恋せよ若人

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
上 下
12 / 37

12:カジョの提案

しおりを挟む
 昼休みの教室で、ベルタがシモンとカジョと一緒にお弁当を食べていると、同じ剣術倶楽部の男の子がシモンに声をかけてきた。


「シモーン。呼び出しだぞー」

「えー? 誰?」

「二年の先輩。可愛い女子」

「告白なら代わりに断っといてよ」

「いや、自分で断れよ。つーか、断るな。クソ羨ましい」

「はぁー? めんどくっさ。ちょっと断ってくる」

「「いってらー」」


 シモンが面倒くさそうに椅子から立ち上がって、教室の入り口へと歩いていった。
 ベルタがもぐもぐとサンドイッチを食べていると、今度は別の男の子がベルタに声をかけてきた。


「ベルタ。先輩がベルタを呼んでるぜ」

「告白なら断っといてくれる?」

「いやいや。自分で断ろうよ」

「めんどい……」


 ベルタは露骨に顔を顰めて、嫌々椅子から立ち上がった。


「カジョ。ちょっと行ってくるよ」

「おー。シモンもベルタも大変だなぁ」

「代わってよ」

「心底嫌」

「えーー」


 ベルタは渋々、教室の入り口に向かった。教室の外の廊下には、女の子の先輩から告白されてるっぽいシモンと、見た記憶がない男の先輩がいた。男の先輩が、もじもじしながら、ばっと手紙らしきものを差し出してきた。反射的に受け取ると、男の先輩は顔を真っ赤にして、だっと走り去っていった。


「えぇ……」


 その場で告白してくれたら、その場でバッサリ断れるのに、逃げられてしまった。一応、手紙は読んだ方がいいのだろうか。ベルタは溜め息を吐いて、チラッとシモンの方を見た。シモンの前に立つ先輩が泣いていて、明らかに目立っている。


「シモーン。ご飯食べよー」

「あ、ベルタ。食うー。ということで、さようなら」

「あっ、シモン君!」


 すたすたとこちらにやって来たシモンと共に、教室の中に入り、カジョの元へ向かう。お弁当の残りを食べずに待ってくれていたカジョが、ベルタ達に声をかけてきた。


「お疲れー」

「めっちゃ泣かれたんだけど。クソ面倒くさい」

「僕は無言で手紙渡された」

「わぉ。お前ら、ほんっとモテるなぁ」

「カジョ。代わってよ」

「絶対に嫌。めんどい」

「この手紙、読まなきゃ駄目かなぁ。ていうか、お断りの返事はどうしたらいいんだろ」

「放置しとけば?」

「そういうわけにもいかないんじゃない? もー。面倒くさいー」


 渋い顔をしているベルタとシモンを見て、カジョがぽんと手を打った。


「いいこと思いついたぁ!」

「え? なによ。カジョ」

「いいこと?」

「お前ら、付き合っちゃえよ」

「「いや」」

「即答でハモるなよ。まぁ、聞きなさいよ」

「なんなのよー。カジョー」

「僕は恋人いらないんだけど」

「お前らさー、2人とも恋人欲しくないけど、めちゃくちゃモテるじゃん? だったら、お前らが付き合ったら、無駄に告白されることも無くなるんじゃね?」

「「えーー」」

「朝とか昼休みとか放課後に呼び出しされまくる日々を送るのと、付き合って、告白されずに好きなことして過ごすの、どっちがいいよ」

「そりゃ、好きなことして過ごしたいけどー」

「むーー。確かに、シモンと付き合ったら、告白はされなくなりそうだけどー」

「別に、付き合っても今まで通りでいいじゃん。別に。ベルタは俺と一緒に頻繁にシモンの家に行ってるし、付き合ってるって説得力ありありじゃん?」

「まぁ、一理ある? どうする? ベルタ」

「んーーーー。どうしようか。呼び出しとかされるのも、いい加減うんざりなんだよねぇ」

「それは俺も」

「じゃあ、付き合っちゃえよ!」

「んー。じゃあ、お互い好きな人ができたら別れるってことで、付き合う?」

「それが楽な気がしてきたなぁ」

「俺ってば冴えてるぅ! 褒めて褒めてー」

「よーしよしよし。カジョ。えらーい」

「わしゃわしゃわしゃー。カジョはいい子ー」

「はーっはっは! とりあえず、今日から2人は恋人ってことで!」

「うぃーっす」

「うん。まぁ、今までと変わらないけどね」

「まぁ、俺達まだ13歳ですから。付き合っても、別に特に何もしないのが普通でしょ。精々、一緒に帰るとか、そんくらいじゃない?」

「だよねー」


 ベルタは、シモンと一緒にカジョの鳥の巣頭を撫で回しながら、仕方がないことだと割り切ることにした。告白避けにシモンと付き合うのは、ちょっとどうかと思うが、本当に本当に面倒くさいくらい告白されまくっているので、いい加減我慢の限界である。シモンもかなりモテるので、頻繁に告白されている。シモンは、今は剣のことしか頭にないので、告白されてもバッサリ断ってばかりだ。

 利害の一致ということで、ベルタはシモンと、とりあえず握手をしておいた。シモンは、ベルタが筋肉ムキムキマッチョになるのを応援してくれているし、カジョと3人で一緒に他愛のないお喋りをするのも楽しい。シモンと付き合っても、何も変わらないし、告白されなくなる分、ストレスがかなり減りそうだ。


「カジョ。俺とベルタが付き合い始めたって言い触らしまくってよ」

「よしきた! 任せとけ!」

「よろしく。ありがとう。カジョ」

「いいってことよ!」


 カジョが、ニッと笑った。鳥の巣頭がさらにボサボサになったカジョが、『そういやさー』と口を開いた。


「俺、彼女できたっぽい」

「「はぁ!?」」

「夏季休暇中にさー、道に迷ってた先輩をちょっと助けてあげたのよ。そんでー、その先輩、母ちゃんがよく行く果物屋さんの娘さんでー。母ちゃんのおつかいで果物屋さんに行ったら、なんか改めてお礼言われたのよ」

「それで、なんで付き合うことになったんだよ」

「いや、立ち話をさ、結構してたんだけど、こないだの休みの日におつかい行ったら告白された」

「「マジか」」

「マジマジー。あ、でもさ。俺としては、今は剣の稽古が一番だし、デートとかすんのは、月に一度だけって話し合って決めたんだわ」

「カージョー! そういうことは! 早く言えっ!」

「どうどう。シモン。カジョ。その先輩ってどんな人?」

「なんかおっとりしてる感じ。ちょっとぽちゃっとしてるけど、笑うと愛嬌あって可愛いぜ」

「俺のカジョが嫁に……」

「カジョ。シモンが壊れた」

「マジか。叩いて直そう」

「そんな古い魔導製品みたいに直るの? これ」

「直る直る。てーい! 落ち着けーい! シモーン!」

「あいった!! ちょっ、肘のところはやめろよっ!」

「そこさー、ぶつけると腕がビリビリするよなー」

「地味に痛いやつだよねー。正気に戻った? シモン」

「一応? とりあえず、おめでとうと言っておく。が!」

「「が?」」

「彼女できても、ちゃんと俺達にも構えよー!」

「当たり前じゃー! 先輩にも大事な友達が2人いるって言ってるしー!」

「ならばよし!! しょうがないから、月一デートは許容してやろう。精々、楽しめよ!!」

「おうよ! ありがとな!」

「ねぇねぇ。この街だと、デートって何処に行くのが普通なの? あ、シモン。僕達のデートは、基本、走り込みと筋トレデートね」

「それってデート? まぁ俺も楽しいから別にいいけど」

「ベルタはまだ行ったことがねぇかな? ガランドラって物作りの街だろ? 色んな物作りを体験できる施設があんだよ」

「へぇー。そんな所があるんだ」

「他にも、体験教室やってる工房とか多いし、第三地区には、ちょっとした植物園もあるぜー」

「あとは、街の郊外にピクニックとかが定番なんじゃない?」

「へぇー」

「次の次の休みがデートの予定だから、その日は2人で筋トレ祭りやってくれよー」

「はいよー。まぁ、楽しんできなよ」

「素敵なデートになるといいね」

「ありがとなー。あ、月一デートの日以外は、いつもの如く、剣の稽古すっから!」

「はいよー」


 カジョに恋人ができたのはおめでたいが、ちょっぴり寂しい気もする。カジョがベルタ達と友達なのは変わらないが、時には恋人を優先することもあるだろう。
 ベルタも一応シモンと恋人になったが、別に恋人らしいことをする気は更々ないので、なんだかちょっとだけカジョに置いていかれたような気がする。ベルタがそうなのだから、付き合いが長いシモンもそうなんじゃないだろうか。

 ベルタは複雑な思いを飲み込んで、シモンと一緒に、特に意味もなくカジョの鳥の巣頭を撫でまくった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

貞操を守りぬけ!

四葉 翠花
BL
日々の潤いをエロゲに求める就職活動中の晴人は、ゲーム世界の中に引き込まれてしまったらしい。それも性行為を重ねるごとに強くなるというゲームだ。 期待に胸とあらぬところを膨らませ、女の子たちとの薔薇色の日々を妄想したものの、実は自分が野郎どもに尻を狙われる側だった。 主人公を導く精霊のセイも、ヤられることを推奨してくる。 一転して奈落に突き落とされた晴人は貞操を守り抜き、元の世界に帰ることを誓う。

お前らの相手は俺じゃない!

くろさき
BL
 大学2年生の鳳 京谷(おおとり きょうや)は、母・父・妹・自分の4人家族の長男。 しかし…ある日子供を庇ってトラック事故で死んでしまう……  暫くして目が覚めると、どうやら自分は赤ん坊で…妹が愛してやまない乙女ゲーム(🌹永遠の愛をキスで誓う)の世界に転生していた!? ※R18展開は『お前らの相手は俺じゃない!』と言う章からになっております。

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完結】君が好きで彼も好き

SAI
BL
毎月15日と30日にはセックスをする、そんな契約から始まった泉との関係。ギブアンドテイクで続けられていた関係にストップをかけたのは泉と同じ職場の先輩、皐月さんだった。 2人に好きだと言われた楓は… ホスト2人攻め×普通受け ※ 予告なしに性描写が入ります。ご了承ください。 ※ 約10万字の作品になります。 ※ 完結を保証いたします。

ハメられたサラリーマン

熊次郎
BL
中村将太は名門の社会人クラブチーム所属のアメフト選手た。サラリーマンとしても選手としても活躍している。だが、ある出来事で人生が狂い始める。

意固地なきみが屈する話

三々 こころ
BL
※タグに「おもらし」がありますが、精液のおもらしです。小スカはありません。  「遺精」に近い話です。誰かこの作品に適したタグ、教えてください。 両片思いの美形×平凡!王道にして頂点のカップリングに王道シチュを併せた逸品。 主人公の男の子がイケメンくんに恋して勃起を隠そうとする姿が可愛い♡ そしてそのイケメンくんにばれずに治めようと試みるも、…っていう展開です。 ちなみに脱ぎません。本番なし。 「挿入なし上等!!男の恥じらう姿が見たいんだぜえぇ!!!」って人は、生温かい目で見守ってください。

処理中です...