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7:リーちゃんの誕生日旅行①

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昼休憩の時間になり、ナハトは店内から休憩室へと移動した。
季節はすっかり夏である。サンガレアの夏は、湿度も気温も高くて蒸し暑い。店内は空調がきいているが、それでも忙しく動き回れば汗をかく。ナハトは休憩室に入るなり、首に滲んだ汗をタオルで拭いた。
少し先に休憩していた店員のブラームが、ナハトに声をかけてきた。


「副店長。旅行のお土産がありますよ」

「わぁ!ありがとうございます」

「ガレーバ名物のチーズのクッキーです。試食したら美味しかったから、自分達の分まで買っちゃいましたよ」


ブラームは昨日まで1週間休みをとり、家族旅行に行っていた。ナハトは旅行なんてしたことがない。憧れるが、中々行く機会がない。


「ガレーバって、確かバーバラより南にある町でしたっけ?」

「そうですよ。バーバラもちょっと観光しましたけど、いい所でしたよ。ガレーバも静かで落ち着いた雰囲気の町で、すごくゆっくりできました。近くの森を散策したり、小川に行ったり。あと宿の部屋に温泉の内風呂がついていて。上げ膳据え膳の贅沢な旅になりました。いやぁ、楽しかったですよ。家内も子供達も大喜びでした」

「いいですねー。僕、旅行ってしたことがないです」

「ガレーバは本当にオススメですよ。あ、副店長はお土産2個どうぞ」

「え?いいんですか?」

「彼氏さんと一緒に召し上がってくださいよ」

「あ~ははっ。彼氏ではないんですけどね」

「副店長、昔からそう言いますよね。ずっと同棲してるのに」

「幼馴染みですよ」


話しながら、ナハトはお弁当を開け、食べ始めた。可愛らしい柄の色紙で包まれたクッキーを2つ貰い、忘れないように鞄に入れてから。リーちゃんにいいお土産ができた。チーズのクッキーなんて少し珍しい。チーズはリーちゃんも好きだから、きっと喜ぶ。
今日も美味しいお弁当を食べながら、ナハトはふと思い立った。壁に貼られたカレンダーを見れば、あと2週間程でリーちゃんの誕生日がくる。いつもは、少し高めの店で美味しいものを食べるだけだ。家が狭いので、収納に困るから物をあげることはしない。旅行はどうだろうか。流石に急に1週間も休めないからガレーバまでは行けないが、バーバラくらいなら乗り合い馬車に乗って、移動時間は片道1日で行ける。バーバラとの間にある小さな町だったら、もっと短い時間で行けるだろう。旅行が好きで、近場によく旅行に行っているブラームなら、いい所を知っているかもしれない。
ナハトは休憩時間中、ブラームに話を聞いて、情報を収集した。






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疲れて自宅に帰り着くと、ふにゃっとしたいつもの笑顔の馬鹿に出迎えられる。今日は帰りが遅い日なので、夕食は朝のうちに作って魔導冷蔵庫に入れてあった。リオールが手洗いをしている間に、馬鹿がおかずを魔導レンジで温めてくれた。
待たなくていいと言っているのに、馬鹿はいつもリオールの帰りを待って一緒に夕食を食べる。仕事で疲れているのだから、リオールを待たずに、先に食べてゆっくり休んでいればいいのに。馬鹿である。面倒くさい性格のリオールと一緒にいる時点で馬鹿は馬鹿だ。
馬鹿が目を輝かせて、口の中のものを飲み込んでから口を開いた。


「リーちゃん。リーちゃんの誕生日、今年は旅行に行こう」

「は?行かねぇ」

「職場の人からいいお宿を教えてもらえたんだ。パルームって町なんだけど、養蜂が盛んで美味しい蜂蜜が食べられるんだって!」

「……行かねぇ」

「パルームまでは乗り合い馬車で3時間くらいで行けるから、2泊3日でお宿の予約しとくね」

「行かねぇって言ってるだろ」

「僕はリーちゃんと旅行してみたいもの。絶対に楽しいよ!」


にこーっと笑った馬鹿に、リオールは言葉に詰まった。リオールの両親は仕事が忙しかったので、リオールは旅行なんてしたことがない。記憶にある限り、馬鹿も家族旅行なんてしたことがない筈だ。馬鹿と旅行に行ってみたい。近場の初めて行く場所も、馬鹿と一緒なら楽しそうだ。頷きたいが、素直に頷けない。けれど馬鹿は宿の予約をする気満々である。有耶無耶のうちに旅行に行くことが決定した。


「リーちゃん、なんとか休みをもらってきてね」

「……無理だったら諦めろよ」

「リーちゃんは普段決まったお休み以外じゃお休み取らないから多分大丈夫だよ。僕はもう店長に話してお休みもらえたんだ。明後日は僕お休みだから、旅行用の服を買ってくるね」

「……行く前から散財してどうすんだよ。馬鹿」

「いいじゃなーい。旅行なんて初めてだもの!ワクワクするねぇ。リーちゃん」

「……そうかよ」


胸がそわそわと落ち着かなくなる。リオールは顔が弛まないように、ぐっと眉間と口元に力を入れた。今年の誕生日は馬鹿と旅行だ。嬉しい。表に出したくないが、今から楽しみで仕方がない。
リオールは食後のお茶を飲みながら、馬鹿に見えないように、こっそり口角を上げた。
明日は朝一番に休みを申請しなくては。リオールはそわそわしてしまわないように気をつけながら、何食わぬ顔でお茶を飲みきった。

リオールが食事を作ってくれるからと、夕食の後片付けはいつも馬鹿がやってくれる。馬鹿が食器を洗っている間にシャワーを浴びる。どうしよう。時間が経つにつれ、本当に楽しみ過ぎて落ち着かなくなってきた。馬鹿がリオールの為に色々調べてくれたようだし、リオールの誕生日を祝ってくれるのが心底嬉しい。
リオールはシャワーを浴びながら、無意識のうちにペニスや尻を重点的に洗っていた。そわそわする。明日は2人とも仕事だが、今すぐ馬鹿とセックスがしたい。

リオールはそわそわと落ち着かないまま、身体と頭をタオルで拭いて、一応寝間着を着てから風呂場の狭い脱衣所から出た。下手くそな鼻歌を歌いながら後片付けを終えた馬鹿が交代で風呂場に入っていく。
今夜、馬鹿を襲うか、否か。
悩ましい難題に、リオールは眉間に皺を寄せながらベッドに腰かけて、早風呂の馬鹿が出てくるのを待った。

結果、翌日は寝不足と腰の怠さに、時折低く唸りながら仕事をする羽目になった。


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