した。待ち合わせの相手は既に来ていて、ナハトと目が合うと、ゆるく笑ってヒラヒラと手を振った。
ナハトは真っ直ぐに待ち合わせ相手がいるテーブルに向かい、対面の椅子に腰かけた。
待ち合わせの相手、ナハトの父親の1人であるクルーガが、いつもののほほんとした笑みを浮かべながら口を開いた。
「久しぶり。ナー」
「うん。久しぶりー。端末の写真見た?」
「見た見た。旅行いいねー。2人とも楽しそうだったね。僕もアイゼントと行きたいなぁ」
「アイ父さんも元気?」
「元気だよー。最近2人で一緒にちぎり絵教室に通い始めてね。暇さえあれば2人でちぎり絵してるんだ」
「わぁ!いいねぇ!どんなの描くの?」
「花が多いかな。あとは風景画とか」
「すごいねー。写真ないの?」
「あるよー。見る?」
「見るー」
クルーガが胸ポケットから端末を取り出した。
端末とは、遠隔地同士でも通話や文章のやり取りができ、更には写真を撮ったり送ったりもできる便利な魔導製品のことだ。広く普及しており、今時は子供でも普通に持っている。
クルーガに端末で撮った写真を見せてもらい、ナハトも旅行中に撮った写真を見せながら、土産話に花を咲かせた。
リーちゃんは自分の両親と一切連絡を取り合っていないが、ナハトはこっそり自分の両親と、リーちゃんの片方の父親であるピーターと定期的に端末で連絡を取り合っている。たまにだが、こうして直接会うこともある。まだ来ていないが、今日はピーターも来る予定だ。
暫くクルーガとお互いの近況も含めた世間話をしていると、背が高い、渋い男前が近づいてきた。リーちゃんの父親ピーターである。リーちゃんは見た目はピーターに似ている。きっとリーちゃんが老けたら、ピーターのような渋い色気のある男になるのだろう。ちなみにリーちゃんの性格はピーターの伴侶のガンドに似ている。意地っ張りなところとか。
「ピーターおじさん。久しぶりー」
「久しぶり。ナー君。旅行の写真、ありがとな。2人とも楽しそうでよかったよ」
「本当にすっごい楽しかったよー!」
「リーが喜んでるのが丸分かりな写真ばっかりだった」
「リーちゃん、嬉しいと顰めっ面するもんね。分かりやすくて可愛いよねー」
「だよねー。クルー父さん、分かってるー」
「そりゃ赤ちゃんの頃から知ってるものー」
ナハトはクルーガと顔を見合わせて笑った。そんな2人に、ピーターが穏やかな嬉しそうな笑みを浮かべた。
「リーは元気かな?」
「元気だよー。お店で近々新作の料理を出すらしいんだけど、リーちゃんがそれを任されたんだって。家でも楽しそうに試行錯誤してるよ」
「そうか。それはよかった」
ピーターが嬉しそうに笑った。リーちゃんと性格がよく似ているガンドとは違い、ピーターはリーちゃんと大喧嘩した後、すぐに和解しようと、こっそりナハトに連絡をしてきた。ガンドもリーちゃんの夢や考えを頭ごなしに否定したことを後悔しているようだが、意地っ張りな性格が邪魔をして、素直に謝れないらしい。ピーターは意地っ張りで少し捻くれているガンドの性格もリーちゃんの性格もよく分かっているので、お互いの気持ちが落ち着くまで静観をしている。似た者親子2人の意地っ張り加減は中々なものなので、未だに和解はしていない。
ピーターはナハトを通して、こっそりリーちゃんの様子を覗っている。ナハトは、リーちゃんにはないしょで、こっそりピーターに協力している。ピーターが喧嘩したことを本気で後悔して、ずっとリーちゃんのことを心配しているのが分かるからだ。リーちゃんとの大喧嘩の後に連絡してきた時は、ナハトはピーターにとても怒った。多分それまでの人生で1番怒った。誰かに怒鳴ったのは、後にも先にもあの時だけだ。ピーターが本当に反省して後悔しているようだったので、こっそりリーちゃんの様子を知りたいピーターに協力してあげることにしたが、リーちゃんを悲しませて泣かせたことを、実は未だに許していない。ナハトは割と根に持つ方である。
とはいえ、口には出さないけれど、リーちゃんも自分の両親のことを気にしているのは薄々分かっている。意地っ張り同士がいつか和解してくれたら、ナハトも嬉しい。
送っていない端末の写真を見せると、ピーターが本当に嬉しそうに目を輝かせた。ナハトはリーちゃんとの旅行の思い出話をピーターに話して聞かせた。
話が一段落すると、クルーガが珈琲を飲みながら、のんびりとした口調で突然爆弾を落としてきた。
「ナー。いつリーちゃんと結婚するの?」
「ん!?しないよ!?」
「何年同棲してるのさ。この際だから入籍しちゃいなよ。ねぇ、ピーター」
「そうだな。……リーはガンドに似て、ちょっと面倒くさい性格をしてるから、しっかりしてるナー君がもらってくれると安心だ」
「えぇ……」
「ナー、リーちゃんのこと好きでしょ?」
「好きだよ?」
ナハトはクルーガの問いかけに即答した。ナハトがリーちゃんのことを好きなのは、小さい頃から当たり前のことである。今更何を聞くのだろうか。
「じゃあ、結婚しちゃいなよ。2人共もう28じゃない。友達夫婦ってやつもいいと思うよ。正直言うと、孫がほしいと思ってた時期もあるけどさ。僕もアイゼントも君達が笑って暮らしてくれたら、それでいいんだよね」
「ナー君。リーは筋金入りの意地っ張りだから、絶対に自分から君を欲しいとは言わないと思うんだ。ナー君の方から、いっそ押し切っちゃってくれないか?」
「うえっ!?そ、そう言われても……」
「ナー君にだったら、安心してリーを任せられるんだ。リーも小さな頃からナー君大好きだし。間違いなく今も大好きだし」
「そ、そう、かな?」
「そうだよ。写真を見れば分かる。というか、リーがずっとナー君から離れないのが証拠みたいなものだろう?」
「あー……うーん……」
「ナー。考えといてね。僕達は君達2人の結婚に大賛成だから」
「俺もだ。下心を言えば、結婚を機にリーと和解したい。本当に、ガンドもリーも意地っ張り過ぎだ。まさか10年以上拗れたままになるとは、正直思ってなかった」
「ガンドとリーちゃんだもの。しょうがないよ。ピーター。ていうか、ガンドの面倒くさい性格も可愛いと思ってるんでしょ?」
「そうじゃなかったら結婚して子供までつくらないな」
「だよね」
「そういうものなの?」
「あぁ」
ナハトは困った。クルーガもピーターも、ナハトとリーちゃんの結婚を望んているらしい。リーちゃんのことは大好きだ。もし、仮にナハトが別の誰かと結婚しても、優先順位はリーちゃんが1番のままで変わらない気がする。ナハトにとっては、リーちゃんの側にいることが当然で、自然なことだ。
改めて考えてみると、リーちゃんはどう思っているのだろうか。嫌われてなんかいない。むしろ、かなり好かれていると思う。断言してもいい。リーちゃんをずっと側で見てきたから、ナハトには分かる。夫婦になったら、堂々と、死ぬまでずっと2人で一緒にいられる。それはかなり魅力的だ。
リーちゃんと結婚するだなんて、考えたことがなかった。結婚すれば、書類上でも実生活でも、リーちゃんがナハトだけのものになる。どうしよう。めちゃくちゃ魅力的ではないか。
リーちゃんはキレイな男前だからモテる。告白されても本人が即答で断るので恋人ができたことはないが。
チビで太っている普通顔のナハトはリーちゃんと釣り合っていないと、リーちゃんのことを好きな人に絡まれたことは1度や2度じゃない。それでもナハトはリーちゃんが好きだし、リーちゃんが許してくれる限り、側にいる気満々だ。
首を傾げて少し考えたナハトは、期待に満ちた目で見つめてくるクルーガとピーターに頷いた。
「リーちゃんに言ってみる」
「おぉ!ありがとう!ナー君!リーは君以外じゃダメなんだよ。きっと」
「そうかな?」
「そうだよ」
「……えへ」
ピーターの後押しのような言葉がなんとも嬉しい。
ナハトは『リーちゃん幸せ計画』を考えることにした。いかにリーちゃんを幸せにするかという大事な計画になる。残りの人生をかけて、リーちゃんを世界で1番幸せな男にしたい。ちょっとした切欠で、壮大過ぎる夢ができてしまった。
夢を叶える第一歩を踏み出すところから始めなければ。
思い立ったが吉日である。
リーちゃんに早速今夜プロポーズするところからスタートだ。
ナハトは密かに燃え始めた。
ナハトは真っ直ぐに待ち合わせ相手がいるテーブルに向かい、対面の椅子に腰かけた。
待ち合わせの相手、ナハトの父親の1人であるクルーガが、いつもののほほんとした笑みを浮かべながら口を開いた。
「久しぶり。ナー」
「うん。久しぶりー。端末の写真見た?」
「見た見た。旅行いいねー。2人とも楽しそうだったね。僕もアイゼントと行きたいなぁ」
「アイ父さんも元気?」
「元気だよー。最近2人で一緒にちぎり絵教室に通い始めてね。暇さえあれば2人でちぎり絵してるんだ」
「わぁ!いいねぇ!どんなの描くの?」
「花が多いかな。あとは風景画とか」
「すごいねー。写真ないの?」
「あるよー。見る?」
「見るー」
クルーガが胸ポケットから端末を取り出した。
端末とは、遠隔地同士でも通話や文章のやり取りができ、更には写真を撮ったり送ったりもできる便利な魔導製品のことだ。広く普及しており、今時は子供でも普通に持っている。
クルーガに端末で撮った写真を見せてもらい、ナハトも旅行中に撮った写真を見せながら、土産話に花を咲かせた。
リーちゃんは自分の両親と一切連絡を取り合っていないが、ナハトはこっそり自分の両親と、リーちゃんの片方の父親であるピーターと定期的に端末で連絡を取り合っている。たまにだが、こうして直接会うこともある。まだ来ていないが、今日はピーターも来る予定だ。
暫くクルーガとお互いの近況も含めた世間話をしていると、背が高い、渋い男前が近づいてきた。リーちゃんの父親ピーターである。リーちゃんは見た目はピーターに似ている。きっとリーちゃんが老けたら、ピーターのような渋い色気のある男になるのだろう。ちなみにリーちゃんの性格はピーターの伴侶のガンドに似ている。意地っ張りなところとか。
「ピーターおじさん。久しぶりー」
「久しぶり。ナー君。旅行の写真、ありがとな。2人とも楽しそうでよかったよ」
「本当にすっごい楽しかったよー!」
「リーが喜んでるのが丸分かりな写真ばっかりだった」
「リーちゃん、嬉しいと顰めっ面するもんね。分かりやすくて可愛いよねー」
「だよねー。クルー父さん、分かってるー」
「そりゃ赤ちゃんの頃から知ってるものー」
ナハトはクルーガと顔を見合わせて笑った。そんな2人に、ピーターが穏やかな嬉しそうな笑みを浮かべた。
「リーは元気かな?」
「元気だよー。お店で近々新作の料理を出すらしいんだけど、リーちゃんがそれを任されたんだって。家でも楽しそうに試行錯誤してるよ」
「そうか。それはよかった」
ピーターが嬉しそうに笑った。リーちゃんと性格がよく似ているガンドとは違い、ピーターはリーちゃんと大喧嘩した後、すぐに和解しようと、こっそりナハトに連絡をしてきた。ガンドもリーちゃんの夢や考えを頭ごなしに否定したことを後悔しているようだが、意地っ張りな性格が邪魔をして、素直に謝れないらしい。ピーターは意地っ張りで少し捻くれているガンドの性格もリーちゃんの性格もよく分かっているので、お互いの気持ちが落ち着くまで静観をしている。似た者親子2人の意地っ張り加減は中々なものなので、未だに和解はしていない。
ピーターはナハトを通して、こっそりリーちゃんの様子を覗っている。ナハトは、リーちゃんにはないしょで、こっそりピーターに協力している。ピーターが喧嘩したことを本気で後悔して、ずっとリーちゃんのことを心配しているのが分かるからだ。リーちゃんとの大喧嘩の後に連絡してきた時は、ナハトはピーターにとても怒った。多分それまでの人生で1番怒った。誰かに怒鳴ったのは、後にも先にもあの時だけだ。ピーターが本当に反省して後悔しているようだったので、こっそりリーちゃんの様子を知りたいピーターに協力してあげることにしたが、リーちゃんを悲しませて泣かせたことを、実は未だに許していない。ナハトは割と根に持つ方である。
とはいえ、口には出さないけれど、リーちゃんも自分の両親のことを気にしているのは薄々分かっている。意地っ張り同士がいつか和解してくれたら、ナハトも嬉しい。
送っていない端末の写真を見せると、ピーターが本当に嬉しそうに目を輝かせた。ナハトはリーちゃんとの旅行の思い出話をピーターに話して聞かせた。
話が一段落すると、クルーガが珈琲を飲みながら、のんびりとした口調で突然爆弾を落としてきた。
「ナー。いつリーちゃんと結婚するの?」
「ん!?しないよ!?」
「何年同棲してるのさ。この際だから入籍しちゃいなよ。ねぇ、ピーター」
「そうだな。……リーはガンドに似て、ちょっと面倒くさい性格をしてるから、しっかりしてるナー君がもらってくれると安心だ」
「えぇ……」
「ナー、リーちゃんのこと好きでしょ?」
「好きだよ?」
ナハトはクルーガの問いかけに即答した。ナハトがリーちゃんのことを好きなのは、小さい頃から当たり前のことである。今更何を聞くのだろうか。
「じゃあ、結婚しちゃいなよ。2人共もう28じゃない。友達夫婦ってやつもいいと思うよ。正直言うと、孫がほしいと思ってた時期もあるけどさ。僕もアイゼントも君達が笑って暮らしてくれたら、それでいいんだよね」
「ナー君。リーは筋金入りの意地っ張りだから、絶対に自分から君を欲しいとは言わないと思うんだ。ナー君の方から、いっそ押し切っちゃってくれないか?」
「うえっ!?そ、そう言われても……」
「ナー君にだったら、安心してリーを任せられるんだ。リーも小さな頃からナー君大好きだし。間違いなく今も大好きだし」
「そ、そう、かな?」
「そうだよ。写真を見れば分かる。というか、リーがずっとナー君から離れないのが証拠みたいなものだろう?」
「あー……うーん……」
「ナー。考えといてね。僕達は君達2人の結婚に大賛成だから」
「俺もだ。下心を言えば、結婚を機にリーと和解したい。本当に、ガンドもリーも意地っ張り過ぎだ。まさか10年以上拗れたままになるとは、正直思ってなかった」
「ガンドとリーちゃんだもの。しょうがないよ。ピーター。ていうか、ガンドの面倒くさい性格も可愛いと思ってるんでしょ?」
「そうじゃなかったら結婚して子供までつくらないな」
「だよね」
「そういうものなの?」
「あぁ」
ナハトは困った。クルーガもピーターも、ナハトとリーちゃんの結婚を望んているらしい。リーちゃんのことは大好きだ。もし、仮にナハトが別の誰かと結婚しても、優先順位はリーちゃんが1番のままで変わらない気がする。ナハトにとっては、リーちゃんの側にいることが当然で、自然なことだ。
改めて考えてみると、リーちゃんはどう思っているのだろうか。嫌われてなんかいない。むしろ、かなり好かれていると思う。断言してもいい。リーちゃんをずっと側で見てきたから、ナハトには分かる。夫婦になったら、堂々と、死ぬまでずっと2人で一緒にいられる。それはかなり魅力的だ。
リーちゃんと結婚するだなんて、考えたことがなかった。結婚すれば、書類上でも実生活でも、リーちゃんがナハトだけのものになる。どうしよう。めちゃくちゃ魅力的ではないか。
リーちゃんはキレイな男前だからモテる。告白されても本人が即答で断るので恋人ができたことはないが。
チビで太っている普通顔のナハトはリーちゃんと釣り合っていないと、リーちゃんのことを好きな人に絡まれたことは1度や2度じゃない。それでもナハトはリーちゃんが好きだし、リーちゃんが許してくれる限り、側にいる気満々だ。
首を傾げて少し考えたナハトは、期待に満ちた目で見つめてくるクルーガとピーターに頷いた。
「リーちゃんに言ってみる」
「おぉ!ありがとう!ナー君!リーは君以外じゃダメなんだよ。きっと」
「そうかな?」
「そうだよ」
「……えへ」
ピーターの後押しのような言葉がなんとも嬉しい。
ナハトは『リーちゃん幸せ計画』を考えることにした。いかにリーちゃんを幸せにするかという大事な計画になる。残りの人生をかけて、リーちゃんを世界で1番幸せな男にしたい。ちょっとした切欠で、壮大過ぎる夢ができてしまった。
夢を叶える第一歩を踏み出すところから始めなければ。
思い立ったが吉日である。
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