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27:共同墓地

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セガールは共同墓地の入り口で、カールを待っていた。
今日は、カールは遺族に遺品を渡しに行っている。亡くなった3人は、全員この街の出身なので、半日もあれば終わる。
午前中に遺品を渡しに行き、その後共同墓地を参って、一緒に昼食を食べる予定である。
シェリーは家にいる。シェリーに情けないところは見せたくないだろうと、シェリーの家庭教師が来る日を選んで、セガールは休みを取った。

セガールは冷たい風に吹かれながら、ぼんやりと空を見上げた。気持ちがいい程晴れていて、雲一つない青空が広がっている。
海軍の共同墓地には、遺体はない。ただ、慰霊碑があるだけだ。そこに新たに3人の名前が刻まれた。
航海中に死亡すると、水葬される。本拠地である港まで遺体を腐らせずに運ぶことが難しいことの方が多いので、基本的には水葬になる。
セガールも何人も海に還る者達を見送った。遺品を渡しに行った遺族にキツく罵られたこともある。泣きながらお礼を言われたこともある。亡くした者を見送る時と、遺族に遺品を渡しに行く時が本当に辛い。それでも、部隊を率いる隊長である以上、しゃんと背筋を伸ばして、前を向いていなければいけない。それが隊長としての務めであり、プライドでもある。カールはきっとそれができている。そうじゃなければ、何年も隊長職を務められない。今は心が傷ついていても、カールなら、ちゃんと前を向いていける。
セガールが育てた男は、本当に立派になった。

カールがセガールの隊に入隊してきた時は、カールはまだ幼さが残る顔立ちをして、体格も今よりもひょろりとしていた。どれだけ吐いても、本気で泣く程のキツい訓練にも、歯を食いしばって耐え、訓練時以外でも自主訓練をして、誰よりも努力していたのを知っている。

セガールが昔のことをぼんやり思い出していると、カールが歩いてやってきた。
カールの右頬がうっすら赤くなり腫れている。きっと遺族に殴られたのだろう。
カールが苦笑して、セガールに近寄ってきた。


「なんとか終わりました」

「お疲れ。殴られたか」

「えぇ。まぁ、仕方がないですね」

「そうか」

「オーガストが好きな煙草を買ってきたんですけど、普通に火をつけたらいいんですよね」

「火をつける時に軽く吸わないと、上手く火がつかないぞ」

「マジですか。俺、煙草はやったことがないんですよね」

「俺がやろう」

「じゃあ、お願いします」


セガールはカールと一緒に、共同墓地に入り、慰霊碑の前に立った。
大きな慰霊碑には、セガールが見送った者達の名前も刻まれている。
新たに刻まれた名前を見つめて、カールがぼそっと、『ごめんな』と呟いた。
セガールはカールから煙草の箱を受け取り、煙草を1本取り出して、着火具で煙草に火をつけた。少しだけ吸った煙を吐き出してから、火のついた煙草をカールに手渡すと、カールが慰霊碑の前に煙草を置き、酒の瓶を鞄から取り出して、慰霊碑にかけた。

カールが残した一口分の酒を瓶から直接飲んで、新たに刻まれた名前を見つめながら、ピシッとお手本のようにキレイな敬礼をした。
セガールも亡くなった者達に向けて、敬礼をした。
煙草の火が消えるまで、ずっと敬礼をしたまま、亡くなった者達を悼んだ。

敬礼をといて、吸い殻になった煙草を携帯用の灰皿に入れたカールが、セガールを見て口を開いた。


「セガールさん。ありがとうございます」

「特に何もしていない」

「……一緒にいてくれただけでありがたいです」

「そうか。カール」

「はい」

「少しだけ飲みに行くぞ。海に還った奴らの話を聞かせてくれ」

「……はい」


カールが、今にも泣き出しそうな顔で笑った。
セガールはカールと共に共同墓地を出て、『至福亭』へと向かった。2階の個室が空いていたので、2階の個室に入る。
酒と料理を注文してから、セガールはカールに声をかけた。


「ここなら泣き喚いても誰も見ていない」

「……これ以上、セガールさんに情けないところ見せられませんよ」

「俺は何も見ていない。ただ、酒を飲んでるだけだ」


カールの顔がくしゃっと歪んだ。


「俺のこと甘やかし過ぎですよ」

「別に甘やかしてはいない。ただ、酒が飲みたい気分なだけだ」

「……ははっ。……セガールさんに追いつくには、まだまだ時間がかかりそうです」

「もうとっくに追いついてるさ。お前は立派な隊長だ」

「……ありがとうございます。3人の話を聞いてください」

「あぁ。聞かせてくれ」


ポツポツとカールが亡くなった3人の話を始めた。セガールはそれを聞きながら、静かに酒を飲んだ。
カールの涙は見ていない。実際は見ているが、見ていないことにした。

セガールはカールの話が終わるまで、静かに酒を飲みながら聞いていた。





------
『至福亭』を出て、丘を歩く頃には、もう夕方になっていた。
泣いたカールの赤くなった目も、今は元に戻っている。これならシェリーに気づかれることもないだろう。
カールがセガールの隣を歩きながら、小さく溜め息を吐いた。


「今頃になって羞恥心がこみ上げてきてやべぇです」

「俺は何も見てないぞ」

「……セガールさん、なんでそんなに格好いいんですか」

「そうでもない」

「そうでもありますよ。はぁー。ほんと、セガールさんの背中が遠いです。俺なんかまだまだですね」

「生きている年数が違うんだ。早々追い越されてたまるか」

「そーなんですけどー」

「帰ったらシェリーと本を読んでいろよ。晩飯はサクッと1人で作るから」

「手伝いたいんですけど、この腕じゃ無理なんですよねぇ」

「暫くは大人しくしてろ」

「了解であります。……ちなみに今日も風呂は一緒ですか?」

「腕が完治するまでは一緒だな」

「マジかぁ……毎日、俺の羞恥心の限界が試されてるんですけど」

「慣れろ」

「うぅ……がんばります……」


カールが情けなく凛々しく整った眉を下げたので、セガールは可笑しくて小さく笑った。

夕食を終えて片付けたら、風呂の時間だ。
セガールはカールと一緒に着替えを持って脱衣場に行き、カールの服を脱がせた。カールの身体には、古傷がいくつもある。まだ新しい瘡蓋状態の傷もあった。セガールも似たような身体をしているので、別になんとも思わない。
セガールも服を脱いで風呂場に移動すると、カールを小さな椅子に座らせた。

カールの頭をわしゃわしゃ洗いながら、セガールはカールに声をかけた。


「髪が伸びてきているな。そろそろ切ったらどうだ」

「そうですね。明日は病院なんで、帰りに床屋に行ってきます」

「あぁ。暫くは髪を整えるのも片手じゃやりにくいだろう。前髪も短くしてこいよ」

「えーー。俺、前髪下ろすと若く見えるんですけど」

「若く見えても構わんだろ」

「部下に舐められるじゃないですかー」

「今更舐められるのか?鬼畜のカール隊長が」

「鬼畜じゃなくて、せめて鬼くらいがいいです……」

「ははっ!この際だ。バッサリ切ってこいよ」

「そうしますかねー」

「お湯をかけるぞ。目を閉じろ」

「はい」


セガールは静かにカールの頭にお湯をかけた。今日は顔の包帯は取ってある。どうせどう頑張っても濡れるのだから、風呂に入る前に取った。
カールの顔には、左側の額から頬にかけて、刃物で切られた長い傷跡があった。目が無事だったのが、本当によかった。
まだ抜糸はしていない。明日抜糸の予定である。
カールの背中を洗っていると、カールが話しかけてきた。


「顔の傷、シェリーが怖がらないですかね」

「大丈夫だろう。古傷は俺の身体で見慣れているし」

「あ、それもそうですね」

「迫力ができて、よかったんじゃないか?」

「ははっ!威厳とかありますかね」

「少なくとも、新しい部下には舐められないだろうな」

「ならいいです。結婚は遠のきそうですけど」

「なに。そのうち縁があるさ」

「だといいです。……ちんこ自分で洗っちゃ駄目ですか?」

「駄目。皮を剥いて洗わないと病気になるぞ」

「うへぇ……うぅ……がんばれ俺の羞恥心」

「慣れろ」

「できるだけ、ささっとお願いします。溜まってるんで、うっかり反応したら気まずいどころじゃないです」

「あー。そこは気合でなんとかしろ」

「頑張ります」


介護みたいなものだと思えば、別にカールのペニスを洗うのは特に抵抗はないが、流石に勃起されると、セガールも気まずい。
セガールはカールのペニスの皮をしっかり剥いて、手早く洗ってやった。

風呂上がりに脱衣場で顔と腕の包帯を替えてやり、カールの着替えを手伝ってから、居間に移動した。
居間では、シェリーがソファーに座って本を読んでいた。


「カール。寝るまで一緒に本を読もうよ。昨日の続き」

「おー。造船の歴史って結構面白いな」

「でしょ。リールに教えてもらったの。これで借りるの2回目」

「リールとは会えてる?」

「何度か会ったわ。会う度に面白い本を教えてもらってる」

「いいね。仲良くなれそうじゃん」

「うん。パパも一緒に読む?」

「あぁ」


セガールは本を持つシェリーの右側に座った。カールがシェリーの左側に座り、一緒に本を読み始める。時折、シェリーからの質問に2人で答えてやりながら、穏やかな時間を過ごした。

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