『はみ出し者』の愛の卵

丸井まー(旧:まー)

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14:できたー!

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 ヴィーターと性行為をするようになって6日目の朝。ヤニクは、下腹部の違和感で目覚めた。目を開ければ、目の前にヴィーターの穏やかな寝顔があった。いつもヴィーターの方が先に起きるので、寝ているところは初めて見る。伏せられている黒い睫毛が存外長い。

 下腹部がなんだかぽかぽか温かくて、直感的に『いる』と思った。多分、卵ができている。なんとなくだが、それが分かる。
 ヤニクは身体を起こし、ヴィーターの肩を掴んで、ゆさゆさと揺さぶった。ヴィーターが微かに不明瞭な声を上げながら、目を開けた。ヤニクはヴィーターの瞳を見つめながら、口を開いた。


「できた」

「……なにが」

「卵。多分だけど、できてる」


 半眼だったヴィーターが目を見開いて、バッと起き上がった。じっとヤニクの下腹部を見て、ヴィーターが優しくヤニクの下腹部に触れた。少しひんやりとした手で撫でられると、ちょっと心地いい。


「朝食の後に医務室に行く。本当に卵ができているのかを確認する」

「分かった。デリークが来たら、朝稽古してくる」

「朝稽古は卵が産まれるまで禁止だ。卵を孕んだ状態だと、体調に影響があると聞いている。卵が無事に産まれるまでは、剣の稽古も基礎鍛錬も禁止だ」

「えーー!! することねぇじゃん!!」

「大人しくしていろ。体調に変化は?」

「下っ腹がなんか温かいくらい?」

「そうか。僅かでも異変があれば必ず言え」

「分かった。腹減った」

「卵を孕んでいる間は、普段よりも食事の量を増やすか。卵を育てるのに必要だろう」

「ふぅん。そんなもんか」


 ヤニクは、なんとなく下腹部を撫でた。デリークが盥を持って寝室に入ってきたので、身支度を整えながら、ヴィーターが卵ができたかもしれないことをデリークに伝えた。デリークが、いつもより怖い笑顔を浮かべた。


「おめでとうございます。予想より早かったですな」

「まだ確定ではない。朝食後に医者に診せる。卵ができていたら、デリークは暫くの間、ヤニクの見張りだ。動き回らないように見張っていろ」

「かしこまりました」

「え? そんなに動いちゃダメなのか?」

「私もそこまで詳しくはない。医者の話を聞くぞ」

「分かった。ちょっと走るくらいはしてぇなぁ」

「おそらく、それも禁止されるかと」

「うげぇ。5日も何もしなかったら、身体が鈍りそう」

「無事に卵を産むのが最優先だ」

「まぁ、そうだけど」


 ヤニクは、ヴィーターの私室で朝食を食べた後、ヴィーターと共に、砦の医務室に向かった。

 砦の医務室にいた中年の医者がヤニクの身体を診察して、にっこりと優しく笑って口を開いた。


「おめでとうございます。卵ができておりますよ」

「よっしゃ! 一個目!!」

「それでは、卵が産まれるまでの注意点をご説明いたしますね。基本的には絶対安静です。卵を孕んだ状態は、身体が不安定になります。個人差はあるのですが、吐き気がしたり、やたら眠くなったりします。また、食欲も増します。眠くなったら大人しく寝て、食べたくなったら、食べてください。それを身体が求めているのです。吐き気が起きた場合は、必ず私をお呼びください。吐き気止めを処方いたします。卵を育てるために、普段よりも沢山食べてください。それから、性行為は禁止です。卵が危険な状態になります。産む時は、ヴィーター様がヤニク様のアナルを解してあげてください。私の拳より一回り小さいくらいの卵が産まれるので、できるだけ身体に負担がかからないようにしてあげましょう。気持ちが不安になったりすることもございます。その時も、必ず私を呼んでくださいね。産まれるまで不自由かと思いますが、無事に卵を産めるよう、頑張りましょう」

「分かった。ありがとう」

「分からないことがありましたら、いつでもお呼びください。何度でもご説明いたします」

「うん。よろしく」

「ヤニク。部屋に戻るぞ。吐き気はあるか」

「全然ねぇ。なんか腹減ってきた」

「食べたいものはあるか」

「肉。あとアシマナの実も食いてぇ」

「すぐに用意させる。卵を孕んでいる間は、私の寝室で寝ていろ。ベッドがお前のものよりマシだ」

「分かった」


 ヴィーターに手を握られたので、ヤニクは座っていた椅子から立ち上がった。ヴィーターと手を繋いだまま、ヴィーターの寝室に移動する。ヴィーターの寝室に入れば、昨夜の性行為でぐちゃぐちゃだったベッドの上がキレイに整えられていた。
 ヤニクは大人しくベッドに横になり、ベッドに腰かけてヤニクの頭を撫でてきたヴィーターの優しい手の感触に目を細めた。


「デリークが常に側にいるから、何かあればすぐにデリークに言え」

「分かった」

「食事の準備ができるまで寝ていろ」

「うん」


 ヴィーターが、やんわりとヤニクの目を大きな手で覆った。ヤニクは小さく欠伸をしてから目を閉じた。腹が減っているのだが、ヴィーターに触れられていると妙に安心して、じわぁっと眠くなってくる。
 ヤニクは、デリークに優しく起こされるまで、うとうとと微睡んだ。




――――――
 卵ができて3日目の朝。ヤニクは、唇を優しく吸われる感覚で目覚めた。重い瞼を開ければ、ヴィーターがヤニクに何度もキスをしていた。ぽかぽか温かい下腹部を優しい手つきで撫でられている。ヴィーターの優しい手が心地よくて、また眠くなってくるが、ものすごく腹が減っている。
 ヤニクは大きな欠伸をしながら、のろのと起き上がり、寝間着を着た。

 暑いので夜は下着一枚の姿で寝ているのだが、昼間は一応寝間着を着ている。剣の稽古がしたくて堪らないのだが、日中もどうにも眠くて仕方がないので諦めている。やたら腹が減るので、1日に何回も食事をしている。基本の三食はヴィーターと食べているが、それ以外の時は、デリークがお茶を飲んで付き合ってくれる。1人で食べるのはちょっと寂しいので、本当にありがたい。

 朝食の後、ヴィーターが仕事をしに私室から出ていくと、ヤニクは欠伸を連発しながら、寝室に戻った。ヴィーターのベッドに寝転がり、夏物の薄い毛布に包まっていると、デリークが声をかけてきた。


「数日後の行商の者が来る時は、ヤニク様は部屋から出られませぬ。その頃には卵が産まれております故、ヴィーター様もヤニク様の側から離れられません。欲しいものはございますか? 代わりに買っておきます」

「んー。いつもヴィーターと飲んでる酒と本。冒険小説があれば、それがいい」

「食べたいものはございますか?」

「食べたいもの……ちょっと甘いもんが食いたい。あんまり甘過ぎないやつ」

「かしこまりました。行商の者が日保ちする菓子の類も持ってまいります。よさそうなものを買っておきましょう。干し肉はお好きですかな」

「食ったことがない」

「では、干し肉も買っておきましょう。ヴィーター様と酒を飲む時にでも、ご一緒に召しあがってみてください」

「うん」

「起きた時に食べたいものはございますか?」

「んー。雑穀粥。卵が入ったやつ。あとアシマナの実」

「かしこまりました。ご用意しておきます。それでは、おやすみなさいませ」

「おやすみー」


 ヤニクは眠気に抗うことなく、すやぁっと寝落ちた。

 空腹で目覚めると、デリークがベッドの側に椅子を置き、本を読んでいた。デリークが、ヤニクが起きたことにすぐに気づき、椅子から立ち上がった。


「腹減った」

「すぐにお食事をお持ちいたします」

「ヴィーターは?」

「昼時まで、まだ時間がございます。お食事をして、またひと眠りしたら、今度はヴィーター様とお食事できますよ」

「うん」


 デリークが、ちょっと怖い笑みを浮かべた。デリークは、ヤニクが卵を孕んでから、ずっと機嫌がいい。ヴィーターの子供ができるのが、すごく嬉しいみたいだ。デリークはヴィーターの剣の師匠でもあるらしいから、孫でもできたような感覚なのだろう。

 ヤニクは、デリークが運んできてくれた食事をもりもり食べてから、ヴィーターに優しく起こされるまで、またぐっすりと寝た。
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