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31:セベリノの企み
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夏本番である。セベリノは自室の壁に貼ってあるカレンダーをじっと見つめながら、ぐっと強く拳を握った。結婚記念日まで、あと1ヶ月もない。何かしたいと思っているのだが、未だにこれ!というようないい案が思いつかない。初めての結婚記念日だし、どうせなら、ニルダが驚いて喜んでくれるような、サプライズ的な何かをしたい。が、思いつかない。友達から嫁へのサプライズ失敗談はよく聞くが、成功した事例を殆ど知らない。男のサプライズは結構失敗しやすいということだけは分かっている。女心は難しいものらしい。とはいえ、ニルダは女ではなく、ただのニルダだ。ニルダが喜んでくれることだけを求めている。
セベリノはカレンダーの前でぐるぐると考えていたが、今朝も妙案が思いつかず、出勤時間が迫ってきてしまったので、溜め息を一つ吐いて、部屋を出た。
ニルダと並んで歩き、警邏隊の詰所へと向かう。朝だというのに、今日は既に陽射しが強い。帽子を被っているが、汗が顔を流れていき、帽子の額に当たっている部分などがじっとりしている。今年はどうも一際暑い年になるようで、連日の暑さに既にうんざりしている。セベリノはチラッと隣のニルダを見上げた。ニルダも頬を汗が流れているが、それでも平然とした顔をしている。鍛え方の問題だろうか。
セベリノがニルダを見上げていると、ニルダがセベリノを見下ろした。
「どうした」
「いやぁ。今日も暑いですね」
「あぁ」
「あ、朝一で会議が入ってますよね。資料は用意しておいたので、忘れずに持っていってください」
「ん」
「今日は平和だといいですね。一昨日なんて、空き巣と暴行事件の犯人をほぼ同時に捕まえて、すごくバタバタでしたし」
「ん」
「これだけ暑いんだから、大人しくしてろって話ですよねぇ。あ、今日の巡回の時に、例のお菓子屋さんとこのお婆ちゃんにお話を聞いてきますね」
「あぁ」
ポツポツ仕事の話をしていると、警邏隊の詰所に到着した。班の部屋で朝礼をして、会議に参加する為に部屋を出ていったニルダを見送ると、セベリノも部下のヴァーダンを連れて、巡回に出掛けた。
巡回が終わって詰所に戻り、だらだらと流れる汗を拭きながら班の部屋に戻ると、部屋には部下のキリック1人しかいなかった。セベリノは、自分の机の所から『お疲れ様でーす』とゆるく出迎えてくれたキリックの側に移動した。
「キリックさん。班長は?」
「班長は他の若いのを連れて出てます。第四地区の宿屋から不審死の通報がありました。俺は副班長達への伝言係りです。場所が花街に近い位置の連れ込み宿なので、殺しの可能性もありますから、殺しの場合に備えて捜査準備をしておけと」
「了解。ありがとう。キリックさん」
「いえ。巡回では何かありました?」
「特に何も。話を少し聞きに行こうと思っていた人が夏風邪で体調悪くて。また後日になったくらい?」
「あー。うちの嫁さんも今風邪ひいてるんですよ。なんか夏風邪が流行ってるらしいですよ」
「あ、そうなんだ。奥さんは大丈夫ですか?」
「熱は下がったんですけど、食欲が無いのがなぁ」
「唯でさえ、暑くて食欲が無くなりますからね。体調悪いと尚更ですよね」
「そうなんすよ。うちの嫁、元々食が細い方だし、心配で。帰りにゼリーでも買って帰ろうかと思ってます。副班長、いい店知らないですか?」
「『アンナブール』って名前のお店のゼリーが評判いいって聞きますね。少し小さめで、女子供が食べやすい量らしいですよ。まぁ、男には物足りないみたいですけど」
「あ、逆にそれくらいがいいです。帰りに寄ります」
「ざっくりした地図を書きますね。不審死が殺しで捜査が始まる場合でも、今日は定時で帰ってください。下のお子さんは、まだ4歳でしょ」
「ありがとうございます。熱が出てから、毎日昼間は嫁さんのお義母さんに来てもらってるんですよ。嫁さんの実家が割と近所なんで」
「あぁ。それなら少しは安心ですね」
「えぇ」
セベリノは制服の内ポケットから取り出した手帳に簡単な地図を描きながら、ふと思い立ったことを、今いるキリックとヴァーダンに聞いてみた。2人ともセベリノよりも年上で、何人も子供がいる既婚者だ。
「お2人は初めての結婚記念日って何かしました?」
「俺は嫁さんと当時一番話題になっていた高級料理店に行きましたね。その後、街の高級宿に泊まりました。すげぇ高いネックレスをねだられて、いやもう財布が軽くなりましたよ。嫁さんは喜んでたけど。特に高級宿の方。女が喜びそうな天蓋付きのベッドだったんですよ。あと、色々女受けするサービスが充実してて」
「へぇー。いいですねぇ。キリックさん。ちなみに、サプライズでした?事前に言ってました?」
「事前に言ってましたよ。つーか、金を出したのは俺だけど、計画したのは嫁さんなんで。男のサプライズはね……外しやすいんですよ……」
「あー……うん。色々聞きますね」
過去にやらかしたことがあるのか、遠い目をしているキリックに苦笑して、セベリノは今度はヴァーダンに聞いてみた。
「ヴァーダンさんは何かされました?」
「旅行に行ったな。ナルントートっていう馬車で片道半日の海辺の町があるんだが、其処に。いやもう盛り上がったな。今思い返しても最高の旅行だった。子供が生まれてからは行けなくなったが」
「子供が一緒に行けない場所なんですか?」
「ナルントート自体は普通に行けるさ。ふふん。まぁ、少し聞いてくれ」
「あ、はい」
「まずは移動の馬車な。街が運営している乗り合い馬車じゃなくて、馬車組合の馬車を借りたんだよ。馭者付きで。その馬車ってのが、防音しっかりで頑丈な上に、座席が革張りで、防水加工済み。普通の乗り合い馬車に比べたら振動が大きくないし、窓にカーテンもついている。別名『イチャイチャ馬車』だ。汚してもちゃんとキレイに拭いたら大丈夫だと事前にこっそり教えてもらってたし、まぁ、ヤるよな」
「それはヤるな。なんだそれ。めちゃくちゃ盛り上がるやつじゃねぇか」
「だろ」
「馬車の中……」
「で、ナルントートで泊まった宿なんだが、町からそこそこ離れた所にぽつんとあるコテージで、海がすぐ側だったんだが、2階の寝室の海側の壁がガラス張りでな。カーテンは勿論あるんだが、まぁ盛り上がったな。それと特別オプションをつけてたから、それはもう盛り上がった」
「特別オプション?」
「自分じゃ買いにくい色々が用意されてんだよ。宿代は半分が後日請求でくるんだが、使ったやつは全部買い取りで持って帰れる。その時だけじゃなくて、帰ってからも使えるんだ」
「最高のオプションじゃねぇか」
「食事はどんな感じでした?」
「こっちが指定した時間に料理人が来て、飯を作ってくれたな。すげぇ美味かった」
「それはすごいですね」
「贅沢な宿だなぁ」
「更に、宿の辺りの海辺は基本的に宿に泊まる人しか入れないようになっているので、嫁さんの水着を誰に見られることもなく堪能しつつ、海辺でイチャイチャできるという。まぁ、盛り上がるよな」
「やべぇな。その宿」
「やべぇだろ。嫁さんもすげぇ喜んでた。3泊もしたら、まぁ子供もできるよな」
「そりゃできるわ」
「ヴァーダンさん。宿のだいたいの値段と問い合わせ先を教えてください」
「宿代は3泊4日で俺の給料半月分。貰ったパンフレットをまだ取ってあるから、明日持ってくる。速達便で手紙を書くといい。ちなみに馬車の方は、往復で俺の給料3分の1。食事代や土産代その他諸々含めて、まぁ、ほぼ俺の給料1ヶ月分ちょいが消えた」
「結構するな」
「その代わり最高だった。本当に最高だった」
「…………俺と班長、来月5日間休みを取ってもいいですか?」
「いいんじゃないですか?」
「多分大丈夫だろ」
「ちょっと今から上官に休暇のおねだりしてきます」
「おー」
「無事に休めるといいですねー」
微笑ましいものを見るような、生温かい目をした2人に見送られ、セベリノは急いで部屋を出て、上司の部屋へと向かった。
すごくいい事を聞いた。これはもう旅行するしかないではないか。予算的には、セベリノの貯金で普通になんとかなる。休暇と馬車と宿の予約がとれたら、行ける。ニルダとイチャイチャしまくりの旅行なんて最高ではないか。サプライズは中止だ。ニルダにも事前に話して、一緒に旅行の準備をしよう。きっと旅行前から楽しくなる筈だ。
セベリノは弾むような足取りで上司の部屋の前に到着すると、軽やかに部屋のドアをノックした。
------
セベリノは郵便受けを見て、手紙が入っているのを確認すると、小さく歓声を上げた。
無事に上官から2人の連休をもぎ取り、殺人事件の捜査の合間に、馬車組合と目当ての宿に問い合わせの手紙を出した。どちらも予約可能との返信だったので、改めて予約の手紙を出した。その返事が帰ってきた。
セベリノはいそいそと居間に移動し、ペーパーナイフで手紙の封を切ると、手紙の中身を確認し、勢いよく拳を天井に向かって突き上げた。
どちらも予約成功である。これでニルダと旅行に行ける。旅行のことは、ニルダに話してある。ニルダは驚いていたが、とても嬉しそうに笑ってくれた。勿論、泊まる宿の詳細や馬車でイチャイチャどころかセックスまでできちゃうことは言っていない。そこはサプライズである。サプライズというか、正直に言うのが少し恥ずかしかったから言わなかっただけなのだが。宿の特別オプションは勿論つけてある。手紙に同封されていたオプションの詳細を見れば、エロ本でしか存在を知らなかった所謂大人の玩具の名前がずらりと並んでいた。セックスの際に道具を使うことにそんなに興味は無かったが、気軽に使える機会があれば、是非とも使ってみたい。
特別オプションの詳細は一応自室に隠しに行き、セベリノは居間の窓から顔を出して、庭で日課の鍛錬をしているニルダに、はしゃいで声をかけた。
殺人事件も無事に解決し、事後処理もすっかり落ち着いたある休日。セベリノは1人で買い出しに出ていた。ニルダは、今日は仕事だ。
ニルダと初めての旅行まで、あと10日程である。前の休日に、2人で旅行用の服や鞄を買いに行った。水着は現地で買う予定である。
市場で野菜を眺めながら、セベリノは、ふと思った。旅行の時は、2人お揃いの服でもいいんじゃない?と。
聞けば、今回行くナルントートは、新婚旅行の定番地らしい。常時甘々イチャイチャの若夫婦が多いのだとか。セベリノ達が泊まる宿は町から割と離れているが、町中にも沢山宿があり、小さな町だが活気があって賑やからしい。土産物屋も充実しているとか。そんな町だから、旅行者は目立たないし、蜜月中の浮かれた若夫婦がお揃いの服を着ていたりもするんじゃないだろうか。
セベリノは少しだけ悩んで、野菜を買ってから、肉屋に寄って肉も買い、大急ぎで自宅へ帰った。魔導冷蔵庫に買ったものを入れると、再び急いで家を出る。
割と下心満載感がある旅行だが、更に甘々イチャイチャしてもいいではないか。ということで、ニルダとお揃いの服を買いに行く。これはサプライズにしておく。ニルダの驚いて喜ぶ顔が見たい。
セベリノは軽やかな足取りで大きいサイズの服を扱っている服屋に行き、真剣に服を選び始めた。
セベリノはカレンダーの前でぐるぐると考えていたが、今朝も妙案が思いつかず、出勤時間が迫ってきてしまったので、溜め息を一つ吐いて、部屋を出た。
ニルダと並んで歩き、警邏隊の詰所へと向かう。朝だというのに、今日は既に陽射しが強い。帽子を被っているが、汗が顔を流れていき、帽子の額に当たっている部分などがじっとりしている。今年はどうも一際暑い年になるようで、連日の暑さに既にうんざりしている。セベリノはチラッと隣のニルダを見上げた。ニルダも頬を汗が流れているが、それでも平然とした顔をしている。鍛え方の問題だろうか。
セベリノがニルダを見上げていると、ニルダがセベリノを見下ろした。
「どうした」
「いやぁ。今日も暑いですね」
「あぁ」
「あ、朝一で会議が入ってますよね。資料は用意しておいたので、忘れずに持っていってください」
「ん」
「今日は平和だといいですね。一昨日なんて、空き巣と暴行事件の犯人をほぼ同時に捕まえて、すごくバタバタでしたし」
「ん」
「これだけ暑いんだから、大人しくしてろって話ですよねぇ。あ、今日の巡回の時に、例のお菓子屋さんとこのお婆ちゃんにお話を聞いてきますね」
「あぁ」
ポツポツ仕事の話をしていると、警邏隊の詰所に到着した。班の部屋で朝礼をして、会議に参加する為に部屋を出ていったニルダを見送ると、セベリノも部下のヴァーダンを連れて、巡回に出掛けた。
巡回が終わって詰所に戻り、だらだらと流れる汗を拭きながら班の部屋に戻ると、部屋には部下のキリック1人しかいなかった。セベリノは、自分の机の所から『お疲れ様でーす』とゆるく出迎えてくれたキリックの側に移動した。
「キリックさん。班長は?」
「班長は他の若いのを連れて出てます。第四地区の宿屋から不審死の通報がありました。俺は副班長達への伝言係りです。場所が花街に近い位置の連れ込み宿なので、殺しの可能性もありますから、殺しの場合に備えて捜査準備をしておけと」
「了解。ありがとう。キリックさん」
「いえ。巡回では何かありました?」
「特に何も。話を少し聞きに行こうと思っていた人が夏風邪で体調悪くて。また後日になったくらい?」
「あー。うちの嫁さんも今風邪ひいてるんですよ。なんか夏風邪が流行ってるらしいですよ」
「あ、そうなんだ。奥さんは大丈夫ですか?」
「熱は下がったんですけど、食欲が無いのがなぁ」
「唯でさえ、暑くて食欲が無くなりますからね。体調悪いと尚更ですよね」
「そうなんすよ。うちの嫁、元々食が細い方だし、心配で。帰りにゼリーでも買って帰ろうかと思ってます。副班長、いい店知らないですか?」
「『アンナブール』って名前のお店のゼリーが評判いいって聞きますね。少し小さめで、女子供が食べやすい量らしいですよ。まぁ、男には物足りないみたいですけど」
「あ、逆にそれくらいがいいです。帰りに寄ります」
「ざっくりした地図を書きますね。不審死が殺しで捜査が始まる場合でも、今日は定時で帰ってください。下のお子さんは、まだ4歳でしょ」
「ありがとうございます。熱が出てから、毎日昼間は嫁さんのお義母さんに来てもらってるんですよ。嫁さんの実家が割と近所なんで」
「あぁ。それなら少しは安心ですね」
「えぇ」
セベリノは制服の内ポケットから取り出した手帳に簡単な地図を描きながら、ふと思い立ったことを、今いるキリックとヴァーダンに聞いてみた。2人ともセベリノよりも年上で、何人も子供がいる既婚者だ。
「お2人は初めての結婚記念日って何かしました?」
「俺は嫁さんと当時一番話題になっていた高級料理店に行きましたね。その後、街の高級宿に泊まりました。すげぇ高いネックレスをねだられて、いやもう財布が軽くなりましたよ。嫁さんは喜んでたけど。特に高級宿の方。女が喜びそうな天蓋付きのベッドだったんですよ。あと、色々女受けするサービスが充実してて」
「へぇー。いいですねぇ。キリックさん。ちなみに、サプライズでした?事前に言ってました?」
「事前に言ってましたよ。つーか、金を出したのは俺だけど、計画したのは嫁さんなんで。男のサプライズはね……外しやすいんですよ……」
「あー……うん。色々聞きますね」
過去にやらかしたことがあるのか、遠い目をしているキリックに苦笑して、セベリノは今度はヴァーダンに聞いてみた。
「ヴァーダンさんは何かされました?」
「旅行に行ったな。ナルントートっていう馬車で片道半日の海辺の町があるんだが、其処に。いやもう盛り上がったな。今思い返しても最高の旅行だった。子供が生まれてからは行けなくなったが」
「子供が一緒に行けない場所なんですか?」
「ナルントート自体は普通に行けるさ。ふふん。まぁ、少し聞いてくれ」
「あ、はい」
「まずは移動の馬車な。街が運営している乗り合い馬車じゃなくて、馬車組合の馬車を借りたんだよ。馭者付きで。その馬車ってのが、防音しっかりで頑丈な上に、座席が革張りで、防水加工済み。普通の乗り合い馬車に比べたら振動が大きくないし、窓にカーテンもついている。別名『イチャイチャ馬車』だ。汚してもちゃんとキレイに拭いたら大丈夫だと事前にこっそり教えてもらってたし、まぁ、ヤるよな」
「それはヤるな。なんだそれ。めちゃくちゃ盛り上がるやつじゃねぇか」
「だろ」
「馬車の中……」
「で、ナルントートで泊まった宿なんだが、町からそこそこ離れた所にぽつんとあるコテージで、海がすぐ側だったんだが、2階の寝室の海側の壁がガラス張りでな。カーテンは勿論あるんだが、まぁ盛り上がったな。それと特別オプションをつけてたから、それはもう盛り上がった」
「特別オプション?」
「自分じゃ買いにくい色々が用意されてんだよ。宿代は半分が後日請求でくるんだが、使ったやつは全部買い取りで持って帰れる。その時だけじゃなくて、帰ってからも使えるんだ」
「最高のオプションじゃねぇか」
「食事はどんな感じでした?」
「こっちが指定した時間に料理人が来て、飯を作ってくれたな。すげぇ美味かった」
「それはすごいですね」
「贅沢な宿だなぁ」
「更に、宿の辺りの海辺は基本的に宿に泊まる人しか入れないようになっているので、嫁さんの水着を誰に見られることもなく堪能しつつ、海辺でイチャイチャできるという。まぁ、盛り上がるよな」
「やべぇな。その宿」
「やべぇだろ。嫁さんもすげぇ喜んでた。3泊もしたら、まぁ子供もできるよな」
「そりゃできるわ」
「ヴァーダンさん。宿のだいたいの値段と問い合わせ先を教えてください」
「宿代は3泊4日で俺の給料半月分。貰ったパンフレットをまだ取ってあるから、明日持ってくる。速達便で手紙を書くといい。ちなみに馬車の方は、往復で俺の給料3分の1。食事代や土産代その他諸々含めて、まぁ、ほぼ俺の給料1ヶ月分ちょいが消えた」
「結構するな」
「その代わり最高だった。本当に最高だった」
「…………俺と班長、来月5日間休みを取ってもいいですか?」
「いいんじゃないですか?」
「多分大丈夫だろ」
「ちょっと今から上官に休暇のおねだりしてきます」
「おー」
「無事に休めるといいですねー」
微笑ましいものを見るような、生温かい目をした2人に見送られ、セベリノは急いで部屋を出て、上司の部屋へと向かった。
すごくいい事を聞いた。これはもう旅行するしかないではないか。予算的には、セベリノの貯金で普通になんとかなる。休暇と馬車と宿の予約がとれたら、行ける。ニルダとイチャイチャしまくりの旅行なんて最高ではないか。サプライズは中止だ。ニルダにも事前に話して、一緒に旅行の準備をしよう。きっと旅行前から楽しくなる筈だ。
セベリノは弾むような足取りで上司の部屋の前に到着すると、軽やかに部屋のドアをノックした。
------
セベリノは郵便受けを見て、手紙が入っているのを確認すると、小さく歓声を上げた。
無事に上官から2人の連休をもぎ取り、殺人事件の捜査の合間に、馬車組合と目当ての宿に問い合わせの手紙を出した。どちらも予約可能との返信だったので、改めて予約の手紙を出した。その返事が帰ってきた。
セベリノはいそいそと居間に移動し、ペーパーナイフで手紙の封を切ると、手紙の中身を確認し、勢いよく拳を天井に向かって突き上げた。
どちらも予約成功である。これでニルダと旅行に行ける。旅行のことは、ニルダに話してある。ニルダは驚いていたが、とても嬉しそうに笑ってくれた。勿論、泊まる宿の詳細や馬車でイチャイチャどころかセックスまでできちゃうことは言っていない。そこはサプライズである。サプライズというか、正直に言うのが少し恥ずかしかったから言わなかっただけなのだが。宿の特別オプションは勿論つけてある。手紙に同封されていたオプションの詳細を見れば、エロ本でしか存在を知らなかった所謂大人の玩具の名前がずらりと並んでいた。セックスの際に道具を使うことにそんなに興味は無かったが、気軽に使える機会があれば、是非とも使ってみたい。
特別オプションの詳細は一応自室に隠しに行き、セベリノは居間の窓から顔を出して、庭で日課の鍛錬をしているニルダに、はしゃいで声をかけた。
殺人事件も無事に解決し、事後処理もすっかり落ち着いたある休日。セベリノは1人で買い出しに出ていた。ニルダは、今日は仕事だ。
ニルダと初めての旅行まで、あと10日程である。前の休日に、2人で旅行用の服や鞄を買いに行った。水着は現地で買う予定である。
市場で野菜を眺めながら、セベリノは、ふと思った。旅行の時は、2人お揃いの服でもいいんじゃない?と。
聞けば、今回行くナルントートは、新婚旅行の定番地らしい。常時甘々イチャイチャの若夫婦が多いのだとか。セベリノ達が泊まる宿は町から割と離れているが、町中にも沢山宿があり、小さな町だが活気があって賑やからしい。土産物屋も充実しているとか。そんな町だから、旅行者は目立たないし、蜜月中の浮かれた若夫婦がお揃いの服を着ていたりもするんじゃないだろうか。
セベリノは少しだけ悩んで、野菜を買ってから、肉屋に寄って肉も買い、大急ぎで自宅へ帰った。魔導冷蔵庫に買ったものを入れると、再び急いで家を出る。
割と下心満載感がある旅行だが、更に甘々イチャイチャしてもいいではないか。ということで、ニルダとお揃いの服を買いに行く。これはサプライズにしておく。ニルダの驚いて喜ぶ顔が見たい。
セベリノは軽やかな足取りで大きいサイズの服を扱っている服屋に行き、真剣に服を選び始めた。
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