恋せよ若人

丸井まー(旧:まー)

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10:面倒くさい!!

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 楽しかった夏季休暇が終わり、秋が訪れた。

 ベルタは、授業が終わるなり、大急ぎで鞄に教科書などを詰め込んで、だっと全速力で教室から飛び出した。ほぼ同じタイミングで、カジョとシモンも教室から飛び出して、一緒に廊下を走っている。

 剣術倶楽部の活動場所に向かって走りながら、ベルタは疲れた溜め息を吐いた。


「また告白されたんだけど……今度は知らない三年生」

「あーらら。ベルタはモテるなぁ」

「男? 女?」

「どっちも」

「「マジか」」

「もーー! いちいち断るのも面倒くさいっ!! そんっなに! 『幸福の導き手』と付き合いたいわけーー!? なんか腹立つーー!! 『幸福の導き手』だったら、絶対に僕じゃなくてもいいからね!! あの人達!!」

「シモーン。ベルタが怒り狂ってるー」

「静まりたまえー。静まりたまえー。ベルター。俺達と走り込みだけ一緒にやってスッキリしよーぜー」

「するー!! もう! 本当に! イラッイラするのが! なんか嫌!!」


 ベルタはぷりぷりしながら、剣術倶楽部の活動場所に着くと、カジョとシモンと一緒に更衣室に向かった。幸い、今日はまだ誰も来ていない。運動服に着替える時に、誰かがいると、大体着替えをじろじろ見られるので好きじゃない。
 ベルタは他の人が来ないうちにと、大急ぎで着替えて、カジョとシモンと一緒に走り始めた。

 夏季休暇中は毎日走っていたし、学校が始まってからも、頻繁にシモンの家にお邪魔して、走ったり、筋トレしたり、護身術の稽古をしたりしているので、ベルタは足が速い2人とも普通に一緒に走れるようになった。目に見える自分の成長がすごく嬉しいが、今は、知らない人から告白されたイライラで、むがーっ! って気分である。

 話したこともない相手から告白されても、嬉しくもなんともない。どうしても、『幸福の導き手』と付き合いたいだけだろって思ってしまう。実際、そうだろうし。夏季休暇が終わってから、何故か以前よりも告白される回数が増えている。どちらかと言えば、男から告白されることの方が多い。男にしろ、女にしろ、告白なんかされても嬉しくない。いちいち断るのが面倒くさいだけだ。ベルタは、恋人なんかまだ欲しくない。『友達からでっ!』とか言ってくる子もいるが、友達よりも先を望んでいるのは明らかなので、そんな子とは友達にもなりたくない。

 カジョとシモンは、ベルタを全然そういう目で見てこない。普通に友達として見てくれる。ベルタとしては、カジョとシモンが友達だから、これ以上、友達を増やさなくてもいいと思っている。

 カジョとシモンと汗だくになるまで走ると、ちょっとスッキリした。2人が剣の素振りを始めたので、ベルタは隅っこの方で黙々と筋トレをやる。筋トレをするベルタに対して、『幸福の導き手なんだから、そんなことするなよ』とか言ってくる子達もいるが、まるっと無視している。筋トレは、ベルタがやりたくてやっていることだ。邪魔されるのは素直に不快である。大体、何故、『幸福の導き手』だと筋トレをしちゃいけないんだ。なんかもう、腹が立つことが地味に多い。

 カジョとシモンが模擬試合を始めたので、ベルタは筋トレを中断して、時間を測りながら、記録表を書き始めた。実際に剣はまだ振れないが、なんとなく、どういう動きをすれば、相手を倒せやすいのか、ぼんやりと分かってきたような気がする。気がするだけかもしれないが。

 倶楽部活動の終わりを告げる鐘が鳴ると、ベルタは記録表などを片付け始めた。カジョとシモンと一緒に更衣室に向かおうとしていると、三年生の男の先輩がベルタに声をかけてきた。何度も何度も断っても、しつこくベルタに言い寄ってくる先輩である。ベルタは、露骨に顔を顰めた。


「ベルタ。ベルタ。顔。顔」

「カジョー。ベルタの顔が怖い」

「ベルタ。いい加減、俺と付き合えよ」

「嫌です無理ですお断りします」

「そんなつれないこと言うなよー。それとも、マジでシモンと付き合ってるわけ?」

「はぁ? シモンは友達ですけど?」

「だったら、俺と付き合えよ」

「嫌です。断固拒否します。カジョ。シモン。さっさと帰ろう」

「おいっ! 『幸福の導き手』たからって、あんま調子に乗るなよ! 筋トレなんかしても、どうせ無駄なんだしよぉ。大人しく俺と付き合って、将来は俺の子供を産めよ」


 ぷちっと、頭の中で何かが切れるような音が聞こえた気がした。ベルタが口を開くよりも先に、何故かシモンがベルタの口を手で押さえ、カジョがベルタの前に出た。


「せんぱーい。言い過ぎっすよー。じゃっ! 俺ら帰るんで! お疲れ様っしたー!」

「あ? おいっ! 話は終わってねぇぞ! つーか、カジョとシモンは関係ねぇだろうが!」

「あははー。今から帰って、うちの母さんに稽古つけてもらうんでー。先輩も一緒にうちに来ます?」

「…………ちっ。調子に乗んなよ。一年のくせに」


 心底腹立つ先輩も、シモンの母親であるニルダが怖いのか、舌打ちをして、ベルタ達の前から去っていった。
 シモンがベルタの口から手を離したので、ベルタはむすーっと顔を顰めた。本当に腹が立つ。走ってスッキリした筈なのに、またイライラしてくる。

 顰めっ面のベルタに、カジョとシモンが話しかけてきた。


「ベルター。このまま走ってシモンん家に行こうぜー」

「走って今度こそスッキリしとこー」

「……うん。僕、ちょー走る」

「よっしゃー。じゃあ、鞄取ってきて、シモンの家まで競争なー」

「俺が勝つ予感しかないね!」

「んなことねーし! シモンにもベルタにも負けねぇしー!」

「僕も2人に負けないもんっ!!」


 ベルタは、カジョとシモンと一緒に更衣室に行き、鞄を取ると、運動着のまま走り出した。
 2人に負けないように全速力で走って、シモンの家を目指す。3人ほぼ同着で、シモンの家に到着した。

 荒い息を吐きながら、顔を流れる汗を運動着の袖で拭くベルタを見て、シモンが笑った。


「ちょっとスッキリした?」

「……うん。2人とも、ありがとう」

「「いーえー」」

「宿題終わらせたら筋トレしよーっと。2人とも! 宿題をさっさと片付けようね!」

「えーーーー! めんどいじゃーん!」

「俺、勉強、嫌い」

「はいはい。冬季休暇前の試験の時に、また詰め込み勉強させられたいの?」

「それはいやぁ!」

「夏季休暇前を思い出したくない。俺」

「じゃあ、毎日コツコツ頑張ろうね! 勉強も剣と一緒だよ。日々の積み重ねが大事なの!」

「「うぃーーっす」」


 ベルタは、やる気がまるでない2人と一緒にシモンの家に入り、セベリノに挨拶をしてから、居間で宿題をやった。すぐにサボろうとする2人に目を光らせつつ、2人が分からないところは教えてやって、なんとか今日の宿題を終わらせられた。

 まだ日が暮れるのには時間がある。セベリノ手作りのおやつをご馳走になってから、カジョとシモンは剣の素振りを始めて、ベルタは庭の隅っこで黙々と筋トレを始めた。

 筋トレも、少しずつだが、できる回数が増えていっているし、ぷにぷにだった腕や足、お腹が引き締まってきたような気がする。毎日のように剣を振っているカジョとシモンにはまだまだ追いつけないが、それでも少しずつ筋肉が成長しているような気がしている。

 最近、膝が痛い時が割とある。ちょっと前にミレーラに相談してみたら、『成長痛だね』と言われた。ベルタは、まだ13歳だ。これから、どんどん大人へと成長していく。

 ごりごりの筋肉ムキムキマッチョになることを目指し、ベルタは今日も日暮れ近くまで筋トレに励んだ。
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