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初恋泥棒はパン屋のおっさん

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 エミルは木の影からじっとパン屋を見つめていた。具体的に言うと、パン屋の店主のおっさんを見つめていた。
 常連のお婆ちゃん相手に、厳つい顔で朗らかに笑っているおっさんを見ているだけで、心臓がどんどこ高鳴って、顔が熱くなる。
 全くを以て不本意だが、エミルはパン屋のおっさんに恋をしている。

 エミルは実家の古書店で働いている。自他ともに認めるもやしっ子で、赤茶色の髪と薄茶色の瞳の地味な容姿をしている。
 数日前、店番をしている時に、破落戸紛いの男達が店に来た。エロ本を何冊も持ってきて、『破れてるからタダにしろ』とか理不尽なことを怒鳴り散らかされて困っていたところに、パン屋のおっさんが現れた。

 パン屋のおっさんは、見た目がかなり厳つい。背が高くて筋骨隆々といってもいい身体つきだし、顔立ちも厳つくて、三白眼だから素直に怖い。淡い水色の瞳はよくよく見れば穏やかな色合いをしているが、パッと見では怖さに拍車をかけている。ちょっと白髪混じりの黒髪を後ろに撫でつけているのも、なんか怖い。

 パン屋のおっさんが現れ、『てめぇら、ちゃんと値札通りの値段で買えや』と、破落戸共を睨みつけながら、ひっくい声で言うと、破落戸共がビビリまくって、結局何も買わずに出ていった。あまりの迫力にエミルもビビりまくっていたが、パン屋のおっさんが古ぼけた料理本を差し出し、ニッと笑って、『災難だったな。これ、くれよ』と穏やかな声で言った瞬間、頭の中で鐘が鳴った気がした。

 パン屋のおっさんは、名前も知らないが、くっそ格好いい。エミルは23歳になるが、初恋もまだだった。まさかの初恋が厳ついおっさんだなんて信じたくないが、ここ数日、朝の開店前や昼休憩の時にパン屋のおっさんを見に行くことをやめられないし、おっさんを見るだけで胸がドッキンドッキンと高鳴る。
 おっさんがパン屋をしているのは、前から知っていた。パン屋とは思えない厳ついおっさんが作るパンが美味しいと近所で評判になっていて、何度か買いに行ったことがあるからだ。

 エミルは勇気を振り絞って、今日こそはパンを買って、おっさんの名前を聞こうと、木の影から出て、おずおずとパン屋に向かった。

 パン屋に入れば、店頭に並んでいるパンは何種類もあった。惣菜パンも種類が多くて、痩せの大食いのエミルとしては嬉しい。値段も手頃だし、どのパンも美味しいのは知っている。
 エミルはパンを十個ほど選んでトレーにのせると、カウンターにいるおっさんの前に立った。おっさんが厳つい顔で朗らかに笑った。


「こっ、これください!」

「まいどー。お兄ちゃん、角の古書店んとこの倅だろ? 甘いものは好きか?」

「……好きです」

「ちょっと待ってな。ほい。おまけ。タラハナの実を甘く煮たやつを入れてんだわ。お兄ちゃんの店で買った本に美味しい煮方が載っててよー。試してみてくれよ」

「あっ、ありがとうございます……あ、あ、あのっ!!」

「ん?」

「……お名前を聞いてもいいですか? ぼっ、僕はエミルといいます!」

「俺ぁ、レオンだ。また来てくれよ。エミル。俺もエミルの店にまた行くわ。料理本があったら、取り置きしてもらえると助かるわー」

「は、はいっ! ありがとうございます。お、お待ちしてます!……えっと、ま、また、来ます」

「まいどー」


 レオンがにまっと笑った。近距離でのレオンの笑顔に胸がドッキンドッキン高鳴って、顔が熱くて堪らなくなる。エミルはぎこちない動きで、紙袋に入れてもらったパンを持ち、店を出た。
 店を出て数歩歩くと、エミルは立ち止まり、高鳴る胸を押さえて、はぁーっと大きく息を吐いた。おっさんの名前を聞けた上に、パンまで買えた。今日はすごくいい日だ。
 エミルはルンルンと軽やかな足取りで自分の店へと帰った。




ーーーーーー
 パン屋のおっさんことレオンに恋をしちゃって早半年。
 なんの進展もないが、2日に一度はレオンのパン屋でパンを買っている。レオンは数回に一度、『おまけだ』と言って、新作のパンをくれる。新作のパンはどれも美味しいし、レオンのちょっと怖い笑顔を見るだけで胸がどんどこ高鳴る。エミルはちょっと遅めの青春に浮かれた日々を送っている。

 エミルは、学生時代は完全にぼっちだった。元々引っ込み思案な性格で、友達らしい友達をつくることもできず、教室の隅っこでひっそりと過ごしていた。恋なんて、本の中の世界のものだと思っていた。

 そんなエミルは恋をした。おっさん相手に、どうアプローチをしたらいいのか分からないし、相手はおっさんだから、妻帯者の可能性が高い。初恋は実らないものだと言うし、正直、この恋は実ることがないのだろうと思っている。それでも、唯、レオンのことを大切に想っていられたらいいやと開き直っている。

 エミルが店番をしていると、店のドアにつけている鈴がカランカランと鳴った。カウンターの内側から入り口のドアを見れば、レオンが店に入ってきた。
 レオンは、月に一度、必ずエミルの実家の古書店に来てくれる。父は膝と腰が悪いので、レオン会いたさもあって、この半年は毎日店番をしている。エミルは、真っ直ぐにカウンターに来たレオンを見上げて、顔が熱くなるのを感じた。

 レオンは今日も顔が怖いが、意外と朗らかな性格をしているのは知っている。エミルは、レオンの為に取り置きしておいた数冊の料理本をカウンターの下の箱から出した。


「こ、こんにちは。レオンさん。料理本が何冊か入ってます」

「よぉ。こんにちは。エミル。ありがてぇな。見せてもらっていいか?」

「は、はいっ! 勿論どうぞ」


 カウンターの上に料理本を並べると、レオンがパラパラと料理本を眺め始めた。他に客がいないタイミングでよかった。少しはレオンと話ができるかもしれない。
 エミルは、ドキドキしながら、真剣な顔で料理本を選んでいるレオンをチラチラ見た。

 レオンが二冊の本を選び、ニッと笑って口を開いた。


「この二冊貰うわ。新作の参考になりそうなもんが載ってる」

「よかったです。ありがとうございます。あ、えっと……この料理本、古いものなんで、もしよかったら、その、あの、おまけに如何ですか? ああああの! いつもパンをおまけしてもらってますし! よかったら! どうぞ!」

「おっ。いいのか? ありがたく貰うわ。古いものも馬鹿にできねぇんだよなぁ。丁寧な作り方が載ってたりするし」

「そ、そうなんですね」

「こないだの新作はどうだった?」

「すごく美味しかったです! アナカの実が甘酸っぱくて、シャクシャクした食感とふわふわのパンが相性抜群でした!」

「おっ。よかった。結構自信作だったからよ。また新作作ったら試してみてくれよ」

「はい! 是非とも!」

「ほい。お代。じゃあな。また店に来てくれよ」

「あ、明日は行きます!」

「ありがとさん。飛び切り美味いパンを焼いておくわ」

「は、はい!」


 レオンが朗らかに笑って、会計をして店から出ていった。
 エミルは熱い頬を両手で包んで、ほあーと気の抜けた声を出した。レオンといつもより多めに喋ってしまった。今日は最高にいい日だ。明日もまたレオンに会える。明日もきっといい日になる。
 エミルはうきうきと浮かれて、客がいない隙に入荷した本を本棚に並べ始めた。

 エミルは父と二人暮らしをしている。母はエミルが12歳の時に男をつくって出ていった。
 店を閉めた後、店の二階の自宅に上がり、エミルがうきうきしたまま夕食を作っていると、居間で売上計算をしていた父アードルフが台所に顔を出した。


「エミル。晩ご飯を食べたら、隣のベンヤミンと飲みに行ってくるよ」

「はーい。ベンヤミンおじさんによろしくね。あんまり飲み過ぎないでよ」

「エミルも若いんだから、遊びに行きなさいよ」

「遊びに行く友達なんていないし」

「若者向けのバーにでも行けばいいじゃないか」

「そんな所、知らないし」

「繁華街にいっぱいあるよ。エミルも今日は遊びに行くこと。いいね。明日は店休日だし。若いうちに遊んどかないとね。人生は楽しいことがいっぱいの方がいいんだから、お酒を飲んで遊んでおいで」

「えぇ……んーー。まぁ、行くだけ行ってみる……父さん達はいつもの酒場でしょ? いい感じのバーが見つからなかったら合流するよ」

「やれ。枯れたおっさん達と飲んでどうするんだい。この子は。若い子と飲みなさいよ。若い子と」

「僕が引っ込み思案なのは知ってるでしょ」

「大丈夫。そこはお酒の力でなんとかなるから」

「えぇ……んー。まぁ、頑張ってみる……」

「うんうん。それでよし。いい匂いがしてきたね。今夜は香草焼きかな?」

「うん。豚肉の香草焼き。父さん、好きでしょ」

「大好きだね! ワインを出しちゃおうかなぁ」

「晩ご飯食べたら、ベンヤミンおじさんとしこたま飲むでしょ。ワインはダメー」

「おや。残念」


 アードルフが戯けたように肩を竦めた。アードルフは、エミルよりも格段に社交的だ。ちょっと羨ましい。エミルももっと社交的な性格をしていたら、恋の相談をする友達がいたかもしれない。もしくは、レオンにアプローチができていたかもしれない。ないものねだりをしても仕方がないのだが、エミルは、今夜は1人寂しく酒を飲むことを覚悟して、アードルフと一緒に出来上がった夕食を食べた。

 夕食の後片付けが終わった後。
 アードルフと一緒に家を出て、エミルは途中までアードルフ達と一緒に繁華街に移動した。

 アードルフ達と別れると、エミルはぶらぶらと人通りが多い繁華街の通りを歩き始めた。若者向けのバーなんて、どこにあるのか分からない。そもそも1人でバーに入るのがハードルが高い。外で酒を飲むこと自体少ないし、いつもはアードルフと一緒だから、1人だと心細くて、回れ右をして家に帰りたくなる。いっそ、アードルフ達と合流しようかとも思ったが、大人だけじゃないと話せないこともあるかもしれないと思うと、それも躊躇われる。
 エミルは思い切って、目に入った看板のバーに足を踏み入れた。

 バーの入り口から中に入れば、ポツポツとお客がいて、客層は幅広い感じだった。エミルくらいの歳の者もいれば、50代くらいのおっさんもいる。
 エミルはおずおずとカウンター席に向かい、やたら格好いいバーテンダーから渡されたメニュー表を眺めた。オリジナルカクテルが多い店のようで、どれがいいのか分からなかったから、エミルはバーテンダーにオススメを聞いて、それを注文した。この時点で既に勇気を使い切った感がある。1人でバーに入り、バーテンダーにオススメを聞けただけで、ものすごく頑張ったと自分を褒めてやりたい。

 すぐに差し出されたグラスのカクテルは、ほんのり甘くて飲みやすく、素直に美味しかった。無言で味わって飲み、早々と飲み終えたので、次のカクテルを注文する。バーテンダーのオススメカクテルはどれも美味しくて、エミルは気がつけば、五杯のカクテルを飲んでいた。

 ふわふわとした心地よい酔いを楽しみながら、六杯目のカクテルを飲んでいると、ぽんぽんと軽く肩を叩かれた。エミルが顔だけで振り返れば、レオンが立っていた。


「レオンひゃん!?」

「よぉ。やっぱりエミルだ。お前さんもこっちの人間だったんだな」

「こっち? ってどっち?」

「ん? ちょっと耳を貸せ」

「あ、はい」


 レオンが少し屈んで、エミルの耳元で囁いた。


「ここ、男専門が一夜の相手を探すバー」

「…………え?」

「もし、知らないで入ったんなら、一緒に出るか?」

「おおおおお願いしますぅ!」

「んじゃ、会計して出るか」


 エミルはあわあわしながら、財布を取り出して会計をして、レオンと一緒にバーを出た。男専門の一夜の相手を探す所だなんて、全然気づかなかった。カクテルが美味しくて、飲むことにばかり集中していたから、周りをあまり見ていなかった。言われてみれば、確かに客は男しかいなかった気がする。

 エミルは、バーから出ると、はぁーと大きな溜め息を吐いた。知らないバーに入るのは危ない。やはり、アードルフ達と一緒にいつもの酒場に行けばよかった。
 エミルは、レオンに深々と頭を下げた。


「教えてくれてありがとうございます」

「いいってことよ。ここのカクテル、美味かったろ? 出会いの場でもあるが、カクテル目当てで来る客も一応いるんだよ」

「レオンさんはカクテル目当てですか?」

「いや? 両方」

「りょうほう……両方?」

「そ。俺、男しか愛せねぇんだわ」

「そっ、そうなんですか!?」

「おぅ! 気持ちわりぃか?」

「ぜ、全然!! 気持ち悪いないです!」

「そいつぁ、どーも。知ってる奴に気持ち悪いもん見る目で見られるのは、ちと堪えるからよ」

「あ、あのー……」

「ん?」

「ひ、一晩のお相手を探しに来たんですよね?」

「まぁな。まぁ、今夜は諦めて帰るかな」

「……あっ! あのっ! えっと……ぼっ、僕じゃダメですか!?」

「ん? エミルは男専門じゃないんだろ?」

「そ、そうですけど……あの、えっと、その……レッ、レオンさんのことが! そのー、あのー、えっと、えっと……しゅ、す、好きですっ!!」

「んん?」


 言ってしまった。エミルは手をもじもじさせ、挙動不審に目を泳がせながら、チラチラと驚いた顔をしているレオンを見上げた。レオンが男専門なら、妻帯者の可能性はなくなった。一晩の相手を求めてバーに来たのなら、その相手はエミルでもいいんじゃないだろうか。そんなことが頭によぎって、思い切って告白までしてしまった。

 チラチラとレオンを見上げていると、レオンが困ったような顔で、ガシガシと頭を掻いた。


「あー。なんだ。あれだ。俺とエミルじゃ年の差があんだろ」

「あの、レオンさん、何歳なんですか?」

「今年で35。エミルは?」

「23です」

「んーー。ギリギリ犯罪くせぇな」

「そっ、そんなことないです! えっと、多分……」

「あーー。どうすっかな……俺とセックスしてみてぇ?」

「し、したいです!」

「俺は抱かれる専門なんだが」

「ど、童貞だけど頑張りますっ!」

「童貞かぁ……俺みてぇなおっさんで筆下ろしはちと気の毒なんだが……」

「あのっ! えっと、えっと、ほ、本当にレオンさんのことが好きなんです! 嫌じゃなかったら、えっと……あの……ぼ、僕とセックスしてくださいっ!」

「あ、うん。あー……連れ込み宿、行くか?」

「い、行きましゅ……」


 顔が熱くて仕方がない。レオンが唇をむにむにさせた後で、デカくてゴツい手でエミルの手をやんわり握った。


「じゃあ、行くか。俺の行きつけの所でいいか?」

「ひゃいっ!」


 レオンと手を繋げて、いっそ天に召されそうなくらい嬉しい。エミルは、なんかもういっぱいいっぱいになりながら、レオンと手を繋いで、繁華街を抜け、歓楽街の方へと向かった。

 レオンの行きつけだという連れ込み宿の一室に入ると、先に狭いシャワー室でシャワーを浴びた。心臓がどんどこ高鳴っていて、ちょっとヤバい気がする程である。今からレオンとセックスをするだなんて、本当に夢みたいだ。もしかしたら、本当に夢で、目が覚めたら自分の部屋ってオチかもしれない。
 エミルは、あまりの急展開に現実味を感じなくて、酔っているのも相まって、ふわふわしたまま、シャワー室から出た。

 部屋にあった薄いガウンだけを着て、大きなベッドに腰掛けて、シャワーを浴びているレオンを待っている。連れ込み宿には初めて来たが、意外と静かなものだ。チラッとベッド脇の小さなテーブルの上を見れば、箱ティッシュと何かの瓶が置いてあった。あれは何だろうかと思いながら眺めていると、シャワー室から聞こえていた水音が止まった。

 ほんの少しだけ待っていると、全裸のレオンが短い髪を拭きながら出てきた。 レオンはいつもは長めの前髪を後ろに撫でつけている。長めの前髪が下りているところなんて初めて見る。なんだか、大人の男の色気がある気がする。

 エミルは思わず両手で熱い顔を覆いながら、指の隙間から、じっとレオンの身体を見つめた。
 レオンの身体は、ムッキムキに筋肉がついている。逞しく盛り上がった胸筋、バキバキに割れている腹筋、がっしりした側筋、くっきりと浮き出た腰骨に、臍から下腹部へと繋がっているもじゃっとした陰毛の下には、ぶらんと大きなペニスとずっしりとした陰嚢があった。二の腕や太腿もがっしりしていて、とてもパン屋のおっさんには見えない身体つきだが、エミルは興奮して、もれなく勃起した。

 レオンの逞しく盛り上がった胸筋の下の方にある濃い茶褐色の乳首は、ぷるんと大きく肥大していて、まるでエロ本に載っている女の乳首のようだ。なんだかいやらしくて、ぐっとくる。

 エミルが舐めるようにレオンの身体を見つめていると、レオンが照れたように笑い、小さなテーブルの上の瓶を手に取った。


「ここは男専門が利用することが多い連れ込み宿でな、潤滑油も用意されてんだよ。……中はキレイにしてきた」

「ひゃ、ひゃい……あっ! あのっ! ぼっ、僕はどうしたらいいですか!?」

「そうだな……初めてだろ? 男同士のセックスの知識はあるか?」

「全くないです」

「うん。俺がリードするわ。知識もない初心者に任せてたら大惨事になる」

「あ、はい」


 レオンに言われて薄いガウンを脱ぐと、エミルの元気いっぱいに勃起しちゃっているペニスを見たレオンが、なんだか嬉しそうに笑った。


「お前さん、物好きだなぁ。俺なんかで勃起するたぁ」

「レッ、レオンさんは、あの、その、すごく、魅力的だと思います!」

「ありがとさん。キスはしたことあるか?」

「……ないです」

「じゃあ、とりあえずキスからだな。鼻で息しろよ?」

「あ、あ、はい」


 エミルは、ニッと雄臭く笑ったレオンに押し倒された。エミルに覆いかぶさってきたレオンが、エミルの下唇を優しくくちゅっと吸った。レオンとキスしちゃったーー!! と、エミルの脳内はお祭り騒ぎどころではない。嬉し過ぎて、うっかり射精するかと思った。

 間近に見える淡い水色の瞳が、なんだか楽しそうな色を浮かべている。エミルは興奮し過ぎて、ふんふんと荒い鼻息を吐きながら、レオンの意外と柔らかい唇の感触に酔いしれた。

 レオンの熱い舌が口内に入ってきて、ゆっくりとエミルの口内を味わうように動き始めた。レオンの舌が歯列をなぞり、歯の裏側を擽って、上顎をねっとりと舐め回してくる。舌を擦り合わせるように、ぬるりぬるりと絡めると、それだけで射精しちゃいそうな気がする程気持ちよくて興奮する。

 ねっとりとした大人のキスをしながら、レオンがエミルの貧相に痩せた身体を撫で回し始めた。ちょこんとした存在感の薄い乳首を指でくりくりされると、なんだかじんわり気持ちがいい。

 唇を離したレオンが、ちょっと身体を上に移動して、ぷるんと肥大している濃い茶褐色の乳首をエミルの口元に差し出してきた。


「舐めてくれるか?」

「は、はいっ!」

「んっ、そうだ……舌で転がすようにしてくれ。……っ、あぁ……上手いぞ。吸ってくれ。んっ。はぁっ……上手だ。軽く噛んでくれ。あっは! あぁ……いいな。はぁっ……反対側も……はっ、んぅっ……いいぞ、上手だ、エミル」

「んっ、んっ!」


 エミルは、レオンが教えてくれる通りにレオンの乳首を弄った。レオンに教えてもらって、自分の唾液で塗れた乳首をくりくり弄りながら、レオンのぷるんとした大きな乳首をちゅくちゅく吸って、優しく噛みついて、くいっくいっと引っ張る。
 レオンの低い喘ぎ声に堪らなく興奮する。

 エミルが夢中でレオンの乳首を弄っていると、レオンが伏せていた上体を起こした。エミルに跨がっているレオンの股間を見れば、大きなペニスが勃起していた。
 レオンがエミルを見下ろし、自分の勃起したペニスを見せつけるようにゆるく扱いた。じっとレオンのペニスを見つめていると、大きな赤い亀頭の尿道口からぷくっと透明な液体が溢れ出て、たらーっと垂れ落ちるのがしっかり見えた。明かりをつけたままでよかった。いやらしくて、最高過ぎる。勃起したペニスがちょっと痛いくらい張り詰めている。

 レオンがにまぁっといやらしく笑った。


「俺の尻、舐められるか?」

「な、舐めたい……です……」

「じゃあ、舐めてくれ」


 エミルはレオンに促されて起き上がった。レオンがエミルに尻を向けて四つん這いになったので、むっきりむっちりしたレオンの尻肉を両手で掴んで、思い切ってぐにぃっと尻肉を広げてみる。レオンの周りにちょっと毛が生えた縦割れになっている赤黒いアナルが丸見えになった。じっとレオンのアナルを見つめていると、レオンの呼吸に合わせて、皺が細かくなったり広がったりして、くぽくぽともの欲しそうに収縮している。排泄をする穴なのに、見てるだけでイキそうなくらい、いやらしい。

 エミルは、ごくっと口内に溜まった唾を飲みこむと、レオンのむっちりした尻肉を揉みしだきながら、おずおずとレオンのアナルに舌を伸ばした。熱いレオンのアナルの表面を舐め回すと、レオンの腰がくねり、溜め息のような低い喘ぎ声が聞こえてきた。


「好きに舐めてくれ……はぁっ……あぁっ……いい子だ。上手いぞ。んぅっ……あ、あ、はぁっ……あぁっ……ははっ! 堪んねぇっ……!」


 エミルは、レオンのアナルを味わうように熱心に舐めまくった。そのうち、レオンのアナルが最初よりも柔らかく綻んできたので、思い切って尖らせた舌先を突っ込んでみる。レオンのアナルの中も外も舐め回すと、レオンが気持ちよさそうな声をもらして、腰をくねらせ、尻を震わせた。

 レオンから声をかけられて、エミルはレオンのアナルから口を離した。レオンに言われて、ベッドの上に転がしていた潤滑油の瓶をレオンに手渡すと、レオンが顔だけで振り返って、にぃっと笑った。


「見てろよ。おっさんのアナニーショーだ」


 レオンが上体を伏せて、片手で自分の肉厚の尻肉を広げて、潤滑油で濡れた指を自分のアナルの中に押し込んだ。時折、低く喘ぎながら、レオンが自分のアナルに指を抜き差ししている。
 エミルは、いやらしいにも程がある光景に、思わず自分のペニスを掴んだ。今すぐペニスを扱いて射精したい。でも、レオンの中に射精したい。エミルは、うっかり射精してしまわないように、自分のペニスの根元を指で押さえた。

 エミルが見ている前で、レオンの太い指が三本もアナルの中に入ってしまった。エミルは、はぁはぁと荒い息を吐きながら、レオンがずるぅっと指を引き抜く様子を見つめた。
 レオンの太い指が抜け出たアナルは、ぽっかり口を開け、くぽくぽと誘うようにひくついていた。


「エミル。ちんこ挿れてみろよ」

「は、はいぃぃ!」

「おっ……はぁっ……あーー、かってぇ……ははっ! いいな!」

「は、あぅ……き、きもちいいっ……」

「好きに動いて好きに出せよ」

「は、はい……は、あ、あ、うぁぁ……きもちいいっ! きもちいいっ!」

「んおっ! おぅっ! あぁっ! いいっ! いいっ! 堪んねぇっ! もっとだ! あっは!」


 エミルは、レオンのいやらしいアナルにペニスの先っぽを押しつけ、ゆっくりとアナルの中にペニスを押し込んだ。エミルは仮性包茎だ。キツい締めつけのところでペニスの皮が完全に剥かれ、敏感な亀頭や竿が熱くて柔らかいぬるついたものに優しく包まれる。堪らなく気持ちがいい。エミルは本能が赴くままに、めちゃくちゃに激しく腰を振った。下腹部を四つん這いになったレオンのデカい尻に打ちつける度に、尻肉がぶるんぶるん揺れるのが酷くいやらしい。限界はすぐに訪れた。エミルは、だらしなく涎を垂らしながら、パァンと強くレオンの尻に下腹部を打ちつけ、そのままレオンの腹の中に精液をぶち撒けた。

 はぁー、はぁー、と荒い息を吐きながら、射精しているペニスをきゅっ、きゅっ、と締めつけてくるレオンのアナルの感触にうっとりしていると、レオンから声をかけられた。


「抜いてくれ」

「……あの、抜きたくないです」

「いいから。今度はもっと気持ちよくしてやるよ」

「は、はい」


 エミルは、ゆっくりと腰を引いて、レオンの締まりがいいアナルから射精したのに萎えていないペニスを引き抜いた。レオンのむっちりした尻肉を両手で広げれば、縦割れのアナルがぽっかりと口を開けて、くぽくぽといやらしく収縮しており、こぽぉっと白いエミルの精液が溢れ出てきて、赤い会陰を伝い、ずっしりとした陰嚢にまで垂れて、ぽたっとシーツへと落ちていった。半端なくいやらしい光景に、ペニスがまた痛いくらい張り詰める。

 エミルは、レオンに言われて、仰向けに寝転がった。レオンがエミルの天に向かって元気いっぱいに勃起しているペニスを掴み、股間を跨いで、自分のアナルにエミルのペニスの先っぽを押しつけた。レオンがゆっくりと腰を下ろしていけば、エミルのペニスがレオンの中に飲み込まれていく。堪らなく気持ちがいい。今すぐに腰を振って、レオンの中に精液を吐き出したい。

 エミルのペニスを根元近くまで飲み込んだレオンが、にまぁっと悪戯っぽく笑い、エミルの両側に手をついて、尻を上下に振るように腰を動かし始めた。締めつけがキツいところでペニスを扱かれて、一気に射精感が高まっていく。レオンは気持ちよさそうな顔をしていて、レオンの大きなペニスを見れば、ぶらんぶらんと大きく揺れていた。ぺちぺちとエミルの下腹部にレオンのペニスが当たるのも、なんだかすごくいやらしい。


「はっ、はっ、どうだ? 俺の中は、気持ちいいか?」

「き、きもちいいですっ! も、も、出ちゃうっ!」

「ははっ! おらっ! おらっ! 締めて、やんよっ!」

「あぁっ! ちょっ、ほんとっ、でるぅっ!」

「イケッ! 中にっ! 出せっ!」

「あ、あ、あーーっ!」

「はぁっ……ははっ! やべぇな。本格的に楽しくなってきた」

「レ、レオンさん、あの……」

「まだ硬いな。エミル」

「は、はい」

「俺の中にいっぱい出そうな?」

「は、はいぃぃぃぃ!」


 レオンがこてんと首を傾げて、にまぁっと笑った。レオンがいやらしくて、酷く興奮して、頭がクラクラする。
 レオンが後ろ手に両手をつき、膝を立てて足を大きく広げた。レオンが全身で上下に動いてエミルのペニスをアナルで扱きながら、吠えるように喘いだ。


「あっはぁ! いいっ! いいっ! ちくびっ! 引っ張れっ! あぁっ! くっそ堪んねぇ! あーーっ! もっと! もっと強くっ! おぅっ! あ、あ、あーーっ! イクッ! イクとこっ、見てろっ! いくいくいくっ! あ、あーーーーっ!!」

「はぅあっ!? あぁっ! 締めすぎっ……また出ちゃうっ!!」


 ぶらんぶらん揺れるレオンの大きなペニスからびゅるるるっと白い精液が飛んできた。熱いレオンの精液がエミルの胸元にまで飛んでくる。エミルは、レオンのアナルのキツい締めつけに堪えきれず、またレオンの中に精液を吐き出した。

 はぁー、はぁー、と荒い息を吐きながら、レオンが繋がったまま上体を伏せ、エミルの情けなく涎が垂れている唇に吸いついてきた。
 間近に見えるレオンの淡い水色の瞳がギラギラと輝いている。唇を触れ合わせたまま、レオンがクックッと笑って囁いた。


「搾り取ってやるから、覚悟しろ」

「は、はいっ!」


 エミルは、レオンの気が済むまで、思いっきり搾り取られまくった。




ーーーーーー
 エミルが目覚めると、目の前にレオンの寝顔があった。長めの前髪が下りていて、ちょっと髭が伸びているレオンの寝顔を見て、エミルは思わず奇声を発した。豪快な鼾をかいていたレオンが目を開けて、無意味に口をパクパクしているエミルを見た。


「おはようさん」

「お、おはようございます?」

「あ、やべ。ちと寝過ぎたか。あーー。腰いてぇし、今日は休みにすっかな」

「あああああのっ!」

「ん?」

「レ、レオンさんっ! あの、えっと、その……ぼ、僕と、あの、あの……こ、恋人になってくださいっ!! は、初恋なんですっ!」

「おう。マジか。身体の相性は最高だけどよ、俺はもうおっさんだぞ? それでもいいのか」

「レオンさんじゃなきゃダメなんです!」

「お、おう。そうか。……あー、でもよ。店の跡継ぎの問題とかあるだろ」

「えっと、子持ちの従兄弟がいるので、なんとかなるかと思います。多分?」

「そうか。俺んとこは、妹の子供に継がせるつもりなんだが……言っておくが、俺は重いぞ? 引き返すなら今のうちだからな」

「だ、大丈夫です! 一生一緒にいてくださいっ!! あの、僕、その、すっごい大事にします!」

「お、おう。あーー。なんだ。その、あれだ。……末永くよろしく頼む」

「は、はいっ!」

「……おーい。泣くなよ」

「だ、だって、嬉しくて……」


 エミルが嬉しさが飽和して思わず泣き出すと、レオンが優しい笑みを浮かべて、エミルの身体を抱きしめてくれた。優しく背中を擦ってくれる。
 えぐえぐ泣くエミルの耳元で、レオンが囁いた。


「いっぱいお喋りして、いっぱい一緒に飯食って、いっぱいセックスして、少しずつお互いに知り合っていこうな」

「ふぁい……レオンさん、大好きです」

「ありがとさん。俺もエミルが可愛いわ」


 レオンがエミルの鼻水が垂れている唇に触れるだけの優しいキスをしてくれた。
 レオンは、エミルが泣きやんで落ち着くまで、エミルを抱きしめて、何度もキスをしてくれた。


 レオンと恋人になっちゃって一ヶ月後。エミルはレオンと過ごす時間を確保すべく、レオンの家に引っ越した。アードルフを1人にするのが気掛かりで、中々行動に移せなかったのだが、そのアードルフから背中を押された。『どうしても惚れきっちゃってるんだろう? その気持ちを大事にするんだよ。店の跡取りはなんとでもなるし、エミルの人生はエミルだけのものだよ。人生楽しまなきゃね!』と言ってくれた。どうやら、エミルがレオンのことを好きになった初期の段階で、アードルフは気づいていたらしい。
 毎日、仕事で実家に帰ることになるし、アードルフはアードルフで仲がいい友達がいっぱいいるから、そんなに寂しくはならないみたいだ。

 エミルは、毎朝パンが焼ける美味しそうな匂いで目が覚める。
 パン屋の二階がレオンの家で、日が昇る前からパンを作り始めるレオンの為に、朝食を用意する。パン屋の開店時間の少し前にレオンが二階の自宅に上がってくるので、出来上がった朝食と焼き立てのパンを一緒に食べる。

 エミルが作ったオムレツを美味しそうに食べてくれるレオンを眺めながら、レオンが作った焼き立ての美味しいパンを食べる。毎日、レオンと一緒の食事が美味しくて、楽しくて、本当に最高である。

 朝食をもりもり食べきると、レオンが椅子から立ち上がり、エミルの唇にキスをして、ニッと笑った。


「さてと。今日も一日頑張るかね」

「はい! 今日の晩ご飯は魚の蒸し焼きの予定ですよ」

「おっ。いいな。魚に合いそうな香草入りのパンでも焼くかな」

「わぁ! 楽しみにしてます!」

「おう」


 エミルは、レオンと顔を見合わせて笑った。
 少しずつレオンのことを知る度に、レオンのことをもっと好きになる。
 エミルの初恋は見事に実り、幸せの大輪の花を咲かせた。


(おしまい)
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