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63:楽しい年末と誕生日パーティー

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カールはシェリーとリディオを連れて、マルクの家を訪れていた。今年も玄関飾りの作り方を教えてもらう。近所の子供達も来るので、この日はマルクの家はとても賑やかになる。
リディオはマルクにも懐いており、もし初等学校がリディオに合わない場合には、またマルクに家庭教師をお願いする予定である。セガールと結婚したことはもう言っていて、マルクも結婚式に来てくれる。アンナにも招待状を送ってある。2人とも、カール達の結婚を喜んでくれた。男同士の結婚はかなり少数派なので、カールの父親や兄のように『気持ち悪い』と言う者が多い。そんな中、手放しで本当に嬉しそうに祝福してくれた2人に、なんだか救われた気がした。
セガールと家族になりたいと思った時から、多少は世間から白い目で見られるのは覚悟していたが、真っ先に自分の親兄弟から『気持ち悪い』と言われたのが、存外堪えていたようである。

半日かけて、マルクの家で玄関飾りを作り、マルクの息子の嫁が焼いたというクッキーを皆でご馳走になってから、マルクの家を出た。玄関飾りを作るのが初めてだったリディオはとても楽しかったようで、ご機嫌である。玄関飾りを壊れないようにカールの鞄に入れると、カールはリディオを肩車して、シェリーと手を繋いだ。
年末は人が多くなり、いつもより治安が悪くなる。警邏隊や駆り出された海軍の者達が頑張っているが、スリなどの小さな犯罪や、押し込み強盗等が多発する時期だ。
カールは油断なく2人と美味しい定食屋に移動して、店内に入ると、リディオを肩から下ろした。
3人で違うメニューを頼み、分けっこして食べる。2人が食べ切れない分はカールが食べた。
お腹が膨れたら、今度はセガールの誕生日プレゼントを買いに行く。リディオにもお小遣いは渡してある。大した金額じゃないが、リディオは『パパとお父さんがよろこぶものを買う』と燃えている。まだ一緒に暮らし始めて短いのに、もう懐いてくれているリディオが大変可愛い。
シェリーの提案で、今年はシェリーとリディオ合同でプレゼントを買うことになった。多分、リディオの懐具合を配慮しての申し出だったのだろう。2人で一緒にプレゼントを選ぼうと、楽しそうに笑っている。


「今年は何にしようかしら。リディー。なにかアイデアはない?」

「あのね、腕に着けるやつ。ママがいつも着けてたよ。パパとお揃いだったんだって」

「採用。それでいきましょう。いいわよね?カール。じゃなかった。お父さん」

「いいよー。ちょっとした腕輪くらいなら邪魔にもならないし、航海中でも着けれるかな」

「「やった!」」

「じゃあ、今年は2人にお揃いの腕輪ってことで!」

「どこのお店で買うの?」

「んー。装飾品の専門店に行ってみるかしら。私は行ったことがないけど。カール。じゃなかった。お父さん。いいお店知らない?」

「知ってるよー。値段がピンキリで手頃なやつも売ってる店。ていうか、シェリー。言い慣れないなら、別に『カール』って呼んでくれてもいいけど」

「嫌よ。折角やっと家族になれたんだもの。意地でも『お父さん』って呼ぶわ。ずっと『カール』って呼んでたから、慣れるまでもうちょいかかりそうだけど」

「あはは。ありがと。じゃあ、お店に行きますか!」

「「はーい」」


大変よい子なお返事をしてくれたリディオを再び肩車して、シェリーと手を繋ぐ。装飾品専門店に到着すると、2人は真剣な顔で陳列してある腕輪を眺め始めた。


「リディーはどれがパパ達に似合いそうな気がする?」

「うんとねー、これ格好いい」

「あら。確かにいいわね。シンプルだけど、彫り物が細かくて模様がキレイだわ。……値段も手頃ね。これにする?」

「うん!」


早速決まったようで、2人は店員に声をかけ、プレゼント用に包装してもらった。2人の財布から金を出して会計をすると、プレゼントはシェリーの鞄の中に入れた。2人とも楽しそうで、大変可愛らしい。うちの子達マジ天使……と思いながら、今度はカールの買い物をする為に店を出た。
カールは、今年はセガールに最近発売されたらしい魔導髭剃りを買う予定である。なんでも、剃刀で剃るよりキレイに剃れて、時間もかからず、手入れも楽なんだとか。
魔導製品を売っている店に入ると、子供達が物珍しそうにキョロキョロと店の中を見回した。
人は誰しもが魔力を持っているが、実際に魔術を使える者は少ない。魔術を使うには、複雑過ぎる魔術理論を理解しないといけないので、保有魔力量が多く、魔術師になりたい者は、魔術師専門の学校に行く。一般人は基本的に魔術は使わず、魔術師や魔導具技師が作った魔導製品や魔導具を使っている。
カールもセガールも魔術は使えない。海軍には魔術師も一応いるが、数は少ない。魔術理論は本当に難解で、おまけに理解できてもセンスがないと使えるようにならないという、かなり癖のあるものなのだ。

カールはいくつかある魔導髭剃りを眺め、店員からそれぞれの性能の特徴等を聞き、セガールに贈る魔導髭剃りを選んだ。自分の分も買おうかと思ったが、一年の半分以上を海の上で過ごす生活をしているし、必要だったらセガールに借りればいいかと思い、自分の分は買わなかった。
シェリーとリディオは初めて訪れた魔導製品専門店が珍しいのか、2人で手を繋いで、店内をぐるぐる見て回っている。魔導洗濯機や魔導オーブン等は家にあるが、家にないものも結構ある。
プレゼント用に包装してもらっている間に、カールも2人と一緒に色んな魔導製品を眺めた。魔導除湿機なんかあったらいいと思う。雨が多い時期は洗濯物が乾かないので、今度セガールと相談してから買おうと決めた。

プレゼントの用意はできた。あとは数日後の誕生日パーティーの日まで、セガールに内緒で隠しておく必要がある。
カールは子供達と一緒に家に帰ると、子供達の部屋のベッドの下に、紙袋に入れたプレゼントを隠した。
3人で当日まで内緒だと約束してから、お揃いのエプロンを着けて、洗濯物を取り込む。
カールとセガールの合同誕生日パーティーが本当に楽しみだ。




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アンナに新年の祝い菓子の作り方を教えてもらった翌日。ついにセガールの誕生日がやって来た。
カールは洗濯物を畳み終えると、セガールの退勤時間に合わせて、子供達を連れて家を出た。
リディオは肩車がお気に入りなので、肩車をしてやり、シェリーとは手を繋いで丘を下りて街に向かう。海軍の建物の入り口あたりでセガールを待っていると、少し慌てた様子のセガールが出てきた。


「すまん。少し遅くなった。寒かったろう」

「平気よ。今日はそんなに寒くないもの」

「大丈夫だよ。ねー。お父さん」

「なー。お疲れ様です。セガールさん」

「ありがとう。早速『至福亭』に行くか」

「「「はぁい」」」


リディオを肩車したまま、シェリーを真ん中に手を繋ぎ、『至福亭』へと移動した。『至福亭』の2階の個室に入り、それぞれ好きな飲み物や料理を選ぶ。今年もケーキを予約済みである。
先に運ばれてきた飲み物で乾杯をしてから、賑やかな時間が始まった。リディオが新年の祝い菓子を作ったことを一生懸命お話ししてくれるのを、セガールが優しい顔で聴いている。シェリーも時折口を挟みながら、楽しそうに笑っている。
なんか幸せー、と思いながら、カールも会話に参加して、酒を片手に、わちゃわちゃと賑やかにお喋りを楽しんだ。
料理が運ばれてくると、皆で食べさせ合いっこをして美味しい料理を楽しみ、デザートのケーキもしっかり美味しくいただくと、いよいよプレゼント交換の時間である。
まずは子供達からということで、2人からプレゼントを貰った。カールはセガールとお揃いの腕輪を早速着け、ニヤニヤとだらしなく笑った。嬉しくて本当に堪らない。来年はセガールとお揃いの装飾品を買ってもいいかもしれない。セガールも嬉しそうに早速腕輪を着けていた。シンプルなデザインなので、仕事中に着けていても邪魔にはならないだろう。カールは改めて子供達にお礼を言って、セガールと一緒に2人の頬にキスをした。
カールが贈った魔導髭剃りも、セガールはとても喜んでくれた。早速明日の朝から使うと、嬉しそうに笑っている。セガールの笑顔が見れただけで、なんかもう大満足である。

最後にセガールから渡されたプレゼントを開けて、カールは驚いて目を見開いた。小さな箱には、二つの指輪が入っていた。一つを取り出してみれば、指輪の裏の方にカールとセガールの名前が刻んである。
セガールが照れくさそうに笑った。


「揃いの指輪にしたんだ。守護の魔術がかけられたもので、お前の身を守ってくれるだろう」

「……ありがとうございます!!」


カールの身を案じてくれるセガールの心遣いが嬉しいし、2人お揃いというのもすごく嬉しい。
カールはだらしなく頬を緩めて、セガールの左手をとり、セガールの中指に指輪を嵌めた。セガールに言われて箱ごと指輪を渡せば、今度はセガールがカールの左手をとり、左手の中指に指輪を嵌めてくれた。指輪はピッタリとカールの指に馴染んだ。おそらく、そういう魔術がかけられているのだろう。かなり高価なものだと思うが、セガールの気持ちが嬉しくて、本当に堪らない。
カールはセガールと一瞬触れるだけのキスをして、指輪を眺めて、だらしなく笑った。

帰る途中でおねむになったリディオを抱っこして、4人で丘の上の家に帰る。
シェリーが軽やかな足取りで、楽しそうに笑った。


「来年も楽しみだわ!リディーの誕生日は秋の終わりよね?その時にお父さんが帰ってきてるといいんだけど」

「んー。半年航海からは帰ってきてるけど、短期の航海に出る可能性があるかなぁ」

「まぁ、船乗りとしては、今が一番忙しい年頃だからな。仕方あるまい」

「ですよねー。身体が動かなくなるまで船から降りる気無いし。俺」

「お父さんがいないと寂しいけど、お父さんにとってはそれが生き甲斐だものね。大人しく待ってるから、ちゃんと帰ってきてよね」

「もっちろん!俺の家はここだもん」

「うん!」

「あぁ」


カールはニッと笑って、シェリーと繋いだ手をゆるく振った。セガールもシェリーも嬉しそうに笑っている。ぐっすり寝ているリディオの温かい軽い重みが愛おしい。
カールの家族はここにいる。
カールは嬉しくて嬉しくて、だらしなく頬を緩めっぱなしのまま、皆の家に帰った。

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