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40:セガールの自覚
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セガールはやっていた書類仕事が一段落すると、書類をまとめながら、ふぅと小さく溜め息を吐いた。
セガールにとってはかなり重要な悩みから逃げる為に、朝から書類仕事に没頭していたが、直近で処理が必要なものは全て終わらせてしまった。別の仕事をしたいところだが、部下に任せているものがこないと仕事ができない。
セガールは疲れた目を癒やすように、目の上に掌をのせて、目を温めた。早くも老眼が入ってきたのか、最近、小さな文字が見えにくい時がある。ずっと書類の文字を見ていると、目が疲れるようになってきた。歳はとりたくないものである。
現実逃避も兼ねて、近いうちに眼鏡屋に行こうかと考えていると、昔馴染みの船乗りをしている隊長のリカルドがやって来た。リカルドとは同期で、今でも普通に仲がいい。リカルドは男と結婚していて、養子を育てている。
リカルドが書類をセガールに手渡し、書類に関する話をした後で、何故か悪戯っぽく笑った。
「セガール。お前、最近いいことあっただろ」
「いや、特に」
「またまたぁ。なんかちょっと若返ってる感があるぞ。恋でもしてんのか?」
セガールは反射的にガンッと机に額を強くぶつけた。
考えたくなくて現実逃避しまくっていたが、もしかしてもしかすると、セガールは恋をしているのだろうか。カールと酒盛りをしたノリで抜きっこをした時、またキスをしてしまった上に、何故か、しみじみと好きだなぁと思ってしまった。
深く考えたら、気づくべきではないことに気づきそうで、全力で仕事に逃げていたのに、リカルドのせいで思い出してしまった。
セガールはジンジン痛む額を擦りながら、リカルドを軽く睨んだ。
「断じて恋ではない」
「ふーん?……ふむ。久しぶりに飲まないか?今日はダーリンと天使ちゃんが2人揃ってダーリンの実家に泊まりがけで遊びに行ってんだよ。1人じゃ暇だし付き合えよ」
「…………まぁ、いいけど」
「じゃあ、カール隊長には俺から伝えておくな。今夜、お前を借りるって。この後、隊長会議なんだわ」
「あぁ。じゃあ、頼んだ」
「あいよ。『至福亭』でいいだろ?」
「あぁ。今日は定時で上がるようにする」
「そうしてくれ。じゃあ、後でな」
リカルドがニッと笑って、セガールの前から去って行った。リカルドはセガールがカールと同居していることを知っている。カールが怪我をして入院したことを教えてくれたのはリカルドだ。
セガールはジンジン痛む額を擦りながら、今夜はとことん吐かされるだろうなぁと溜め息を吐いた。
------
定時ちょうどにリカルドが会計課の部屋にやって来たので、セガールはリカルドと共に部屋を出た。近況や世間話をしながら『至福亭』に向かい、空いていた2階の個室に入る。
リカルドが2人分の酒と料理を適当に注文すると、楽しそうに目を爛々と輝かせて、セガールを見てきた。
「で?お前の恋のお相手はカール隊長なのかな?」
「……いや?」
「しらばっくれるなよ。娘ちゃんと3人で仲良さそうに街を歩いてるところを見たぞ。カール隊長の入院の時は大慌てしてたし、どう考えても、カール隊長しかいないだろ」
「……俺はそんなに分かりやすいか」
「うん」
「即答するな」
「ははっ!いいじゃん。まぁ年の差はあるけど、カール隊長は割といい男だし。まぁ、俺のダーリンには負けるけどな」
「はいはい。相変わらず仲がいいな」
「まぁねー。で?どこまで進んでんの?」
「……毎日一緒に風呂に入って、抜きっこしてる」
「わぉ。なんだ。やることやってんじゃん」
「セックスはしてない」
「抜きっこもセックスの範疇に入るっつの。ふーん。セガールが男に恋ねぇ。いいんじゃね?愛があれば性別なんてどうでもいいんだよ」
「いや、その、愛とかどうかはちょっと……?」
「カール隊長といるとどう思うんだよ」
「なんか落ち着く」
「喋ったり、一緒になんかしてると楽しい?」
「まぁ、普通に」
「ずっと一緒に暮らしたい?」
「…………できることなら。シェリーもカールが大好きだし」
「お前の心はお前にしか分からんのだろうが、傍から見たら、お前、恋してんぞ。カール隊長に」
「マジか」
「マジだ」
セガールは頭を抱えた。そのタイミングで店員が入ってきて、酒や料理をテーブルの上に並べ、愛想よく笑って個室から出ていった。
リカルドがセガールのグラスに酒を注ぎながら、楽しそうに笑った。
「お前さぁ、最近すげぇいい顔で笑ってんだよ。嫁さんに出ていかれる前より、いい顔してる」
「そうか?」
「そ。カール隊長と暮らし始めてからだな。特にここ最近は顕著だな。前は眉間に皺寄せてることの方が多かったじゃねぇか」
「そう……だったか?……いやでもな。仮に俺がカールに惚れてたとしてだ。不毛だろう。カールだっていい迷惑だ。こんなおっさんに好かれるなんて」
「いくつになっても恋をしたっていいんだぜ。俺は今でもダーリンに恋をしてるし、きっとよぼよぼの爺になっても恋したままだな」
「……俺はカールを好きでいていいのか」
「人の想いは誰にも邪魔できない。生かすも殺すも自分自身が決めることだ。折角芽吹いた恋なんだ。大切に育ててやれよって、俺は思うがね」
「……そう……だな」
リカルドの言葉が、じわぁっと胸の中に染み込んできた。
セガールはカールのことが好きでもいい。芽吹いた恋をいつかは摘み取らなければいけない日が来るかもしれないが、少なくとも、今はまだ、そのままでいい気がする。
リカルドがニヤッと笑って、酒を一口飲んでから、楽しそうに口を開いた。
「男同士のセックスの仕方、一応教えとくか?」
「……後学の為に聞いておこう」
「りょーかい。耳の穴かっぽじって聴きやがれ」
セガールはリカルドから男同士のセックスの仕方を口頭で教えてもらった。
------
日付が変わる時間が近い時間帯にお開きになり、セガールはほろ酔いの状態で、暗い道を歩いていた。
男同士のセックスの仕方を教えてもらったが、なんか色々すごかった。ペニスを挿れられる方の負担がどうしても大きくなるのなら、もしセックスをするとなった場合、セガールが抱かれた方がいいだろう。仮にカールを抱いて、カールが身動きがとれない状態になっても、セガールではカールを抱えて世話してやることができない。それだったら、自分が抱かれる方がマシな気がする。腰とか色々不安しかないが。
セガールは丘を上りながら、小さく溜め息を吐いた。リカルドのせいで完全に自覚してしまったではないか。折角、気づかないようにしていたのに。
カールと顔を合わせるのが、若干気まずい。
丘を上り、家が近づくと、玄関と居間の辺りに、ぽぅっと明かりがついていた。カールが起きて待ってくれているのだろう。
玄関を開けて中にはいると、すぐにカールがやって来て、ニッと笑った。
「おかえりなさい」
「ただいま」
セガールはカールの笑顔を見て、なんとなく、ほっとすると共に、あぁ駄目だな、と思った。
完全に小さな恋の芽が芽吹いてしまっている。
セガールは普段通りを装いながら、心の中で小さな溜め息を吐いた。
セガールにとってはかなり重要な悩みから逃げる為に、朝から書類仕事に没頭していたが、直近で処理が必要なものは全て終わらせてしまった。別の仕事をしたいところだが、部下に任せているものがこないと仕事ができない。
セガールは疲れた目を癒やすように、目の上に掌をのせて、目を温めた。早くも老眼が入ってきたのか、最近、小さな文字が見えにくい時がある。ずっと書類の文字を見ていると、目が疲れるようになってきた。歳はとりたくないものである。
現実逃避も兼ねて、近いうちに眼鏡屋に行こうかと考えていると、昔馴染みの船乗りをしている隊長のリカルドがやって来た。リカルドとは同期で、今でも普通に仲がいい。リカルドは男と結婚していて、養子を育てている。
リカルドが書類をセガールに手渡し、書類に関する話をした後で、何故か悪戯っぽく笑った。
「セガール。お前、最近いいことあっただろ」
「いや、特に」
「またまたぁ。なんかちょっと若返ってる感があるぞ。恋でもしてんのか?」
セガールは反射的にガンッと机に額を強くぶつけた。
考えたくなくて現実逃避しまくっていたが、もしかしてもしかすると、セガールは恋をしているのだろうか。カールと酒盛りをしたノリで抜きっこをした時、またキスをしてしまった上に、何故か、しみじみと好きだなぁと思ってしまった。
深く考えたら、気づくべきではないことに気づきそうで、全力で仕事に逃げていたのに、リカルドのせいで思い出してしまった。
セガールはジンジン痛む額を擦りながら、リカルドを軽く睨んだ。
「断じて恋ではない」
「ふーん?……ふむ。久しぶりに飲まないか?今日はダーリンと天使ちゃんが2人揃ってダーリンの実家に泊まりがけで遊びに行ってんだよ。1人じゃ暇だし付き合えよ」
「…………まぁ、いいけど」
「じゃあ、カール隊長には俺から伝えておくな。今夜、お前を借りるって。この後、隊長会議なんだわ」
「あぁ。じゃあ、頼んだ」
「あいよ。『至福亭』でいいだろ?」
「あぁ。今日は定時で上がるようにする」
「そうしてくれ。じゃあ、後でな」
リカルドがニッと笑って、セガールの前から去って行った。リカルドはセガールがカールと同居していることを知っている。カールが怪我をして入院したことを教えてくれたのはリカルドだ。
セガールはジンジン痛む額を擦りながら、今夜はとことん吐かされるだろうなぁと溜め息を吐いた。
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定時ちょうどにリカルドが会計課の部屋にやって来たので、セガールはリカルドと共に部屋を出た。近況や世間話をしながら『至福亭』に向かい、空いていた2階の個室に入る。
リカルドが2人分の酒と料理を適当に注文すると、楽しそうに目を爛々と輝かせて、セガールを見てきた。
「で?お前の恋のお相手はカール隊長なのかな?」
「……いや?」
「しらばっくれるなよ。娘ちゃんと3人で仲良さそうに街を歩いてるところを見たぞ。カール隊長の入院の時は大慌てしてたし、どう考えても、カール隊長しかいないだろ」
「……俺はそんなに分かりやすいか」
「うん」
「即答するな」
「ははっ!いいじゃん。まぁ年の差はあるけど、カール隊長は割といい男だし。まぁ、俺のダーリンには負けるけどな」
「はいはい。相変わらず仲がいいな」
「まぁねー。で?どこまで進んでんの?」
「……毎日一緒に風呂に入って、抜きっこしてる」
「わぉ。なんだ。やることやってんじゃん」
「セックスはしてない」
「抜きっこもセックスの範疇に入るっつの。ふーん。セガールが男に恋ねぇ。いいんじゃね?愛があれば性別なんてどうでもいいんだよ」
「いや、その、愛とかどうかはちょっと……?」
「カール隊長といるとどう思うんだよ」
「なんか落ち着く」
「喋ったり、一緒になんかしてると楽しい?」
「まぁ、普通に」
「ずっと一緒に暮らしたい?」
「…………できることなら。シェリーもカールが大好きだし」
「お前の心はお前にしか分からんのだろうが、傍から見たら、お前、恋してんぞ。カール隊長に」
「マジか」
「マジだ」
セガールは頭を抱えた。そのタイミングで店員が入ってきて、酒や料理をテーブルの上に並べ、愛想よく笑って個室から出ていった。
リカルドがセガールのグラスに酒を注ぎながら、楽しそうに笑った。
「お前さぁ、最近すげぇいい顔で笑ってんだよ。嫁さんに出ていかれる前より、いい顔してる」
「そうか?」
「そ。カール隊長と暮らし始めてからだな。特にここ最近は顕著だな。前は眉間に皺寄せてることの方が多かったじゃねぇか」
「そう……だったか?……いやでもな。仮に俺がカールに惚れてたとしてだ。不毛だろう。カールだっていい迷惑だ。こんなおっさんに好かれるなんて」
「いくつになっても恋をしたっていいんだぜ。俺は今でもダーリンに恋をしてるし、きっとよぼよぼの爺になっても恋したままだな」
「……俺はカールを好きでいていいのか」
「人の想いは誰にも邪魔できない。生かすも殺すも自分自身が決めることだ。折角芽吹いた恋なんだ。大切に育ててやれよって、俺は思うがね」
「……そう……だな」
リカルドの言葉が、じわぁっと胸の中に染み込んできた。
セガールはカールのことが好きでもいい。芽吹いた恋をいつかは摘み取らなければいけない日が来るかもしれないが、少なくとも、今はまだ、そのままでいい気がする。
リカルドがニヤッと笑って、酒を一口飲んでから、楽しそうに口を開いた。
「男同士のセックスの仕方、一応教えとくか?」
「……後学の為に聞いておこう」
「りょーかい。耳の穴かっぽじって聴きやがれ」
セガールはリカルドから男同士のセックスの仕方を口頭で教えてもらった。
------
日付が変わる時間が近い時間帯にお開きになり、セガールはほろ酔いの状態で、暗い道を歩いていた。
男同士のセックスの仕方を教えてもらったが、なんか色々すごかった。ペニスを挿れられる方の負担がどうしても大きくなるのなら、もしセックスをするとなった場合、セガールが抱かれた方がいいだろう。仮にカールを抱いて、カールが身動きがとれない状態になっても、セガールではカールを抱えて世話してやることができない。それだったら、自分が抱かれる方がマシな気がする。腰とか色々不安しかないが。
セガールは丘を上りながら、小さく溜め息を吐いた。リカルドのせいで完全に自覚してしまったではないか。折角、気づかないようにしていたのに。
カールと顔を合わせるのが、若干気まずい。
丘を上り、家が近づくと、玄関と居間の辺りに、ぽぅっと明かりがついていた。カールが起きて待ってくれているのだろう。
玄関を開けて中にはいると、すぐにカールがやって来て、ニッと笑った。
「おかえりなさい」
「ただいま」
セガールはカールの笑顔を見て、なんとなく、ほっとすると共に、あぁ駄目だな、と思った。
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