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仲良く喧嘩しとけ!
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ごっと鈍い音を立てて、目の前の男の拳が強く頬に叩きつけられた。口の中が切れたのか、口内に鉄臭い血の味が広がっていく。グラマーはぺっと口内の血を地面に吐き捨てると、目の前の男バックスの脇腹を狙って鋭く蹴りを入れた。バックスの体勢が僅かに崩れたのを見逃さずに、バックスの顔面に拳を叩き込む。思いっきり鼻に入ったが、バックスは倒れず、グラマーの腹に重い拳を叩き込んだ。ちょうど胃のあたりに拳が入り、昼飯が逆流しそうになるが、ぐっと堪え、バックスの顎に頭突きをかます。
鋭く睨み合いながら、本気で殴り合っていると、『こらぁ!!』と怒鳴る上官の声が聞こえた。グラマーとバックスはピタリと動きを止めた。
「グラマー・シュルート!バックス・ビアンカナン!また貴様らか!!」
グラマーとバックスは上官の方へ向き、ピシッと直立になった。額に青筋を浮かべ、完全にキレた顔をしている上官に、バックスが告げ口をする子供のように話しかけた。
「この動く糞袋が先に仕掛けてきました」
「あぁ!?違います。上官。こっちのチンカス野郎が先にメンチ切ってきました」
「どっちが先に仕掛けたかはどうでもいい。どうせ大した理由もないのだろう。お前達、今月に入って何度目だ。訓練場は喧嘩をする場所ではない!!」
「え?じゃあ廊下とかでやってもいいんですか?」
「いい訳あるか馬鹿者ぉぉ!!」
バックスの発言に、上官が更にブチ切れた。グラマーとバックスはその場に正座をさせられ、延々2時間も上官に説教された。
上官の説教を右から左へと聞き流していたグラマーは、上官のとんでもない発言に飛び上がって驚いた。
「もう我慢の限界だ。お前達、結婚しろ。結婚式の準備はこちらでしておく。一生仲良く喧嘩してろ。家庭内でな」
「「はぁぁぁぁぁ!?」」
「よーし。もう決めた。決定事項だ。結婚式は来月だ。新居の準備もこっちでしておく」
「い、いやいやいや!上官殿!そんなありえねぇですよ!!こんな糞野郎と結婚なんて!!」
「そうですよ!!俺は小柄でおっぱいデカい可愛い女の子と結婚して子宝に恵まれるっていう夢があるんですよ!!」
「知らん。お前らの結婚は決定事項だ。お前達の尻拭いはもう疲れた。結婚して少しは仲良くなれ。仲良くならんでもいいから、せめて職場で喧嘩をするな」
上官はそう言うと、手続きをしてくると言って、足早に去っていった。
グラマーは無言でバックスを見た。バックスも無言でグラマーの方を向いた。
ほぼ同時に胸ぐらを掴みあい、至近距離で睨み合う。
「てめぇのせいで俺の可愛い夢が消えちまっただろうが」
「あ?おめぇのせいだろ?糞袋」
「ぶっ殺す」
「やれるもんならやってみろ」
グラマーとバックスは、再び上官に止められるまで、訓練場で殴り合った。
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ナルダール王国は周囲を海に囲まれた島国である。近隣国との関係は今のところ良好で、軍人の仕事は、主に近海に現れる海賊の捕縛である。
ナルダール王国は大陸より南に位置しており、年間を通じて穏やかな暖かい気候で、それ故か、国民もおっとりした者が多い。恋愛にも寛容で、同性婚も認められている。
グラマーは死んだ魚よりも濁った目をして婚礼衣装に身を包んでいた。隣には同じくらい目が死んでいる婚礼衣装を着たバックスがいる。
今日はグラマーとバックスの結婚式だ。グラマーとバックスの不仲は軍内では広く知られており、参列者からの同情の視線や面白がるような視線が鬱陶しい。
グラマーとバックスは同じ部隊に所属しており、上官である部隊長の頭痛と胃痛の種だった。今回、ついにブチ切れた部隊長によって、2人は結婚することになった。あまりにもあんまりである。2人とも独身用の官舎に住んでいたが、丘の上の小さめの一軒家が、2人の新居として用意された。結婚式にかかる費用も新居の費用も、全部部隊長持ちだ。部隊長は国でも有数の大きな財閥の子息で、金は唸るほど持っている。軍人をやっているのは単なる趣味らしい。趣味で軍人をやるってどういうことだ。意味が分からないが、上官としては中々いい上官なので、別にそれは構わない。
結婚に伴い、喧嘩は家庭内で行うと誓約書を書かされた。職場あるいは職務中に喧嘩をしたら、2年間減俸される。それもかなりの額を。俺の人権は何処に行ったと言いたかったが、額に青筋を浮かべてキレながら笑みを浮かべている部隊長がかなり怖かったので、グラマーもバックスも大人しく誓約書にサインをした。
なんとか結婚式という名の晒し者タイムが終わり、グラマーとバックスはぐったりと疲れた状態で、丘の上の小さめの一軒家へ移動した。丘の上にあるだけあって、景色はいい。元は部隊長の実家の別荘だったらしい。夕日が海へと沈んでいく光景は、見慣れたグラマーでも美しいと思う。
バックスと殴り合う気力も無くなった状態で、グラマーは新居に入った。
家具は全て新しくしてあり、明らかに強度を重視したと思われる無骨なデザインのものばかりだった。
幸いにも、寝室は2つあった。バックスと一緒に寝なくてすんで、一安心である。
喧嘩をする気力もない2人は、ぐったりと居間のソファーに座り込んだ。
バックスが疲れが滲む声で話しかけてきた。
「明日から飯どうする」
「あー?お前、料理できんの?俺は全くできんぞ」
「マジかよ。使えねぇ。……飯は俺が作る」
「ちゃんと食えるもん作れよ。しょうがねぇ。俺は洗濯をやる。掃除は日替わりでどうだ」
「それで構わん」
グラマーとバックスは同時に大きな溜め息を吐いた。
既婚者が身につける伝統的な細工がされたブレスレットが邪魔くさい。
その日は珍しく、ろくに口喧嘩もせずに、順番に風呂に入って、別々の寝室で寝た。
グラマーとバックスの新婚生活は、暗澹たるスタートをきったのであった。
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グラマーの1日は走り込みから始まる。朝日が昇る少し前に家を出て、2時間程走る。これは独身時代からの習慣である。それから1時間剣の素振りをして、シャワーを浴びたら洗濯をする。ムカつくことに、バックスも似たようなことをしている。走るコースが同じだと気持ち悪いので、バックスは別のコースを走り、やはり剣の素振りをしてから、シャワーを浴びて朝飯を作り始める。
バックスの料理は若干イラッとする程美味かった。グラマーは何を出されても文句を言わずに無言で平らげる。なんなら、おかわりまでする。美味い飯に罪はない。任務で海に出ている時は、時には食糧難になることもある。まともな食い物が食える有り難さは身に沁みている。飯が美味い事程嬉しいものはない。たとえ、それが誰が作ったものでもだ。
今日も朝からガツガツ食べるグラマーに、バックスがボソッと話しかけてきた。
「肉。魚」
「魚」
今夜の晩飯のメインは魚の気分だから、グラマーは魚と答えた。
朝飯を食い終わる頃に、魔導洗濯機の洗濯の終わりを告げるブザーが鳴る。グラマーは食事の後片付けをバックスに丸投げして、洗濯物を干しに行った。今日も穏やかによく晴れている。洗濯物がよく乾くだろう。今日はシーツも洗濯した。バックスの部屋に勝手に入り、枕と掛け布団を持って庭に行き、自分のものと並べて干す。布団干しも洗濯の範疇に入れておいたからやっているだけである。
今日はグラマーが掃除当番なので、風呂洗いとトイレ掃除と居間の掃除をざっとやり、軍服に着替えて出勤する。
出勤時間は若干ずらしている。バックスと一緒に出勤するなんて心底嫌だからだ。
グラマーとバックスの不仲は、軍学校の入学式以来である。目があった瞬間、『こいつ嫌いだ』と思った。向こうもそうだったのか、入学式終了後に殴り合って、入学早々教官にガチギレされた。あれから15年。お互い今年で31になるが、未だに頻繁に喧嘩をしている。グラマーが悪いのではない。唯、バックスと絶望的なまでに相性が悪いだけだ。まさに水と油のようなものである。
バックスのせいで、可愛い女の子と結婚して、子宝に恵まれるっていう夢は潰された。
グラマーは溜め息を何度も吐きながら、遅刻しないように走って職場へと向かった。
グラマーは昼休憩の時間になると、ふらりと訓練場の隅っこに向かい、バックスが用意した弁当を食べ始めた。若干腹が立つ程美味い。グラマーは残さず全部食べ終えると、空の弁当箱を持って、所属部隊の部屋に戻った。
今は別の部隊が海賊捕縛や巡回をしているので、グラマー達が所属している部隊は割と暇である。1日の殆どを訓練に費やしている。訓練では、グラマーとバックスは組まないことが決められている。絶対流血沙汰の喧嘩に発展するからだ。グラマーは午後の訓練を真面目にやり、訓練終了後は日誌を書いて、走って丘の上の家まで帰った。
早く帰って洗濯物を取り込まないと、折角乾いた洗濯物が湿気ってしまう。
グラマーは大急ぎで帰り、洗濯物を取り込んだ。
シャツにアイロンをかけていると、買い物袋を両手に持ったバックスが帰ってきた。お互いに無言で、目も合わせない。慌ただしく台所で料理を作っている気配を感じながら、グラマーはアイロンをかけ終え、洗濯物を畳み、其々の部屋に置きに行った。
晩飯まで少し時間がかかりそうだったので、居間で筋トレをする。軍人は身体が資本だ。来月はグラマー達の部隊が巡回することになっている。密漁者や海賊とかち合うことがあるので、身体のコンディションは常にキープしておかなくてはいけない。
バックスが居間のテーブルに夕食を並べ始めたので、筋トレを中断して、テーブルの椅子に座る。2人揃って食前の祈りを捧げてから、晩飯を食べ始める。今夜は小さめの魚を素揚げして、野菜と一緒に甘酢に浸けたものがメインだった。素直に美味い。バックスには絶対に言わないけれど。野菜がいっぱい入っているスープも優しい味わいで、炙ったチーズがのっているパンも美味い。グラマーは今日も残さず、きっちりと晩飯を完食した。
風呂はいつもグラマーが先に入る。バックスは晩飯の後片付けがあるので、グラマーが先に入った方が効率がいい。
食事と風呂が終わったら、各自の部屋に篭もる。顔を合わせたら喧嘩に発展するのが目に見えているので、極力顔を合わせないように生活している。
なんだかんだで結婚して約1ヶ月。今のところはガチの喧嘩はしていない。
グラマーは寝る前に自室に置いている酒を少し飲み、お日様の匂いがする枕に顔を埋めて、すとんと眠りに落ちた。
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バックスはガツガツと昼飯を食べるグラマーをチラッと見て、自分も熱々の衣をつけて揚げた鶏肉に齧りついた。我ながら、かなり上手くできている。下味を少々工夫したのが正解だった。グラマーは大抵おかわりをするので、いつも少しだけ多めに作っている。性格がネジ曲がっていそうなグラマーだが、バックスが作る料理に文句を言ったことはない。何を出しても、ガツガツと美味そうに食べている。正直、意外に思う。目が合った瞬間にメンチを切ってくるようなグラマーが、食事にだけは文句を言わない。お互い軍人故に、まともな食事の有り難みは身に沁みている。それ故だろう。
グラマーは何でも食べるが、辛すぎるものは苦手なのだと最近分かってきた。肉を調味料と唐辛子の粉末を混ぜたものに浸けて焼いたものは、おかわりをしなかった。パスタ等の唐辛子も皿の隅っこに寄せて食べないようにしている。どうやら唐辛子が苦手なようである。バックスは辛いものが好きなのだが、どうせ作るのなら完食してもらった方が後片付けが楽である。ここ最近は、唐辛子を使うのを控えている。
今日は2人とも休日である。
買い出しは午前中に済ませたし、家の掃除は今日はグラマーが担当だ。身体を鍛えることしか趣味らしい趣味がないバックスは、夕飯の支度まで何をしようかと、皿を洗いながら考えた。
グラマーとは極力顔を合わせたくない。無駄な労力を使うのも馬鹿らしい。1人でできる気分転換になるようなものはないかと考えてみるが、特に思いつかない。
バックスはトイレに行き、洗面所で手を洗っている時に、何気なく鏡を見た。仕事の時は整髪剤で上げている長めの前髪が、若干伸びすぎている気がする。
バックスは赤茶色の髪と深い蒼色の瞳の、強面と言われるような顔立ちをしている。顔立ち自体はそこまで悪くないのだが、目つきが鋭すぎるので、子供の頃から、睨んでなくても睨まれたと言われることが多かった。
ちなみに、グラマーも強面に分類される顔立ちをしている。濃いブラウンの髪と薄いアンバーの瞳で、何故か常に瞳孔が開いているように見える。髪は丸刈りに近い程短く刈っており、余計人相が悪くなっている。人のことは言えないが、三白眼で、かなり目つきが悪い。
バックスは午後からは床屋に行くことにした。短くしている後ろの方の毛も伸びているし、来月は巡回で海に出るので、今のうちに切っておいた方がいい。
バックスは自室に行き、財布と鍵だけをポケットに突っ込み、丘の下の街へと走り出した。
床屋で髪を切ってもらってサッパリとしたバックスは、街中でグラマーを見かけた。グラマーはパン屋の小柄で可愛い巨乳の女と親しげに話していた。浮気とはいい度胸である。別にグラマーの事が好きな訳ではなく、むしろ嫌いだが、一応夫婦になったのだから、不貞はすべきではない。
本当に浮気か確認すべく、バックスは気配を消して、楽しそうに喋っている2人にこっそり近寄った。
グラマーの好みどんぴしゃの女が、にこやかな笑顔で口を開いた。
「でも本当によかったわ。グラマーさんが結婚できて。これでおじさんも一安心ね」
「いやぁ?来年あたり離婚するから、チーちゃん、結婚してよ」
「やぁだぁ。グラマーさんったら。バックスさんとお似合いだものぉ。離婚なんて駄目よ。それに、私再来月結婚するの!」
「あ、あー……そうなんだぁ。……そいつぁ目出度いな!」
グラマーの顔が一瞬初めて見るような表情を浮かべた。作り笑顔だと分かる顔で、女を祝福しているグラマーは、多分本気であの女に惚れていたのだろう。同居人がガチでフラレるところを見てしまった。グラマーのことは嫌いだが、流石にちょっと同情してしまう。バックスは静かにそこから離れ、酒屋に向かった。
グラマーは晩飯が出来る少し前に帰ってきた。完全な無表情で、ガツガツ晩飯を食うグラマーはいつも通りのようで、いつも通りじゃない。荒れ気味である。空気が刺々しい。食事の時だけは絶対に喧嘩しないと、同棲開始初日に決めた。じゃなかったら、ウザい空気を発してるグラマーと殴り合っているくらい、今のグラマーは刺々しい。子供の頃、図鑑で見たハリネズミのようである。あんなに可愛くはないが。
バックスは仕方がなく、小さく溜め息を吐いて、椅子から立ち上がった。台所へ行って、今日買ってきた酒を取り出し、グラスと一緒に持って、居間に戻る。
テーブルの上にグラスを置いて酒を注ぎ、無言でグラマーの前に置くと、グラマーが無言で酒を睨んでから、グラスを持って一息で飲み干した。注いでやるのは一杯目だけだ。後は勝手にしろと言わんばかりに、グラマー側に酒の瓶を置いて、バックスは途中だった食事を再開した。バックスが買ってきたのは火酒と呼ばれる、かなり酒精が強いものだ。飯の合間にチミチミ飲むが、酒精がキツくて、喉が焼けるようだ。
これは手っ取り早く酔いたい時に飲む酒だ。
グラマーはガツガツ飯を食い終わると、なみなみとグラスに火酒を注いで、また一気飲みした。火酒を1瓶ほぼ1人で飲み干したグラマーは、よろよろとした足取りで居間から出ようとして、途中で力尽きて床に倒れてそのまま鼾をかきながら寝た。絶妙に邪魔くさい位置で寝ているので、バックスは足でグラマーの身体を少し移動させ、晩飯の後片付けをした。
風呂に入った後、居間を覗けば、グラマーが高鼾で寝ている。別にこのままで問題ないかと、バックスは自室に引き上げた。
翌朝、見事に二日酔いになっているグラマーを放っておいて、バックスは朝飯を食い終わると、家の掃除を始めた。
水回りの掃除が終わる頃には、少しだけ復活したグラマーが洗濯を始めた。テーブルの上に並べていた朝飯をいつもより勢いなく食べきる頃には、グラマーはいつもの状態に戻っていた。
バックスが昼飯を作っていると、グラマーが台所に顔を出した。
「おい」
「あ?」
「ん。昨日の酒代」
「いらん」
「あっそ」
グラマーはあっさり引き下がり、台所から出ていった。昼飯をいつも通りガツガツ食べると、グラマーはふらっと何処かへ行った。バックスは庭で筋トレをしてから、居間で昼寝をして過ごした。
晩飯の時に、グラマーが酒の瓶を持ってきた。2つのグラスに酒を注いで、無言でバックスの前にグラスを置いた。酒の瓶は2人の真ん中に置いてある。バックスは無言で酒を飲んだ。そこそこ上等な蒸留酒である。酒精はキツいが、香りがいい。
今日も無言で飯を食いながら、手酌で酒を飲んだ。
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グラマーは地面に降り立つと、大きく伸びをした。
約2ヶ月、巡回で海に出ていた。久々に揺れない地面に立つと、なんとも違和感がある。船の揺れには慣れたものだが、地面に立つと、なんとなくほっとする。今回は海賊と一度やり合うだけで済んだ。怪我人は出たが、死人はいない。
グラマーは他の仲間達と一緒に、港から軍の施設へと向かった。
またバックスと2人だけの生活が始まった。
ずっと片思いしていた女の結婚式は、もう終わっただろう。仕事で忘れていたが、あのパン屋にはもう行きたくない。炊事担当がバックスで助かった。バックスのことは嫌いだが、これだけは有り難いと思う。
グラマーは久々に帰宅すると、埃臭い家の掃除を始めた。
季節は穏やかに過ぎ去り、バックスと結婚して半年が過ぎた。その間、5回くらい殴り合いの喧嘩をしたが、未だに一緒に暮らしている。離婚と別居ができないので仕方がない。勿論上官命令で。
半年も過ぎれば、お互い慣れてくる。いつもバックスに睨まれていると思っていたが、単に目つきが悪すぎるだけだと最近分かった。グラマーも睨んでないのに睨んでると言われることが多いので、ほんの少しだけ、バックスに親近感に近いものを感じるようになった。
バックスが作る飯が美味いので、グラマーは少しだけ太った。ここ最近は、増えた脂肪を減らすべく、筋トレの量を増やしている。
もうすぐ年越しを迎える。来年もバックスと一緒かと思うと、うんざりするが、仕方がない。ある意味自業自得の結果なので、来年もバックスと暮らすしかない。
バックスとは馬が合わないが、お互い干渉しないようにして、無駄な喧嘩をしないようにしている。毎日喧嘩していたら、身体がもたない。お互い軍人なので、本気で殴り合ったら、確実に流血沙汰になる。馴染みの軍病院の医者からも怒られるので、喧嘩はできるだけ控えるようになった。
グラマーは居間でのんびりと酒を飲んでいた。バックスも一緒に酒を飲んでいる。今日は年越しの日だ。本来なら2人とも特別警備の仕事がある筈だったのだが、『新婚の時くらい休んでいい』と謎の気遣いをされ、こうしてダラダラと家で酒を飲むことになった。バックスが作った肴が美味くて、酒が進む。バックスも無言で静かに酒を飲んでいる。
深夜になり、日付が変わった瞬間だけ、カチンとグラスを軽くぶつけ合って、新年を祝った。
グラマーは年越しの休暇を、バックスと無言で酒を飲んで過ごした。
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グラマーと結婚して2年目の秋。
バックスはすっかりグラマーと一緒の暮らしに慣れていた。今では、グラマーの食の好みは完全に把握している。
食事の時に、グラマーの好物があると、グラマーが少しだけ嬉しそうな顔をするようになった。お互い必要最低限にしか話さないが、晩飯後になんとなくダラダラと2人で酒を飲む日がたまにある。
仕事では色々あるが、グラマーとの生活はまぁ穏やかなものだと言えよう。今年はまだ3回しか殴り合いの喧嘩をしていない。喧嘩はストレス発散みたいなものなので、たまにやる分にはいいかと思っている。
バックスが夕飯の買い物をして帰ると、グラマーが居間で洗濯物を畳んでいた。特に声をかけることもなく台所へ向かい、晩飯の支度を始める。今夜は揚げた魚に野菜たっぷりのあんをかけたものがメインである。グラマーの好物の一つだ。間違いなく、おかわりをするので、多めに作る。
料理が完成すると、居間のテーブルに運ぶ。筋トレをしていたグラマーがいそいそと椅子に座ったので、食前のお祈りをしてから、食べ始める。テーブルの上の料理を見て、案の定、グラマーが嬉しそうに目を輝かせた。ガツガツと美味そうに食べ始めたグラマーをチラッと見てから、バックスも食べ始めた。我ながら上出来である。酒が欲しくなるが、明日は普通に仕事なので、諦めてお茶を飲む。
晩飯の片付けが終わり、風呂場へ向かうと、半裸のグラマーに出くわした。グラマーの身体はしっかりと筋肉がついており、逞しい。軍人らしい身体つきをしていた。
「お湯足した」
「ん」
ここ最近、少しずつ冷えてきた。風呂のお湯がぬるくなったので、追加で足してくれたらしい。バックスが脱衣場で服を脱いで風呂場に行き、身体を洗って湯船に浸かると、ちょうどいい温度だった。バックスはゆっくりとお湯に浸かり、仕事の疲れを癒やした。
風呂上がりに少しだけ寝酒を飲もうかと台所へ向かうと、居間に明かりがついているのに気がついた。どうやらグラマーが居間で酒を飲んでいるようである。バックスは自分のグラスを手に取り、居間に向かった。
グラスを無言でグラマーの前に置くと、グラマーが無言で酒を注いだ。グラマーの正面に座り、安いがそこそこ美味い蒸留酒を飲む。たまに、こういう日がある。お互いに無言で酒を飲み、気が済むまで飲んだら、無言で片付けて、そのまま各自の部屋に引き上げる。
今日もその日だろうと思っていたのだが、今夜は少し違った。無言で酒を飲んでいたグラマーが口を開いた。
「おい」
「あ?」
「エロ本貸せ」
「あ?」
「溜まってんだよ」
「エロ本なら持ってんだろうが」
「全部読み飽きた」
「あっそ」
「つーことで、お前が持ってんの貸せ」
「持ってねぇよ。俺は妄想派だ」
「ちっ。使えねぇ」
「あ?」
「しょうがねぇ。ケツ貸せ」
「むしろお前がケツ貸せ」
バックスもそれなりに溜まっている。結婚させられてから、花街に行っていない。この2年、ずっと右手が恋人状態だ。セックスの事を思い出すと、セックスがしたくなる。
バックスはグラマーと睨み合ってから、同じタイミングで立ち上がった。
「浄化剤は」
「ある。ローションはねぇ」
「ローションは俺が持ってる」
「持ってこい」
「どっち」
「お前の部屋」
バックスは自室に入ると、机の引き出しからローションのボトルを取り出した。ノックもなしに、グラマーが部屋に入ってくる。
今は引退していなくなったが、入隊当時、初物食いで有名な上官がいて、当時の新人は軒並み、そいつに一度は食われている。アナルを使うのは随分と久しぶりだが、今から娼婦目当てに花街まで行くより、グラマーと手っ取り早く性欲処理した方が早い。長い航海の時は、男同士でも普通にセックスをしたりする。グラマーとヤッたことはないが、多分普通にできる。
グラマーがコインを上へ投げ、パシッと手の甲で落ちてきたコインを受け止めた。
「表」
「裏」
コインは表だった。バックスが先にグラマーを抱く。グラマーがチッと舌打ちをしてから、服を脱ぎ始めた。バックスも服を脱ぎ、全裸でベッドに上がる。
グラマーが自分のアナルに浄化剤を突っ込むのを眺めながら、バックスはローションのボトルを手に取った。
グラマーがバックスに尻を向けて四つん這いになったので、バックスはむっきりと筋肉質なグラマーの尻肉を片手で広げ、微妙に縦割れになっているグラマーのアナルにローションを垂らした。自分の掌にもローションを垂らし、グラマーのアナルにゆっくりと指を突っ込んでいく。キツい括約筋を通り過ぎれば、熱くて柔らかい腸壁に指が包まれる。ぬこぬこと指を抜き差ししながら、グラマーの前立腺を探す。指の腹が痼のようなものに触れた瞬間、グラマーの身体がビクッと震え、微かに上擦った声を上げた。バックスは前立腺を中心に弄りながら、時間をかけて、グラマーのアナルをしっかり解した。
バックスの指が3本入り、スムーズに動かせるようになる頃には、グラマーはだらしなく上体を伏せ、尻だけを高く上げている状態になっていた。バックスは半勃ちの自分のペニスを手で擦りながら、ずるぅっと熱く蕩けたグラマーのアナルから指を引き抜いた。グラマーのアナルに完全に勃起したペニスの先っぽをピタリと押し当て、腰をゆっくり動かして、グラマーの狭いアナルを抉じ開けていく。ペニスが括約筋でキツく扱かれ、熱く柔らかいぬるついた腸壁にペニスが包まれていく。素直に気持ちがいい。久しぶりに感じる他人の肌の感触や熱い体温が心地よい。バックスは根元近くまでグラマーのアナルにペニスを押し込むと、グラマーのしっかりとした腰を両手で掴み、グラマーのアナルを味わうようにゆっくりと腰を動かし始めた。ギリギリまで引き抜いて、前立腺を擦るよう意識しながら、また深くペニスを押し込む。
押し殺したようなグラマーの喘ぎ声が微かに聞こえる。バックスは徐々に腰の動きを速めていった。パンパンパンパンッと派手に肌同士がぶつかり合う音が響く程、激しく下腹部をグラマーの尻に叩きつけ、グラマーのアナルの奥深くを突き上げる。これは自慢だが、バックスのペニスは長い。結腸まで普通に届く長さである。グラマーは結腸も開発済みのようで、結腸を突く度に大きく喘いだ。ふと、グラマーはどんな顔をしてバックスに抱かれているのだろうかと思った。
バックスは一度グラマーのアナルからペニスを引き抜き、グラマーの身体をころんと仰向けにした。グラマーの顔は真っ赤に染まり、汗と涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃだった。呆然と蕩けた顔をしているグラマーの姿に、何故だか背筋がゾクゾクする程興奮した。バックスはグラマーの両足を大きく広げさせ、再びグラマーのアナルにペニスを突っ込んだ。グラマーの顔の両側に手をつき、グラマーの涎が垂れている顎を舐め上げながら、腰を激しく動かして、小刻みにグラマーの結腸をずんずん突き上げる。グラマーの顔が快感に歪み、突き上げる度に意味のない声をもらした。バックスはべろーっとグラマーの唇を舐めてから、伏せていた上体を起こし、両手でグラマーの右足を掴んで、快感の頂点を目指して、強く速く腰を振った。片手でグラマーのペニスを掴んで擦ってやれば、唯でさえキツいアナルの締めつけが、更にキツくなる。バックスは低く唸り、グラマーのペニスから精液が飛び出した数秒後に、グラマーの奥深くに精液をぶち撒けた。ゆるゆると腰を振って精液を全て出し終えると、バックスは大きく息を吐いた。
ゆっくりと腰を動かして、グラマーのアナルからペニスを引き抜く。ごろんとグラマーの隣に寝転がって、荒い息を整える。
お互いの息が整うと、グラマーが身体を起こした。
「次は俺」
「おう。下手くそだったら、またぶち犯す」
「泣かす」
「やれるもんならやってみろ」
バックスは膝を立てて、両足を大きく開いた。バックスの足の間を陣取り、グラマーがローションのボトルを手に取った。グラマーが自分の掌にローションを垂らし、すぐにバックスのアナルに触れた。アナルにローションを馴染ませるようにくるくるとアナルの表面を撫で回され、ゆっくりとバックスのアナルにゴツいグラマーの指が入ってくる。アナルを使うのは久しぶりなので、快感よりも異物感の方が大きい。中を探るような動きをしていたグラマーの指が、バックスの前立腺に触れた。思わずビクッと身体を震わせると、グラマーがニヤッと笑って、そこだけを指で刺激し始めた。
「ふっ、ふっ、ぐぅっ、っあぁっ」
腹が立つことに、グラマーの指使いは絶妙に上手い。グラマーが指でアナルを解しながら、上体を伏せ、胸筋で盛り上がったバックスの胸に顔を寄せた。存在感が薄い茶褐色の乳首を舐められる。ぞわっとする微かな快感に、バックスは無意識のうちにアナルでグラマーの指を締めつけていた。乳首を舐めたり吸われたりしながら、アナルをしつこい程指で弄られる。気持ちいいのだが、中々イケない。バックスは喘ぎながら、チッと舌打ちをして、踵でグラマーの尻を蹴った。グラマーが伏せていた上体を起こし、ずるぅっとバックスのアナルから指を引き抜いた。すぐにぐずぐずになっているバックスのアナルに熱くて固いものが触れ、メリメリと狭いアナルを抉じ開けるようにして、グラマーのペニスがアナルの中に入ってくる。十分過ぎる程解されたが、久しぶりだとやはり少し異物感がキツい。だが、粘膜同士が触れ合う快感もあり、前立腺を亀頭でぐりぐりされると、脳みそが痺れるような快感に襲われる。イラッとすることに、グラマーのペニスも巨根の部類に入る。痛みを感じるところを通り過ぎ、グラマーのペニスが結腸にまで届いた。そのまま激しく腰を振られ、内臓を揺さぶるかのように結腸をガンガン突き上げられる。バックスはあまりの快感に堪らず喘ぎながら、無意識のうちにグラマーの激しく動く腰に両足を絡めていた。くっそ腹立つことに、くっそ気持ちがいい。
グラマーのゴツい手が勃起したバックスのペニスに触れ、腰の動くと合わせるようにバックスのペニスを扱き始めた。気持よすぎて馬鹿になる。
「あぁぁぁぁっ!くっそ!イクッ!イクッ!」
「イケよ、おらっ」
「~~~~っ!!」
「~~~~っ、はぁ……」
バックスは勢いよく射精した。自分の熱い精液が胸にまで飛んでくる。グラマーも殆ど同時にイッたようだ。精液を出しきる為にゆるゆると動く感覚も正直気持ちがいい。
2人揃って大きく息を吐くと、ゆっくりとグラマーがバックスのアナルからペニスを引き抜いた。
「おい」
「あ?」
「交代」
「少し休ませろ」
「10秒な」
「ふざけんな」
バックスとグラマーは、時折罵り合いながら、朝方近くまでダラダラとセックスをして、2人揃って遅刻した。
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50歳で軍を定年退職して、5年が経つ。グラマーは未だにバックスと暮らしている。年に数回殴り合いの喧嘩をするが、それ以外は普通に生活をしている。
グラマーは家庭菜園に目覚め、庭で野菜を作るようになった。バックスは魚釣りに目覚め、頻繁に釣りに行っている。
グラマーが草むしりをしていると、日が昇る前に釣りに出かけたバックスが帰ってきた。
「釣れたか」
「デカいのが2匹。フライにする」
「トマトが採れた。結構な量」
「スープにでもするか」
目を合わさずに会話をした後、バックスが家の中に入っていった。
時々喧嘩をして、時々セックスをして、時々無言で酒を飲んで、それなりに穏やかな生活が続いてる。
多分どっちかが死ぬまで、この生活は続くのだろう。できたらグラマーが先に逝きたい。料理なんて未だにできないし、見送る側になるのは嫌だ。
グラマーはバックスに呼ばれるまで、バックスが好きな野菜の手入れをした。
(おしまい)
鋭く睨み合いながら、本気で殴り合っていると、『こらぁ!!』と怒鳴る上官の声が聞こえた。グラマーとバックスはピタリと動きを止めた。
「グラマー・シュルート!バックス・ビアンカナン!また貴様らか!!」
グラマーとバックスは上官の方へ向き、ピシッと直立になった。額に青筋を浮かべ、完全にキレた顔をしている上官に、バックスが告げ口をする子供のように話しかけた。
「この動く糞袋が先に仕掛けてきました」
「あぁ!?違います。上官。こっちのチンカス野郎が先にメンチ切ってきました」
「どっちが先に仕掛けたかはどうでもいい。どうせ大した理由もないのだろう。お前達、今月に入って何度目だ。訓練場は喧嘩をする場所ではない!!」
「え?じゃあ廊下とかでやってもいいんですか?」
「いい訳あるか馬鹿者ぉぉ!!」
バックスの発言に、上官が更にブチ切れた。グラマーとバックスはその場に正座をさせられ、延々2時間も上官に説教された。
上官の説教を右から左へと聞き流していたグラマーは、上官のとんでもない発言に飛び上がって驚いた。
「もう我慢の限界だ。お前達、結婚しろ。結婚式の準備はこちらでしておく。一生仲良く喧嘩してろ。家庭内でな」
「「はぁぁぁぁぁ!?」」
「よーし。もう決めた。決定事項だ。結婚式は来月だ。新居の準備もこっちでしておく」
「い、いやいやいや!上官殿!そんなありえねぇですよ!!こんな糞野郎と結婚なんて!!」
「そうですよ!!俺は小柄でおっぱいデカい可愛い女の子と結婚して子宝に恵まれるっていう夢があるんですよ!!」
「知らん。お前らの結婚は決定事項だ。お前達の尻拭いはもう疲れた。結婚して少しは仲良くなれ。仲良くならんでもいいから、せめて職場で喧嘩をするな」
上官はそう言うと、手続きをしてくると言って、足早に去っていった。
グラマーは無言でバックスを見た。バックスも無言でグラマーの方を向いた。
ほぼ同時に胸ぐらを掴みあい、至近距離で睨み合う。
「てめぇのせいで俺の可愛い夢が消えちまっただろうが」
「あ?おめぇのせいだろ?糞袋」
「ぶっ殺す」
「やれるもんならやってみろ」
グラマーとバックスは、再び上官に止められるまで、訓練場で殴り合った。
------
ナルダール王国は周囲を海に囲まれた島国である。近隣国との関係は今のところ良好で、軍人の仕事は、主に近海に現れる海賊の捕縛である。
ナルダール王国は大陸より南に位置しており、年間を通じて穏やかな暖かい気候で、それ故か、国民もおっとりした者が多い。恋愛にも寛容で、同性婚も認められている。
グラマーは死んだ魚よりも濁った目をして婚礼衣装に身を包んでいた。隣には同じくらい目が死んでいる婚礼衣装を着たバックスがいる。
今日はグラマーとバックスの結婚式だ。グラマーとバックスの不仲は軍内では広く知られており、参列者からの同情の視線や面白がるような視線が鬱陶しい。
グラマーとバックスは同じ部隊に所属しており、上官である部隊長の頭痛と胃痛の種だった。今回、ついにブチ切れた部隊長によって、2人は結婚することになった。あまりにもあんまりである。2人とも独身用の官舎に住んでいたが、丘の上の小さめの一軒家が、2人の新居として用意された。結婚式にかかる費用も新居の費用も、全部部隊長持ちだ。部隊長は国でも有数の大きな財閥の子息で、金は唸るほど持っている。軍人をやっているのは単なる趣味らしい。趣味で軍人をやるってどういうことだ。意味が分からないが、上官としては中々いい上官なので、別にそれは構わない。
結婚に伴い、喧嘩は家庭内で行うと誓約書を書かされた。職場あるいは職務中に喧嘩をしたら、2年間減俸される。それもかなりの額を。俺の人権は何処に行ったと言いたかったが、額に青筋を浮かべてキレながら笑みを浮かべている部隊長がかなり怖かったので、グラマーもバックスも大人しく誓約書にサインをした。
なんとか結婚式という名の晒し者タイムが終わり、グラマーとバックスはぐったりと疲れた状態で、丘の上の小さめの一軒家へ移動した。丘の上にあるだけあって、景色はいい。元は部隊長の実家の別荘だったらしい。夕日が海へと沈んでいく光景は、見慣れたグラマーでも美しいと思う。
バックスと殴り合う気力も無くなった状態で、グラマーは新居に入った。
家具は全て新しくしてあり、明らかに強度を重視したと思われる無骨なデザインのものばかりだった。
幸いにも、寝室は2つあった。バックスと一緒に寝なくてすんで、一安心である。
喧嘩をする気力もない2人は、ぐったりと居間のソファーに座り込んだ。
バックスが疲れが滲む声で話しかけてきた。
「明日から飯どうする」
「あー?お前、料理できんの?俺は全くできんぞ」
「マジかよ。使えねぇ。……飯は俺が作る」
「ちゃんと食えるもん作れよ。しょうがねぇ。俺は洗濯をやる。掃除は日替わりでどうだ」
「それで構わん」
グラマーとバックスは同時に大きな溜め息を吐いた。
既婚者が身につける伝統的な細工がされたブレスレットが邪魔くさい。
その日は珍しく、ろくに口喧嘩もせずに、順番に風呂に入って、別々の寝室で寝た。
グラマーとバックスの新婚生活は、暗澹たるスタートをきったのであった。
------
グラマーの1日は走り込みから始まる。朝日が昇る少し前に家を出て、2時間程走る。これは独身時代からの習慣である。それから1時間剣の素振りをして、シャワーを浴びたら洗濯をする。ムカつくことに、バックスも似たようなことをしている。走るコースが同じだと気持ち悪いので、バックスは別のコースを走り、やはり剣の素振りをしてから、シャワーを浴びて朝飯を作り始める。
バックスの料理は若干イラッとする程美味かった。グラマーは何を出されても文句を言わずに無言で平らげる。なんなら、おかわりまでする。美味い飯に罪はない。任務で海に出ている時は、時には食糧難になることもある。まともな食い物が食える有り難さは身に沁みている。飯が美味い事程嬉しいものはない。たとえ、それが誰が作ったものでもだ。
今日も朝からガツガツ食べるグラマーに、バックスがボソッと話しかけてきた。
「肉。魚」
「魚」
今夜の晩飯のメインは魚の気分だから、グラマーは魚と答えた。
朝飯を食い終わる頃に、魔導洗濯機の洗濯の終わりを告げるブザーが鳴る。グラマーは食事の後片付けをバックスに丸投げして、洗濯物を干しに行った。今日も穏やかによく晴れている。洗濯物がよく乾くだろう。今日はシーツも洗濯した。バックスの部屋に勝手に入り、枕と掛け布団を持って庭に行き、自分のものと並べて干す。布団干しも洗濯の範疇に入れておいたからやっているだけである。
今日はグラマーが掃除当番なので、風呂洗いとトイレ掃除と居間の掃除をざっとやり、軍服に着替えて出勤する。
出勤時間は若干ずらしている。バックスと一緒に出勤するなんて心底嫌だからだ。
グラマーとバックスの不仲は、軍学校の入学式以来である。目があった瞬間、『こいつ嫌いだ』と思った。向こうもそうだったのか、入学式終了後に殴り合って、入学早々教官にガチギレされた。あれから15年。お互い今年で31になるが、未だに頻繁に喧嘩をしている。グラマーが悪いのではない。唯、バックスと絶望的なまでに相性が悪いだけだ。まさに水と油のようなものである。
バックスのせいで、可愛い女の子と結婚して、子宝に恵まれるっていう夢は潰された。
グラマーは溜め息を何度も吐きながら、遅刻しないように走って職場へと向かった。
グラマーは昼休憩の時間になると、ふらりと訓練場の隅っこに向かい、バックスが用意した弁当を食べ始めた。若干腹が立つ程美味い。グラマーは残さず全部食べ終えると、空の弁当箱を持って、所属部隊の部屋に戻った。
今は別の部隊が海賊捕縛や巡回をしているので、グラマー達が所属している部隊は割と暇である。1日の殆どを訓練に費やしている。訓練では、グラマーとバックスは組まないことが決められている。絶対流血沙汰の喧嘩に発展するからだ。グラマーは午後の訓練を真面目にやり、訓練終了後は日誌を書いて、走って丘の上の家まで帰った。
早く帰って洗濯物を取り込まないと、折角乾いた洗濯物が湿気ってしまう。
グラマーは大急ぎで帰り、洗濯物を取り込んだ。
シャツにアイロンをかけていると、買い物袋を両手に持ったバックスが帰ってきた。お互いに無言で、目も合わせない。慌ただしく台所で料理を作っている気配を感じながら、グラマーはアイロンをかけ終え、洗濯物を畳み、其々の部屋に置きに行った。
晩飯まで少し時間がかかりそうだったので、居間で筋トレをする。軍人は身体が資本だ。来月はグラマー達の部隊が巡回することになっている。密漁者や海賊とかち合うことがあるので、身体のコンディションは常にキープしておかなくてはいけない。
バックスが居間のテーブルに夕食を並べ始めたので、筋トレを中断して、テーブルの椅子に座る。2人揃って食前の祈りを捧げてから、晩飯を食べ始める。今夜は小さめの魚を素揚げして、野菜と一緒に甘酢に浸けたものがメインだった。素直に美味い。バックスには絶対に言わないけれど。野菜がいっぱい入っているスープも優しい味わいで、炙ったチーズがのっているパンも美味い。グラマーは今日も残さず、きっちりと晩飯を完食した。
風呂はいつもグラマーが先に入る。バックスは晩飯の後片付けがあるので、グラマーが先に入った方が効率がいい。
食事と風呂が終わったら、各自の部屋に篭もる。顔を合わせたら喧嘩に発展するのが目に見えているので、極力顔を合わせないように生活している。
なんだかんだで結婚して約1ヶ月。今のところはガチの喧嘩はしていない。
グラマーは寝る前に自室に置いている酒を少し飲み、お日様の匂いがする枕に顔を埋めて、すとんと眠りに落ちた。
------
バックスはガツガツと昼飯を食べるグラマーをチラッと見て、自分も熱々の衣をつけて揚げた鶏肉に齧りついた。我ながら、かなり上手くできている。下味を少々工夫したのが正解だった。グラマーは大抵おかわりをするので、いつも少しだけ多めに作っている。性格がネジ曲がっていそうなグラマーだが、バックスが作る料理に文句を言ったことはない。何を出しても、ガツガツと美味そうに食べている。正直、意外に思う。目が合った瞬間にメンチを切ってくるようなグラマーが、食事にだけは文句を言わない。お互い軍人故に、まともな食事の有り難みは身に沁みている。それ故だろう。
グラマーは何でも食べるが、辛すぎるものは苦手なのだと最近分かってきた。肉を調味料と唐辛子の粉末を混ぜたものに浸けて焼いたものは、おかわりをしなかった。パスタ等の唐辛子も皿の隅っこに寄せて食べないようにしている。どうやら唐辛子が苦手なようである。バックスは辛いものが好きなのだが、どうせ作るのなら完食してもらった方が後片付けが楽である。ここ最近は、唐辛子を使うのを控えている。
今日は2人とも休日である。
買い出しは午前中に済ませたし、家の掃除は今日はグラマーが担当だ。身体を鍛えることしか趣味らしい趣味がないバックスは、夕飯の支度まで何をしようかと、皿を洗いながら考えた。
グラマーとは極力顔を合わせたくない。無駄な労力を使うのも馬鹿らしい。1人でできる気分転換になるようなものはないかと考えてみるが、特に思いつかない。
バックスはトイレに行き、洗面所で手を洗っている時に、何気なく鏡を見た。仕事の時は整髪剤で上げている長めの前髪が、若干伸びすぎている気がする。
バックスは赤茶色の髪と深い蒼色の瞳の、強面と言われるような顔立ちをしている。顔立ち自体はそこまで悪くないのだが、目つきが鋭すぎるので、子供の頃から、睨んでなくても睨まれたと言われることが多かった。
ちなみに、グラマーも強面に分類される顔立ちをしている。濃いブラウンの髪と薄いアンバーの瞳で、何故か常に瞳孔が開いているように見える。髪は丸刈りに近い程短く刈っており、余計人相が悪くなっている。人のことは言えないが、三白眼で、かなり目つきが悪い。
バックスは午後からは床屋に行くことにした。短くしている後ろの方の毛も伸びているし、来月は巡回で海に出るので、今のうちに切っておいた方がいい。
バックスは自室に行き、財布と鍵だけをポケットに突っ込み、丘の下の街へと走り出した。
床屋で髪を切ってもらってサッパリとしたバックスは、街中でグラマーを見かけた。グラマーはパン屋の小柄で可愛い巨乳の女と親しげに話していた。浮気とはいい度胸である。別にグラマーの事が好きな訳ではなく、むしろ嫌いだが、一応夫婦になったのだから、不貞はすべきではない。
本当に浮気か確認すべく、バックスは気配を消して、楽しそうに喋っている2人にこっそり近寄った。
グラマーの好みどんぴしゃの女が、にこやかな笑顔で口を開いた。
「でも本当によかったわ。グラマーさんが結婚できて。これでおじさんも一安心ね」
「いやぁ?来年あたり離婚するから、チーちゃん、結婚してよ」
「やぁだぁ。グラマーさんったら。バックスさんとお似合いだものぉ。離婚なんて駄目よ。それに、私再来月結婚するの!」
「あ、あー……そうなんだぁ。……そいつぁ目出度いな!」
グラマーの顔が一瞬初めて見るような表情を浮かべた。作り笑顔だと分かる顔で、女を祝福しているグラマーは、多分本気であの女に惚れていたのだろう。同居人がガチでフラレるところを見てしまった。グラマーのことは嫌いだが、流石にちょっと同情してしまう。バックスは静かにそこから離れ、酒屋に向かった。
グラマーは晩飯が出来る少し前に帰ってきた。完全な無表情で、ガツガツ晩飯を食うグラマーはいつも通りのようで、いつも通りじゃない。荒れ気味である。空気が刺々しい。食事の時だけは絶対に喧嘩しないと、同棲開始初日に決めた。じゃなかったら、ウザい空気を発してるグラマーと殴り合っているくらい、今のグラマーは刺々しい。子供の頃、図鑑で見たハリネズミのようである。あんなに可愛くはないが。
バックスは仕方がなく、小さく溜め息を吐いて、椅子から立ち上がった。台所へ行って、今日買ってきた酒を取り出し、グラスと一緒に持って、居間に戻る。
テーブルの上にグラスを置いて酒を注ぎ、無言でグラマーの前に置くと、グラマーが無言で酒を睨んでから、グラスを持って一息で飲み干した。注いでやるのは一杯目だけだ。後は勝手にしろと言わんばかりに、グラマー側に酒の瓶を置いて、バックスは途中だった食事を再開した。バックスが買ってきたのは火酒と呼ばれる、かなり酒精が強いものだ。飯の合間にチミチミ飲むが、酒精がキツくて、喉が焼けるようだ。
これは手っ取り早く酔いたい時に飲む酒だ。
グラマーはガツガツ飯を食い終わると、なみなみとグラスに火酒を注いで、また一気飲みした。火酒を1瓶ほぼ1人で飲み干したグラマーは、よろよろとした足取りで居間から出ようとして、途中で力尽きて床に倒れてそのまま鼾をかきながら寝た。絶妙に邪魔くさい位置で寝ているので、バックスは足でグラマーの身体を少し移動させ、晩飯の後片付けをした。
風呂に入った後、居間を覗けば、グラマーが高鼾で寝ている。別にこのままで問題ないかと、バックスは自室に引き上げた。
翌朝、見事に二日酔いになっているグラマーを放っておいて、バックスは朝飯を食い終わると、家の掃除を始めた。
水回りの掃除が終わる頃には、少しだけ復活したグラマーが洗濯を始めた。テーブルの上に並べていた朝飯をいつもより勢いなく食べきる頃には、グラマーはいつもの状態に戻っていた。
バックスが昼飯を作っていると、グラマーが台所に顔を出した。
「おい」
「あ?」
「ん。昨日の酒代」
「いらん」
「あっそ」
グラマーはあっさり引き下がり、台所から出ていった。昼飯をいつも通りガツガツ食べると、グラマーはふらっと何処かへ行った。バックスは庭で筋トレをしてから、居間で昼寝をして過ごした。
晩飯の時に、グラマーが酒の瓶を持ってきた。2つのグラスに酒を注いで、無言でバックスの前にグラスを置いた。酒の瓶は2人の真ん中に置いてある。バックスは無言で酒を飲んだ。そこそこ上等な蒸留酒である。酒精はキツいが、香りがいい。
今日も無言で飯を食いながら、手酌で酒を飲んだ。
------
グラマーは地面に降り立つと、大きく伸びをした。
約2ヶ月、巡回で海に出ていた。久々に揺れない地面に立つと、なんとも違和感がある。船の揺れには慣れたものだが、地面に立つと、なんとなくほっとする。今回は海賊と一度やり合うだけで済んだ。怪我人は出たが、死人はいない。
グラマーは他の仲間達と一緒に、港から軍の施設へと向かった。
またバックスと2人だけの生活が始まった。
ずっと片思いしていた女の結婚式は、もう終わっただろう。仕事で忘れていたが、あのパン屋にはもう行きたくない。炊事担当がバックスで助かった。バックスのことは嫌いだが、これだけは有り難いと思う。
グラマーは久々に帰宅すると、埃臭い家の掃除を始めた。
季節は穏やかに過ぎ去り、バックスと結婚して半年が過ぎた。その間、5回くらい殴り合いの喧嘩をしたが、未だに一緒に暮らしている。離婚と別居ができないので仕方がない。勿論上官命令で。
半年も過ぎれば、お互い慣れてくる。いつもバックスに睨まれていると思っていたが、単に目つきが悪すぎるだけだと最近分かった。グラマーも睨んでないのに睨んでると言われることが多いので、ほんの少しだけ、バックスに親近感に近いものを感じるようになった。
バックスが作る飯が美味いので、グラマーは少しだけ太った。ここ最近は、増えた脂肪を減らすべく、筋トレの量を増やしている。
もうすぐ年越しを迎える。来年もバックスと一緒かと思うと、うんざりするが、仕方がない。ある意味自業自得の結果なので、来年もバックスと暮らすしかない。
バックスとは馬が合わないが、お互い干渉しないようにして、無駄な喧嘩をしないようにしている。毎日喧嘩していたら、身体がもたない。お互い軍人なので、本気で殴り合ったら、確実に流血沙汰になる。馴染みの軍病院の医者からも怒られるので、喧嘩はできるだけ控えるようになった。
グラマーは居間でのんびりと酒を飲んでいた。バックスも一緒に酒を飲んでいる。今日は年越しの日だ。本来なら2人とも特別警備の仕事がある筈だったのだが、『新婚の時くらい休んでいい』と謎の気遣いをされ、こうしてダラダラと家で酒を飲むことになった。バックスが作った肴が美味くて、酒が進む。バックスも無言で静かに酒を飲んでいる。
深夜になり、日付が変わった瞬間だけ、カチンとグラスを軽くぶつけ合って、新年を祝った。
グラマーは年越しの休暇を、バックスと無言で酒を飲んで過ごした。
------
グラマーと結婚して2年目の秋。
バックスはすっかりグラマーと一緒の暮らしに慣れていた。今では、グラマーの食の好みは完全に把握している。
食事の時に、グラマーの好物があると、グラマーが少しだけ嬉しそうな顔をするようになった。お互い必要最低限にしか話さないが、晩飯後になんとなくダラダラと2人で酒を飲む日がたまにある。
仕事では色々あるが、グラマーとの生活はまぁ穏やかなものだと言えよう。今年はまだ3回しか殴り合いの喧嘩をしていない。喧嘩はストレス発散みたいなものなので、たまにやる分にはいいかと思っている。
バックスが夕飯の買い物をして帰ると、グラマーが居間で洗濯物を畳んでいた。特に声をかけることもなく台所へ向かい、晩飯の支度を始める。今夜は揚げた魚に野菜たっぷりのあんをかけたものがメインである。グラマーの好物の一つだ。間違いなく、おかわりをするので、多めに作る。
料理が完成すると、居間のテーブルに運ぶ。筋トレをしていたグラマーがいそいそと椅子に座ったので、食前のお祈りをしてから、食べ始める。テーブルの上の料理を見て、案の定、グラマーが嬉しそうに目を輝かせた。ガツガツと美味そうに食べ始めたグラマーをチラッと見てから、バックスも食べ始めた。我ながら上出来である。酒が欲しくなるが、明日は普通に仕事なので、諦めてお茶を飲む。
晩飯の片付けが終わり、風呂場へ向かうと、半裸のグラマーに出くわした。グラマーの身体はしっかりと筋肉がついており、逞しい。軍人らしい身体つきをしていた。
「お湯足した」
「ん」
ここ最近、少しずつ冷えてきた。風呂のお湯がぬるくなったので、追加で足してくれたらしい。バックスが脱衣場で服を脱いで風呂場に行き、身体を洗って湯船に浸かると、ちょうどいい温度だった。バックスはゆっくりとお湯に浸かり、仕事の疲れを癒やした。
風呂上がりに少しだけ寝酒を飲もうかと台所へ向かうと、居間に明かりがついているのに気がついた。どうやらグラマーが居間で酒を飲んでいるようである。バックスは自分のグラスを手に取り、居間に向かった。
グラスを無言でグラマーの前に置くと、グラマーが無言で酒を注いだ。グラマーの正面に座り、安いがそこそこ美味い蒸留酒を飲む。たまに、こういう日がある。お互いに無言で酒を飲み、気が済むまで飲んだら、無言で片付けて、そのまま各自の部屋に引き上げる。
今日もその日だろうと思っていたのだが、今夜は少し違った。無言で酒を飲んでいたグラマーが口を開いた。
「おい」
「あ?」
「エロ本貸せ」
「あ?」
「溜まってんだよ」
「エロ本なら持ってんだろうが」
「全部読み飽きた」
「あっそ」
「つーことで、お前が持ってんの貸せ」
「持ってねぇよ。俺は妄想派だ」
「ちっ。使えねぇ」
「あ?」
「しょうがねぇ。ケツ貸せ」
「むしろお前がケツ貸せ」
バックスもそれなりに溜まっている。結婚させられてから、花街に行っていない。この2年、ずっと右手が恋人状態だ。セックスの事を思い出すと、セックスがしたくなる。
バックスはグラマーと睨み合ってから、同じタイミングで立ち上がった。
「浄化剤は」
「ある。ローションはねぇ」
「ローションは俺が持ってる」
「持ってこい」
「どっち」
「お前の部屋」
バックスは自室に入ると、机の引き出しからローションのボトルを取り出した。ノックもなしに、グラマーが部屋に入ってくる。
今は引退していなくなったが、入隊当時、初物食いで有名な上官がいて、当時の新人は軒並み、そいつに一度は食われている。アナルを使うのは随分と久しぶりだが、今から娼婦目当てに花街まで行くより、グラマーと手っ取り早く性欲処理した方が早い。長い航海の時は、男同士でも普通にセックスをしたりする。グラマーとヤッたことはないが、多分普通にできる。
グラマーがコインを上へ投げ、パシッと手の甲で落ちてきたコインを受け止めた。
「表」
「裏」
コインは表だった。バックスが先にグラマーを抱く。グラマーがチッと舌打ちをしてから、服を脱ぎ始めた。バックスも服を脱ぎ、全裸でベッドに上がる。
グラマーが自分のアナルに浄化剤を突っ込むのを眺めながら、バックスはローションのボトルを手に取った。
グラマーがバックスに尻を向けて四つん這いになったので、バックスはむっきりと筋肉質なグラマーの尻肉を片手で広げ、微妙に縦割れになっているグラマーのアナルにローションを垂らした。自分の掌にもローションを垂らし、グラマーのアナルにゆっくりと指を突っ込んでいく。キツい括約筋を通り過ぎれば、熱くて柔らかい腸壁に指が包まれる。ぬこぬこと指を抜き差ししながら、グラマーの前立腺を探す。指の腹が痼のようなものに触れた瞬間、グラマーの身体がビクッと震え、微かに上擦った声を上げた。バックスは前立腺を中心に弄りながら、時間をかけて、グラマーのアナルをしっかり解した。
バックスの指が3本入り、スムーズに動かせるようになる頃には、グラマーはだらしなく上体を伏せ、尻だけを高く上げている状態になっていた。バックスは半勃ちの自分のペニスを手で擦りながら、ずるぅっと熱く蕩けたグラマーのアナルから指を引き抜いた。グラマーのアナルに完全に勃起したペニスの先っぽをピタリと押し当て、腰をゆっくり動かして、グラマーの狭いアナルを抉じ開けていく。ペニスが括約筋でキツく扱かれ、熱く柔らかいぬるついた腸壁にペニスが包まれていく。素直に気持ちがいい。久しぶりに感じる他人の肌の感触や熱い体温が心地よい。バックスは根元近くまでグラマーのアナルにペニスを押し込むと、グラマーのしっかりとした腰を両手で掴み、グラマーのアナルを味わうようにゆっくりと腰を動かし始めた。ギリギリまで引き抜いて、前立腺を擦るよう意識しながら、また深くペニスを押し込む。
押し殺したようなグラマーの喘ぎ声が微かに聞こえる。バックスは徐々に腰の動きを速めていった。パンパンパンパンッと派手に肌同士がぶつかり合う音が響く程、激しく下腹部をグラマーの尻に叩きつけ、グラマーのアナルの奥深くを突き上げる。これは自慢だが、バックスのペニスは長い。結腸まで普通に届く長さである。グラマーは結腸も開発済みのようで、結腸を突く度に大きく喘いだ。ふと、グラマーはどんな顔をしてバックスに抱かれているのだろうかと思った。
バックスは一度グラマーのアナルからペニスを引き抜き、グラマーの身体をころんと仰向けにした。グラマーの顔は真っ赤に染まり、汗と涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃだった。呆然と蕩けた顔をしているグラマーの姿に、何故だか背筋がゾクゾクする程興奮した。バックスはグラマーの両足を大きく広げさせ、再びグラマーのアナルにペニスを突っ込んだ。グラマーの顔の両側に手をつき、グラマーの涎が垂れている顎を舐め上げながら、腰を激しく動かして、小刻みにグラマーの結腸をずんずん突き上げる。グラマーの顔が快感に歪み、突き上げる度に意味のない声をもらした。バックスはべろーっとグラマーの唇を舐めてから、伏せていた上体を起こし、両手でグラマーの右足を掴んで、快感の頂点を目指して、強く速く腰を振った。片手でグラマーのペニスを掴んで擦ってやれば、唯でさえキツいアナルの締めつけが、更にキツくなる。バックスは低く唸り、グラマーのペニスから精液が飛び出した数秒後に、グラマーの奥深くに精液をぶち撒けた。ゆるゆると腰を振って精液を全て出し終えると、バックスは大きく息を吐いた。
ゆっくりと腰を動かして、グラマーのアナルからペニスを引き抜く。ごろんとグラマーの隣に寝転がって、荒い息を整える。
お互いの息が整うと、グラマーが身体を起こした。
「次は俺」
「おう。下手くそだったら、またぶち犯す」
「泣かす」
「やれるもんならやってみろ」
バックスは膝を立てて、両足を大きく開いた。バックスの足の間を陣取り、グラマーがローションのボトルを手に取った。グラマーが自分の掌にローションを垂らし、すぐにバックスのアナルに触れた。アナルにローションを馴染ませるようにくるくるとアナルの表面を撫で回され、ゆっくりとバックスのアナルにゴツいグラマーの指が入ってくる。アナルを使うのは久しぶりなので、快感よりも異物感の方が大きい。中を探るような動きをしていたグラマーの指が、バックスの前立腺に触れた。思わずビクッと身体を震わせると、グラマーがニヤッと笑って、そこだけを指で刺激し始めた。
「ふっ、ふっ、ぐぅっ、っあぁっ」
腹が立つことに、グラマーの指使いは絶妙に上手い。グラマーが指でアナルを解しながら、上体を伏せ、胸筋で盛り上がったバックスの胸に顔を寄せた。存在感が薄い茶褐色の乳首を舐められる。ぞわっとする微かな快感に、バックスは無意識のうちにアナルでグラマーの指を締めつけていた。乳首を舐めたり吸われたりしながら、アナルをしつこい程指で弄られる。気持ちいいのだが、中々イケない。バックスは喘ぎながら、チッと舌打ちをして、踵でグラマーの尻を蹴った。グラマーが伏せていた上体を起こし、ずるぅっとバックスのアナルから指を引き抜いた。すぐにぐずぐずになっているバックスのアナルに熱くて固いものが触れ、メリメリと狭いアナルを抉じ開けるようにして、グラマーのペニスがアナルの中に入ってくる。十分過ぎる程解されたが、久しぶりだとやはり少し異物感がキツい。だが、粘膜同士が触れ合う快感もあり、前立腺を亀頭でぐりぐりされると、脳みそが痺れるような快感に襲われる。イラッとすることに、グラマーのペニスも巨根の部類に入る。痛みを感じるところを通り過ぎ、グラマーのペニスが結腸にまで届いた。そのまま激しく腰を振られ、内臓を揺さぶるかのように結腸をガンガン突き上げられる。バックスはあまりの快感に堪らず喘ぎながら、無意識のうちにグラマーの激しく動く腰に両足を絡めていた。くっそ腹立つことに、くっそ気持ちがいい。
グラマーのゴツい手が勃起したバックスのペニスに触れ、腰の動くと合わせるようにバックスのペニスを扱き始めた。気持よすぎて馬鹿になる。
「あぁぁぁぁっ!くっそ!イクッ!イクッ!」
「イケよ、おらっ」
「~~~~っ!!」
「~~~~っ、はぁ……」
バックスは勢いよく射精した。自分の熱い精液が胸にまで飛んでくる。グラマーも殆ど同時にイッたようだ。精液を出しきる為にゆるゆると動く感覚も正直気持ちがいい。
2人揃って大きく息を吐くと、ゆっくりとグラマーがバックスのアナルからペニスを引き抜いた。
「おい」
「あ?」
「交代」
「少し休ませろ」
「10秒な」
「ふざけんな」
バックスとグラマーは、時折罵り合いながら、朝方近くまでダラダラとセックスをして、2人揃って遅刻した。
------
50歳で軍を定年退職して、5年が経つ。グラマーは未だにバックスと暮らしている。年に数回殴り合いの喧嘩をするが、それ以外は普通に生活をしている。
グラマーは家庭菜園に目覚め、庭で野菜を作るようになった。バックスは魚釣りに目覚め、頻繁に釣りに行っている。
グラマーが草むしりをしていると、日が昇る前に釣りに出かけたバックスが帰ってきた。
「釣れたか」
「デカいのが2匹。フライにする」
「トマトが採れた。結構な量」
「スープにでもするか」
目を合わさずに会話をした後、バックスが家の中に入っていった。
時々喧嘩をして、時々セックスをして、時々無言で酒を飲んで、それなりに穏やかな生活が続いてる。
多分どっちかが死ぬまで、この生活は続くのだろう。できたらグラマーが先に逝きたい。料理なんて未だにできないし、見送る側になるのは嫌だ。
グラマーはバックスに呼ばれるまで、バックスが好きな野菜の手入れをした。
(おしまい)
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美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
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お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
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