婚活男の理想の結婚

丸井まー(旧:まー)

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61:新たな家族の年末の始まり

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いよいよ年の瀬が近づいてきた。
カールは今日が仕事納めである。内勤よりも少し早いが、年明け半月後には、約半年の航海に出るので、結婚式もあるし、年越し前後合わせて半月の休みが貰えた。
シェリーも冬季休みに入り、毎日リディオと一緒に本を読んだり、広い庭で遊んだりして過ごしている。リディオは一度熱を出したが、軽い風邪と慣れない環境のせいだろうとのことで、2日で熱は下がった。リディオは順応性が高いのか、もう家族の一員として馴染んでくれている。
魚が好きで、カールが魚を焼くと、本当に嬉しそうに食べてくれる。リディオは食欲旺盛で、もりもり食べてくれる。リディオにつられてか、最近シェリーが前よりも食べるようになってくれたので、嬉しい変化である。

カールは足取り軽く夕食の買い物をしてから丘の上の家に帰った。

リディオを迎えた翌週に、家族全員を連れてカールの実家に行ったが、見事に父親と殴り合いの喧嘩になった。曰く、『海軍なんぞに入りやがった上に男と結婚だぁ!?ありえねぇんだよ!きめぇわ!馬鹿息子!』と。カールはその言葉にカチンときて、『俺の家族を侮辱してんじゃねぇぞ!クソ親父!』と返した。そこからは、いつもの殴り合いである。
もういい歳の癖して中々重い拳を振るってくる父親と手加減しながら殴り合い、ついでに兄とも殴り合って、母親にはまた泣かれ、しょっぱい気持ちで結婚式の招待状を父親に叩きつけて、家を出た。
セガール達は驚いていて、子供達は少し怯えてセガールの背中に隠れていた。
カールは帰りながら、3人に謝った。
和解できたらよかったのだろうが、これは無理だ。カールの家族はセガール達だけでいい。セガール達さえいてくれたら、何がなんでも生きて帰ってやるという気になる。
結婚式にも誰も来ないだろう。それならそれで、別に構わない。セガール達を否定する家族なんか家族じゃない。
カールは完全に吹っ切れて、逆に清々した気分で4人の家に帰った。

家に帰り着くと、シェリーとリディオがお揃いの魚のエプロンを着けて、洗濯物を取り込んでくれていた。
カールは2人が可愛らしくて、思わず笑みを浮かべた。


「ただいまー」

「「おかえりー」」

「すぐに着替えてくるわ。俺も一緒にやるから」

「はーい」

「カール。じゃなかった、お父さん。今日からパパは遅くなるのよね?」

「そう。セガールさんがついに修羅場期間に突入しちゃったからね。暫くは俺達でご飯作るよー」

「パパ、帰ってこないの?」

「帰ってくるけど、リディーが寝た後になるかなぁ。朝には会えるよ。疲れが吹っ飛ぶような、美味しい晩飯を作ってやろうぜ」

「うん!」

「分かったわ。パパの誕生日は、今年も『至福亭』でしょ?」

「そ。誕生日プレゼントを買いに行かなきゃな。明日からは俺が休みだから、明日の午前中は、まずは計画表作りからだぜ」

「やったわ!ふふっ。楽しみー」

「けいかくひょう?お姉ちゃん。なにそれ?」

「やりたいことを大きな紙に書いていくのよ。パパの誕生日も近いし、楽しいことがいっぱいあるわよ」

「やったぁ!」


はしゃぐ子供達が本当に可愛い。カールはだらしなく顔をゆるめて、2人の頬に順番にキスをすると、大急ぎで家の中に入り、部屋で軍服から私服へと着替えた。魚のエプロンを着けて、急いで階下に下りると、洗濯物は全て取り込んであった。
3人でお喋りをしながら、洗濯物を畳んでいく。リディオはタオル担当で、シェリーはシャツ担当、カールはズボンと下着類の担当である。もう少ししたら、シェリーがリディオにシャツの畳み方を教える予定である。

洗濯物を畳み終え、それぞれの部屋に畳んだ服を持っていったら、夕食の支度の始まりである。
リディオにもお手伝いしてもらう。葉っぱを千切るだけの簡単なサラダを作ってもらったり、シェリーと一緒にパンにバターを塗ってもらう。今夜は焼き魚とサラダ、南瓜のスープにガーリックトーストである。疲れて帰ってくるセガールに美味しいものを食べさせたい。
カールは子供達とわちゃわちゃお喋りしながら、気合を入れて夕食を作った。

3人でお喋りをしながら夕食を食べ、3人で後片付けをすると、カールはリディオと風呂に入った。リディオが、カールの身体の古傷に怯えないでいてくれたのがありがたい。少し前に玩具の船を買ってやったら、リディオはすごく喜んで、風呂に入る度に玩具の船で遊んでいる。
今日も頭と身体を洗って湯船に浸かると、玩具の船をお湯に浮かべて、リディオが嬉しそうに笑った。


「お父さんもお舟に乗ってるんでしょ」

「そうだよ。『セドリア号』って名前の船」

「見てみたい」

「んー。じゃあ、明日の午前中に計画表を作ってから、午後は港に行くか。ちょうど船のメンテナンスをやってるだろうし」

「やったぁ!」

「船も好き?」

「すきー。格好いい」

「ははっ!だよな!」


カールは茹だらない程度にリディオと玩具の船で遊ぶと、浴槽から出て、リディオの身体を拭いてやり、自分の身体も拭いて、パジャマを着た。リディオは着替えは普通に自分で出来る。
ほこほこの身体で手を繋いで居間に行くと、本を読んでいたシェリーが交代で風呂に入りに行った。リディオが、ホットミルクはシェリーと一緒に飲みたいと言うので、シェリーが風呂から出るまで、小さなリディオを膝に乗せて、絵本を読んでやる。リディオはもう字が読めるのだが、人に読んでもらうのも好きだ。母親が亡くなるまでは、毎晩絵本を読んでくれていたらしい。

カールがリディオに絵本を読んでやっていると、シェリーが風呂から出てきた。
3人分のホットミルクを作り、一人2枚ずつのジャムクッキーをお供に、ホットミルクを飲む。
明日の午前中に作る計画表の話をしていると、あっという間に子供達が寝る時間になった。
寝る時は、いつもシェリーがリディオに絵本を読んでやっている。そのまま寝落ちることが多く、だいたいいつも2人で寝ている。微笑ましくて、大変可愛らしい。シェリーも弟ができたのが嬉しいようで、リディオのことをとても可愛がっている。

カールは2人が寝ると、玄関先に灯りを点け、居間で本を読み始めた。チラッと壁の時計を見れば、セガールが帰ってくるであろう時間まで、まだ半刻はある。
確実に疲れているセガールの肩や腰を揉んでやろうと、整体術の入門書を借りてきた。プロの整体師のような真似をするつもりはない。ただ、ちょっと疲れがとれる程度に肩や腰を揉んでやりたいだけだ。カールはセガールが帰ってくるまで、真剣に入門書を読んだ。

セガールが帰ってきた音がしたので、カールはいそいそと玄関に向かった。外は寒かったのだろう。形のいいセガールの鼻先が少し赤く染まっていた。
カールはゆるい笑みを浮かべて、セガールに抱きついて、セガールの頬にキスをした。


「おかえりなさい」

「ただいま。子供達は?」

「今日も2人でぐっすり夢の中です」

「そうか。先に寝顔だけ見てくる」

「じゃあ、その間に晩飯温めておきますね」

「あぁ。ありがとう」


セガールがカールの唇に触れるだけのキスをして、くしゃっとカールの髪を撫でた。カールはヘラッと笑って、台所へと移動した。寝酒になるような軽めのワインも用意して、温めた夕食を居間のテーブルに運ぶ。
私服に着替えたセガールがやって来て、穏やかな笑みを浮かべた。


「美味そうだな」

「シェリーとリディーにお手伝いしてもらいました」

「ははっ。明日の朝に2人を褒めなきゃな」

「はい。2人とも頑張ってくれたので、べた褒めしてやってください」

「そうする」


セガールが夕食を食べている間に、明日からの話をする。セガールは楽しそうに聴きながら、美味しそうに夕食を残さず食べてくれた。
後片付けを終えた後、カールは本日二度目になるが、一緒に風呂に入り、2人の部屋に引き上げた。
ベッドに上がって、早速セガールのバッキバキに凝った肩や背中を揉んでやると、セガールが嬉しそうに笑った。
布団に潜り込み、ピッタリとくっつく。カールはセガールの唇に触れるだけのキスをしてから、やんわりとセガールの手を握った。


「おやすみなさい」

「おやすみ。カール」


カールはセガールの温もりを感じながら、穏やかな眠りに落ちた。

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