恋せよ若人

丸井まー(旧:まー)

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30:ベルタの誕生日

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 ベルタはいつもより早く起きた。今日はベルタの14歳の誕生日だ。こんなにワクワクする誕生日は、生まれて初めてかもしれない。

 ベルタは寝間着から白いシャツと黒いズボンに着替えると、パタパタと脱衣場にある洗面台に向かい、顔を洗った。鏡を見れば、髪が少し伸びている。髪に水をつけて寝癖をなおしながら、整髪料を買おうかなぁと思い立った。お洒落な子は、男の子でも整髪料で髪をセットしている。ニルダは、いつも長めの前髪を上げていて、すごく格好いい。ベルタもニルダのような髪型をしたら、格好よく見えないだろうか。鏡の前で悩んでいると、マルティンが来た。


「おはよう。ベルタ。誕生日おめでとう」

「おはよう。お父さん。ありがとう。……あ! ねぇ、お父さん。整髪料貸して」

「え? 別にいいけど。寝癖はなおってるよ?」

「ニーおばさんみたいな髪型にしてみるの」

「ベルタはニルダさんが本当に好きだなぁ。まだお会いしたことがないんだけど、そんなに格好いいのかい?」

「すっごく! 強くて、格好よくて、ものすごーく優しんだよ!」

「へぇー。それは一度会ってみたいなぁ。年越しの時は、セベリノさんとしか会っていないし」

「あ、見た目はちょっと怖いけど、すぐに慣れるよ!」

「え? 『幸福の導き手』なんだろう? 見た目が怖い?」

「顔がちょっと? あと身体がすっごく大きくて逞しくて格好いい」

「そんな『幸福の導き手』もいるんだなぁ。大きな街はやはり違う。ニルダさんは、どんな髪型なんだい? お父さんがしてあげよう」

「えっとね、前髪を全部後ろに撫でつけてる」

「ふぅん。どれ。やってみよう」


 マルティンに整髪料で前髪を上げてもらうと、つるりとしたおでこが露わになって、ニルダとお揃いの髪型になった。中性的な顔立ちは変わらないが、大人っぽくて、ちょっと格好よくなった気がする。ベルタは笑顔でマルティンにお礼を言うと、うきうきと朝食を作る手伝いをしに、台所へ向かった。

 アブリル達に見送られて、ベルタは走ってシモンの家を目指した。今日は、シモンの家に集合して、カジョの案内でルシアの家に向かう。
 いつもとは違う髪型だと、なんだか気分が明るくなる。格好いいって言ってもらえたら、本当にすごく嬉しい。ベルタは軽やかな足取りで、シモンの家に向かった。

 シモンの家の玄関先に、シモンとカジョがいた。ベルタは荒い息を吐きながら、2人の名前を呼んだ。


「ベルター! おはよー! 誕生日おめでとー!」

「あはっ。おはよう。ありがとう。カジョ」

「おはよー。誕生日おめでとう。ベルタ。今日はなんかイカしてんじゃん」

「えへへ。ありがとう! お父さんにやってもらったんだ」

「ニーおばさんの真似っこ? 結構似合うなー」

「そう! ニーおばさんとお揃いの髪型なら、ちょっとくらい格好よくならないかと思って!」

「マジでいい感じー。俺も髪の毛弄ればよかった」

「俺は弄りようがねぇな!」

「万年鳥の巣だもんな」

「父ちゃん似の剛毛癖っ毛が憎い」

「あはは。でも、カジョらしくていいじゃない」

「まっ、気を取り直して。よーし! ルシア先輩ん家に行くぞー!」

「「おー!」」


 ベルタは、カジョの案内でルシアの家へと向かい始めた。髪型を褒めてもらえたのが、思っていた以上に嬉しい。もう誕生日プレゼントを貰ったような気分だ。ベルタはスキップするような軽やかな足取りで、シモンとカジョとお喋りをしながら、ルシアの家へと向かった。

 ルシアの家は果物屋さんで、表の店のすぐ横の裏路地にはいると、家の玄関があった。どうやら、大通り側は店舗で、奥の方が自宅みたいだ。
 カジョが玄関の呼び鈴を押すと、すぐにルシアが顔を出した。ルシアがおっとりと笑って、家の中に招き入れてくれた。


「おはよう。3人とも。ベルタ君。誕生日おめでとう」

「おはようございます! ありがとうございます! ルシア先輩!」

「今日の髪型格好いいねぇ。すごく似合ってるよ」

「えへっ。えへへへへっ。ありがとうございますっ!」


 ルシアにも褒めてもらえて、ベルタのテンションは爆上がりした。
 ルシアの両親に挨拶をしてから、居間に行けば、すごく美味しそうな匂いがする料理と何種類ものケーキで、テーブルの上がいっぱいだった。


「わぁ! すごいっ! もしかして、これ、全部ルシア先輩が作ってくれたんですか?」

「うん。楽しくて、ちょっと作り過ぎちゃった」

「ルシア先輩。大丈夫! 俺達、皆、成長期!! 胃袋無限大!」

「すっげぇ美味そーー! ルシア先輩、マジですごいっす」

「本当ー! ルシア先輩って、できないことないんですか? なんか、何でもできちゃうイメージ」

「えっ!? できないことの方が多いよ!? 運動苦手だし、お裁縫も苦手なの」

「はいっ! ルシア先輩! 早く食べたいです!」

「右に同じ!」

「僕もです!」

「あははっ。じゃあ、ジュースで乾杯して食べようか」

「「「やったー!」」」


 新鮮な果物を何種類も使ったルシア手作りのジュースで乾杯すると、早速、美味しそうな料理や見た目も可愛らしいケーキを食べ始める。まずは、一口ずつ全制覇してから、特に気に入ったものをお代わりしていく。ルシアの手料理は、どれも本当に美味しかった。
 ベルタは、口いっぱいに広がる爽やかな甘みのケーキの味わいが幸せ過ぎて、もぐもぐ咀嚼して飲み込んだあとで、ほぅと小さく溜め息を吐いた。


「ヤバい。ルシア先輩のケーキを食べたら、そこらへんのお店のケーキじゃ満足できなくなりそうな気がする」

「だろー!! ルシア先輩のケーキ、ガチで美味いよな!!」

「カジョー! この幸せ者ー! ご褒美にいつもこんなに美味いもん食ってたのかー!!」

「はっはっは! ガランドラ一の果報者ですけど何か?」

「カ、カジョ君。お、大袈裟だよ?」

「いやー。ルシア先輩。カジョの言うこと大袈裟じゃないですよー。なー。ベルタ」

「うんうん。これは独り占めしちゃ駄目なやつだね。シモン」

「え、えへへ。喜んでもらえて嬉しいな」


 照れたように笑うルシアに、なんとも癒やされる。本当の本当に、料理も美味しいし、何よりケーキがガチで美味しい。カジョがご褒美ケーキの為に必死こいて頑張る理由がよく分かった。
 ルシアに聞いてみれば、ルシア自身が食べるのが大好きで、特にケーキが好きだから、小さい頃から母親と一緒にケーキ作りをしていたらしい。
 お口と胃袋が幸せ過ぎて、本当にヤバい。沢山あった料理もケーキも、お昼前には、見事にキレイに空になった。

 ルシアが空っぽになったお皿を見て、すごく嬉しそうに笑っていたので、なんだかこっちも嬉しくなる。ベルタは、ルシアに心からお礼を言った。こんなに楽しくて美味しい誕生日は初めてだ。アブリルも料理上手だと思うが、特にケーキに関しては、微妙にルシアの方が上な気がする。ルシアはケーキ屋さんを開いても大成功しそうな気がする。

 カジョから、誕生日プレゼントだと言って、シモンとお揃いのペンダントを貰った。小さな月と星がモチーフになっている可愛らしいけど小洒落た感じのペンダントで、カジョの手作りらしい。『兄ちゃんにかなり手伝ってもらった!』と言っていたが、ベルタは本当に嬉しくて、カジョの手を握り、ぶんぶん振りまくった。
 シモンからは、木でできた栞を貰った。彫り物がガタガタだから、間違いなく手作りだ。本当に嬉しくて、顔がだらしなくゆるんでしまう。


「ありがとう! シモン! すっごい大事に使うよ!」

「あー。不格好でごめん。来年はもうちょいマシなやつ贈るわ」

「これもすごく嬉しいよ! いやもうマジで!」

「そ、そう? へへっ。喜んでもらえてよかった」


 シモンが照れくさそうに笑った。なんだかシモンが可愛くて、ちょっと胸がキュンとした。
 誕生日プレゼントを貰うと、皆で後片付けをしてから、ベルタはシモンと一緒に、シモンの家に向かった。

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