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57:孤児院
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よく晴れた休日の朝。
カールはセガールとシェリーと手分けして朝の家事を終わらせると、3人で丘を下り、街にある孤児院へと向かった。
昨夜、セガールと3回目のセックスをした。手加減をしたつもりだが、セガールの動きが若干鈍いので、おそらく腰が痛いのだろう。朝に湿布を貼ったが、どうしてもセガールの負担が大きい。
今朝、セガールにカールが抱かれる側になろうかと提案してみたが、スッパリ断られた。カールが動けなくなった時に、自分では運んで世話をしてやれないからと。一理あるので、カールは渋々セガールに抱かれるのを諦めた。
教会に併設されている街の孤児院に到着すると、まずは孤児院の院長へ挨拶に行った。数日前に、事前に事情と今日の訪問について話してある。院長である好々爺然とした老爺が、挨拶をした後、子供達がいる部屋へと案内してくれた。
案内されたのは、遊べるくらい広い居間のような部屋だった。今は、下は3歳から上は14歳まで、全部で16人の子供達が此処で暮らしている。
部屋に入ると、それぞれ好きなことをしていた子供達の視線がカール達に集まった。久しぶりの歳が近い子供達の数に驚いたのか、シェリーがカールの背後に隠れたので、カールはシェリーに声をかけ、シェリーの小さな手を握った。
シェリーがなんとなく不安そうな顔で見上げてきたので、ゆるく笑いかけ、繋いだ手を軽く振った。
年長の子供達から一人一人紹介してもらうことになり、カールはセガール達と一緒に、礼儀正しい挨拶をしてくれる子供達と少しずつ話しをし始めた。
絵本を抱きしめたままの5、6歳くらいの小さな男の子を見ると、半分カールの背中に隠れていたシェリーが顔を出した。
セガールが優しく微笑み、少し屈んで、男の子に話しかけた。
「こんにちは。セガール・パートルだ」
「こんにちは。リディオです。5歳です」
シェリーがリディオが抱きしめている絵本をじっと見つめて、リディオに話しかけた。
「シェリーよ。貴方、その絵本好きなの?」
「うん。一番好き」
「ふーん。それの続きは読んだ?」
「続きがあるの?」
「あるわよ。此処には置いてないの?」
「うん」
「ふーん。……貴方、うちの子になる?その絵本の続きもあるし、他にも絵本がいっぱいあるわ」
「絵本があるの!?」
「あるわ。いっぱい。貴方、絵本好き?」
「大好き!」
「ふーん。……私も好きよ」
シェリーが孤児院に来て、初めて笑った。どうやらリディオを気に入ったようである。
リディオは黒髪に淡い青色の瞳をしていて、子供らしく健康的にぷくぷくしていた。服も清潔なものだし、この孤児院は本当にしっかりとした所なのだろう。
セガールがカールを見てきたので、カールは小さく笑って頷いた。
シェリーが自分から話しかけた子なら、多分大丈夫だろう。
絵本の話しをしている子供達を眺めながら、カールはそっとセガールに身体を寄せた。
「この子になりそうな感じですね」
「あぁ。シェリーとの相性がよさそうだ」
セガールが嬉しそうに小さく笑った。
一応全員と話しをすると、改めて、院長室に向かい、院長と話をして、リディオを呼んできてもらう。
リディオは絵本を抱きしめたまま、孤児院の職員と共に院長室に入ってきた。
セガールがリディオの前に膝をついて、目線を合わせて、優しく話しかけた。
「リディオ。俺達の家族になってくれないか?」
「僕でいいの?」
「リディオがいい」
「うん」
リディオがふにゃっと笑って頷いてくれたので、リディオを養子に迎えることになった。
カールとセガールが院長と細かい話しをしている間、シェリーはリディオと一緒に絵本を読んでいた。子供達の小さな会話が耳に入ってくる。
「私のことはお姉ちゃんって呼んで」
「うん。お姉ちゃん」
「リディオとリディー、どっちがいい?」
「リディー。ママが僕のことそう呼んでた」
「そう。絵本以外は何が好き?」
「えっとね、えっとね、お魚!」
「魚は私も好きよ。食べるのも見るのも。うちに図鑑があるの。色んな魚が載ってて、見ていて楽しいわよ」
「そうなの?」
子供達の会話がなんとも微笑ましい。どうやら初回でシェリーと相性がいい子が見つかったようである。
院長の話によれば、リディオの父親は船乗りで、リディオがまだ1歳の時に水難事故で亡くなり、リディオの母親は去年病気で亡くなったそうだ。リディオを引き取る親戚がおらず、リディオの家の隣人がリディオを孤児院に連れてきたらしい。
必要書類等を貰い、リディオにまた来ることを約束してから、カール達は孤児院を出た。
シェリーを真ん中に3人で手を繋ぎ、街を抜けて丘の上の家へと歩いていく。
シェリーが軽やかな足取りで、嬉しそうに笑った。
「可愛い子だったわ。絵本をいっぱい読ませてあげなきゃ」
「リディオの部屋の準備をしなくてはな。食器とか色々準備するものがあるな」
「今週中に揃えられるものは揃えちゃいましょうよ。教会の予約もしなきゃですし」
「そうだな。服や靴は家に来てからリディオを連れて買いに行けばいいか」
「ふふっ。家族が増えるわね」
「あぁ」
セガールが穏やかな顔で笑った。カールもなんだか胸の奥がむずむずして、ヘラッと笑った。
カールの家族が更に1人増える。きっとこれから色んな事があるのだろうが、その都度、皆で話し合っていけば、きっとなんとかなる。
カールはそう信じて、軽やかな足取りで3人で家に帰った。
家に帰り着くと、3人で昼食を作って食べてから、早速リディオの部屋の準備に取り掛かった。
リディオの部屋は、カールが使っていた部屋にすることになった。カールはセガールの部屋に移ることになり、家庭内お引っ越しが始まった。
元々少なかったカールの荷物は、セガールの家で暮らし始めて、気づけば結構増えていた。3人で手分けしてセガールの部屋に運び入れ、収納していく。
なんだか、本当にセガールと結婚するんだな、と改めて思って、カールは嬉しくて堪らなかった。
リディオに必要なものの買い出しは後日ということになり、3人で買い出しメモを作る。
「子供用の勉強机がいるな。あと、リディオでも使いやすい衣装箪笥も買うか」
「本棚もいるわ。リディオは絶対本好きに育つもの!」
「食器類とー、あとお揃いのエプロンとか買っちゃいます?」
「「採用」」
「今度は魚柄ですかねー。無かったら特注しちゃいましょうよ」
「そうだな。リディオが暮らしやすいようにしてやろう。なんでも話し合える家族になれるといいな」
「うん」
「そうですね」
カールが拳をつくって2人の前に突き出すと、2人とも笑って拳をつくり、こつんと優しく拳をぶつけた。
血が繋がらなくても家族にはなれる。皆で寄り添いあっていけばいい。
カールはそう思って、満面の笑みを浮かべて、とりあえず目の前の2人を抱きしめた。
カールはセガールとシェリーと手分けして朝の家事を終わらせると、3人で丘を下り、街にある孤児院へと向かった。
昨夜、セガールと3回目のセックスをした。手加減をしたつもりだが、セガールの動きが若干鈍いので、おそらく腰が痛いのだろう。朝に湿布を貼ったが、どうしてもセガールの負担が大きい。
今朝、セガールにカールが抱かれる側になろうかと提案してみたが、スッパリ断られた。カールが動けなくなった時に、自分では運んで世話をしてやれないからと。一理あるので、カールは渋々セガールに抱かれるのを諦めた。
教会に併設されている街の孤児院に到着すると、まずは孤児院の院長へ挨拶に行った。数日前に、事前に事情と今日の訪問について話してある。院長である好々爺然とした老爺が、挨拶をした後、子供達がいる部屋へと案内してくれた。
案内されたのは、遊べるくらい広い居間のような部屋だった。今は、下は3歳から上は14歳まで、全部で16人の子供達が此処で暮らしている。
部屋に入ると、それぞれ好きなことをしていた子供達の視線がカール達に集まった。久しぶりの歳が近い子供達の数に驚いたのか、シェリーがカールの背後に隠れたので、カールはシェリーに声をかけ、シェリーの小さな手を握った。
シェリーがなんとなく不安そうな顔で見上げてきたので、ゆるく笑いかけ、繋いだ手を軽く振った。
年長の子供達から一人一人紹介してもらうことになり、カールはセガール達と一緒に、礼儀正しい挨拶をしてくれる子供達と少しずつ話しをし始めた。
絵本を抱きしめたままの5、6歳くらいの小さな男の子を見ると、半分カールの背中に隠れていたシェリーが顔を出した。
セガールが優しく微笑み、少し屈んで、男の子に話しかけた。
「こんにちは。セガール・パートルだ」
「こんにちは。リディオです。5歳です」
シェリーがリディオが抱きしめている絵本をじっと見つめて、リディオに話しかけた。
「シェリーよ。貴方、その絵本好きなの?」
「うん。一番好き」
「ふーん。それの続きは読んだ?」
「続きがあるの?」
「あるわよ。此処には置いてないの?」
「うん」
「ふーん。……貴方、うちの子になる?その絵本の続きもあるし、他にも絵本がいっぱいあるわ」
「絵本があるの!?」
「あるわ。いっぱい。貴方、絵本好き?」
「大好き!」
「ふーん。……私も好きよ」
シェリーが孤児院に来て、初めて笑った。どうやらリディオを気に入ったようである。
リディオは黒髪に淡い青色の瞳をしていて、子供らしく健康的にぷくぷくしていた。服も清潔なものだし、この孤児院は本当にしっかりとした所なのだろう。
セガールがカールを見てきたので、カールは小さく笑って頷いた。
シェリーが自分から話しかけた子なら、多分大丈夫だろう。
絵本の話しをしている子供達を眺めながら、カールはそっとセガールに身体を寄せた。
「この子になりそうな感じですね」
「あぁ。シェリーとの相性がよさそうだ」
セガールが嬉しそうに小さく笑った。
一応全員と話しをすると、改めて、院長室に向かい、院長と話をして、リディオを呼んできてもらう。
リディオは絵本を抱きしめたまま、孤児院の職員と共に院長室に入ってきた。
セガールがリディオの前に膝をついて、目線を合わせて、優しく話しかけた。
「リディオ。俺達の家族になってくれないか?」
「僕でいいの?」
「リディオがいい」
「うん」
リディオがふにゃっと笑って頷いてくれたので、リディオを養子に迎えることになった。
カールとセガールが院長と細かい話しをしている間、シェリーはリディオと一緒に絵本を読んでいた。子供達の小さな会話が耳に入ってくる。
「私のことはお姉ちゃんって呼んで」
「うん。お姉ちゃん」
「リディオとリディー、どっちがいい?」
「リディー。ママが僕のことそう呼んでた」
「そう。絵本以外は何が好き?」
「えっとね、えっとね、お魚!」
「魚は私も好きよ。食べるのも見るのも。うちに図鑑があるの。色んな魚が載ってて、見ていて楽しいわよ」
「そうなの?」
子供達の会話がなんとも微笑ましい。どうやら初回でシェリーと相性がいい子が見つかったようである。
院長の話によれば、リディオの父親は船乗りで、リディオがまだ1歳の時に水難事故で亡くなり、リディオの母親は去年病気で亡くなったそうだ。リディオを引き取る親戚がおらず、リディオの家の隣人がリディオを孤児院に連れてきたらしい。
必要書類等を貰い、リディオにまた来ることを約束してから、カール達は孤児院を出た。
シェリーを真ん中に3人で手を繋ぎ、街を抜けて丘の上の家へと歩いていく。
シェリーが軽やかな足取りで、嬉しそうに笑った。
「可愛い子だったわ。絵本をいっぱい読ませてあげなきゃ」
「リディオの部屋の準備をしなくてはな。食器とか色々準備するものがあるな」
「今週中に揃えられるものは揃えちゃいましょうよ。教会の予約もしなきゃですし」
「そうだな。服や靴は家に来てからリディオを連れて買いに行けばいいか」
「ふふっ。家族が増えるわね」
「あぁ」
セガールが穏やかな顔で笑った。カールもなんだか胸の奥がむずむずして、ヘラッと笑った。
カールの家族が更に1人増える。きっとこれから色んな事があるのだろうが、その都度、皆で話し合っていけば、きっとなんとかなる。
カールはそう信じて、軽やかな足取りで3人で家に帰った。
家に帰り着くと、3人で昼食を作って食べてから、早速リディオの部屋の準備に取り掛かった。
リディオの部屋は、カールが使っていた部屋にすることになった。カールはセガールの部屋に移ることになり、家庭内お引っ越しが始まった。
元々少なかったカールの荷物は、セガールの家で暮らし始めて、気づけば結構増えていた。3人で手分けしてセガールの部屋に運び入れ、収納していく。
なんだか、本当にセガールと結婚するんだな、と改めて思って、カールは嬉しくて堪らなかった。
リディオに必要なものの買い出しは後日ということになり、3人で買い出しメモを作る。
「子供用の勉強机がいるな。あと、リディオでも使いやすい衣装箪笥も買うか」
「本棚もいるわ。リディオは絶対本好きに育つもの!」
「食器類とー、あとお揃いのエプロンとか買っちゃいます?」
「「採用」」
「今度は魚柄ですかねー。無かったら特注しちゃいましょうよ」
「そうだな。リディオが暮らしやすいようにしてやろう。なんでも話し合える家族になれるといいな」
「うん」
「そうですね」
カールが拳をつくって2人の前に突き出すと、2人とも笑って拳をつくり、こつんと優しく拳をぶつけた。
血が繋がらなくても家族にはなれる。皆で寄り添いあっていけばいい。
カールはそう思って、満面の笑みを浮かべて、とりあえず目の前の2人を抱きしめた。
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