お狐さんは嫁になりたい

丸井まー(旧:まー)

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 昌吉は、狐の姿でくったりしていた。権左に、めちゃくちゃ搾り取られて、人の姿になる気力も無い。権左の中は気持ちよくて、昌吉を尻で抱く権左が、格好よくて、いやらしくて、昌吉は途中で数えるのをやめたくらい射精しまくった。まぐわいってすごい。

 力尽きてくったりしている昌吉の隣では、権左が、ごーっ、ごーっ、とデカい鼾をかきながら、全裸のまま寝ている。昌吉はのろのろと身体を起こし、よじよじと仰向けに寝ている権左の身体によじ登り、権左のふさふさの胸毛が生えている弛んだ胸肉の上で丸くなった。権左の呼吸に合わせて、微かに身体が上下に揺れる。その揺れと権左の熱い体温が心地よくて、昌吉は目を閉じて、深い眠りに落ちた。

 翌朝。昌吉は、優しく背を撫でられる温かいゴツい手の感触で目覚めた。しぱしぱする目を開ければ、権左が穏やかな顔で、昌吉を見ていた。


「おはよーさん」

「おはよ。おっちゃん」

「昌吉」

「あいな」

「糞漏れそう」

「は?」

「動けねぇ」

「……はぁぁぁぁ!?」

「あーー。駄目だこりゃ。漏れる」

「ちょっ、ちょっ、もうちょい我慢しておくれ!!」


 昌吉は慌てて、ぴょんと権左の身体の上から飛び下り、人の姿になった。着物を着ている余裕は無い。昌吉は、重い権左の身体をなんとか背負うと、慌てて権左を外の厠へと連れて行った。

 権左を厠に放り込むと、昌吉は、ほっと息を吐いた。なんとかギリギリ間に合ったようである。昌吉は、急いで家に戻り、下帯も着けずに着物だけ着て、権左の着物を片手に、厠の前に戻った。


「おっちゃん。大丈夫かい?」

「だーめだわ。めちゃくちゃ下ってらぁ」

「おぉう……」


 厠の外にまで、権左の糞をする音が聞こえてくる。もしかして、精液を腹の中に出したのが悪かったのだろうか。それならば、次は頑張って腹の外に出さなくては。
 昌吉は、権左の下り腹が落ち着くまで、厠の前で待機して、よろよろと厠から出てきた全裸の権左に、手早く着物を着せた。腰が引けている権左をおんぶして、家に戻る。用心棒を辞めてから、鍛錬もやめたので、正直、固太りの権左をおんぶするのは、かなりキツいものがある。それでも、昌吉は、ひぃひぃ荒い息を吐きながら、頑張って権左の家に戻った。

 ぐっちゃぐちゃでかぴかぴになっている布団に、権左を寝かせるのは抵抗がある。昌吉は、とりあえず木の床に権左を寝かせると、権左に声をかけてから、大急ぎで実家に帰った。
 実家に帰ると、父親が仕込みをしていた。父親が、ぜぇぜぇと荒い息を吐く昌吉を見て、キョトンとした。


「昌吉。どうしたんだい」

「な、なんでもないやい。親父。今日はあたしは休む」

「おや。まぁいいけどねい」

「布団持ってく」

「おやおや。ふぅん」


 父親が、にまーっと笑った。急いで布団を纏めている昌吉に、父親が揶揄うように声をかけてきた。


「ついに権左の嫁になったのかい」

「あいな。今日は無理だけど、近いうちに、おっちゃんと挨拶する」

「あいな。まぁ、しょうがないねぇ。権左が相手なら、まぁいいさね」

「あいな。じゃあ、いってくる」

「いってらっしゃい。ちゃんと権左の世話をするんだよ」

「あいな」


 昌吉は父親に見送られて、纏めた布団を背負って、大急ぎで走って権左の家に戻った。
 権左の家に戻ると、汚れまくった布団を部屋の隅に置き、持ってきた自分の布団を敷いて、高鼾で寝ている権左を、なんとか布団に寝かせた。昌吉も疲れが残っているし、とても腹が減っているが、まずは汚れた布団を洗わなければ。
 昌吉は、布団を抱えて、共用井戸に向かった。

 色んな液体でかぴかぴになっている布団を洗っていると、隣に住んでいる鼬の親父が、ニヤニヤしながら声をかけてきた。


「お盛んだねぇ。もちっと声を抑えておくれな。煩くって寝れやしねぇ」

「あ、あいな……」


 昌吉は急速に熱くなる顔を濡れた手で擦ると、手早く布団を洗った。濡れて重くなった布団を、なんとか絞れるだけ絞り、狭い庭の物干し竿に干す。今日はカラッと晴れているから、それなりに乾いてくれるだろう。春晴れの日が続いているから、明日もきっと晴れる。二日も干せば、完全に布団も乾くだろう。

 昌吉は庭から家の中に入り、権左がぐっすり寝ている事を確認すると、財布だけを懐に入れて、買い物に出かけた。腹を下している権左には、消化のいいものを食べさせた方がいいだろう。でも、折角、夫婦になった初めての朝なのだから、ちょっと豪勢な朝飯にしたい。
 昌吉は、新鮮な尾頭付きの鯛を買うと、軽やかな足取りで権左の家に帰った。

 尾頭付きの鯛を捌き、頭や骨で出汁をとって、身は細かく切って、鯛の粥を作る。とても贅沢な粥だが、今日は特別な日だから、いいのである。
 昌吉は、鯛の粥が出来上がると、ぐっすり眠っている権左を、ゆさゆさと揺さぶって起こした。


「おっちゃん。朝飯出来たよ。鯛の粥だよ」

「んがっ。……おー。腹減った」

「起きれる?」

「無理だ」

「じゃあ、食べさせるねい」

「おぅ。頼まぁ」


 昌吉はいそいそと鯛の粥を注いだ椀をのせた膳を権左の元に運び、横になっている権左をゆっくりと起こした。
 熱々の鯛の粥を匙で掬い、ふぅふぅと息を吹きかけて、少し冷ましてから、あーん、と権左に食べさせる。


「うめぇ。もしかして鯛か?」

「鯛だよい。夫婦になったお祝い」

「尾頭付きの焼いたのが食いてぇな」

「それはまた今度。おっちゃん、腹を下したばっかだろい」

「まぁな。あれかね。中に入れっぱなしだったのが悪かったのかね」

「さぁ? 多分?」

「次からは出してから寝るわ」

「あいな。おっちゃん。あーん」

「あーん。……うめぇ。おめぇも食えよ」

「おっちゃんに食わせたらね」


 昌吉は、せっせと権左に鯛の粥を食べさせた。熱いお茶も少し冷ましてから、権左に飲ませ、ゆっくりと権左を横にならせる。どうも、腰が痛くてキツいようだ。
 昌吉は、自分も鯛の粥をささっと食べると、後片付けをして、小さな診療所を目指して駆け出した。
 診療所のお医者に湿布を貰うと、急いで権左の家に帰り、また寝ている権左の身体をなんとかひっくり返して、権左の腰に湿布を貼った。これで、少しでも楽になるといい。

 結局、権左が普通に動けるようになるまで、四日かかった。腰痛と、三日後に筋肉痛がきて、権左は四日間、布団の住人になった。昌吉は、仕事を休み、せっせと権左の世話を焼いた。

 権左が普通に動けるようになると、昌吉は権左と一緒に、実家に帰った。父親はまだ家に居たので、権左と並んで座り、父親と向かい合う。


「親父。すまねぇ。昌吉を嫁にもらう」

「あいな。まぁねぇ。正直に言うと、いつか、こんな日がくるんじゃないかと思ってたからねぇ。権左。昌吉を頼むよい」

「おぅ」

「あぁ。夫婦になるのに、一つだけ条件というか、頼まれてくれないかい」

「なんでぇ」

「遠縁の親戚にね、二親が亡くなった幼子がいてねい。親戚中を盥回しにされてるそうなんだよ。あたしゃ、どうにも気の毒でね。屋台の跡継ぎも欲しいし、その子を引き取って育てちゃあくれないかい?」

「おぅ。俺ぁ、構わねぇ。稲荷屋が昌吉の代で終わるのは忍びねぇ」

「あたしもいいよい。おっちゃんと一緒に頑張って育てるよい」 

「そうかい。ありがとねい。近いうちに、その子を連れてくるよ。永吉えいきちって子でね。まだ変化もできないくらい小さいんだ」

「昌吉と永吉を迎え入れる準備を急いでしねぇとな」

「あいな。まぁ、あたしは身一つで嫁げるよい」

「布団やら膳やら色々入り用のもんがあるだろうが。……いっそ引っ越すか」

「けへ? 何処にだい?」

「確か、職人の知り合いに、家を借りる奴を探してるってのがいた気がする。隠居して息子夫婦の家に引っ越すから、誰かに住んでほしいとかなんとか」

「へぇー。いいじゃあないかい。子がいれば、家は広い方がいい。権左。急いで、その家を借りとくれよ」

「おぅよ。多分、一軒家だ。俺も近いうちに弟子をとる予定だからよぉ。丁度いいな」


 サクサクと話が進み、昌吉の実家を出た昌吉達は、早速、住む人を探しているという職人の家へと向かった。小物細工の職人だという猿の妖の老爺は、『権左なら、安心して任せられらぁ』と、家を借りる事を笑って快諾してくれた。

 これから、忙しくなる。引っ越しをして、永吉を迎える準備をして、やる事がいっぱいだ。
 昌吉は、権左と小走りで権左の家に帰りながら、胸の奥から湧き上がってくる幸せに、けへへ、と笑った。

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