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私を見たお父様は驚愕して目を見開いていました。

「ベアトリス!?」

「あの日以来ですね、お父様」

「お前が何故ここにいるのだ!レッド・ベリル島に残ったのではないのか!?」

正気に戻ったお父様はいきなりのご挨拶です。

ヤーマンのように喜んではくれません。私は少し悲しくなりましたが、昔からこのような自分本位な人なのです。

私の政略結婚もそうです。周りは反対していたのに押し切っていましたから。まあ私は王妃に憧れていた時期もありノリノリでしたので、なんとも言えませんが。

「そのことはどうでもよろしいですわ。お父様、ライムストーン辺境伯様から火急の要件を言付かっておりますの」

「どうでも良くはないだろう。先にお前自身のことを説明せぬか。それにライムストーンだと?何故お前が辺境伯の使いなどしておるのだ」

やはりお父様は耄碌しておられるようです。私は無視して話を進めます。

「これから二週間も待たずに、南部の貴族の連合部隊が王都に進軍します。マリアライトは抵抗せずにこれを見過ごすように、というのが辺境伯様からのお言葉です」

「ライムストーンが動くというのか」

お父様は何やら考え始めました。別にお父様の意見など必要無く、辺境伯様の伝言に従ってくれたら良いだけなのですが。

「ライムストーンを通すなどあり得ぬことだ。粛清の巻き添えを食いたくなければ、彼らがマリアライトにたどり着く前に考え直させた方が良い」

未だに王国内の爵位にこだわって大局が見えていないのか、王国の兵力を過信しているのかわかりませんが、愚かなことを考えるものです。

「お父様は辺境伯様が負けると考えているのですか?」

「ライムストーン鋼の武具の良さと南部の領主達の結束は私も知っている。だが兵の練度が違うのだ。先の反乱でもそうだったが、王国騎士団には良い武器を持っただけの素人集団では勝てぬ」

意外にもお父様はまともに考えての発言だったようです。先に反乱を起こした諸侯は処刑されているので、辺境伯様も戦力分析が甘い可能性はあります。

「それは良い情報をいただきましたわ。オブシディアン様、王国騎士団の殱滅にご助力いただいても構いませんか?」

「君の目的の邪魔になるのなら排除しよう。ただ魔法抜きとなると数が多すぎて我々だけでは面倒だな。先日の刺客はガーネットと互角だったようだから」

「救出対象がいたので焦っただけです。次に会ったら叩き伏せてご覧に入れます」

ガーネット様が憮然としています。

なるべく魔法は使わせたくありません。被害もさることながら、辺境伯軍が魔族の力を借りていたと市井で噂になると面倒ですから。

「辺境伯様に正面から当たっていただいて、私達で先行して司令部だけを相手にするのはいかがですか?」

「目には見えぬよう魔法で身体強化するので問題ないが、君の安全を担保できないかもしれない。君が何処かで大人しくしているなら請け負ってもよい」

「では、それでお願いします」

どうやらチートを使われるようです。心配要らないでしょう。創造魔法もですけど、落ち着いたら私も教わりたいです。

「何を話しているのだ。そもそも其方らは何者だ」

お父様が不審そうに尋ねてきました。

「この方は魔族です。私を魔の島から救い出してくださいました」

「お前は魔族に救われていたのか……」

お父様は目を閉じて、椅子に深く腰掛けました。さっきから私の動向ばかり気にして、いったいなんなのでしょうか。

「魔族の者よ。私の娘を助けてくれたこと、心から感謝する。私はイゴール・マルクス・マリアライトという。名を教えてもらえぬか」

「私はオブシディアンだ。謝意は受け取っておくが、そう大したことはしていない」

あまりに辺境伯様の話に集中してくださらない上に私の娘などといわれて、私はイライラして仕方ありません。

「一体なんなのですか?私を見捨てたのに今更父親ぶるのはやめてください!」

「ベアトリス……」

お父様が悲しそうに呟きました。

でもそうではありませんか。

それに、先程から私と会っても無事を喜ぶ様子もありませんし、また私の話をろくに聞いてくれません。

「お嬢様、誠に言いにくいのですが、イゴール様はあの後酷く後悔されていたのです」

見るに見かねたように、イゴールが口を挟んできました。

「後悔したから何だというのですか?私は殺されかけたのですよ?それを助けなくて何が親ですか!」

「お嬢様、イゴール様はお嬢様を救おうとはされたのです」
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