『はみ出し者』の愛の卵

丸井まー(旧:まー)

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15:初めての産卵

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 卵を孕んで5日目の昼。ヴィーターと一緒に昼食を食べ、食後の紅茶を飲んでいると、なんだか腹の中で何かが下り始めたような感覚がした。排便感に近い。もしかして、いよいよ産まれるのだろうか。
 ヤニクは違和感がある下腹部を撫でながら、隣に座るヴィーターの手を握った。


「ヴィーター。産まれるかも」

「デリーク。医者を呼べ」

「御意」


 ヴィーターが素早く立ち上がり、いきなりヤニクの身体を横抱きに抱え上げた。驚いたヤニクが声を上げると、ヴィーターが真っ直ぐに前を見ながら、寝室に向けて歩き始めた。
 寝室に入ると、そっとベッドの上に下ろされた。ベッドに腰かけた状態のヤニクの下衣をヴィーターが脱がし始める。

 ヴィーターに言われて、ヤニクはベッドの真ん中に座り、ころんと仰向けに寝転がった。膝を立てて足を大きく広げれば、ヴィーターが何かの瓶を片手に、ヤニクの足の間を陣取った。


「なんだそれ」

「潤滑油だ。今から解す。手を握っていろ。怖くなったら私だけを見ていろ」

「分かった」


 潤滑油を自分の手に垂らしたヴィーターが、潤滑油がついていない方の手を伸ばしてきたので、ヤニクはヴィーターの手を握り、指を絡めた。
 アナルに濡れたヴィーターの指先が触れた。卵ができてから性行為をしていないので、ちょっと怖くて、ビクッと身体が震えた。ぎゅっと繋いだ手に力を入れ、じっと無表情なヴィーターの顔を見ると、少しだけほっとする。

 ヴィーターの指がゆっくりとアナルの中に入ってきた。いつもは『気持ちいい』ところをすぐに弄るが、今はヤニクのアナルを拡げるように、優しく指を回している。じわじわと腹の中を硬いものが下りてくる感覚がする。

 アナルを拡げるように動くヴィーターの指が、ちょっと『気持ちいい』。下腹部がじんわりと熱い。どんどん硬いものがアナルの出口へと下りてくる。

 ヴィーターの指が三本入る頃に、デリークが医者と共に部屋に入ってきた。ヴィーターが指をずるぅっと引き抜いた。
 もうアナルの出口ぎりぎりまで卵が下りている。出そうなのに、中々出ない。ヴィーターがヤニクの足の間からどき、医者からの指示で、ベッドの上でうんこ座りをする。医者がヤニクの尻の下に何枚もの清潔そうな白い布を重ねて丸めた。
 ヤニクは片手をシーツの上に置き、ベッドに腰かけて側にいるヴィーターに手を伸ばした。何も言わなくても、ヴィーターが手を握ってくれる。なんだかほっとしたヤニクは、硬いものが出そうな感覚に小さく呻いた。出そうなのに、出てこない。便秘になったことがないのだが、便秘ってこんな感じなのだろうか。


「うーー。出ねぇっ!」

「ヤニク様。大きく息を吸って、大きく息を吐いてください。ゆっくりと下腹部に力を入れてみましょう」

「わ、分かった」

「ヤニク。あと少し頑張れ」

「おう。……ふーーっ、んーーっ、あ、やばい、なんか出そう」

「そのまま出してしまえ」

「うん。んーーーーっ」


 思い切って力んでみると、硬いものがゆっくりとアナルから出始め、すぽんっと硬いものがアナルから出た。ヤニクは、やっと出た解放感に、ほうと小さく息を吐いた。ヴィーターの手を握ったまま、後ろを振り返ってみれば、白い布の塊の上に、淡く黄色い卵があった。どうやら無事に産めたようである。
 ヤニクは握っているヴィーターの手をぶんぶん振って、満面の笑みでヴィーターを見た。ヴィーターはいつも通り無表情だが、繋いでいない手で、わしゃわしゃとヤニクの頭を撫で回した。

 うんこ座りの体勢から、ベッドに普通に胡坐をかいて座ると、ヤニクはじっと卵を見た。表面が濡れて微かにてらてらと光っている卵は、確かにヤニクが産んだものだ。
 医者から、アナルが裂けていないか診察を受けた。ヴィーターがしっかり解してくれていたから、アナルは裂けていなかった。じんわり熱をもっている気はするが、特に痛くはない。

 医者に言われて、ヴィーターと手を重ねて、初めての魔力を卵に注いだ。ヤニクの手に重なっているヴィーターの手から温かいものが伝わってくる。ヴィーターの魔力だろう。魔力の放出の仕方は、集落で習っているので、普通にできた。これから10日間は、1日に五回、卵に魔力を注いでやらなくてはいけない。今はまだ小さな卵だが、毎日魔力を注いでいると、じわじわと大きくなっていくそうだ。

 大きめの籠に清潔な布を敷き詰め、卵を入れると、医者とデリークが部屋から出ていった。ベッドのすぐ側においた小さなテーブルの上の籠の中を見て、ヤニクはにへっとだらしなく笑った。無事にヴィーターとの卵を産めたのが、すごく嬉しい。産卵は、思っていたよりきつくなかった。
 すぐ隣に座っているヴィーターが、ヤニクの腰を抱き、ヤニクの頬にキスをした。ヴィーターの方を向けば、今度は唇に触れるだけの優しいキスをされる。

 どうやら、ヴィーターも嬉しいようである。何度も何度も優しいキスをされる。唇を触れ合わせたまま、ヴィーターが囁いた。


「私達の初めての子供だ」

「うん」

「よく頑張った」

「へへっ。ありがと」

「夜に魔力を注いだら、祝いに少し酒を飲もう」

「うん。アンタが好きなやつがいい」

「酒精がきついぞ」

「二日酔いになる?」

「多分な。お前はいつもの酒だ」

「ちぇっ。卵に魔力を注ぐから、二日酔いになるのは困る」

「疲れただろう。少し休め」

「うん。ヴィーター」

「なんだ」

「嬉しいか?」

「この上なくな」


 ヤニクは、ヴィーターの返事に機嫌よく笑った。やっぱりヴィーターは喜んでいた。そのことが、なんだかすごく嬉しい。早く二人の子供の顔が見たい。
 ヤニクがそう言うと、ヴィーターが少し目を細めて、無言で優しいキスをした。ヤニクはくふふ、と笑って、ヴィーターの首に両腕を絡め、自分からヴィーターの唇に触れるだけのキスをした。



――――――
 卵が産まれてから10日目。毎日、決まった時間にヴィーターと2人で卵に魔力を注いでいる。今日は、いよいよ卵が孵化する日だ。
 昼頃に、ヴィーターと一緒に魔力を卵に注いでいると、随分と大きくなった卵が微かに動いた。ヤニクは驚いて、ヴィーターの名前を叫んだ。


「ヴィーター! 動いた!!」

「あぁ。デリーク。念の為、医者を呼べ。それから、チチクルの用意を。産湯の用意もだ」

「御意」


 チチクルとは、チチクルの実の果汁のことである。卵から生まれてきた赤ん坊はチチクルを飲んで育つ。チチクルの木は不思議な木で、一年中実をつけている。神様から贈られた聖なる木だと言われている。砦にも、チチクルの木は三本もある。

 ヤニクは、なんとなくヴィーターと手を繋いで、じっと卵を見つめた。ほんの少しずつ動いている。じーーっと卵を見つめていると、ぴしぴしっと卵にヒビが入った。


「おぉ! ヒビ入った!! 頑張れっ!」

「まだ時間がかかりそうだな」


 ヴィーターの方をチラッと見れば、ヴィーターも卵を凝視していた。2人で手を繋いだまま、じっと卵を見守る。
 ぱきっと小さな音がして、小さな足が卵から飛び出た。思わず、歓声を上げてしまう。それから、時間をかけて、元気な泣き声の可愛らしい男の子が卵から出てきた。医者が産湯に浸からせ、赤ん坊の身体をキレイにしてから、産着を着せた。

 ヤニクは医者から生まれたばかりの赤ん坊を差し出されて、恐る恐るふにゃふにゃに小さい赤ん坊を抱っこした。赤ん坊は元気いっぱいに泣いている。うっすら生えている髪は黒かった。顔立ちは、どっちに似ているのか、まだ分からない。
 デリークがチチクルを哺乳瓶に入れて手渡してきたので、おずおずと泣いている赤ん坊に哺乳瓶を咥えさせる。赤ん坊は、んくっ、んくっ、とチチクルを飲み始めた。


「すげぇ。飲んでる」

「飲んでいるな。……名前は、ヤイートはどうだ。お前に似ている気がするから」

「そうか? 髪の毛はアンタと同じ色じゃん」

「元気なところはお前にそっくりだ。目を開けるのが楽しみだな」

「おう! あ、飲み終わった。えっと、げっぷをさせたらいいんだよな?」

「ヤニク様。ヤイート様を首を支えながら縦に抱っこをして、優しく背中を擦ってあげてください」

「お、おう。……怖いから、ヴィーター代わって」

「……私も怖いんだが」

「ヴィーター」

「……しょうがないな」


 ヤニクは、チチクルを飲み終えたヤイートを、そっとヴィーターに手渡した。ヴィーターがヤイートを首を支えながら縦に抱っこして、優しく背中を擦っている。けふ、と小さな声が聞こえた。無事にげっぷができたようである。
 ヤイートを赤ん坊用の小さなベッドに寝かせたヴィーターが、ほっとしたような息を吐いた。


「緊張した」

「アンタでも緊張すんの?」

「普通にする」

「ふぅん」


 ヴィーターがヤニクのすぐ側に来て、ヤニクの頬にキスをした。ヤニクはなんだか嬉しくて、だらしなく笑った。
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