5 / 37
5:頑張るベルタ
しおりを挟む
ベルタは、ぜぇ、ぜぇ、と荒い息を吐きながら、必死で足を動かして走っていた。すぐ隣を、護身術を教えてくれることになったアロンソが涼しい顔で走っている。
「頑張れ。ベル。あとちょっとだぞー」
「ふぁーい」
シモンの家が見えてきた。ベルタはへろへろになりながらも、なんとかシモンの家まで走りきった。
ベルタは、筋肉ゴリゴリのマッチョになると決めた。それで、ニルダに、『僕を鍛えてください!』とビビリながらお願いしたのだが、先にアロンソ指導の元、基礎体力をつけた方がいいということになった。今のベルタでは、体力筋力が無さ過ぎて、無理に鍛えると必要以上に身体に負荷がかかってよくないらしい。
今日は、初めての護身術教室の日だ。前の休日に、ミレーラがベルタの家に来て、ベルタの両親と色んな話をした。ミレーラの勧めもあって、ベルタの両親は、ベルタが護身術を習うことを快諾してくれた。
今日は、午前中はミレーラの次男のアロンソに護身術を習い、午後から、長男のアルセニオに性教育講座をしてもらう予定である。
護身術を教えてもらうにあたり、まずは基礎体力をつけようと、走ることになった。アロンソと一緒に走ったベルタは、それだけでへろへろになった。
シモンの家の庭に着くなり、べちゃりと潰れた蛙みたいになったベルタの頭をつんつん突きながら、アロンソがクックッと笑った。
「まずは、体力をつけるところからだなぁ。足はそこそこ速いから、鍛えれば、もっと速くなるぞ。逃げ足は速い方がいいよな」
「が、がんばります」
「水を飲んだら、今日は座学な」
「え? 護身術なのに座学なんですか?」
「そ。人体の急所を教えるよ。あと、人体のつくりな。身体が小さくても、人体の急所や的確な関節の外し方とか知ってると、襲われても結構なんとかなるし」
「……あのー、ちょっと聞きにくいんですけど……」
「ん?」
「アーロさんも襲われたこと、あるんですか?」
「何回かね。国教で同性愛は禁じられてるのに、血迷って襲ってくるのがいるんだな。これが。いやぁ、美しさって罪だよねぇ」
「うわぁ……」
アロンソは、中性的なとても美しい容姿をしている。体格も小柄だ。結婚していて、小さな子供もいるらしい。
ベルタは気合で起き上がり、疲れて重い身体で立ち上がった。家の中からセベリノが水を持ってきてくれたので、お礼を言って、ありがたく貰う。冷たい水が、火照った身体に染み渡る。ベルタは一息でグラスの水を飲み干して、ふぅと小さく息を吐いた。
カァン、カァンと、金属がぶつかり合う音がしたので、音がする方を見れば、カジョとシモンが剣を振って、戦っていた。前に見た、模擬戦をしているのだろう。2人の側にはニルダがいて、真剣な顔で剣を振るっている2人を見守っている。朝、シモンの家に来た時に、試しに練習用の刃を潰した剣を持たせてもらったのだが、ベルタにはかなり重かった。それを、2人とも軽やかに振るっている。改めて、2人はすごいなぁと思った。きっと、何年も一緒に練習して、一緒に強くなってきたのだろう。少し、2人が羨ましい。一緒に切磋琢磨できる相手がいてくれたら、ベルタももっと頑張れる気がする。とはいえ、ベルタの『目指せ! 筋肉ムキムキマッチョ大作戦!』は始まったばかりだ。なんとか頑張って、2人に追いついて、できれば一緒に剣を振るったりできるようになりたい。
ベルタは、少し休憩すると、真剣にアロンソの座学を受けた。
昼時になると、セベリノが居間の窓から顔を出し、『ご飯だよー』と声をかけてきた。座学はちょうど終わったタイミングなので、ベルタはアロンソと一緒に家の中に入った。
皆、汗だくなので、順番にシャワーを浴びてから、居間に集合した。
ベルタの昼食は、母アブリルが作ってくれたサンドイッチである。セベリノが、ベルタの分も作ってくれると申し出てくれたが、流石に厚かましいかと思って、丁寧に断った。カジョも、ベルタと一緒で、母親が作ってくれた弁当である。セベリノが淹れてくれたお茶を飲みながら、賑やかな昼食が始まった。
お腹がいっぱいになったら、少しだけ食休みをして、次はアルセニオの性教育講座である。アルセニオも小柄で、中性的で美しい容姿をしている。アルセニオは医者で、街の総合病院で働いているそうだ。
疲れている上にお腹がいっぱいで眠気が襲ってくるが、ベルタには必要な知識だ。自分の身を守る為にも、いつか、誰かと愛し合う為にも、しっかりと頭に叩き込まなければ。
ベルタは、真新しいノートにメモを取りながら、真剣にアルセニオの話を聞いた。ちなみに、カジョとシモンは半分夢の中に旅立っていた。
アルセニオの性教育講座で、普通の人とふたなりの違いがよく分かった。精通や初潮についても理解した。ベルタは、男の子とも女の子とも、どちらとも愛し合える性だった。
ベルタは、アルセニオの講義を聞いて、ふと思った。自分は、男の子と女の子、どちらが好きなのだろうか。
ベルタと恋人になりたいと言ってくるのは、男女両方いるが、どちらかといえば、男の子の方が多い。ベルタが中性的な容姿だからだろう。ベルタは、男の子に恋人になりたいと言われても全然嬉しくないから、きっと恋愛対象は女の子なのだと思う。
今は頼りない身体つきをしているベルタでも、きっとごりごりの筋肉ムキムキマッチョになったら、女の子にもそれなりにモテるようになる気がする。今はまだ初恋もしていないが、いつか好きになった女の子に振り向いてもらう為にも、尚更頑張って身体を鍛えたい。ベルタのやる気が更に増した。
ベルタは、アルセニオの性教育講座が終わった後、また庭で剣の稽古をし始めたカジョとシモンを横目に、アロンソから、身体をほぐす柔軟体操と軽い筋トレを習った。
ぜぇ、ぜぇ、と荒い息を吐きながらも、真剣な顔で一生懸命腕立て伏せをするベルタを眺めて、アロンソが口を開いた。
「ベル。マッチョになって、何がしたいんだ?」
「ぜぇ、ぜぇ、ふ、普通の人みたいに、働きたいんです。……できたら、警邏隊で」
「ふぅん?」
「……ふたなりだからって、お嫁に行って子供を生んで育てるのが当たり前って言われるのが、僕は嫌なんです。普通の人と同じように働いて、『幸福の導き手』じゃなくて、『僕』を好きになってくれる人と恋をして、結婚がしたいんです」
「なるほど。ベルは、自分の身体が嫌い?」
「……分かんないです。男の子とも女の子とも愛し合えるのはいいことかなって思うけど、誰も好きになったことがないから、恋愛対象がどっちかも、まだハッキリしてないので。でも、男の子に告白されても嬉しくないです。……あ、でも、女の子でも、まだあんまり嬉しくないかも」
「それは、ベルのことを『幸福の導き手』としか見てないと思うから?」
「多分……なんか、皆、見た目が可愛い『幸福の導き手』が欲しいだけなんじゃないかなって、どうしても思っちゃいます」
「そっかー。まぁ、そのうち素敵な出会いもあるだろうからさ。ベルはベルがやりたいことを一生懸命やってみなよ」
「はいっ!」
アロンソが、ベルタの頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。少し中断していた腕立て伏せを再開する。腕立て伏せなんて初めてするので、正直かなりキツい。でも、自分の目標の為だ。
ベルタは夕方になるまで、アロンソと一緒に軽い筋トレに励んだ。
「頑張れ。ベル。あとちょっとだぞー」
「ふぁーい」
シモンの家が見えてきた。ベルタはへろへろになりながらも、なんとかシモンの家まで走りきった。
ベルタは、筋肉ゴリゴリのマッチョになると決めた。それで、ニルダに、『僕を鍛えてください!』とビビリながらお願いしたのだが、先にアロンソ指導の元、基礎体力をつけた方がいいということになった。今のベルタでは、体力筋力が無さ過ぎて、無理に鍛えると必要以上に身体に負荷がかかってよくないらしい。
今日は、初めての護身術教室の日だ。前の休日に、ミレーラがベルタの家に来て、ベルタの両親と色んな話をした。ミレーラの勧めもあって、ベルタの両親は、ベルタが護身術を習うことを快諾してくれた。
今日は、午前中はミレーラの次男のアロンソに護身術を習い、午後から、長男のアルセニオに性教育講座をしてもらう予定である。
護身術を教えてもらうにあたり、まずは基礎体力をつけようと、走ることになった。アロンソと一緒に走ったベルタは、それだけでへろへろになった。
シモンの家の庭に着くなり、べちゃりと潰れた蛙みたいになったベルタの頭をつんつん突きながら、アロンソがクックッと笑った。
「まずは、体力をつけるところからだなぁ。足はそこそこ速いから、鍛えれば、もっと速くなるぞ。逃げ足は速い方がいいよな」
「が、がんばります」
「水を飲んだら、今日は座学な」
「え? 護身術なのに座学なんですか?」
「そ。人体の急所を教えるよ。あと、人体のつくりな。身体が小さくても、人体の急所や的確な関節の外し方とか知ってると、襲われても結構なんとかなるし」
「……あのー、ちょっと聞きにくいんですけど……」
「ん?」
「アーロさんも襲われたこと、あるんですか?」
「何回かね。国教で同性愛は禁じられてるのに、血迷って襲ってくるのがいるんだな。これが。いやぁ、美しさって罪だよねぇ」
「うわぁ……」
アロンソは、中性的なとても美しい容姿をしている。体格も小柄だ。結婚していて、小さな子供もいるらしい。
ベルタは気合で起き上がり、疲れて重い身体で立ち上がった。家の中からセベリノが水を持ってきてくれたので、お礼を言って、ありがたく貰う。冷たい水が、火照った身体に染み渡る。ベルタは一息でグラスの水を飲み干して、ふぅと小さく息を吐いた。
カァン、カァンと、金属がぶつかり合う音がしたので、音がする方を見れば、カジョとシモンが剣を振って、戦っていた。前に見た、模擬戦をしているのだろう。2人の側にはニルダがいて、真剣な顔で剣を振るっている2人を見守っている。朝、シモンの家に来た時に、試しに練習用の刃を潰した剣を持たせてもらったのだが、ベルタにはかなり重かった。それを、2人とも軽やかに振るっている。改めて、2人はすごいなぁと思った。きっと、何年も一緒に練習して、一緒に強くなってきたのだろう。少し、2人が羨ましい。一緒に切磋琢磨できる相手がいてくれたら、ベルタももっと頑張れる気がする。とはいえ、ベルタの『目指せ! 筋肉ムキムキマッチョ大作戦!』は始まったばかりだ。なんとか頑張って、2人に追いついて、できれば一緒に剣を振るったりできるようになりたい。
ベルタは、少し休憩すると、真剣にアロンソの座学を受けた。
昼時になると、セベリノが居間の窓から顔を出し、『ご飯だよー』と声をかけてきた。座学はちょうど終わったタイミングなので、ベルタはアロンソと一緒に家の中に入った。
皆、汗だくなので、順番にシャワーを浴びてから、居間に集合した。
ベルタの昼食は、母アブリルが作ってくれたサンドイッチである。セベリノが、ベルタの分も作ってくれると申し出てくれたが、流石に厚かましいかと思って、丁寧に断った。カジョも、ベルタと一緒で、母親が作ってくれた弁当である。セベリノが淹れてくれたお茶を飲みながら、賑やかな昼食が始まった。
お腹がいっぱいになったら、少しだけ食休みをして、次はアルセニオの性教育講座である。アルセニオも小柄で、中性的で美しい容姿をしている。アルセニオは医者で、街の総合病院で働いているそうだ。
疲れている上にお腹がいっぱいで眠気が襲ってくるが、ベルタには必要な知識だ。自分の身を守る為にも、いつか、誰かと愛し合う為にも、しっかりと頭に叩き込まなければ。
ベルタは、真新しいノートにメモを取りながら、真剣にアルセニオの話を聞いた。ちなみに、カジョとシモンは半分夢の中に旅立っていた。
アルセニオの性教育講座で、普通の人とふたなりの違いがよく分かった。精通や初潮についても理解した。ベルタは、男の子とも女の子とも、どちらとも愛し合える性だった。
ベルタは、アルセニオの講義を聞いて、ふと思った。自分は、男の子と女の子、どちらが好きなのだろうか。
ベルタと恋人になりたいと言ってくるのは、男女両方いるが、どちらかといえば、男の子の方が多い。ベルタが中性的な容姿だからだろう。ベルタは、男の子に恋人になりたいと言われても全然嬉しくないから、きっと恋愛対象は女の子なのだと思う。
今は頼りない身体つきをしているベルタでも、きっとごりごりの筋肉ムキムキマッチョになったら、女の子にもそれなりにモテるようになる気がする。今はまだ初恋もしていないが、いつか好きになった女の子に振り向いてもらう為にも、尚更頑張って身体を鍛えたい。ベルタのやる気が更に増した。
ベルタは、アルセニオの性教育講座が終わった後、また庭で剣の稽古をし始めたカジョとシモンを横目に、アロンソから、身体をほぐす柔軟体操と軽い筋トレを習った。
ぜぇ、ぜぇ、と荒い息を吐きながらも、真剣な顔で一生懸命腕立て伏せをするベルタを眺めて、アロンソが口を開いた。
「ベル。マッチョになって、何がしたいんだ?」
「ぜぇ、ぜぇ、ふ、普通の人みたいに、働きたいんです。……できたら、警邏隊で」
「ふぅん?」
「……ふたなりだからって、お嫁に行って子供を生んで育てるのが当たり前って言われるのが、僕は嫌なんです。普通の人と同じように働いて、『幸福の導き手』じゃなくて、『僕』を好きになってくれる人と恋をして、結婚がしたいんです」
「なるほど。ベルは、自分の身体が嫌い?」
「……分かんないです。男の子とも女の子とも愛し合えるのはいいことかなって思うけど、誰も好きになったことがないから、恋愛対象がどっちかも、まだハッキリしてないので。でも、男の子に告白されても嬉しくないです。……あ、でも、女の子でも、まだあんまり嬉しくないかも」
「それは、ベルのことを『幸福の導き手』としか見てないと思うから?」
「多分……なんか、皆、見た目が可愛い『幸福の導き手』が欲しいだけなんじゃないかなって、どうしても思っちゃいます」
「そっかー。まぁ、そのうち素敵な出会いもあるだろうからさ。ベルはベルがやりたいことを一生懸命やってみなよ」
「はいっ!」
アロンソが、ベルタの頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。少し中断していた腕立て伏せを再開する。腕立て伏せなんて初めてするので、正直かなりキツい。でも、自分の目標の為だ。
ベルタは夕方になるまで、アロンソと一緒に軽い筋トレに励んだ。
60
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。
大竹あやめ
BL
大学二年生の洋(ひろ)には苦手な人はいない。話せばすぐに仲良くなれるし、友達になるのは簡単だ、と思っていた。
そんな洋はある日、偶然告白の現場に居合わせる。その場にいたのはいい噂を聞かない白川。しかし彼が真摯に告白を断るのを聞いてしまう。
悪いやつじゃないのかな、と洋は思い、思い切って声をかけてみると、白川は噂とは真反対の、押しに弱く、大人しい人だった。そんな白川に洋は興味を持ち、仲良くなりたいと思う。ところが、白川は洋の前でだけ挙動不審で全然仲良くしてくれず……。
ネトコン参加作品ですので、結果次第でRシーン加筆します(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる