婚活男の理想の結婚

丸井まー(旧:まー)

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26:甘やかされる覚悟

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シェリーがフォークに刺した揚げた鶏肉をカールの口元に押しつけてきた。


「カール。あーん」

「あのね、シェリー。一応左手だけでも食えるよ?」

「利き手は右手でしょ。左手じゃ食べにくいじゃない。はい。あーん」

「……あーん」


カールが諦めて口を開いて肉を口に含むと、シェリーがなにやら楽しそうに目を輝かせた。いそいそと次の肉をフォークで刺し、もぐもぐと咀嚼しているカールが口の中の肉を飲み込むのを待っている。
肉を飲み込んだ途端、再びシェリーがカールの口元に肉を近づけた。


「はい。あーん」

「シェリー。シェリーも食べないと、折角のお肉が冷めるよ」

「なんか楽しいから問題ないわ」

「マジか」


カールは再びあーんして、シェリーに肉を食べさせてもらった。
『次はパンね』といそいそとパンを食べやすい大きさに千切っているシェリーは、なんとも楽しそうである。
自分の分の料理はまだ手付かずで、カールに食べさせている。
カールは口の中の肉を飲み込むと、シェリーに声をかけた。


「シェリー。シェリー。先にシェリーが食べなよ。俺はその後でいいから。ていうか、左手でも食えるからね?」

「えーー」

「シェリー」

「なに?パパ」

「俺は食べ終わったから交代しよう」

「えーー。しょうがないなぁ」

「マジっすか」

「カール」

「あ、はい」

「あーん」

「……マジかぁ……」


早々と食べ終えたセガールが、シェリーから食べやすい大きさに千切ったパンを受け取り、カールの口元に運んできた。
カールはなんかもう色々諦めて、遠い目をして、元上官にあーんで食べさせてもらった。
セガールもなにやら楽しそうな雰囲気である。


「シェリーが小さい頃を思い出すな。シェリー。シェリーにもあーんするか?」

「しないわよ。なに寝言言ってんの」

「あ、はい」


セガールが、つれないシェリーの返事にちょっとしょんぼりしながら、今度はスプーンで掬ったスープを飲ませてくれた。本当に左手でも食べられるのだが、セガールもなんだか楽しそうなので、カールは大人しく、あーんして食べさせてもらった。
ガツガツと食べきったシェリーと再び交代して、今度はシェリーにデザートの林檎を食べさせてもらい、カールはキレイに昼食を完食した。
なんというか、恥ずかしさが半端ない。2人の厚意は嬉しいのだが、本当に普通に左手でも食えるので、なんかこう甘やかされている感があって、気恥ずかしい。

いつもなら食事の後片付けは3人でやるのだが、右腕をバッキリ折ってしまっているので、カールは治るまでは、ほぼ何もできない。2人に座っていろと言われたので、カールは仕方なくソファーに移動して、ソファーにゆったりと座った。

なんだか、妙にほっとする。セガールの家は、当然ながらセガールの家の匂いがする。所謂、生活臭というやつなのだろうが、それがすごく落ち着く。帰ってきたという感じがして、カールは不思議だなぁと思った。セガールの家で暮らした期間は、3ヶ月にもならない。それなのに、まるで自分の家に帰ってきたような安心感がある。
カールは台所から微かに聞こえてくる物音に耳をすませ、ほぅと息を吐いた。

今回の航海は、悔やむことが多い。油断をしていたつもりはない。しかし、海賊の襲撃を許し、部下を3人も死なせてしまった。船もかなり損傷し、無事に帰港できたのが奇跡のようなものだ。
部下を亡くすのは初めてのことではない。それでも、慣れることなんてない。いつだって、悔しくて、悲しくて、自分がもっとちゃんとしていればと後悔する。

セガールの前で泣いてしまった。情けなくて、恥ずかしくて、セガールが帰った後、冷静になってから、奇声をあげて身悶えて、看護師さんに怒られた。
セガールの顔を見た途端、不思議と張り詰めていたものが緩んでしまって、気づけば泣いていた。セガールは隊長としては先輩だし、カールの昔の隊長だった。セガールは、カールにとっては初めての隊長で、一緒に働いていた期間はそんなに長くないが、セガールにめちゃくちゃ扱いてもらったお陰で、今も生き抜くことができている。セガールが隊長を辞めた後も、カールにとっては、セガールが隊長のままだった。勿論、他の隊長のことも信頼していたし、尊敬もしていた。しかし、カールの心には、ずっとセガールの姿があった。セガールは、カールにとって、あぁいう隊長になりたいと思う憧れの存在であった。
そのセガールに、自分が成長した姿を見せたいのに、逆に情けないところを見せてしまった。思い出すだけで、奇声を発して転げまわりたい程恥ずかしい。
カールは少し熱くなった頬をゴシゴシと左手で擦り、小さく溜め息を吐いた。




------
夕食もセガールとシェリーに交代交代で、あーんして食べさせてもらった。
ステーキを切ってさえくれれば、普通に左手で食べれるのだが、カールは羞恥に耐えながら、大人しく2人に食べさせてもらった。心配をかけてしまったから、2人の厚意を無下にはできない。

夕食後に、2人が洗い物を終えるのをソファーに座って大人しく待っていると、セガールがエプロンで手を拭きながら、居間に戻ってきた。


「カール」

「はい」

「今日から一緒に風呂に入るぞ」

「はいっ!?」

「頭も背中も洗えんだろう」

「あっ!あーー、いや、ほら、そこはなんとか?」

「なんとかなる訳ないだろ。洗ってやるから一緒に風呂に入るぞ」

「……はぁーい」


マジか。男として、隊長として、憧れていたセガールに、頭も身体も洗ってもらうのか。
確かに添え木をして包帯を巻いている右腕を濡らす訳にはいかないのだが、それでもセガールに洗ってもらうのは気恥ずかしい。
普通に一緒に風呂に入るくらいなら別に大して気にもならないが、洗ってもらうとなると別である。

シェリーが先に風呂に入った後、カールは遠い目をして、大人しくセガールと風呂場に移動した。

脱衣場で服を脱ぐのもセガールに手伝ってもらって、風呂場に入ると、カールは小さな椅子に座った。


「先に頭を洗うぞ」

「お願いします」


ここまできたら、大人しくするしかあるまい。カールは目を閉じて、温かいお湯を頭にかけてもらった。
頭を洗ってくれているセガールの指使いは優しくて、素直に気持ちがいい。床屋以外じゃ他人に頭を洗ってもらうことがないので、少し居心地が悪いが、それでも気持ちがいい。
後ろから、セガールが笑う気配がした。


「懐かしいな。シェリーと一緒に風呂に入っていた頃を思い出す」

「あー。だからお上手なんですね」

「痒いところはあるか?」

「ないです。気持ちいいです」

「そうか。流すぞ。目を閉じていろ」

「はい」


温かいお湯で頭を流されると、次はもこもこに泡立てた石鹸がついたタオルで首の後ろや背中を洗われた。これも優しくて、落ち着かないが気持ちがいい。


「シェリーはセガールさんが風呂に入れてたんですか?」

「あぁ。どうしても仕事の都合がつかなくて、帰りが遅くなった時以外は、いつも俺が風呂に入れていた」

「なるほど」

「右腕を上げろ」

「はい」

「次は左」

「はい」

「前も洗うぞ」

「はいっ!?前は自分でできますよ!?」

「ついでだ。気にするな」

「えぇ……」


脇や左腕を洗われた後、本当にセガールがカールの前に移動してきて、身体の前面を洗い始めた。ものすごく落ち着かない。
両足もしっかり洗われて、下腹部にまでセガールの手が伸びてきた。
カールは慌てて、セガールに声をかけた。


「そこは自分で洗います!!」

「気にするな。介護みたいなもんだ」

「いやいやいやいや!」

「左手だけで、ちんこの皮を剥いてちゃんと洗えるのか?」

「気合で洗います!!」

「無理だろ。諦めろ」

「えぇーー!!」


カールは半泣きになりながら、セガールにペニスまで洗われた。カールは仮性包茎である。大きさにはそれなりに自信があるが、半分皮被りだ。ご丁寧にペニスの皮を優しく剥かれて、優しく丁寧にペニスや陰嚢まで洗われた。恥ずかし過ぎて、なんかもう泣きたい。
最後に手で泡立てた石鹸で、優しく包帯から露出している部分の顔を洗われた。セガールの剣胼胝がある大きな硬い手は優しくて、やっぱり居心地が悪かったが、気持ちよかった。

身体を洗い終えると、先に湯船に浸かった。セガールが自分の身体を洗い始めたのをなんとなく眺め、義足を外して湯船に入ってきたセガールと一緒にお湯に浸かる。セガールが湯船に入ると、ざばぁっとお湯が浴槽から溢れだした。
セガールの家の風呂の浴槽は広い方だから、男2人でもギリギリ入れる。それでも、曲げた膝がぶつかる。
セガールが濡れた前髪をかき上げながら、クックッと楽しそうに笑った。


「誰かを洗うのは随分と久しぶりだったが、割と楽しいな」

「マジっすか。俺は羞恥心で死にそうです」

「そんなもんで死ぬか。慣れろ」

「マジかぁ……」

「風呂から上がったら、顔の包帯と腕の包帯を替えるぞ。気をつけていたが、やっぱり少し濡れてしまった」

「お願いします」


こうなったら、もうなるようになれだ。
カールはとことんセガール達に甘やかされる覚悟をした。

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