4 / 4
4:新たな目標
しおりを挟む
一日の授業が終わり、ベルタが帰り支度をしていると、5人の女の子に囲まれた。ちょっと気の強そうな可愛い女の子が、ベルタに話しかけてきた。
「ねぇ。ベルタ。私達のグループに入りなよ。ベルタは『幸福の導き手』だし、仲間に入れえてあげる」
「あ、えっと……ご、ごめん。いいかな」
「えーー! なんでよ! 『幸福の導き手』が友達だったら、他の子に自慢できるじゃない」
「……僕は君の装飾品じゃないよ」
「はぁ? 意味分かんない。私達と仲良くしないと、ハブられるわよ」
「君達がハブるの間違いでしょう?」
「うーわ。最悪。貴方って『幸福の導き手』なのに性格悪いのね。折角、仲間に入れてあげようって声をかけてあげたのに。皆、行きましょ。こんな性格が悪いの、仲間に入れたくなんてないわ」
女の子達が、口々にベルタに向かって『最悪―』『性格わるーい』『調子乗り過ぎぃ』等と言いながら、教室から出ていった。ベルタは溜め息を吐きながら、椅子から立ち上がった。
なんだか、毎日のように誰かしらに絡まれている気がする。さっきの女の子達はまだマシな方で、初対面で名乗りもしないのに、『自分と付き合え』とか言ってくる男子生徒や女子生徒もいた。先輩にも声をかけられることが多く、中等学校に入学して一週間、ベルタは早くもうんざりしていた。同学年に、他に『幸福の導き手』はいない。3年生に1人いるらしいが、会ったことはないし、その人はとてもお似合いな恋人がいるらしい。いっそ誰かと付き合えば、この煩わしさから逃れられるのだろうが、好きでもない相手と付き合いたくないし、ベルタが求めているのは、恋人ではなく、『ベルタ』自身を見てくれる友達だ。
ベルタが疲れた溜め息を連発していると、授業が終わるなり教室から飛び出していったカジョが、バタバタと戻ってきた。
「カジョ。どうしたの?」
「運動着忘れてた!! 今日はニーおばさんに剣を習うのに!!」
「……僕も一緒に行っていい? 見てるだけだけど」
「いいぜー。走れるか?」
「あんまり走ったことないけど、多分走れる」
「よっしゃ! じゃあ、急ごうぜ! シモンが女子に囲まれる前に!」
「うん」
ベルタは、ニッと笑ったカジョと一緒に鞄を片手に教室を出て、廊下を走りだした。バタバタと廊下を走り抜け、外に出ると、校門の辺りにちょっとした人だかりができていた。人だかりの真ん中にいるのは、シモンである。そして、その周りにいるのは、さっきベルタに声をかけてきた女の子達だった。内心、うわーっと思いながら、ベルタは足が速いカジョに合わせて、必死で足を動かした。カジョが校門を通り過ぎながらシモンの名前を呼ぶと、シモンも女の子達の合間をぬって脱出し、一緒に走り出した。
「カジョ。俺を1人にするなよー。また、あいつらに囲まれたじゃん」
「わりぃわりぃ。運動着、教室に忘れたの思い出してさ」
「ふ、ふたりとも、あし、はやい、ね」
「あ、ベルタも今日は一緒に来る?」
「う、うん、は、は、け、けんがく、させて」
「いいよー」
ベルタは足が速い2人に置いていかれないように、生まれて初めて全力で走った。
シモンの家に着くと、ベルタはべしゃっと床に崩れ落ちた。肺やお腹が痛い。ぜぇぜぇと掠れた息しか出てこない。こんなに長く速く走ったのは、本当に生まれて初めてだ。全身が重くて、起き上がれる気がしない。
潰れた蛙みたいになっているベルタの前に、カジョとシモンがしゃがみ、ベルタの頭をつんつんと突いた。
「ベルタって体力ないなー」
「運動苦手な子?」
「ぜぇぜぇ……にがて、と、いうか、ほとんど、したこと、ない」
「「マジかー」」
「あ、おかえりー。シモン。いらっしゃい。カジョ。そして、ベルタは大丈夫?」
「ただいま。父さん」
「こんちゃーっす! セーベおじさん」
「ぜぇ、ぜぇ、こ、こんにちは……」
家の奥から、エプロンを着けたセベリノがやってきた。べしゃりと床に突っ伏しているベルタの前にしゃがみ、カジョとシモンと一緒に、セベリノもベルタの頭をつんつんと突いた。
「ベルタ、お水いる?」
「い、いただき、ます」
「うん。シモン。お水持ってきてあげて」
「はぁい。カジョもいる?」
「いるー。っていうか、ベルタ。マジで大丈夫か?」
「だいじょばない……」
「うーん。今度の休みから護身術教室の予定だけど、これは基礎体力を鍛えるところから始めた方がいいかもなぁ」
なんとか少し息が整ったので、ベルタはのろのろと起き上がって、シモンから水が入ったグラスを受け取り、一気に水を飲み干した。ぷはぁっと大きく息を吐くと、漸く生き返ったような気がする。
シモンがセベリノに話しかけた。
「聞いてよ。父さん。またジェシカ達に絡まれた」
「あらら。どんまい。まぁ、シモンを彼氏にしたいんでしょ」
「あんな我儘で気が強いのお断り。絶対面倒くさい」
「適当にあしらっとけよ。さ。3人とも、ニーが帰ってくるまでに宿題やろうな」
「「えーー!!」」
「あ、はい」
「『えーー』じゃないよ。シモンとカジョは剣の稽古をやる前に宿題を終わらせないと、絶対やらないだろ」
「やりませんけど?」
「開き直るんじゃありません。ほらほら。居間で宿題やるよ。終わったら、おやつにクッキーあげるから」
「はぁーい」
「あ、セーベおじさん。母ちゃんからセーベおじさんに渡せって、苺持ってきてる。お裾分けだって。昨日、親戚から届いたんだ」
「お。毎年悪いね。カミラさんに『ありがとうございます』って伝えておいてよ」
「うん」
「はーい。じゃあ、3人とも宿題。宿題。おやつが増えたしね」
「「「はーい」」」
ベルタはのろのろと立ち上がって、あんなに走ったのにケロッとした顔をしている2人と居間に移動した。居間のソファーに座り、ローテーブルの上に今日の宿題を広げる。ニルダが帰ってくる予定の時間まで、もう少しあるらしい。まだ入学したばかりだから、宿題はそんなに多くない。普通にやれば、ニルダが帰ってくる前に終わるだろう。ベルタは教科書を開いて、早速宿題に取り掛かった。
宿題を始めて、すぐにシモンがペンを放り出し、ソファーにだらしなく寝転がった。
「飽きた」
「俺も飽きたー」
「えーと、2人とも飽きるの早くない?」
「俺、勉強嫌い」
「俺もきらーい。ベルタは?」
「僕? 普通かなぁ。好きでも嫌いでもないよ。やらなきゃいけないから、やってるだけ」
「やるだけ偉いなぁ。俺はやりたくない。宿題なんて滅んでしまえ」
「授業も怠いよなー。ずっと剣の稽古ができればいいのにさー」
「そーれーなー」
「2人とも、剣が好きなんだね。あ、そういえば、明日って、倶楽部活動の説明会があるんでしょ? 2人ともなんの倶楽部に入るの? 確か、どれかの倶楽部に必ず入らないといけないんだよね?」
「そうそう。俺は剣術倶楽部一択」
「おーれも。ベルタはどこに入るんだ?」
「んー。できたら2人と一緒のところに入りたいけど、剣術倶楽部なんて、僕には無理だしなぁ」
「剣術倶楽部って、なんか補佐的な人もいるらしいぜ。飲み物用意したりとか、模擬試合の結果記録したりとか、なんか細々したことやるんだって。兄ちゃんが言ってた」
「そうなの? カジョ。それなら僕でもできるかな?」
「先輩達に言い寄られるに一票」
「俺もー。でも、ベルタならどこの倶楽部に入っても一緒じゃね?」
「それは確かに」
「えぇ……普通に嫌」
「いっそ身体を鍛えまくって、うちの母さんみたいになれば? ごりごりの筋肉マッチョ」
「それだ!!」
「マジか!! 面白すぎんだろ!!」
「僕、マッチョを目指す! カジョ達と一緒に、ニーおばさんに鍛えてもらえないかな」
「母さんに頼んでみなよ」
「うん!! マッチョになったら、変な人も寄り付かないよね!!」
「だと思うよー」
「ベルタの顔でゴリゴリマッチョか……面白すぎてやべぇな。頑張れよ! ベルタ!」
「うん! ありがとう! カジョ!」
ベルタに目標ができた。ニルダのようなごりごりマッチョになる。そうすれば、不必要に絡まれないだろうし、なにより、将来、ニルダのように警邏隊で働けるかもしれない。
ベルタは大急ぎで自分の宿題を終わらせ、やる気のない2人を急かして宿題をやらせると、セベリノが用意してくれたおやつを食べながら、そわそわとニルダの帰りを待った。
「ねぇ。ベルタ。私達のグループに入りなよ。ベルタは『幸福の導き手』だし、仲間に入れえてあげる」
「あ、えっと……ご、ごめん。いいかな」
「えーー! なんでよ! 『幸福の導き手』が友達だったら、他の子に自慢できるじゃない」
「……僕は君の装飾品じゃないよ」
「はぁ? 意味分かんない。私達と仲良くしないと、ハブられるわよ」
「君達がハブるの間違いでしょう?」
「うーわ。最悪。貴方って『幸福の導き手』なのに性格悪いのね。折角、仲間に入れてあげようって声をかけてあげたのに。皆、行きましょ。こんな性格が悪いの、仲間に入れたくなんてないわ」
女の子達が、口々にベルタに向かって『最悪―』『性格わるーい』『調子乗り過ぎぃ』等と言いながら、教室から出ていった。ベルタは溜め息を吐きながら、椅子から立ち上がった。
なんだか、毎日のように誰かしらに絡まれている気がする。さっきの女の子達はまだマシな方で、初対面で名乗りもしないのに、『自分と付き合え』とか言ってくる男子生徒や女子生徒もいた。先輩にも声をかけられることが多く、中等学校に入学して一週間、ベルタは早くもうんざりしていた。同学年に、他に『幸福の導き手』はいない。3年生に1人いるらしいが、会ったことはないし、その人はとてもお似合いな恋人がいるらしい。いっそ誰かと付き合えば、この煩わしさから逃れられるのだろうが、好きでもない相手と付き合いたくないし、ベルタが求めているのは、恋人ではなく、『ベルタ』自身を見てくれる友達だ。
ベルタが疲れた溜め息を連発していると、授業が終わるなり教室から飛び出していったカジョが、バタバタと戻ってきた。
「カジョ。どうしたの?」
「運動着忘れてた!! 今日はニーおばさんに剣を習うのに!!」
「……僕も一緒に行っていい? 見てるだけだけど」
「いいぜー。走れるか?」
「あんまり走ったことないけど、多分走れる」
「よっしゃ! じゃあ、急ごうぜ! シモンが女子に囲まれる前に!」
「うん」
ベルタは、ニッと笑ったカジョと一緒に鞄を片手に教室を出て、廊下を走りだした。バタバタと廊下を走り抜け、外に出ると、校門の辺りにちょっとした人だかりができていた。人だかりの真ん中にいるのは、シモンである。そして、その周りにいるのは、さっきベルタに声をかけてきた女の子達だった。内心、うわーっと思いながら、ベルタは足が速いカジョに合わせて、必死で足を動かした。カジョが校門を通り過ぎながらシモンの名前を呼ぶと、シモンも女の子達の合間をぬって脱出し、一緒に走り出した。
「カジョ。俺を1人にするなよー。また、あいつらに囲まれたじゃん」
「わりぃわりぃ。運動着、教室に忘れたの思い出してさ」
「ふ、ふたりとも、あし、はやい、ね」
「あ、ベルタも今日は一緒に来る?」
「う、うん、は、は、け、けんがく、させて」
「いいよー」
ベルタは足が速い2人に置いていかれないように、生まれて初めて全力で走った。
シモンの家に着くと、ベルタはべしゃっと床に崩れ落ちた。肺やお腹が痛い。ぜぇぜぇと掠れた息しか出てこない。こんなに長く速く走ったのは、本当に生まれて初めてだ。全身が重くて、起き上がれる気がしない。
潰れた蛙みたいになっているベルタの前に、カジョとシモンがしゃがみ、ベルタの頭をつんつんと突いた。
「ベルタって体力ないなー」
「運動苦手な子?」
「ぜぇぜぇ……にがて、と、いうか、ほとんど、したこと、ない」
「「マジかー」」
「あ、おかえりー。シモン。いらっしゃい。カジョ。そして、ベルタは大丈夫?」
「ただいま。父さん」
「こんちゃーっす! セーベおじさん」
「ぜぇ、ぜぇ、こ、こんにちは……」
家の奥から、エプロンを着けたセベリノがやってきた。べしゃりと床に突っ伏しているベルタの前にしゃがみ、カジョとシモンと一緒に、セベリノもベルタの頭をつんつんと突いた。
「ベルタ、お水いる?」
「い、いただき、ます」
「うん。シモン。お水持ってきてあげて」
「はぁい。カジョもいる?」
「いるー。っていうか、ベルタ。マジで大丈夫か?」
「だいじょばない……」
「うーん。今度の休みから護身術教室の予定だけど、これは基礎体力を鍛えるところから始めた方がいいかもなぁ」
なんとか少し息が整ったので、ベルタはのろのろと起き上がって、シモンから水が入ったグラスを受け取り、一気に水を飲み干した。ぷはぁっと大きく息を吐くと、漸く生き返ったような気がする。
シモンがセベリノに話しかけた。
「聞いてよ。父さん。またジェシカ達に絡まれた」
「あらら。どんまい。まぁ、シモンを彼氏にしたいんでしょ」
「あんな我儘で気が強いのお断り。絶対面倒くさい」
「適当にあしらっとけよ。さ。3人とも、ニーが帰ってくるまでに宿題やろうな」
「「えーー!!」」
「あ、はい」
「『えーー』じゃないよ。シモンとカジョは剣の稽古をやる前に宿題を終わらせないと、絶対やらないだろ」
「やりませんけど?」
「開き直るんじゃありません。ほらほら。居間で宿題やるよ。終わったら、おやつにクッキーあげるから」
「はぁーい」
「あ、セーベおじさん。母ちゃんからセーベおじさんに渡せって、苺持ってきてる。お裾分けだって。昨日、親戚から届いたんだ」
「お。毎年悪いね。カミラさんに『ありがとうございます』って伝えておいてよ」
「うん」
「はーい。じゃあ、3人とも宿題。宿題。おやつが増えたしね」
「「「はーい」」」
ベルタはのろのろと立ち上がって、あんなに走ったのにケロッとした顔をしている2人と居間に移動した。居間のソファーに座り、ローテーブルの上に今日の宿題を広げる。ニルダが帰ってくる予定の時間まで、もう少しあるらしい。まだ入学したばかりだから、宿題はそんなに多くない。普通にやれば、ニルダが帰ってくる前に終わるだろう。ベルタは教科書を開いて、早速宿題に取り掛かった。
宿題を始めて、すぐにシモンがペンを放り出し、ソファーにだらしなく寝転がった。
「飽きた」
「俺も飽きたー」
「えーと、2人とも飽きるの早くない?」
「俺、勉強嫌い」
「俺もきらーい。ベルタは?」
「僕? 普通かなぁ。好きでも嫌いでもないよ。やらなきゃいけないから、やってるだけ」
「やるだけ偉いなぁ。俺はやりたくない。宿題なんて滅んでしまえ」
「授業も怠いよなー。ずっと剣の稽古ができればいいのにさー」
「そーれーなー」
「2人とも、剣が好きなんだね。あ、そういえば、明日って、倶楽部活動の説明会があるんでしょ? 2人ともなんの倶楽部に入るの? 確か、どれかの倶楽部に必ず入らないといけないんだよね?」
「そうそう。俺は剣術倶楽部一択」
「おーれも。ベルタはどこに入るんだ?」
「んー。できたら2人と一緒のところに入りたいけど、剣術倶楽部なんて、僕には無理だしなぁ」
「剣術倶楽部って、なんか補佐的な人もいるらしいぜ。飲み物用意したりとか、模擬試合の結果記録したりとか、なんか細々したことやるんだって。兄ちゃんが言ってた」
「そうなの? カジョ。それなら僕でもできるかな?」
「先輩達に言い寄られるに一票」
「俺もー。でも、ベルタならどこの倶楽部に入っても一緒じゃね?」
「それは確かに」
「えぇ……普通に嫌」
「いっそ身体を鍛えまくって、うちの母さんみたいになれば? ごりごりの筋肉マッチョ」
「それだ!!」
「マジか!! 面白すぎんだろ!!」
「僕、マッチョを目指す! カジョ達と一緒に、ニーおばさんに鍛えてもらえないかな」
「母さんに頼んでみなよ」
「うん!! マッチョになったら、変な人も寄り付かないよね!!」
「だと思うよー」
「ベルタの顔でゴリゴリマッチョか……面白すぎてやべぇな。頑張れよ! ベルタ!」
「うん! ありがとう! カジョ!」
ベルタに目標ができた。ニルダのようなごりごりマッチョになる。そうすれば、不必要に絡まれないだろうし、なにより、将来、ニルダのように警邏隊で働けるかもしれない。
ベルタは大急ぎで自分の宿題を終わらせ、やる気のない2人を急かして宿題をやらせると、セベリノが用意してくれたおやつを食べながら、そわそわとニルダの帰りを待った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
41
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる