恋せよ若人

丸井まー(旧:まー)

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12:カジョの提案

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 昼休みの教室で、ベルタがシモンとカジョと一緒にお弁当を食べていると、同じ剣術倶楽部の男の子がシモンに声をかけてきた。


「シモーン。呼び出しだぞー」

「えー? 誰?」

「二年の先輩。可愛い女子」

「告白なら代わりに断っといてよ」

「いや、自分で断れよ。つーか、断るな。クソ羨ましい」

「はぁー? めんどくっさ。ちょっと断ってくる」

「「いってらー」」


 シモンが面倒くさそうに椅子から立ち上がって、教室の入り口へと歩いていった。
 ベルタがもぐもぐとサンドイッチを食べていると、今度は別の男の子がベルタに声をかけてきた。


「ベルタ。先輩がベルタを呼んでるぜ」

「告白なら断っといてくれる?」

「いやいや。自分で断ろうよ」

「めんどい……」


 ベルタは露骨に顔を顰めて、嫌々椅子から立ち上がった。


「カジョ。ちょっと行ってくるよ」

「おー。シモンもベルタも大変だなぁ」

「代わってよ」

「心底嫌」

「えーー」


 ベルタは渋々、教室の入り口に向かった。教室の外の廊下には、女の子の先輩から告白されてるっぽいシモンと、見た記憶がない男の先輩がいた。男の先輩が、もじもじしながら、ばっと手紙らしきものを差し出してきた。反射的に受け取ると、男の先輩は顔を真っ赤にして、だっと走り去っていった。


「えぇ……」


 その場で告白してくれたら、その場でバッサリ断れるのに、逃げられてしまった。一応、手紙は読んだ方がいいのだろうか。ベルタは溜め息を吐いて、チラッとシモンの方を見た。シモンの前に立つ先輩が泣いていて、明らかに目立っている。


「シモーン。ご飯食べよー」

「あ、ベルタ。食うー。ということで、さようなら」

「あっ、シモン君!」


 すたすたとこちらにやって来たシモンと共に、教室の中に入り、カジョの元へ向かう。お弁当の残りを食べずに待ってくれていたカジョが、ベルタ達に声をかけてきた。


「お疲れー」

「めっちゃ泣かれたんだけど。クソ面倒くさい」

「僕は無言で手紙渡された」

「わぉ。お前ら、ほんっとモテるなぁ」

「カジョ。代わってよ」

「絶対に嫌。めんどい」

「この手紙、読まなきゃ駄目かなぁ。ていうか、お断りの返事はどうしたらいいんだろ」

「放置しとけば?」

「そういうわけにもいかないんじゃない? もー。面倒くさいー」


 渋い顔をしているベルタとシモンを見て、カジョがぽんと手を打った。


「いいこと思いついたぁ!」

「え? なによ。カジョ」

「いいこと?」

「お前ら、付き合っちゃえよ」

「「いや」」

「即答でハモるなよ。まぁ、聞きなさいよ」

「なんなのよー。カジョー」

「僕は恋人いらないんだけど」

「お前らさー、2人とも恋人欲しくないけど、めちゃくちゃモテるじゃん? だったら、お前らが付き合ったら、無駄に告白されることも無くなるんじゃね?」

「「えーー」」

「朝とか昼休みとか放課後に呼び出しされまくる日々を送るのと、付き合って、告白されずに好きなことして過ごすの、どっちがいいよ」

「そりゃ、好きなことして過ごしたいけどー」

「むーー。確かに、シモンと付き合ったら、告白はされなくなりそうだけどー」

「別に、付き合っても今まで通りでいいじゃん。別に。ベルタは俺と一緒に頻繁にシモンの家に行ってるし、付き合ってるって説得力ありありじゃん?」

「まぁ、一理ある? どうする? ベルタ」

「んーーーー。どうしようか。呼び出しとかされるのも、いい加減うんざりなんだよねぇ」

「それは俺も」

「じゃあ、付き合っちゃえよ!」

「んー。じゃあ、お互い好きな人ができたら別れるってことで、付き合う?」

「それが楽な気がしてきたなぁ」

「俺ってば冴えてるぅ! 褒めて褒めてー」

「よーしよしよし。カジョ。えらーい」

「わしゃわしゃわしゃー。カジョはいい子ー」

「はーっはっは! とりあえず、今日から2人は恋人ってことで!」

「うぃーっす」

「うん。まぁ、今までと変わらないけどね」

「まぁ、俺達まだ13歳ですから。付き合っても、別に特に何もしないのが普通でしょ。精々、一緒に帰るとか、そんくらいじゃない?」

「だよねー」


 ベルタは、シモンと一緒にカジョの鳥の巣頭を撫で回しながら、仕方がないことだと割り切ることにした。告白避けにシモンと付き合うのは、ちょっとどうかと思うが、本当に本当に面倒くさいくらい告白されまくっているので、いい加減我慢の限界である。シモンもかなりモテるので、頻繁に告白されている。シモンは、今は剣のことしか頭にないので、告白されてもバッサリ断ってばかりだ。

 利害の一致ということで、ベルタはシモンと、とりあえず握手をしておいた。シモンは、ベルタが筋肉ムキムキマッチョになるのを応援してくれているし、カジョと3人で一緒に他愛のないお喋りをするのも楽しい。シモンと付き合っても、何も変わらないし、告白されなくなる分、ストレスがかなり減りそうだ。


「カジョ。俺とベルタが付き合い始めたって言い触らしまくってよ」

「よしきた! 任せとけ!」

「よろしく。ありがとう。カジョ」

「いいってことよ!」


 カジョが、ニッと笑った。鳥の巣頭がさらにボサボサになったカジョが、『そういやさー』と口を開いた。


「俺、彼女できたっぽい」

「「はぁ!?」」

「夏季休暇中にさー、道に迷ってた先輩をちょっと助けてあげたのよ。そんでー、その先輩、母ちゃんがよく行く果物屋さんの娘さんでー。母ちゃんのおつかいで果物屋さんに行ったら、なんか改めてお礼言われたのよ」

「それで、なんで付き合うことになったんだよ」

「いや、立ち話をさ、結構してたんだけど、こないだの休みの日におつかい行ったら告白された」

「「マジか」」

「マジマジー。あ、でもさ。俺としては、今は剣の稽古が一番だし、デートとかすんのは、月に一度だけって話し合って決めたんだわ」

「カージョー! そういうことは! 早く言えっ!」

「どうどう。シモン。カジョ。その先輩ってどんな人?」

「なんかおっとりしてる感じ。ちょっとぽちゃっとしてるけど、笑うと愛嬌あって可愛いぜ」

「俺のカジョが嫁に……」

「カジョ。シモンが壊れた」

「マジか。叩いて直そう」

「そんな古い魔導製品みたいに直るの? これ」

「直る直る。てーい! 落ち着けーい! シモーン!」

「あいった!! ちょっ、肘のところはやめろよっ!」

「そこさー、ぶつけると腕がビリビリするよなー」

「地味に痛いやつだよねー。正気に戻った? シモン」

「一応? とりあえず、おめでとうと言っておく。が!」

「「が?」」

「彼女できても、ちゃんと俺達にも構えよー!」

「当たり前じゃー! 先輩にも大事な友達が2人いるって言ってるしー!」

「ならばよし!! しょうがないから、月一デートは許容してやろう。精々、楽しめよ!!」

「おうよ! ありがとな!」

「ねぇねぇ。この街だと、デートって何処に行くのが普通なの? あ、シモン。僕達のデートは、基本、走り込みと筋トレデートね」

「それってデート? まぁ俺も楽しいから別にいいけど」

「ベルタはまだ行ったことがねぇかな? ガランドラって物作りの街だろ? 色んな物作りを体験できる施設があんだよ」

「へぇー。そんな所があるんだ」

「他にも、体験教室やってる工房とか多いし、第三地区には、ちょっとした植物園もあるぜー」

「あとは、街の郊外にピクニックとかが定番なんじゃない?」

「へぇー」

「次の次の休みがデートの予定だから、その日は2人で筋トレ祭りやってくれよー」

「はいよー。まぁ、楽しんできなよ」

「素敵なデートになるといいね」

「ありがとなー。あ、月一デートの日以外は、いつもの如く、剣の稽古すっから!」

「はいよー」


 カジョに恋人ができたのはおめでたいが、ちょっぴり寂しい気もする。カジョがベルタ達と友達なのは変わらないが、時には恋人を優先することもあるだろう。
 ベルタも一応シモンと恋人になったが、別に恋人らしいことをする気は更々ないので、なんだかちょっとだけカジョに置いていかれたような気がする。ベルタがそうなのだから、付き合いが長いシモンもそうなんじゃないだろうか。

 ベルタは複雑な思いを飲み込んで、シモンと一緒に、特に意味もなくカジョの鳥の巣頭を撫でまくった。
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