婚活男の理想の結婚

丸井まー(旧:まー)

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24:寂しい2人

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セガールは朝早くに、玄関先でシェリーと並んで立っていた。
今日はカールが出航する日である。
シェリーがカールに抱きつくと、カールがシェリーを抱きしめて、カールの顔を見上げるシェリーに、ニッと笑いかけた。


「1ヶ月の予定だけど、もしかしたら少し遅れるかも」

「早く帰ってきてね。カールがいないと寂しい」

「ははっ。ありがとー。波と風に祈っておくわ」

「うん。いってらっしゃい」

「いってきます」

「無事の航海と武運を祈る」

「はっ。ありがとうございます!」


カールがシェリーをくっつけたまま、ピシッとキレイな敬礼をした。
むぎゅーっと言いながら、カールがシェリーを抱きしめて、シェリーの身体を離し、少ししゃがんで、シェリーと視線を合わせた。


「何かあったら、っていうか、何もなくても、パパにちゃんと言うんだぞ」

「うん」

「パパに言いにくかったら、マルク先生でもアンナ先生でもいいし。絶対に1人で溜め込まないこと。約束な」

「分かったわ。帰ってきたら、私の誕生日パーティーしてよ。遅くなってもいいから」

「もっちろん!寄港先で何かいいものがあったら、プレゼントに買ってくるよ」

「楽しみにしてる」

「それじゃあ、いってきます!」

「「いってらっしゃい」」


カールが笑顔で手を振り、丘を下っていった。
たった1ヶ月の予定だが、なんだかすごく長く感じる。1ヶ月もカールがいないと、家の中が寂しくなりそうだ。
セガールは、なんだかしょんぼりしているシェリーの頭をやんわりと撫でた。


「じゃあ、俺も仕事に行ってくるな」

「うん」

「できるだけ早く帰ってくるから、晩飯は一緒に作ろう」

「いいわよ。魚がいい」

「塩焼き、蒸し焼き、オイル煮」

「塩焼き」

「じゃあ、塩焼きによさそうな魚を買ってくる」

「うん。いってらっしゃい」

「いってきます」


セガールは少し屈んでシェリーのおでこにキスをすると、出勤の為に丘を下り始めた。カールは直接港に行くので、職場に行っても会うことはない。
シェリーの冬季休暇はあと2日もある。本は買ってやったが、きっとすぐに読み終えるだろう。日中は1人で寂しく退屈しているだろうから、できるだけ早く帰ってやりたい。
セガールは仕事を少しでも早く片付けようと、気合を入れて職場へと急いだ。




-----
カールが出航して、半月が過ぎた。カールがいないと、家の中がやたら静かに感じて、なんだか落ち着かない。
セガールは毎日できるだけ早く帰るようにしているが、やはりシェリーが寂しそうである。

今日は休日なので、2人で朝の家事を終わらせてから、街へ出かけることにした。
2人で走りながら丘を下りていると、シェリーが話しかけてきた。


「ねぇ。パパ」

「ん?」

「港に行きたいわ。カールの船が帰ってきてるかも」

「流石にまだ帰ってきてはいないが、行ってみるか?」

「うん」


セガールはシェリーと一緒に街を抜け、港へと向かった。冷たい潮風が頬を撫でる。港には、いくつも船があり、海軍の軍船もあった。待機中のものだろう。
シェリーがセガールのコートの袖を引っぱって、軍船を指差した。


「パパもあれに乗ってたの?」

「あぁ。あの船ではないがな。『マリアンナ号』という船に乗っていた。隊長になってからだから、10年近く乗っていたな。海賊との戦闘でボロボロになってしまって、今はもう廃船になっている」

「ふーん。カールはなんて名前の船なの?」

「確か、『セドリア号』じゃなかったか」

「ふーん。カールが乗ってる船も見たいわ」

「帰港したら、出迎えついでに見に行くか?」

「うん。カール、早く帰ってこないかしら」

「……カールがいないと、静かで寂しいな」

「うん」

「カールが帰ってきたら、毛蟹を買って、グラタンでも作ってやるか」

「いいわね。私の誕生日パーティーもしなきゃ。また『至福亭』がいいわ。夜の道を歩くのも楽しかったもの。星がキレイだったし」

「ははっ。じゃあ、カールが帰ってきたら、また夜の散歩がてら『至福亭』に行こう」

「うん。今日の波はどうなの?」

「ここの波は落ち着いているな。風もそんなに強くない。船のメンテナンスをするにはいい日だな」

「ふーん。満足したから、図書館に行きましょうよ。リールがいるかもしれないし」

「リール?」

「本好き仲間になる予定の子」

「初等学校の子か?」

「ううん。中等学校の子。13歳って言ってたわ。だから、今年で14歳になるのかな?休みの日は図書館にいつも行ってるんですって。マルク先生の宿題の資料探しを手伝ってもらったこともあるの」

「そうか。会えるといいな」

「うん」


セガールは、なんとなくシェリーの手を握って、街に向けて歩き始めた。シェリーはセガールの手を振りほどくことなく、逆にぎゅっとセガールの手を握ってきた。
図書館に到着すると、シェリーはいつもの児童書コーナーではなく、歴史書コーナーに向かった。
歴史書コーナーで、中等学校の生徒くらいの年頃の眼鏡をかけた少年を見つけると、シェリーの顔がパァッと嬉しそうに輝いた。
セガールは、ん?と思ったが、何も言わずに、リールという少年に静かに近寄って話しかけるシェリーを見守った。


「こんにちは。リール。おすすめの本はない?」

「やぁ。こんにちは。シェリー。どんな本がいい?」

「前に教えてもらった航海の歴史の本が面白かったの。海とか、船についての歴史の本を知らない?」

「それなら、造船の歴史の本が面白いのがあるよ。少し難しいところもあるかもしれないけど」

「分からないところはパパに聞くわ。昔、船に乗ってたの」

「そうなんだ。あ、後ろの人がお父さん?」

「そうよ。パパ。リールよ」

「こんにちは。シェリーの父親のセガールだ」

「こんにちは。はじめまして。リールです」

「娘の宿題の手伝いをしてくれたそうで。ありがとう」

「いえ。僕も少し前に調べたことだったので。シェリー、造船の歴史の本は今日借りる?」

「うん」

「じゃあ、ちょっと待ってて。帰ってお父さんと一緒に読みなよ」

「そうするわ」


リールがその場から離れて、歴史書コーナーの端っこの方に行き、1冊の本を手に取って戻ってきた。
本をシェリーに手渡し、それから小さな声で面白かった本の話しを楽しそうにしている2人を眺めながら、セガールはちょっぴり複雑な心境になった。もしや、シェリーの初恋とか、そんなんじゃないだろうな、と。シェリーに恋はまだ早過ぎる気がする。そりゃあ、いつかは嫁にいくのだろうが、今はまだ考えたくない。
カールにどう思うか相談してみたいが、カールが帰ってくるのはまだ先だ。今すぐカールが帰ってくればいいのに。

お喋りに満足したのか、シェリーがリールに手を振ってセガールの元へ来た。シェリーにコートの袖を引かれて、今度は児童書コーナーへ移動する。


「リールに会えてよかったわ。面白そうな本を教えてもらえたし。カールが帰ってくるまでの、いい暇潰しになりそう。パパ。読むの付き合って」

「勿論いいとも。その本はまだ読んだことがないから、俺も楽しめそうだ」

「カールがいれば3人で読めたのに」

「本当に早く帰ってきてほしいな」

「うん」


本当に心から早く帰ってきてほしい。シェリーがリールに恋しちゃってるのかどうか、カールに探りを入れてもらいたい。情けない話だが、セガールでは上手く聞き出せる気がしない。シェリーの恋を応援してやる方がいいのだろうが、ぶっちゃけ応援したくないのが本音である。シェリーには、まだまだセガールの元にいてほしい。
この複雑な男心を吐き出せる相手がカールくらいしかいない。

カールがいないと本当に寂しい。カールがいないと、静か過ぎて、夜の晩酌もしなくなった。カールとの他愛のないお喋りが好きだったんだなぁと改めて思う。

セガールは、図書館から出てから、またなんとなく、シェリーと手を繋いで丘の上の家へと帰った。


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