貴方の笑顔が見たくて

丸井まー(旧:まー)

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貴方の笑顔が見たくて

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 学生街が近い大通りにある細い脇道に入り、突き当りにまで進むと、小さな古ぼけた古書店『シグネット』がある。地味で目立たない店だが、一部の学生の間で語り継がれている密かに有名な店だ。近くに大きな高等学校があるので、卒業する学生達が在学時代に買った本を売ることが多く、在学生が必要な本の取り扱いが充実している。

 ヴィクトールは夜勤が終わると、一度自宅に帰ってシャワーを浴びてから、学生時代からの馴染みの古書店『シグネット』へと向かった。ヴィクトールは医者として街の大きな総合病院で働いている。専門は小児科で、医者として働き始めて10年程になる。漸く先輩や上司から、一人前の医者として認められるようになってきた。総合病院には入院患者もいるし、夜間の緊急外来もしているので、週に2回は夜勤がある。勤務も休みも不規則で、まとまった休みも中々取れない。お陰で恋人をつくる暇さえない程毎日忙しいが、それでも充実した日々を送っている。

 ヴィクトールの一番の楽しみは、学生時代から通っている古書店『シグネット』に行くことだ。学生時代は金が無く、欲しい医学書があっても、中々買えなかった。仲が良かった先輩から、『シグネット』の事を聞き、それから暇さえあれば、『シグネット』に足を運んでいる。
 医学書は勿論、それ以外の専門書が多く安くで売っているので、乱読家の気があるヴィクトールには、ありがたい店である。ヴィクトールの趣味は読書で、暇さえあれば本を読んでいる活字中毒者だ。どんな本でも、少しでも興味を持ったら読むので、職場では『雑学王』と呼ばれている。

 ヴィクトールが微かに軋む音がする店のドアを開けると、本棚に本を並べている大きな男がいた。深緑色のエプロンを着けているので、客ではない。歳は今年で29歳になるヴィクトールよりも少し上くらいだろうか。チラッとこちらを向いた男の顔は、全くの無表情だった。ヴィクトールは首を傾げながら、店内に入った。此処はヴィクトールが学生時代から親しくしている老爺が経営している店だ。もしかして、従業員を雇ったのだろうか。それにしては、『いらっしゃいませ』の言葉も無かったが。
 ヴィクトールは不思議に思いながらも、何か面白い本がないかと、本を並べている男の邪魔にならないように、本棚を眺め始めた。

 2冊の本を手に、店の奥のカウンターに行くと、いつもの好々爺然とした笑みを浮かべた小柄な老爺が、カウンターの中に座っていた。ヴィクトールがゆるく笑って挨拶をすると、老爺も笑みを深めて口を開いた。


「やぁ。ヴィクトール君。今日の宝探しはどうだったかい」

「面白そうな本を2冊見つけました。植物に関するものと、魔導具の歴史に関するもので。どちらも読んだことがないんで、帰って読むのが楽しみです」

「あぁ。最近入荷したやつだね。気に入るといいねぇ」

「バークレーおじさん。従業員を雇われたんですね」

「あぁ。ちょっと待っておくれ。ボリス。ちょっとおいで」


 老爺・バークレーが従業員らしき大きな男に声をかけると、男が静かにのっそりと近寄ってきた。カウンターの前で、ヴィクトールの隣に立った男は、本当に身体が大きい。ちょうど成人男性の平均身長くらいのヴィクトールよりも頭一つ分程背が高く、身体つきは、服の上からでも鍛えられているのが分かる程、筋肉ムキムキである。横顔を見上げれば、濃いブラウンの髪を短く刈っており、彫りが深く、左の太めの眉毛の端の方に、切られた痕のような傷痕があった。鋭く細い三白眼で、瞳の色は多分薄茶色だと思う。鷲鼻で、唇も薄く、よくよく見れば、顎に髭の剃り残しがあった。
 ヴィクトールが失礼にならない程度に観察していると、バークレーがニコニコと笑って、ヴィクトールに男を紹介した。


「ヴィクトール君。この子は僕の甥っ子でね。ボリスというんだ。亡くなった奥さんの妹の次男坊で、少し前まで警邏隊に勤めていたんだよ。僕ももう70が近いからね。子供もいないし、ボリスは小さな頃から本が大好きだったから、ボリスにこの店を任せようと思ってねぇ。ボリス。この子はヴィクトール君だよ。10年以上、うちに通ってくれている常連さん」


 バークレーがニコニコ笑いながらヴィクトールのことを紹介すると、ボリスがヴィクトールの方を向き、鋭く細い三白眼で見下ろして、無表情で口を開いた。


「ボリス・シェルトン」

「あ、どうも。ヴィクトール・パラクーダです」

「ヴィクトール君はお医者さんでね。学生時代から通ってくれているんだ」

「へぇ」

「この通り、愛想のない子だけど、ボリスは優しい子でね。今は一緒に暮らしてくれているんだ。僕もあちこちにガタがきているからねぇ。いやぁ、歳はとりたくないね」

「バークレーおじさん。どこか悪いんですか?」

「膝と腰がね。でも、まだまだ元気だよ。だけど、ちょっと風邪をひきやすくなったかなぁ。最近は頻繁にかかりつけのお医者さんの所に通っているよ」

「一度、うちの病院にも来てみてくださいよ。すごく優秀な薬師がいるんです。腰や膝が悪いのなら、試しにうちの病院の薬師の湿布とか試してみてくださいよ。患者さんが多いから、どうしても待ち時間が長くなっちゃいますけど」

「そうだねぇ。この際だから、色々検査してもらうかなぁ」

「僕は小児科が専門なんでバークレーおじさんを診ることはできないんですけど、外科も内科も腕がいい先輩たちが沢山いるので、安心して気軽に受診してください」

「ありがとうね。ヴィクトール君。ところで、話は変わるんだけど、君、今は恋人はいるのかい?」

「生まれてこの方、恋人なんてできたことないですよ」

「おや。それはちょうどいい。ボリスはどうだい? この子も、もう33にもなるのに、ずっと独り身でね。老い先短い身としては、まだ若いのが2人も独り身なのは心配でねぇ」

「おじさん。余計なことを言うなよ」

「だって、ボリス。ヴィクトール君は本当にいい子なんだよ。礼儀正しいし、いつも丁寧に本を扱ってくれるし、僕のこともなにかと気にかけてくれる優しい子だし。ヴィクトール君も本が大好きだから、結構気が合うんじゃないかな」

「男同士だろ」

「細かいことはいいじゃない。僕が若い頃は、男同士の恋人なんて見かけなかったけど、今時は普通に男同士でも恋人になったりするじゃないか。まぁ、まだ結婚はできないみたいだけど、数年以内に法整備されるって、何日か前の新聞で読んだよ。で、ヴィクトール君はどうかな。ボリスは、見た目はちょっと厳ついし、まぁ、あんまり愛想がいい訳でもないけど、本当に優しいし、細かいことにも気がついて助けてくれるんだ。君と同じで活字中毒だし、お試しで付き合ってみるってのはどうだい?」

「えーと……」


 ヴィクトールは急な話に困惑しながらも、チラッと隣のボリスの横顔を見上げた。ボリスは完璧な無表情で、何を考えているのか、全く読めない。バークレーが勧めてくるくらいだから、本当に悪い人ではないのだろう。見た目は厳つくて、正直ちょっと怖いが。恋人というものに憧れは持っている。しかし、仕事が忙しいし、やり甲斐を感じているので、どうしても仕事を優先することになる。これは断った方がいいなぁと思って、ヴィクトールはおずおずと口を開いた。


「折角のお話なんですけど、僕の勤務は基本的に不規則で、結構忙しいんです。夜勤もあるし、夜勤じゃ無い日も夜中に呼び出しがあったりして。恋人になっても、ボリスさんを優先できないので、もっと他にいい人を探した方がいいんじゃないかと」

「おや。ボリスはどうだい?」

「俺みたいなのと付き合う物好きはいねぇ」

「そんなことないよ。まぁ、いきなり恋人にならなくてもいいからさ。まずはお友達からどうだい?  お互い、無理をしない程度に親しくなればいいじゃない。ボリスもだけど、ヴィクトール君も休日に会う友達すらいないだろう?」

「ははは……まぁそうなんですけどね」

「さっきも言ったけど、老い先短い身としては、2人が心配なんだよ。恋人じゃなくてもいいから、友達になったらどうだい。本好き友達。ボリスもなんでも読むから、きっと話が合うし、楽しいよ」


 確かに、ヴィクトールは休日に会うくらい親しい友達もいない。両親は数年前に相次いで他界しており、兄妹もいないので、ここ数年はずっと一人ぼっちだ。職場の先輩や後輩とは、普通に親しいが、休みの日に会う程じゃない。学生時代も、一応友達っぽいのはいたが、勉強が楽しくて、一緒に遊んだりすることも無かった。恋人に憧れをもっているが、同時に友達というものにも憧れを持っている。
 ヴィクトールは少し悩んでから、ボリスの方を向いて、口を開いた。


「ボリスさんさえよければ、僕と友達になってください。バークレーおじさんが言うように、僕、友達もいないので……本好き仲間……みたいになってくれると嬉しいです」

「……そういうことなら、別に構わん」

「おっ。やったね。よかったねぇ。ボリス。お友達ができたよ」


 バークレーが本当に嬉しそうにニコニコと笑った。『折角だから自己紹介も兼ねて喫茶店でお茶をしておいで』とバークレーが言うので、ヴィクトールは本を買ってから、ボリスと共に店を出た。

 近くの喫茶店に入ると、ヴィクトールはボリスと向かい合ってテーブル席に座った。真正面からボリスを見ると、本当に厳つくて、威圧感がある。でも、背筋がピンと伸びていて、姿勢がいいのは、なんだか見ていて気持ちがいい。2人とも珈琲を注文すると、ヴィクトールは、おずおずとボリスに話しかけた。


「改めまして、ヴィクトール・パラクーダです。総合病院に勤務しています。えっと、趣味は読書です。本だったら、割となんでも読みます」

「ボリス・シェルトン。半月前まで、警邏隊に所属していた」

「えっと、今は何を読まれています?」

「……リンダ・バーララの短編集シリーズ」

「あぁ! あれ面白いですよね。僕も読みました。短編集の3巻だったかな? 魔術師とメイドが恋に落ちる話、あれが特に好きでした。普通の恋愛小説かなって思っていたら、意外と展開が読めなくて、最後までワクワクしながら読めましたね」

「読んだ。あれはいい。5巻の大工の話は読んだか」

「読んでます。あれも面白かったですよね。大工が殺人事件に巻き込まれちゃうお話で。まさかの真犯人には驚きました」

「あぁ。……貴方は、今何を」

「今読みかけなのは、最新の医学書以外だと、隣国の少数民族に関する論文集ですね。険しい山岳地帯で生きる独特な風習をもつ少数民族を民族調査したもので、結構面白いです」

「難しいか」

「いえ。研究論文にしては読みやすい方かと。専門知識がない僕でも読めるし、楽しめるんで。専門用語に関しては注釈もついている、とても親切な論文集なんです」

「ふぅん。気になる」

「読み終わったらお貸ししましょうか?」

「頼む」

「はい。……ここの珈琲、美味しいですね」

「あぁ。ガキの頃から、たまにおじさんに連れてきてもらっていた」

「へぇ。バークレーおじさんと仲がいいんですね」

「まぁ。可愛がってもらっている」

「いいですねぇ。僕は両親が2人とも一人っ子で、親戚がいないので、ちょっと羨ましいです」

「兄弟は」

「僕ですか? 残念ながらいませんねぇ。両親も数年前に亡くなっているので、寂しい独り暮らしです。まぁ、家では沢山の本に囲まれてるし、職場では、先輩達に可愛がってもらってるんで、実際そんなに寂しいとも思わないんですけどね」

「そうか」

「次の休みは、急患が入らなければ8日後だったかと思うので、その頃には、さっき話していた論文集も読み終わるでしょうから、持ってきますね」

「あぁ。頼んだ。店の定休日以外なら、いつも店にいる」

「えーと、毎週1の日が定休日でしたよね」

「あぁ」

「ボリスさんも面白い本があったら、紹介していただけると嬉しいです」

「ん」


 ヴィクトールは、珈琲を飲み終わるまで、ボリスとぽつぽつお喋りをすると、喫茶店を出て、ボリスと別れた。ボリスはずっと無表情だったが、多分嫌われている感じではないと思う。楽しかった本について話せる相手がいるのはいい。バークレーから提案された時は、正直困惑したが、意外と本好き仲間みたいな友達もいいかもしれない。
 ヴィクトールは軽やかな足取りで家に帰ると、少し仮眠してから、のんびりと本を読み始めた。



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 ボリスは、だらしなくベッドに寝転がって本を読んでいるヴィクトールの近くで、椅子に座って本を読んでいた。今日はヴィクトールの家に来ている。ヴィクトールの家は、古ぼけた二階建ての一軒家で、本屋敷と言っていい程、本が沢山ある。ヴィクトールの寝室で借りた本を読んでいるのも、居間のソファーさえも本置き場と化しているからだ。一番スペースが開いているのが、ヴィクトールの寝室だった。それでも、壁一面は本棚で、みっちりと本が並べてあるが。ヴィクトールが買ったものも多いが、亡くなったヴィクトールの父親も本が好きで、ヴィクトールが子供の頃には、既に二部屋も書庫があったらしい。ヴィクトールも働きだしてから、給料の殆どを本につぎ込んでいるので、年々増えていった結果、今の本屋敷になったそうだ。

 ヴィクトールと友達になってから半年が過ぎた。ヴィクトールは仕事が忙しく、本当にたまにしか会わないが、その距離感が存外心地いい。たまに会うと、面白かった本の貸し借りをしたり、同じ本を読んだ後は感想を語り合ったりしている。ボリスは子供の頃から、目つきが悪くて、笑うのも苦手で、友達なんかできたことが無かった。人相が悪すぎて、警邏隊に勤めていた頃も、制服を着ていない休日に、職務質問を受けたことがあるくらいだ。両親や兄からは、『笑いもしないで可愛げがない』と、子供の頃からよく言われていた。家族から疎まれていたボリスを唯一可愛がってくれていたのが、伯母夫婦だった。特にバークレーは、家に居場所がないボリスをよく家に招いてくれて、沢山の本を読ませてくれた。ボリスは、小さな頃は、バークレーは物語に登場する魔法使いだと思っていた。物語の新しい世界をみせてくれるバークレーのことが、本当に大好きだった。1年前に、バークレーから店を継がないかと話を持ち掛けられた時は、迷わず頷いた。高齢になったバークレーが心配だったので、いい機会だからと同居して、古書の取り扱い方を習っている。警邏隊に勤めていた頃よりも、今の方がよほど毎日が充実していて楽しい。ヴィクトールと友達になれたのも、すごく嬉しい。

 ヴィクトールは不思議な奴だなぁと思う。のほほんとした空気をまとった、茶髪茶目の穏やかで優しい顔立ちをした男だが、存外肝が据わっているのか、ボリスの容姿に怯えたり、忌避したりすることなく、普通に接してくれる。一緒に本の話をする時は、目をキラキラと輝かせて、とても楽しそうに笑う。ボリスは、半年もすれば、ヴィクトールを特別に想うようになっていた。ボリスは、自分は女が好きだと思っていたが、どうやら男にも恋ができたようである。ヴィクトールが特別なのか、元々男も恋愛対象になる性質だったのかは、自分でもよく分からない。ヴィクトールに想いを告げる気はない。ヴィクトールだって、こんな厳つくて愛想もない男に告白されても迷惑だろう。今の、友達という心地よい関係を壊したくない。胸の中に小さく芽吹いた恋心は、こっそり墓まで持っていく。

 ボリスが借りた本を読み終えて、静かに本を閉じると、ヴィクトールに声をかけられた。ベッドに寝転がったヴィクトールがゆるく笑って、ボリスに話しかけてきた。


「どうでした? その本」

「面白かった。ただ、いまいち分からないところもあった。参考文献に載っていた本は持っているか?」

「どの本です?」

「これだ。多分、これに詳しいことが載っているのだと思う」

「あ、これなら持ってますよ。ちょっと待っててください。探してきます。どこに置いたかなぁ」

「一緒に探そう」

「はい。お願いします」


 ヴィクトールが、ふふっと楽しそうに笑った。


「自宅でお宝探しっぽいのができるのも楽しいですねぇ」

「そうか」

「はい。この本を見つけたら、晩ご飯を食べに行きませんか?」

「あぁ」

「ものすごーく久しぶりの連休なんで、今夜はお酒に付き合ってくださいよ。ボリスさん、お酒は好きですか?」

「それなりに」

「やった! お酒飲みながら本を読むのも好きなんです。僕。そのまま寝落ちたりもするんですけどね」


 楽しそうにゆるく笑うヴィクトールを見ていると、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。ボリスは機嫌よく目を細め、ヴィクトールと一緒に、沢山の本という宝の山から、お目当ての本を探し始めた。

 お目当ての本が見つかる頃には、すっかり日が暮れていた。ヴィクトールは自炊をしない派なので、家に食材はないし、調理器具類もかなり古ぼけて、埃被っている。ボリスは一応料理ができるが、埃まみれの台所の掃除から始めなければいけないので、ヴィクトールの家で手料理を振る舞うのは諦めている。今度はボリスとバークレーが暮らす家に遊びに来ることになっているので、その時にヴィクトールに手料理を振る舞えばいい。
 ボリスはヴィクトールと一緒に、近くの夜遅くまで営業している飲み屋へと向かった。




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 ヴィクトールはそれなりに酔っていた。久しぶりに飲む酒が美味しくて、ボリスと本の話をするのが楽しくて、ついつい飲み過ぎてしまった。ヴィクトールはへらへらご機嫌に笑いながら、ボリスに支えられるようにして、自宅に帰った。

 ボリスは、口数は少ない方だが、話していて存外楽しい。今まで、好きな本について語り合える相手がいなかったので、ボリスと友達になれて本当によかったと思っている。ボリスはいつだって無表情だが、それでも、なんとなく、今楽しいんだろうなぁと雰囲気で分かるようになってきた。ボリスは酒に強いみたいで、ヴィクトールと同じくらい酒を飲んだのに、シャンといつも通り背筋が伸びている。ボリスの姿勢のよさは、いつ見ても気持ちがいい。ヴィクトールはちょっと猫背だから、いつでも姿勢がいいボリスが格好いいなぁと思う。

 ヴィクトールはボリスと一緒に自宅の寝室に戻ると、早速また本を読もうと、ボリスに声をかけた。ボリスが無言で頷いてくれたのが嬉しくて、だらしなく顔が緩む。ふと、ヴィクトールは酔った頭でいいことを思いついた。


「ボリスさん。夜だし、夜っぽい本を読みましょうよ」

「夜っぽい本」

「ふっふっふ。ずばり! スケベな本です!」

「酔ってるな」

「酔ってます!」

「まぁ、いいが。持っているのか」

「何冊かなら。人妻ものとメイドものと修道女もの、どれがいいですか。どうせなら一緒に読みましょうよ」

「……修道女もの」

「分かってらっしゃる! 僕も修道女ものが一番好きです。お堅い修道女が乱れるのって、ぐっとくるものがありますよね」

「あぁ。あと、かっちりした防御力が高い修道服が乱れるのがいい」

「わっかりますー! 全部脱がすより、中途半端に脱がせる方がぐっとくる派です」

「心の友よ」

「心の同志! 僕のオススメを出しますね」

「あぁ」


 ヴィクトールはいそいそと、ベッドの下から箱を取り出し、10冊にも満たないスケベな本の中から、一押しの修道女もののスケベな本を取り出した。6年前くらいに買って以来、何度もズリネタにしているので、読み込んでいるのが明らかに分かるようになっている。
 ヴィクトールは、一緒に読んだ方が楽しいからと、ボリスをベッドに誘った。一緒に寝転がって読んだら、絶対に楽しい。ヴィクトールは本当に酔っていた。酔っている自覚はあるが、楽しいので問題ない。

 ヴィクトールがベッドにうつぶせに寝転がると、ボリスがベッドに上がってきたので、ヴィクトールはぽんぽんとすぐ隣のシーツを軽く叩いた。ボリスがすぐ隣に、ヴィクトールと同じように寝転がった。2人で読めるように、枕をどかして、スケベな本を真ん中に置き、早速本を開く。


「これ、読んだことあります?」

「これはない。この作者の別の本なら持っているが」

「修道女もの?」

「修道女もの」

「今度貸してください。それか一緒に読みましょう」

「いいぞ」


 ボリスも酔っているのか、なんだかご機嫌な雰囲気である。ヴィクトールはにへっと笑ってから、頁を捲って、ボリスと一緒にスケベな本を読み始めた。
 2人の文章を読むペースは意外なことに殆ど同じで、一緒に読んでいて、とても読みやすかった。時折、こそこそっと感想を言い合ったりして、すごく楽しい。ヴィクトールは、楽しくて笑いながら、腰をくねらせて、パンツの中で勃起しているペニスをズボン越しにシーツに擦りつけた。


「あぁー。抜きどころきましたね。このシーンでいつも抜いてます」

「いいな。かなりいやらしい」

「でしょ。僕、もう元気いっぱいですよ」

「俺もだ」

「抜いちゃいます?」

「ん」


 普段なら考えられないことだが、ヴィクトールは酔っている上にムラムラしていたので、のろのろと起き上がり、パンツごとズボンを脱ぎ捨てた。隣でボリスもズボンとパンツを脱いでいる。どうやらボリスもかなり酔っているようだ。ヴィクトールはなんだか本当に楽しくて、ムラムラして、自分の勃起したペニスを掴んで、しこしこ擦りながら、何気なくボリスの股間を見た。ボリスのペニスは体格に見合った立派な大きさで、皮がしっかり剥けていて、赤い亀頭が大きく、長い竿の中心が膨らんでいるような形をしていた。ヴィクトールはなんとなく自分の勃起したペニスを見下ろした。普段は半分皮を被っている亀頭がしっかり露出しており、カリの下あたりに剥けた皮が溜まっている。ヴィクトールのペニスは、先細り型で、根元が一番太く、亀頭はボリスよりも小さめだ。ペニスにも色んな形があるのだなぁと思いながら、ヴィクトールは、初めて見る他人の勃起したペニスに興味を抱いた。


「ボリスさん。ボリスさん」

「なんだ」

「触ってみていいですか?」

「……それなら俺も触る」

「いいですよー。抜きっこしましょう。10代の頃、割と親しかった先輩が、友達と抜きっこしてるって話してて。ちょっと憧れてたんです」

「そうか」


 ヴィクトールがボリスの方を向いてころんと寝転がると、ボリスも同じように寝転がった。じりじりと近寄って、ボリスの股間に手を伸ばし、ボリスの熱くて硬いペニスに触れる。ボリスのペニスは、ガチガチに硬くなっていて、亀頭が微かに濡れていた。親指の腹ですりっと濡れた亀頭を撫でると、ボリスがふぅっと熱い息を吐いた。なんだか不思議と楽しい。ヴィクトールが、ボリスのこんな時でも無表情な顔を間近でガン見しながら、ボリスのペニスの形を確かめるように、ゆっくりとボリスのペニスを撫で回していると、ボリスのゴツくて硬い手が、ヴィクトールのペニスに触れた。ペニスの根元から、ゆっくりとボリスの手が這い、先走りが既に溢れている亀頭をやんわりと撫で回される。初めて感じる熱いボリスの手の感触が、酷く気持ちがいい。ヴィクトールはクスクス笑いながら、ボリスの鷲鼻に鼻先を擦りつけた。


「ボリスさん。やばい。楽しい」

「ふっ。俺もだ」

「ちんこ、扱いて」

「ん」

「は、っあ……ふふっ。ボリスさんの手、気持ちいい。ボリスさん、これ気持ちいい?」

「……っあぁ」


 ボリスにペニスを優しく扱かれながら、ヴィクトールはボリスのペニスの根元辺りをぬこぬこと扱き、つーっと裏筋を指でなぞって、さっきよりも濡れているボリスのペニスの亀頭を掌でぐりゅんぐりゅんと撫で回した。ボリスの日焼けした目尻が微かに赤らみ、ボリスの眉間に皺が寄った。本当に気持ちがいいのだろう。ボリスの感じている顔を見ていると、なんだかムラムラが大きくなって、楽しくて堪らなくなってくる。ボリスの熱い吐息がかかる程、顔が近い。ボリスの手がもどかしい程優しい力加減で、ヴィクトールのペニスをゆっくりと扱いている。じわじわと高まっていく射精感と共に、奇妙な興奮を感じる。

 鼻先を触れ合わせながら、ヴィクトールは熱い息を吐き、ボリスの鋭く細い三白眼をじっと見つめた。ボリスの薄茶色の瞳が、微かに潤んでいた。ボリスの熱が籠った瞳を見ているだけで、なんだか背筋がゾクゾクしてくる。ヴィクトールは自然と更に顔を寄せ、ボリスの唇に自分の唇をくっつけた。唇に感じるふにっとした柔らかい感触も不思議と気持ちがいい。
 ボリスが細い三白眼を更に細めて、ちゅくっとヴィクトールの下唇を優しく吸った。ヴィクトールも真似をしてボリスの上唇を吸うと、ボリスの目が更に細まり、ぬるりと熱い舌で唇を舐められた。楽しくて、興奮して、気持ちよくて、ヴィクトールは手を動かしながら、舌を伸ばして、ボリスの熱い舌に自分の舌を擦りつけた。ぬるぬると舌を絡めあうと、それだけで気持ちがいい。先走りがどっと溢れる感覚がして、ヴィクトールは唇を触れ合わせたまま囁いた。


「もっと強く」

「ん」

「はぁっ、すごい、きもちいい」

「は、は、も、でるっ」

「ぼくも、でそうっ、んあっ、先っぽ、弄って」

「ん。っあ、もっと速く、あぁっ、いいっ……」

「あ、はぁっ、でるっ、やばいっ、あ、あ、あ……あぁっ!」

「んあっ……!」


 ヴィクトールは、ボリスに亀頭を皮も使ってぐにゅぐにゅと激しく、でも優しく弄られて、込み上げる射精感に抗うことなく、そのまま精液をぶちまけた。射精しているペニスを、精液を搾り取るように、優しく根元からぬこぬこと扱かれる。ほぼ同じタイミングで射精したボリスのペニスを、手にかかった熱いボリスの精液を塗り広げるように、根元から扱きながら、ヴィクトールは再びボリスの唇に吸いつき、ボリスの熱い舌をぬるぬると舐め回した。

 はっはっとお互いに荒い息を吐きながら、じっと見つめ合う。ヴィクトールは酔いと快感の余韻でふわふわした頭のまま、すりすりとボリスの鷲鼻に自分の鼻を擦りつけた。


「ボリスさん。もう一回」

「ん」


 ヴィクトールは、ボリスと何度も唇を吸い合い、舌を絡め合わせながら、2人揃って寝落ちるまで、お互いのペニスを弄り合い、何度も精液を吐き出した。




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 ボリスはヴィクトールの先細りした形のペニスを咥えて、熱い亀頭を舐め回していた。ボリスの勃起したペニスには、ヴィクトールの熱い舌が這い回っている。お互いに下半身だけを露出して、頭が上下逆になるようにベッドに寝転がり、お互いのペニスを舐め合っている。
 初めて、スケベな本を一緒に読んで、抜きっこした日から、半年くらいが経つ。
 ヴィクトールが休みの日の度に会い、昼間はそれぞれ好きな本を読み、夜は一緒にスケベな本を読んで、抜きっこしている。最初はお互いのペニスを手で擦るだけだったのが、じわじわとエスカレートしていき、最近では、お互いのペニスを舐め合うようになった。
 ボリスはヴィクトールのペニスを舌と唇で可愛がり、ヴィクトールの熱い精液を口で受け止め、機嫌よく目を細めながら、残さずヴィクトールの精液を飲み干した。
 ペニスの根元を扱かれながら、じゅるじゅると亀頭を吸われ、ボリスもヴィクトールの口内に精液を吐き出した。射精しているペニスを吸われるのが、堪らなく気持ちがいい。ボリスは低く喘ぎながら、快感でふわふわした頭で、ヴィクトールの、萎えて皮で少し覆われたペニスの先っぽにキスをした。

 お互いに荒い息を吐きながら、身体を起こして向かいあって胡坐をかいて座ると、ヴィクトールが顔を寄せてきたので、ボリスもヴィクトールに顔を寄せ、自分の精液の味がするヴィクトールの口内に舌を入れて、ヴィクトールの口内を舐め回した。気持ちがいいし、酷く興奮する。友達同士の抜きっこの範疇から超えた行為をしているのは分かっているが、ヴィクトールに求められると、なんでもしてやりたくなる。惚れた弱みというやつだろう。ボリスはヴィクトールが可愛くて堪らなかった。
 唇を触れ合わせたまま、ヴィクトールがふふっと楽しそうに笑った。内緒話でもするかのように、ヴィクトールが唇を触れ合わせたまま囁いた。


「ボリスさん。もっと気持ちいいことがしたいです」

「ん。……俺の尻に挿れるか」

「いいんですか」

「構わん。お前なら何をしてもいい」

「へへっ。ボリスさんも僕に何をしてもいいですよ」

「……ん」


 ボリスは楽しそうに目を笑みの形にしているヴィクトールを見つめながら、嬉しくて目を細めた。ヴィクトールのことが好きだ。これだけのことをしておいて、未だに想いを言葉で伝えられないが、ボリスはありったけの想いを込めて、ヴィクトールの唇にキスをした。

 男同士のセックスの仕方は、こっそり買ったスケベな本を読んで覚えている。必要なものも、実はここ最近、ヴィクトールの家に来る度に鞄に入れて持ってきていた。ボリスはペニスが大きい方だから、中背中肉の特に身体を鍛えている訳でもないヴィクトールのアナルにボリスのペニスをいれると、ヴィクトールの身体の負担が大きいだろう。それでなくても、ボリスはヴィクトールに抱かれたかった。友達の延長線上でもいいから、ヴィクトールに愛されていると思いたかった。

 ボリスはヴィクトールの唇をもう一度やんわりと吸うと、ベッドを下りて、鞄の中から、浄化剤が入った小さな箱と潤滑油の瓶を取り出して、ベッドの上に戻った。
 着たままだったシャツを脱ぎ捨て、ヴィクトールのシャツも脱がせる。これからするのは、抜きっこではない。セックスだ。緊張と期待と喜びで、胸が大きく高鳴っている。ボリスは初めて見る全裸のヴィクトールの身体を舐めるようにじっと見つめ、小さく熱い息を吐いた。

 ヴィクトールに見られながら、浄化剤を一つ箱から取り出し、自分のアナルに突っ込む。浄化剤はアナルセックスの必需品だ。アナルの中に入れると、中をキレイにしてくれる。自分で使うか、ヴィクトールに使うかは分からなかったが、買っておいてよかった。ボリスは浄化剤をアナルに入れて、頭の中で30数えると、ヴィクトールの身体を押し倒して、ヴィクトールに跨った。潤滑油の瓶を手に取り、掌に潤滑油をたっぷり垂らすと、ボリスは身体を伏せて、ヴィクトールの唇に吸いつきながら、自分のアナルに潤滑油を塗り込むように、アナルの表面を撫で回した。アナル周りに少しだけ生えている縮れた毛が肌に貼りつくのを感じながら、ヴィクトールの口内を舐め回す。歯列をなぞり、歯の裏側をねっとりと舐め、上顎をぬるぬると舐め回す。ヴィクトールが楽しそうに目を細めながら、筋肉質なボリスの尻を両手で掴み、さわさわと撫で回し始めた。ヴィクトールの優しい手が触れているというだけで、いっそ射精してしまいそうなくらい興奮する。ヴィクトールの指先がボリスの尻の谷間をなぞり、潤滑油で濡れたアナルに触れた。アナルは自分でも弄ったことがない。感じることができるのか、若干不安だったが、完全に杞憂に終わった。ヴィクトールの指がアナルの表面を撫でただけで、背筋がゾクゾクするような快感を覚える。ボリスは唇を触れ合わせたまま、はぁっと熱い息を吐いた。ヴィクトールがじっとボリスを見つめてくる。ヴィクトールの優しい色合いの茶色の瞳が、確かに熱を持っている。ヴィクトールがボリスに興奮していると思うだけで、泣きたくなる程嬉しい。ボリスは目を細めて、ゆっくりとアナルの中に入ってきたヴィクトールの指の感触に、溜め息のような小さな喘ぎ声を上げた。





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 ヴィクトールはボリスの肉厚のムッキリとした尻に下腹部を打ちつけながら、夢中で腰を振って、ボリスのアナルにペニスを抜き差ししていた。ボリスのアナルの中は、括約筋がキツくペニスを締めつけてきて、熱くて柔らかい腸壁がペニスにまとわりついてくる。気持ちがいいなんてもんじゃない。初めての快感に時折喘ぎながら、ヴィクトールはがっしりしたボリスの腰を両手で掴み、指で探った時に見つけた腹側にあるボリスの前立腺を擦るように意識しながら、めちゃくちゃに腰を振りまくった。
 下腹部を強く打ちつける度に、ボリスの意外と白い引き締まった筋肉質な尻肉が、ぶるんぶるんと揺れる。それがすごくいやらしくて、興奮を煽る。腰を振りながら両手で尻肉を広げ、繋がっているところを眺めれば、ペニスを引き抜くと、ボリスのアナルの縁が微かに赤く捲れ、ペニスを押し込めば、柔軟にヴィクトールのペニスを飲み込んでくれる。堪らなくいやらしくて、堪らなく気持ちがいい。ボリスの前立腺をペニスで擦ると、ボリスが上擦った声を上げ、きゅっと括約筋でヴィクトールのペニスを締めつけてくる。気持ちよくて、腰をくねらせて喘ぐボリスがなんだか可愛くて、本当に堪らない。

 ヴィクトールは快感に酔いしれながら、ふとボリスの顔が見たくなった。ボリスは今どんな顔をして、ヴィクトールのペニスを受け入れているのだろうか。後ろからの方が負担が少ないらしいとボリスから聞いたので、後ろからペニスを挿れているが、ヴィクトールはどうしてもボリスの顔が見たくなった。そして、キスがしたい。

 ヴィクトールはゆっくりとペニスをボリスのアナルから引き抜き、ボリスの汗ばんだ尻を撫で回しながら、ボリスに声をかけた。


「ボリスさん。正常位で挿れたいです」

「……ん」


 ボリスがゆっくりとした動きで体勢を変え、自分で、筋肉質で太い太腿を握り、両足を大きく広げ、腰を少し浮かせてくれた。ボリスの顔を見れば、日焼けした頬が真っ赤に染まり、鋭く細い目が、じんわりと涙で濡れていた。薄い唇からは涎が垂れており、なんだかとてもいやらしくて可愛い。厳つい怖い顔立ちをしているのに、不思議と今は可愛くて堪らない。
 ヴィクトールはごくっと口内に溜まった唾を飲み込んでから、ボリスの足の間を陣取り、片手で自分のペニスを掴んで、再びボリスのアナルの中にガチガチに勃起したペニスを押し込んだ。


「あぁっ……」


 ボリスが微かに口角を開けて、低く喘いだ。常に無表情なボリスが笑った。ヴィクトールは驚くと同時に嬉しくなって、ボリスのムッキリと盛り上がった胸筋を両手で揉みしだきながら、腰を動かして、意識してボリスの前立腺をペニスで擦り始めた。ボリスが微かに口角を上げたまま、気持よさそうに喘いでいる。ボリスの存在感が薄い小さな茶褐色の乳首を摘まんで、指でくりくりと弄れば、ボリスのアナルが更に締まる。気持ちよくて、気持ちよくて、酷く興奮して、ボリスが可愛くて、もう頭の中が沸騰してしまいそうだ。
 ヴィクトールは無我夢中で腰を振りまくり、両手でボリスの乳首を弄りながら、我慢しきれずに、ボリスの腹の中に精液をぶち撒けた。

 はっはっと荒い息を吐きながら、ヴィクトールは繋がったままボリスに覆い被さって、濡れたボリスの唇に吸いついた。唇を触れ合わせたまま、ボリスが囁いた。


「よかったか」

「ものすごく。すいません。僕だけイッちゃって。次はボリスさんもイカせます」

「ん。は、おぅっ、んうっ、ヴィクトール、いいっ……」

「ボリスさん、かわいい」

「は、ははっ! あぁっ! いいっ! もっとっ!」


 ボリスが初めて声を上げて笑った。ヴィクトールは嬉しくて、早々と復活したペニスで、ボリスを気持ちよくすべく、ボリスの前立腺を集中的にペニスで擦った。顔を離してボリスの顔を見れば、ボリスは確かに笑っていた。微かに口角が上がっているだけだが、それは確かにボリスの笑顔である。ヴィクトールは嬉しくて笑いながら、ボリスの勃起したペニスを片手で掴んで扱きながら、2人揃ってイクまで、夢中で腰を振りまくった。




------
 ヴィクトールは、ぜぇぜぇと掠れた息を吐きながら、同じく荒い息を吐いているボリスの身体に横から抱きついていた。結局、3回もボリスの中に射精した。先にボリスの口内に出した分も含めれば、めでたく射精回数の記録更新である。
 ヴィクトールはふにふにと弾力性のあるボリスの胸筋を揉みながら、汗が垂れるボリスの頬にキスをした。
 なんだかボリスが可愛くて仕方がない。セックスもしちゃったし、ボリスと恋人になりたいと思った。ボリスはいつだって無表情で、口数も少ないが、一緒にいて空気感が心地よくて、気持が落ち着いて、話していて本当に楽しい。セックスの最中に笑ってくれたのも、本当にすごく嬉しかった。
 ヴィクトールはこちらを向いてくれたボリスの唇に触れるだけのキスをして、唇を触れ合わせたまま、じっとボリスの薄茶色の瞳を見つめて囁いた。


「ボリスさん。恋人になってくれませんか」

「……俺なんかでいいのか」

「ボリスさんがいいです」

「……そうか」


 ボリスが目を泳がせながら、本当に本当に小さな声で、『好きだ』と言ってくれた。ヴィクトールは嬉しくて、にへっとだらしなく笑った。ボリスの目が、機嫌よさそうに細まって、ヴィクトールの唇を優しく吸ってくれた。


「ボリスさん。よかったら、一緒に暮らしませんか? その方が一緒にいられる時間がとれるので。勿論、バークレーおじさんも一緒に」

「いいのか」

「はい。バークレーおじさんがいいって言ってくれたらですけど。僕の家はこのまま家ごと書庫にしちゃいましょう。絶対これからも本が増えますし」

「それは確かに」

「ボリスさん」

「ん」

「貴方が好きです。貴方とずっと一緒に楽しく暮らしたいです」

「……俺もだ」


 ボリスが身体ごとヴィクトールの方を向き、ヴィクトールの身体を逞しい腕でぎゅっと抱きしめた。少し苦しいが、ヴィクトールの顔中にキスの雨を降らせてくれるボリスが可愛くて、愛おしくて、ヴィクトールは声を上げて笑いながら、ボリスの逞しい身体を抱きしめ返した。


 それから1か月後。ヴィクトールはボリスとバークレーの家に引っ越して、2人と一緒に暮らし始めた。バークレーに、ボリスと恋人になったこと、できたら3人で一緒に暮らしたいことを伝えると、バークレーはとても喜んで、皺くちゃな満面の笑みを浮かべた。
 仕事は相変わらず忙しく、不規則な生活を送っているが、店か家に帰れば、必ず2人が温かく出迎えてくれる。ヴィクトールは前以上に仕事に励みながらも、ボリスとバークレーと過ごす何気ない日常を愛おしく思い、大切にしていた。

 休日に、古書店の仕事を手伝って、本棚に売り物の本を並べていると、すっとボリスが隣に立って、ヴィクトールの頬にキスをして、ほんの微かに口角を上げた。


「なに?」

「別に。したくなっただけだ」

「あはっ。帰ったら、もっといっぱいしてください」

「ん」


 機嫌よく目を細めたボリスに、一瞬触れるだけのキスをすると、ヴィクトールは穏やかに笑って、ボリスと一緒に丁寧に本を並べていった。



(おしまい)
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