婚活男の理想の結婚

丸井まー(旧:まー)

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74:カールの『家族』

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「メンテちゃ~ん。こっち向いて」
「うぐぅ?」チラッ
「はっはっは。メンテ、パパを見て御覧」
「あぐぅ?」チラッ
「メンテちゃん」「メンテー」


 両親が僕を呼んでいます。ハイハイで近づきましょう。


「はっはっは、間違いないな」
「フフッ、そうね」
「あぐ~?」


 二人で何を話しているのでしょう?


「メンテって自分のこと呼ばれると反応するようになったな」
「最近は名前を呼ぶだけでこっちに来るわよ」
「言葉を理解してきたんだな」
「体は小さいけど成長してきたわね」


 おっと、どうやら僕が言葉を分かってきたと思っているようです。実際は生まれてからすぐに理解していましたよ。これは秘密です。

 ここは成長してきたと思わせましょう。自然に覚えたんだよとすれば普通の赤ちゃんですよね。


「最初にしゃべる言葉は何かしらね。きっと”ママ”よね」
「いやいや、そこは”パパ”だと思うな」
「何を言っているのかしらね。アニーキ―もアーネもママが最初だったわよ」
「今度こそパパになるよ。何しろメンテはパパっ子だからな」
「はっはっはっはっは!」「フフフフフッ」
「……んぐぅ」


 お、おう。これは大変なことになりましたよ。

 ”こんにちは”とか”おはよう”みたいに挨拶を言えばいいやと思っていました。僕のはじめての言葉は慎重に選ばなければなりませんね。う~ん、困りました。


 ◆


 次の日。僕と兄貴ことアニーキ―はお互いにお座りをしながら向かい合っていた。


「アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―」
「……うぐぅ」


 兄貴は僕に向かって自分の名前を連呼します。頭がおかしくなったのでしょうか?


「”うぐぅ”じゃないよ。アニーキ―だよ!」
「あうー」
「違うよ。アニーキ―!」
「……えぐぅ」


 ちょっとスパルタ気味なところは母にそっくりです。


「お兄ちゃん何してるのー?」
「メンテが名前を理解出来てるって父さんと母さんが言ってたんだ。だから俺の名前を覚えて欲しいから覚えさせているんだよ」
「へえ~、そうなんだ」


 そうなんですか。昨日の出来事を兄貴が知ってしまったようです。初めての言葉をどうしようか悩んでいたら噂も広まっていたのですね。僕は兄貴の頭が大丈夫かと心配してしまいましたよ。ちょっと損した気分だね。


「わたしもやっていいー?」
「いいよ」
「えへへ、メンテ覚えてね。アーネ、アーネ、アーネ、アーネ、アーネ」
「俺も続けるよ。アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―」
「あぐぅ……」


 二人ともごめんね。僕は九官鳥じゃないの。どうすればいいのかわからないので様子をじっと窺います。


「わたしはアーネ。あなたもアーネよ。いい? あなたはアーネなの」
「えぐぅ?」


 だんだんとアーネが、お人形遊びで僕を叱っているときのしゃべり方になっていきます。いつも人形で遊ぶたびに僕役の人が怒られるのですよ。それと理由は分かりませんが、僕はアーネらしいです。あきらかに僕に嘘を教えていますね。僕赤ちゃんだけど言葉分かるんですよ。


「アーネ様、さすがに嘘は良ろしくないですよ」


 僕の言いたいことがカフェさんが伝えてくれました。さっきからずっとこちらの様子を見てたのですよ。彼女に任せましょう。


「えー? でも言葉覚えてほしいの」
「メンテ様にアーネと教えると、今後良くないことが起きるかもしれません」
「どうなるの?」
「メンテ様が大きくなったら、アーネ様の大好きなおやつを自分のだと勘違いして食べてしまいます」
「うん、わかったー。やめる」
「そ、そうだね。俺も嘘はダメだと思うなあ~」


 アーネはすぐにカフェさんの言うことを聞きましたね。食べ物の効果恐るべし。兄貴はアーネに名前を覚えさせたらと賛成した側なのでぎこちない感じの返事です。半分は俺のせいって分かっているようだ。僕は兄貴も止めて欲しいんだけどねえ。カフェさんが見えなくなったらまた再開しそう。子供ってそういうもんでしょ。


「あはっはははは、面白いこと考えたのね。そんなことしなくても勝手に覚えるわよ」


 たまたま様子を見ていたキッサさんが爆笑です。今日は、キッサさんとカフェさんの二人で僕たち兄弟の面倒を見てくれているのです。


「そうなの?」「本当に~?」
「赤ちゃんは言葉を自然に覚えるものよ。話しかけるのも大事だけど、しゃべれるようになるのはまだまだね」


 いや~、その通りだと思います。僕自然に覚えてないけどね!


「じゃあどうすればいいの?」「いつしゃべるの?」
「覚えてないかもしれないけど、あなた達も急にママってしゃべったんだから。それから少しずつ言葉を言えるようになったのよ。あれは何歳ぐらいだったかな?」
「確かお二人とも誕生日が終わってからでした。まだメンテ様は10ヶ月ですのでしゃべるのは難しいと思われますね」
「そうそう、誕生日の後だったわ。メンテくんの年齢じゃ言葉を少し理解し始めたぐらいよ。まだ自分の名前しか分かってないんじゃないかしら。無理に言わせるのではなく、話しかけるようにしてみたらどうかしら? その方が覚えてくれるんじゃないかな」
「「へえ~」」


 キッサさんのアドバイスは分かりやすいですね。子どもたちも納得していますよ。


「それならばこうですね。メンテ様、私はカフェですよ。カフェと呼んでくださいね。カフェカフェ♪」
「あ、俺もやる。俺はアニーキ―だよ。アニーキ―はメンテの兄のアニーキ―なんだよ。アーネの兄も俺アニーキーだよ」
「みんなずるーい。わたしはアーネ。アーネだよ! メンテのお姉ちゃんだよ!」


 さっきと比べるとたいぶマイルドになりました。3人とも僕に話しかけるように優しく自分の名前を教え込んでいきます。この中だとカフェさんが一番ノリノリな気がします。そのときです。


「みんなごはんよー」
「……えっぐ!(まじで!)」ぐわっ、ダダダダダダダッ!


 母の声が聞こえたので猛スピードでハイハイします。わーい、今日は何を食べるんだろうね! おっぱいも楽しみだよ~。


「「「「……」」」」


 残された一同はメンテがすごい勢いで振り向き、めちゃくちゃ速いスピードのハイハイでレディーに突進していく姿を見ていた。そのままレディーに抱っこされて食堂に行ってしまった。

 無言のままアニーキ―、アーネ、カフェの3人の視線がキッサに集まった。


「……ん~、レディーが呼んだから反応したんじゃないかな?」
「「「……」」」


 3人とも腑に落ちない顔になった。本当は言葉を理解してるんじゃないのかと言いたいが、メンテの年齢を考えるとどうなんだろうと疑問が生まれたのだ。じゃあ今何が起きたの? レディーにだけ反応しすぎじゃないかと。


「えっと……そ、そうねえ。言葉じゃなくて”声”の違いが判別できるようになったんじゃないかしら? メンテくんにとって母親の声が一番慣れているだろうし」
「「「……そうだね」」」


 3人とも少しだけ納得したような顔になったという。だが、真実はメンテにしか分からないのであった。

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みんなの感想(38件)

祭崎飯 代(さいさきいい よ)

完結おめでとうございまっする!
濃厚なエロ&ほのぼのとしたやり取りに、大変癒されましたー!
いつも努力し続けている登場人物たちを見て、
幸せな理想の生活を手に入れるには、
周囲の環境や協力だけでなく、本人の努力と工夫が大事だと、
学んだ気がしまっする!

素敵なお話を書ききって下さり、ありがとうございましたー!

丸井まー(旧:まー)
2023.04.11 丸井まー(旧:まー)

感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!

とても丁寧にお読み下さり、更には温かく素敵なお言葉までくださり、本当にありがとうございますーー!!(号泣)
お陰様で最後まで無事に完走できました!
ほっと一安心する反面、とても寂しいです。
私自身が読んで、ほっこりして、じわぁっと胸キュンして、疲れた心が癒やされる、そんな作品が読みたくて書き始めたものになります。
私の楽しい!と萌え!と性癖を詰め込めるだけ詰め込みつつ、非常に楽しく執筆いたしました!
お楽しみいただけて、本当に本当に嬉しいですし、感謝の気持ちで胸がいっぱいです!!

お読み下さり、本当にありがとうございました!!

解除
柿崎まつる
2023.04.08 柿崎まつる

完結おめでとうございます!!!
感動のフィナーレでした! 濡れ場もねっちょりとしてステキでした!
二人とも最初の家族とはうまくいかなくてそこからの出発だったのですが、最後は理想の家族を手に入れられて本当に良かったです! 素敵な物語をありがとうございました!!!

丸井まー(旧:まー)
2023.04.08 丸井まー(旧:まー)

感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!

嬉し過ぎるお言葉をくださり、本当にありがとうございますーー!!(泣)
無事に完結を迎えることができて、ほっとする反面、寂しい気持ちです。
私の楽しい!と萌えっ!と性癖を詰め込めるだけ詰め込んで、非常に楽しく執筆いたしました。
一緒に物語をお楽しみいただけて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

お読み下さり、本当にありがとうございました!!

解除
モスマンの娘

あぁぁ、終わってしまった。
毎日、二人がなかなかくっつかないのにヤキモキして、二人が離れたら離れたでヤキモキして!
だけど素敵すぎる家族にほんわかしながら、楽しませていただきました。
最終話で、そういえば婚活男の理想の結婚が題だったのを思い出しました。
カールは理想の家族を手に入れる理想の結婚ができたんですね!
本当に本当に、素敵なお話をありがとうございます。
まー様のネッチョリとした濡れ場も大好きです。(褒めてます)
まー様のちょっと胸が苦しくなるような終わり方も大好きです。

ただただ!今回だけは、そんな苦しい終わり方は、この話だけはありませんようにっと願ってやまなかったです。
本当にハッピーエンドをありがとうございます。
思いのままに書きなぐった乱文を失礼します。今後の作品も楽しみにさせていただいています。
頑張ってください

丸井まー(旧:まー)
2023.04.07 丸井まー(旧:まー)

感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!

無事に完結を迎えることができました。
ほっとする反面、寂しい気持ちです。
非常に楽しく執筆をしておりましたので、お楽しみいただけたのでしたら、何よりも嬉しいです!!
本当に!心の奥底から!ありがとうございます!!
嬉し過ぎて語彙力が死んでて駄目ですねー(汗) 
もっとちゃんと今の嬉しい気持ちと感謝の気持ちを上手くお伝えしたいのですけど、中々上手く言葉にできなくて、とてももどかしいです。

彼らの物語にお付き合いくださり、本当にありがとうございました!!

解除

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