産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
上 下
5 / 15

5:嵐襲来

しおりを挟む
今朝もいつものように卵を産むと、リーンデルトは大きく息を吐いてから、のろのろと起き上がった。今日の卵は七つである。昨夜はセックスをしなかったので、少しだけ多い。毎朝、毎朝、卵を産むのは地味にしんどい。うんこ程するーっと出てきてくれない上に、無駄に硬いので、いつか切れ痔になるんじゃないかと戦々恐々としている。
朝から疲れたリーンデルトは、産みたてほやほやの卵に浄化魔術をかけると、ポイポイと籠に卵を放り込んだ。これがカインの糧になるのだから、無駄にならないだけマシかと思う。

リーンデルトが卵が入った籠を持って、1階の台所へ移動すると、カインが朝食を作っていた。トマトスープのいい香りがする。カインがいつも通りのしかめっ面でリーンデルトを見て、口を開いた。


「おはよう」

「おはよう。今朝は七つよ。力み過ぎてケツいてぇわ」

「お疲れ。今日はマリアンナが来るんだろう」

「げっ。そうだった。うーわー。姉貴がくると疲れるんだよなぁ」

「まぁ否定はしないが、いいお姉さんだろ」

「まぁ、そうかねー」

「朝飯ができた」

「おー。早く食って洗濯物やっちまうかね」


リーンデルトはカインを手伝い、居間のテーブルに朝食を運んだ。酸味のあるトマトスープが素直に美味しい。ハムと野菜たっぷりのオープンサンドイッチも、黄身が半熟とろとろのゆで卵も美味しい。
すっかり夏本番になり、毎日朝から暑い。食欲が落ち気味なので、あっさりさっぱりとしたメニューの朝食が嬉しい。

食後の珈琲を楽しみ、洗濯物を干し終えた頃に、玄関の呼び鈴が鳴った。リーンデルトは渋い顔をして、玄関に向かい、玄関のドアを開けた。そこには、リーンデルトに目元がよく似た赤毛の中年の女が立っていた。リーンデルトの姉、マリアンナである。マリアンナがリーンデルトの顔を見るなり、眉間に皺を寄せた。


「おはよう。リーン。アンタ、相変わらず年がら年中つなぎばっかり着てるのね。少しはお洒落しなさいよ」

「……おはよう。姉貴。いいだろ。別に。楽なんだよ」

「これだから男は。ダサいとカインに捨てられるわよ!」

「捨てられねぇし」

「どうだか。母さんから色々預ってきてるの。重いから、さっさと受け取りな」

「へーい」

「暑いから、珈琲は冷たいのがいいわ」

「カインに言ってくれ」


この暑いのに朝から無駄に元気なマリアンナにげんなりする。リーンデルトはマリアンナから荷物を受け取り、家の中に入れると、居間に向かった。
マリアンナは、旦那と一緒に、リーンデルトの両親と暮らしている。リーンデルトの実家は同じ街の中にあるが、リーンデルト達が暮らす街は大きな街で、リーンデルトの家は街外れにあるので、そこそこ距離があり、自分の家族と会う機会は少ない。
マリアンナを居間のソファーに座らせたタイミングで、カインがお盆を持ってやって来た。氷が入ったグラスに注がれた珈琲は、冷たくて美味しそうだ。
マリアンナが嬉しそうにカインを見て口を開いた。


「おはよう。カイン。珈琲ありがとう。ちょうど冷たいものが飲みたかったの」

「おはようございます。マリアンナ。お元気そうで何よりです」

「貴方もね。母さんが桃のジャムを作ったから、他のものと一緒に持ってきたわ。是非食べてちょうだい」

「いつもありがとうございます」

「愚弟がいつもお世話になってるんだもの。今日来たのはね、うちの長男が今度結婚することになったのよ」

「へぇー。あのおねしょ坊主がついに結婚かよ」

「何年前の話してんのよ。相手は大通りの八百屋さんの娘さんでね。すっごく可愛い子なんだから!おっとりしてて、おおらかな子よ。結婚式は再来月だけど、来週身内でお祝いパーティーするから、2人で来てちょうだい。カイン。愚弟をまともな格好させて連行してきてね!」

「分かりました」

「親父とお袋は?」

「元気よ。父さんは少し前に3回目のギックリ腰やったけど。もうよくなってるわ」

「ふーん」

「『うちの馬鹿息子は全然帰ってこない!』って、母さんがプリプリしてたから、会った時に小言食らうわね」

「うげぇ」


マリアンナが冷たい珈琲を飲み、ほぅと満足気な溜め息を吐いた。


「カインが淹れてくれる珈琲は、相変わらず美味しいわね。お祝いパーティーでも淹れてくれないかしら。うちの父さん、お酒飲めないし、貴方の珈琲が好きだから」

「はい。道具と豆を持参していきます」

「悪いわねぇ。ありがと。2人とも最近はどう?特に愚弟はちゃんと仕事してんの?」

「してるっつーの」


マリアンナからの怒涛の質問攻めと小言に、リーンデルトは気づかれないように小さな溜め息を吐いた。
マリアンナは昼食にカインが作ったトマトの冷製パスタをがっつり食べてから帰っていった。
マリアンナを見送ると、リーンデルトは疲れた溜め息を吐いた。マリアンナは割といい姉だと思うのだが、相手をするのは結構疲れる。

マリアンナが持ってきてくれた母からの荷物を2人で確認すると、母手製の大量のクッキーも入っていた。間違いなくカイン用である。リーンデルトの母はカインを気に入っており、何かと手製の甘いものを差し入れてくれる。
いつものしかめっ面が少し弛んでいるカインを見て、リーンデルトは小さく笑った。


「明日は礼服を買いに行くぞ」

「うげぇ。結婚式は再来月だろ。まだ先でいいだろ」

「次の休みはお祝いパーティーだろう。まさか、いつものつなぎで行くつもりか」

「そうですけど」

「阿呆。礼儀はちゃんとしろ」

「へーい」

「……顔がいいんだから、たまには着飾れ」

「めんどい」


呆れた顔をするカインに、リーンデルトは子供のように、べーっと舌を出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ミロクの山

はち
BL
山神×人間 白い蛇の神様の伝承が残る巳禄山にやってきた人間が山神様(蛇神)に溺愛される話。短編集です。 触手と擬似排泄、出産・産卵があります。 【宗慈編】 巳禄山で遭難した槙野宗慈は雨宿りした門のような構造物の下でいつの間にか眠ってしまう。 目を覚ました宗慈はミロクという男に助けられるが……。 出産型のゆるふわなミロクさま×従順な宗慈くんのお話。 【悠真編】 大学生の三笠悠真はフィールドワークの途中、門のようなもののある場所に迷い込んだ。悠真の元に現れた男はミロクと名乗るが……。 産卵型のミロクさま×気の強い悠真くん 【ヤツハ編】 夏休みに家の手伝いで白羽神社へ掃除にやってきた大学生のヤツハは、そこで出会ったシラハという青年に惹かれる。シラハに触れられるたび、ヤツハは昂りを抑えられなくなり……。 蛇強めのシラハさま×純朴なヤツハくん。 ※pixivにも掲載中

男やもめ達は枯れたくない!

丸井まー(旧:まー)
BL
まだ枯れたくない男やもめな男達の、ゆるーいお話。 禿げたおっさん✕下っ腹出たおっさん。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...