婚活男の理想の結婚

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
上 下
57 / 74

57:孤児院

しおりを挟む
よく晴れた休日の朝。
カールはセガールとシェリーと手分けして朝の家事を終わらせると、3人で丘を下り、街にある孤児院へと向かった。
昨夜、セガールと3回目のセックスをした。手加減をしたつもりだが、セガールの動きが若干鈍いので、おそらく腰が痛いのだろう。朝に湿布を貼ったが、どうしてもセガールの負担が大きい。
今朝、セガールにカールが抱かれる側になろうかと提案してみたが、スッパリ断られた。カールが動けなくなった時に、自分では運んで世話をしてやれないからと。一理あるので、カールは渋々セガールに抱かれるのを諦めた。

教会に併設されている街の孤児院に到着すると、まずは孤児院の院長へ挨拶に行った。数日前に、事前に事情と今日の訪問について話してある。院長である好々爺然とした老爺が、挨拶をした後、子供達がいる部屋へと案内してくれた。

案内されたのは、遊べるくらい広い居間のような部屋だった。今は、下は3歳から上は14歳まで、全部で16人の子供達が此処で暮らしている。
部屋に入ると、それぞれ好きなことをしていた子供達の視線がカール達に集まった。久しぶりの歳が近い子供達の数に驚いたのか、シェリーがカールの背後に隠れたので、カールはシェリーに声をかけ、シェリーの小さな手を握った。
シェリーがなんとなく不安そうな顔で見上げてきたので、ゆるく笑いかけ、繋いだ手を軽く振った。

年長の子供達から一人一人紹介してもらうことになり、カールはセガール達と一緒に、礼儀正しい挨拶をしてくれる子供達と少しずつ話しをし始めた。

絵本を抱きしめたままの5、6歳くらいの小さな男の子を見ると、半分カールの背中に隠れていたシェリーが顔を出した。
セガールが優しく微笑み、少し屈んで、男の子に話しかけた。


「こんにちは。セガール・パートルだ」

「こんにちは。リディオです。5歳です」


シェリーがリディオが抱きしめている絵本をじっと見つめて、リディオに話しかけた。


「シェリーよ。貴方、その絵本好きなの?」

「うん。一番好き」

「ふーん。それの続きは読んだ?」

「続きがあるの?」

「あるわよ。此処には置いてないの?」

「うん」

「ふーん。……貴方、うちの子になる?その絵本の続きもあるし、他にも絵本がいっぱいあるわ」

「絵本があるの!?」

「あるわ。いっぱい。貴方、絵本好き?」

「大好き!」

「ふーん。……私も好きよ」


シェリーが孤児院に来て、初めて笑った。どうやらリディオを気に入ったようである。
リディオは黒髪に淡い青色の瞳をしていて、子供らしく健康的にぷくぷくしていた。服も清潔なものだし、この孤児院は本当にしっかりとした所なのだろう。
セガールがカールを見てきたので、カールは小さく笑って頷いた。
シェリーが自分から話しかけた子なら、多分大丈夫だろう。

絵本の話しをしている子供達を眺めながら、カールはそっとセガールに身体を寄せた。


「この子になりそうな感じですね」

「あぁ。シェリーとの相性がよさそうだ」


セガールが嬉しそうに小さく笑った。
一応全員と話しをすると、改めて、院長室に向かい、院長と話をして、リディオを呼んできてもらう。
リディオは絵本を抱きしめたまま、孤児院の職員と共に院長室に入ってきた。

セガールがリディオの前に膝をついて、目線を合わせて、優しく話しかけた。


「リディオ。俺達の家族になってくれないか?」

「僕でいいの?」

「リディオがいい」

「うん」


リディオがふにゃっと笑って頷いてくれたので、リディオを養子に迎えることになった。
カールとセガールが院長と細かい話しをしている間、シェリーはリディオと一緒に絵本を読んでいた。子供達の小さな会話が耳に入ってくる。


「私のことはお姉ちゃんって呼んで」

「うん。お姉ちゃん」

「リディオとリディー、どっちがいい?」

「リディー。ママが僕のことそう呼んでた」

「そう。絵本以外は何が好き?」

「えっとね、えっとね、お魚!」

「魚は私も好きよ。食べるのも見るのも。うちに図鑑があるの。色んな魚が載ってて、見ていて楽しいわよ」

「そうなの?」


子供達の会話がなんとも微笑ましい。どうやら初回でシェリーと相性がいい子が見つかったようである。
院長の話によれば、リディオの父親は船乗りで、リディオがまだ1歳の時に水難事故で亡くなり、リディオの母親は去年病気で亡くなったそうだ。リディオを引き取る親戚がおらず、リディオの家の隣人がリディオを孤児院に連れてきたらしい。

必要書類等を貰い、リディオにまた来ることを約束してから、カール達は孤児院を出た。
シェリーを真ん中に3人で手を繋ぎ、街を抜けて丘の上の家へと歩いていく。
シェリーが軽やかな足取りで、嬉しそうに笑った。


「可愛い子だったわ。絵本をいっぱい読ませてあげなきゃ」

「リディオの部屋の準備をしなくてはな。食器とか色々準備するものがあるな」

「今週中に揃えられるものは揃えちゃいましょうよ。教会の予約もしなきゃですし」

「そうだな。服や靴は家に来てからリディオを連れて買いに行けばいいか」

「ふふっ。家族が増えるわね」

「あぁ」


セガールが穏やかな顔で笑った。カールもなんだか胸の奥がむずむずして、ヘラッと笑った。
カールの家族が更に1人増える。きっとこれから色んな事があるのだろうが、その都度、皆で話し合っていけば、きっとなんとかなる。
カールはそう信じて、軽やかな足取りで3人で家に帰った。

家に帰り着くと、3人で昼食を作って食べてから、早速リディオの部屋の準備に取り掛かった。
リディオの部屋は、カールが使っていた部屋にすることになった。カールはセガールの部屋に移ることになり、家庭内お引っ越しが始まった。

元々少なかったカールの荷物は、セガールの家で暮らし始めて、気づけば結構増えていた。3人で手分けしてセガールの部屋に運び入れ、収納していく。
なんだか、本当にセガールと結婚するんだな、と改めて思って、カールは嬉しくて堪らなかった。

リディオに必要なものの買い出しは後日ということになり、3人で買い出しメモを作る。


「子供用の勉強机がいるな。あと、リディオでも使いやすい衣装箪笥も買うか」

「本棚もいるわ。リディオは絶対本好きに育つもの!」

「食器類とー、あとお揃いのエプロンとか買っちゃいます?」

「「採用」」

「今度は魚柄ですかねー。無かったら特注しちゃいましょうよ」

「そうだな。リディオが暮らしやすいようにしてやろう。なんでも話し合える家族になれるといいな」

「うん」

「そうですね」


カールが拳をつくって2人の前に突き出すと、2人とも笑って拳をつくり、こつんと優しく拳をぶつけた。
血が繋がらなくても家族にはなれる。皆で寄り添いあっていけばいい。
カールはそう思って、満面の笑みを浮かべて、とりあえず目の前の2人を抱きしめた。


しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

処理中です...