31 / 39
31
しおりを挟む
式典が終わると、ルピナス様の執務室に場所を変えてあの大捕物の日のメンバーが顔を合わせました。
とはいってもルピナス様、サージェント様、ディセントラ公爵様だけです。
「フリージアよ、数日ぶりじゃな。なかなか見応えのある式典だった。長生きはしてみるものだ。ではまず、業務連絡になるが」
ディセントラ公爵様がそう口火を切り、私が挨拶を返すと先程は説明されなかった詳しい話を聞かせてくれました。
ハイドランジア侯爵家が伯爵位に爵位を降格され、領地の一部がマトリカリア侯爵領に割譲されます。
私が馬車でハイドランジアを目指したように、マトリカリアとハイドランジアとは隣同士なのです。その隣接地域の多くがマトリカリアに移りました。
しかし、私では領地運営は無理という判断で、王国から管理の役人が派遣され、徴税やら納税やらを終わらせた上で、残った物資を全てお金に変えたものが給料として私に支払われることになりました。
確かに私が目指していることは、領地に住んでいたらできることでは無いので助かる話です。私が将来マトリカリア侯爵として結婚などして現地に住まうことになれば、いつでも普通の状態に戻してくれるそうです。
それを聞いているルピナス様の眉が跳ねたような気がしましたけど。
それから、王都にあったマトリカリアの別邸はお父様によって売り払われていました。お母様が亡くなってから領地運営が厳しかったようですが、どうもそれだけではなさそうで公爵様の歯切れが悪いです。中にあったお母様の持ち物が全て処分されていたことに、私は落胆してしまいました。
屋敷自体は買い戻して既に清めてあるらしく、ハイペリカムの屋敷を出て一旦そこに住むことになりました。使用人などは全て手配してくれているそうです。サージェント様が何も言わないあたり、その辺りの調整は済んでいるのでしょう。
「これは先日伝えたディセントラからの支援を押し売りするものではない。経費は其方の許可を得てから、給料からの天引きで賄ってもらおうと思っておるがどうだ?」
全く問題無いので了承しましたが、どのくらいの金額がかかっているのか心配になりました。
「其方は領地運営に関しては本当にからっきしだな。広大な侯爵領の税収に比べたら微々たるものだ。安心するが良い。其方に任せるのは無理そうだから、資産の運用についてもしばらくは国で管理しておこう」
それから、それらに関する幾つかの書類にサインして、業務連絡と言われた話は終わりました。
ディセントラ公爵家の支援の話は特にされませんでした。私から言うのを待っているのでしょうか。
「ここからが本題なんだけど、正直、君に話すことを躊躇うような内容でね。言わないわけにはいかないから話すけど、気を確かに持ってほしい」
ルピナス様にわざわざそう前置きされました。サージェント様も公爵様も話したがらない内容をルピナス様は押し付けられたようです。
内容は当たり前ですが捕らえられた3人についての話です。ルピナス様が話し始めました。
まずアザレアとガーベラの母子について、母のアザレアについては関与していた内容から主犯格として扱われるようです。娘のガーベラのためにしていた部分もあったようですが、情状酌量の余地が無いそうです。
「娘のガーベラは生きる気力を失っていたようでね、何も口にしないから衰弱してしまって、困った刑務の者から私が相談を受けて直接見に行ったんだ」
ガーベラの様子を聞いて、私は胸が苦しくなりました。彼女の最後の言葉は胸に突き刺さったままです。彼女をそんな目に合わせたのは父親と母親ですから、被害者の私をあんな目で見ないで欲しかったです。
「君とのやりとりは私も聞いていたから、誤解を解くようにいろいろ話しておいたよ。聞いているのかわからない様子だったけど、食事を取るようになったらしいからたぶん聞いてはくれたと思うよ」
顔を合わせたくはありませんが、勘違いに気付いてくれたなら少しは気が楽になります。ルピナス様に感謝しました。
「最後に君の父親なのだけど、君の身に起きたことについては君も知っての通り彼が全て仕組んだことだ」
それはもうわかっていることです。改めて言われるとそれはそれできついものですが、こうして他の出会いもあったことですし、もう忘れたいです。
でもサージェント様から聞いていたことが気になりました。
「お父様はそれ以外にまだ何かしていたのですか?」
ルピナス様は言葉を選ぶように黙って考えています。私に言いにくいと言うことは、お父様のせいで私がまだ何か被害を受けていると言うことでしょうか。
「今から約4年前のことなんだけど、当時、衛生兵団の補給や移送を担当する部署内で緘口令が敷かれた案件があったんだ。衛生兵団で起きた事故についてなんだけど、今回の件が表沙汰になって、その事故の調査隊員だった者からそんな内部告発があった」
4年前に起きた事故と言えば、お母様が亡くなった話を思い浮かべてしまいます。そういえばルピナス様やサージェント様は公爵様の関与を疑っていて、その公爵様すら事件性は認めていたような気がします。
「王都からそう遠くない森に魔獣が現れてね。領民に被害が出たから急遽討伐隊が組まれたんだ」
私が嫌な汗をかき始めると、何故か横にいたライラックさんまで目に見えて青ざめていました。
とはいってもルピナス様、サージェント様、ディセントラ公爵様だけです。
「フリージアよ、数日ぶりじゃな。なかなか見応えのある式典だった。長生きはしてみるものだ。ではまず、業務連絡になるが」
ディセントラ公爵様がそう口火を切り、私が挨拶を返すと先程は説明されなかった詳しい話を聞かせてくれました。
ハイドランジア侯爵家が伯爵位に爵位を降格され、領地の一部がマトリカリア侯爵領に割譲されます。
私が馬車でハイドランジアを目指したように、マトリカリアとハイドランジアとは隣同士なのです。その隣接地域の多くがマトリカリアに移りました。
しかし、私では領地運営は無理という判断で、王国から管理の役人が派遣され、徴税やら納税やらを終わらせた上で、残った物資を全てお金に変えたものが給料として私に支払われることになりました。
確かに私が目指していることは、領地に住んでいたらできることでは無いので助かる話です。私が将来マトリカリア侯爵として結婚などして現地に住まうことになれば、いつでも普通の状態に戻してくれるそうです。
それを聞いているルピナス様の眉が跳ねたような気がしましたけど。
それから、王都にあったマトリカリアの別邸はお父様によって売り払われていました。お母様が亡くなってから領地運営が厳しかったようですが、どうもそれだけではなさそうで公爵様の歯切れが悪いです。中にあったお母様の持ち物が全て処分されていたことに、私は落胆してしまいました。
屋敷自体は買い戻して既に清めてあるらしく、ハイペリカムの屋敷を出て一旦そこに住むことになりました。使用人などは全て手配してくれているそうです。サージェント様が何も言わないあたり、その辺りの調整は済んでいるのでしょう。
「これは先日伝えたディセントラからの支援を押し売りするものではない。経費は其方の許可を得てから、給料からの天引きで賄ってもらおうと思っておるがどうだ?」
全く問題無いので了承しましたが、どのくらいの金額がかかっているのか心配になりました。
「其方は領地運営に関しては本当にからっきしだな。広大な侯爵領の税収に比べたら微々たるものだ。安心するが良い。其方に任せるのは無理そうだから、資産の運用についてもしばらくは国で管理しておこう」
それから、それらに関する幾つかの書類にサインして、業務連絡と言われた話は終わりました。
ディセントラ公爵家の支援の話は特にされませんでした。私から言うのを待っているのでしょうか。
「ここからが本題なんだけど、正直、君に話すことを躊躇うような内容でね。言わないわけにはいかないから話すけど、気を確かに持ってほしい」
ルピナス様にわざわざそう前置きされました。サージェント様も公爵様も話したがらない内容をルピナス様は押し付けられたようです。
内容は当たり前ですが捕らえられた3人についての話です。ルピナス様が話し始めました。
まずアザレアとガーベラの母子について、母のアザレアについては関与していた内容から主犯格として扱われるようです。娘のガーベラのためにしていた部分もあったようですが、情状酌量の余地が無いそうです。
「娘のガーベラは生きる気力を失っていたようでね、何も口にしないから衰弱してしまって、困った刑務の者から私が相談を受けて直接見に行ったんだ」
ガーベラの様子を聞いて、私は胸が苦しくなりました。彼女の最後の言葉は胸に突き刺さったままです。彼女をそんな目に合わせたのは父親と母親ですから、被害者の私をあんな目で見ないで欲しかったです。
「君とのやりとりは私も聞いていたから、誤解を解くようにいろいろ話しておいたよ。聞いているのかわからない様子だったけど、食事を取るようになったらしいからたぶん聞いてはくれたと思うよ」
顔を合わせたくはありませんが、勘違いに気付いてくれたなら少しは気が楽になります。ルピナス様に感謝しました。
「最後に君の父親なのだけど、君の身に起きたことについては君も知っての通り彼が全て仕組んだことだ」
それはもうわかっていることです。改めて言われるとそれはそれできついものですが、こうして他の出会いもあったことですし、もう忘れたいです。
でもサージェント様から聞いていたことが気になりました。
「お父様はそれ以外にまだ何かしていたのですか?」
ルピナス様は言葉を選ぶように黙って考えています。私に言いにくいと言うことは、お父様のせいで私がまだ何か被害を受けていると言うことでしょうか。
「今から約4年前のことなんだけど、当時、衛生兵団の補給や移送を担当する部署内で緘口令が敷かれた案件があったんだ。衛生兵団で起きた事故についてなんだけど、今回の件が表沙汰になって、その事故の調査隊員だった者からそんな内部告発があった」
4年前に起きた事故と言えば、お母様が亡くなった話を思い浮かべてしまいます。そういえばルピナス様やサージェント様は公爵様の関与を疑っていて、その公爵様すら事件性は認めていたような気がします。
「王都からそう遠くない森に魔獣が現れてね。領民に被害が出たから急遽討伐隊が組まれたんだ」
私が嫌な汗をかき始めると、何故か横にいたライラックさんまで目に見えて青ざめていました。
13
お気に入りに追加
3,663
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者と略奪聖女をお似合いだと応援する事にした
藍生蕗
恋愛
公爵令嬢のリリーシアは王太子の婚約者の立場を危ぶまれていた。
というのも国の伝承の聖女の出現による。
伝説の生物ユニコーンを従えた彼女は王宮に召し上げられ、国宝の扱いを受けるようになる。
やがて近くなる王太子との距離を次第に周囲は応援しだした。
けれど幼い頃から未来の王妃として育てられたリリーシアは今の状況を受け入れられず、どんどん立場を悪くする。
そして、もしユニコーンに受け入れられれば、自分も聖女になれるかもしれないとリリーシアは思い立つ。けれど待っていたのは婚約者からの断罪と投獄の指示だった。
……どうして私がこんな目に?
国の為の今迄の努力を軽く見られた挙句の一方的な断罪劇に、リリーシアはようやく婚約者を身限って──
※ 本編は4万字くらいです
※ 暴力的な表現が含まれますので、苦手な方はご注意下さい
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
【完結】復讐姫にはなりたくないので全て悪役に押し付けます
桃月とと
恋愛
預言により未来の聖女としてチヤホヤされてきた伯爵令嬢アリソンは、新たな預言により男爵令嬢デボラにその地位を追われ、婚約者である王太子も奪われ、最後は家族もろとも国外追放となってしまう。ズタボロにされた彼女は全ての裏切り者に復讐を誓った……。
そんな『復讐姫アリソン』という小説の主人公に生まれ変わったことに、物語が始まる直前、運よく頭をぶつけた衝撃で気が付くことができた。
「あっぶねぇー!」
復讐なんてそんな面倒くさいことしたって仕方がない。彼女の望みは、これまで通り何一つ苦労なく暮らすこと。
その為に、とことん手を尽くすことに決めた。
別に聖女にも王妃になりたいわけではない。前世の記憶を取り戻した今、聖女の生活なんてなんの楽しみも見いだせなかった。
「なんで私1人が国の為にあくせく働かなきゃならないのよ! そういうのは心からやりたい人がやった方がいいに決まってる!」
前世の記憶が戻ると同時に彼女の性格も変わり始めていた。
だから彼女は一家を引き連れて、隣国へと移住することに。スムーズに国を出てスムーズに新たな国で安定した生活をするには、どの道ニセ聖女の汚名は邪魔だ。
そのためには悪役デボラ嬢をどうにかコントロールしなければ……。
「聖女も王妃も全部くれてやるわ! ……だからその他付随するものも全て持って行ってね!!!」
「アリソン様……少々やりすぎです……」
そうそう幼馴染の護衛、ギルバートの未来も守らなければ。
作戦は順調に行くというのに、どうも思ったようには進まない。
円満に国外出るため。復讐姫と呼ばれる世界を変えるため。
アリソンの奔走が始まります。
滅びの大聖女は国を滅ぼす
ひよこ1号
恋愛
妹の為に訪れた卒業パーティーで、突然第三王子に婚約破棄される大聖女マヤリス。更には「大聖女を騙る魔女!」と続く断罪。王子の傍らには真の大聖女だという、光魔法の癒しを使える男爵令嬢が。大した事の無い婚約破棄と断罪が、国を滅ぼしてしまうまで。
※残酷な描写が多少有り(処刑有り)念の為R15です。表現は控えめ。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】虐げられてきた侯爵令嬢は、聖女になったら神様にだけは愛されています〜神は気まぐれとご存知ない?それは残念でした〜
葉桜鹿乃
恋愛
アナスタシアは18歳の若さで聖女として顕現した。
聖女・アナスタシアとなる前はアナスタシア・リュークス侯爵令嬢。婚約者は第三王子のヴィル・ド・ノルネイア。
王子と結婚するのだからと厳しい教育と度を超えた躾の中で育ってきた。
アナスタシアはヴィルとの婚約を「聖女になったのだから」という理由で破棄されるが、元々ヴィルはアナスタシアの妹であるヴェロニカと浮気しており、両親もそれを歓迎していた事を知る。
聖女となっても、静謐なはずの神殿で嫌がらせを受ける日々。
どこにいても嫌われる、と思いながら、聖女の責務は重い。逃げ出そうとしても王侯貴族にほとんど監禁される形で、祈りの塔に閉じ込められて神に祈りを捧げ続け……そしたら神が顕現してきた?!
虐げられた聖女の、神様の溺愛とえこひいきによる、国をも傾かせるざまぁからの溺愛物語。
※HOT1位ありがとうございます!(12/4)
※恋愛1位ありがとうございます!(12/5)
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも別名義にて連載開始しました。改稿版として内容に加筆修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる