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翌日、あまり寝られなかった私が馬車の中で欠伸をしていると、暇だったのかライラックさんが珍しく自分のことを話してくれました。
亡くなった奥さんの話ではありませんでしたが、ライラックさんは王都でも有数の薬師ということで顔見知りも多く、誰かに会う度に私にあれこれ聞かれるよりは先に話しておこうと考えたようです。
ライラックさんは平民の出ですが、薬師として調合の技術と貢献を認められて王国から名誉爵位を与えられたそうです。
爵位といってもライラックさんのような名誉爵位の場合は治める土地は与えられず、給料のような感じで王国から報酬を受けていたらしく、王都内にのみ自分の屋敷があるそうです。ちょっと裕福な役人という感じでしょうか。
アイリスさんが亡くなって住まなくなったお屋敷は、ライラックさんの爵位報酬と合わせてアイリスさんの弟夫婦に管理を任せているそうです。居場所がわかると面倒という理由で今までは連絡を取らないでいたそうですが、カラードさんに見つかった以上隠れても仕方ないので王都に寄ったついでに顔を出そうと考えているようです。
私もライラックさんの屋敷を見てみたいと言ったら、苦々しい顔で了承してくれました。アイリスさんと生活した家を見てみたいだとか余計なことは言わなかったのですが。
もし私が王都を拠点に薬師の活動をするなら家人の方と相談の上で使ってもいいと言ってくれました。屋敷には調合の器具が揃っているそうです。ライラックさんはどうするのかと聞いたら、私に調合を一通り引き継いだらランタナ村に帰ると言われました。
そんなこんなで、昨日に引き続き一日馬車に揺られていると無事に王都にたどり着くことができました。
そのままサージェント様の住んでいるハイペリカム侯爵家の屋敷に泊まりました。ハイペリカム侯爵家は広大な領地を持った大貴族ですが、サージェント様のように中央で仕事をしている方は、公務の間は王都にある屋敷に住んでいます。
当然マトリカリア伯爵家の屋敷もあり、私も本当に幼い頃にお母様に連れられて王都に来た時には寝泊まりしていたはずなのですが、今はどうなっているのでしょうか。
別邸とはいえ流石は王国の二大貴族のお屋敷で、部屋の数も召使いの数もマトリカリアとは比較になりません。私は久しぶりに他人に身体を清めてもらい、服を着せられるという貴族の生活をしました。ガーベラ達にこき使われるようになって以来ですから、もう3年ぶりくらいになるでしょうか。
そんなことをライラックさんに話したら憐れむような顔をされましたが、全て自分でやったほうが気兼ねなくて良いではないかとも言われました。
翌朝、ライラックさんと一緒に朝食に呼ばれると、サージェント様と見知らぬ貴婦人が食卓に座っていました。
貴婦人は私のお母様が生きていれば同じくらいの歳でしょうか、それなのにとても奇麗でどことなく誰かに似たような顔立ちをしています。
「こちらはアドニス王国王妃マリーゴールド・エリザベト・ハイペリカム・アドニス様だ」
サージェント様に紹介された貴婦人は王妃様でした。ルピナス様のお母様ということでしょうけど、確かに爽やかなルピナス様の面影があります。ライラックさんが咄嗟に臣下の礼を取ったので、私も慌ててそれに倣いました。
「ちょっと叔父様、そんな堅苦しい紹介はやめてください。ここは王宮じゃないからそこまでしなくていいわよ」
「普通に貴族の礼儀だろう。教えておかないと困るのは本人達だ」
そう言いながらもマリーゴールド様は立ち上がってこちらに来ると、それは優雅にお辞儀をしました。
「貴方がライラックさんで貴女がフリージアね。二人が私の息子の命を救ってくれたと聞きました。王妃として母として最大の謝意を送りますわ。本当にありがとう」
私達の手を順に握りながらそう言いますが、私は成り行きでそうなっただけなので恐縮するばかりです。ライラックさんが「恐れ入ります」と言うだけでしたので、私もそう言っておきました。
「マリーゴールドは私の亡くなった兄の娘なんだ。お前たち、まあそういうわけだから座ってくれ」
私とライラックさんは顔を見合わせてから食卓に座りました。私は丁度マリーゴールド様の隣になりました。
マリーゴールド様は私をじっと見ると、ゆっくりと私の頭を撫でました。
「本当にカトレアの若い頃にそっくりだわ。私ね、貴女がこんなだった頃にカトレアに連れられた貴女に会ったことがあるのよ。覚えていて?」
マリーゴールド様は腰ぐらいの位置を手で示しながらそう言いました。どうだったでしょうか、王都の屋敷に泊まったことはぼんやりと覚えているのですが、会った人のことまで覚えていません。そのくらいの子供なんて目線はスカートくらいですから、誰に会っても同じにしか思わなかったと思います。
でも、私をお母様にそっくりと言ってくれて、そんな回数は会っていない私のことを覚えていてくれて、なんだかお母様に対してとても好意的な感じを受けました。そんな方に失礼なことは言えませんが私は正直に答えました。
「申し訳ございません、王都に連れてきてもらったことは覚えているのですが、お会いした方のことまで覚えていなくて。マリーゴールド様はお母様をご存じなのですか?」
「それはそうよね。まだ本当に小さくて可愛らしかったもの。私はカトレアとは魔法学校時代からずっと仲良くしていたのよ。彼女は私の唯一の親友と言ってもいいわ」
亡くなった奥さんの話ではありませんでしたが、ライラックさんは王都でも有数の薬師ということで顔見知りも多く、誰かに会う度に私にあれこれ聞かれるよりは先に話しておこうと考えたようです。
ライラックさんは平民の出ですが、薬師として調合の技術と貢献を認められて王国から名誉爵位を与えられたそうです。
爵位といってもライラックさんのような名誉爵位の場合は治める土地は与えられず、給料のような感じで王国から報酬を受けていたらしく、王都内にのみ自分の屋敷があるそうです。ちょっと裕福な役人という感じでしょうか。
アイリスさんが亡くなって住まなくなったお屋敷は、ライラックさんの爵位報酬と合わせてアイリスさんの弟夫婦に管理を任せているそうです。居場所がわかると面倒という理由で今までは連絡を取らないでいたそうですが、カラードさんに見つかった以上隠れても仕方ないので王都に寄ったついでに顔を出そうと考えているようです。
私もライラックさんの屋敷を見てみたいと言ったら、苦々しい顔で了承してくれました。アイリスさんと生活した家を見てみたいだとか余計なことは言わなかったのですが。
もし私が王都を拠点に薬師の活動をするなら家人の方と相談の上で使ってもいいと言ってくれました。屋敷には調合の器具が揃っているそうです。ライラックさんはどうするのかと聞いたら、私に調合を一通り引き継いだらランタナ村に帰ると言われました。
そんなこんなで、昨日に引き続き一日馬車に揺られていると無事に王都にたどり着くことができました。
そのままサージェント様の住んでいるハイペリカム侯爵家の屋敷に泊まりました。ハイペリカム侯爵家は広大な領地を持った大貴族ですが、サージェント様のように中央で仕事をしている方は、公務の間は王都にある屋敷に住んでいます。
当然マトリカリア伯爵家の屋敷もあり、私も本当に幼い頃にお母様に連れられて王都に来た時には寝泊まりしていたはずなのですが、今はどうなっているのでしょうか。
別邸とはいえ流石は王国の二大貴族のお屋敷で、部屋の数も召使いの数もマトリカリアとは比較になりません。私は久しぶりに他人に身体を清めてもらい、服を着せられるという貴族の生活をしました。ガーベラ達にこき使われるようになって以来ですから、もう3年ぶりくらいになるでしょうか。
そんなことをライラックさんに話したら憐れむような顔をされましたが、全て自分でやったほうが気兼ねなくて良いではないかとも言われました。
翌朝、ライラックさんと一緒に朝食に呼ばれると、サージェント様と見知らぬ貴婦人が食卓に座っていました。
貴婦人は私のお母様が生きていれば同じくらいの歳でしょうか、それなのにとても奇麗でどことなく誰かに似たような顔立ちをしています。
「こちらはアドニス王国王妃マリーゴールド・エリザベト・ハイペリカム・アドニス様だ」
サージェント様に紹介された貴婦人は王妃様でした。ルピナス様のお母様ということでしょうけど、確かに爽やかなルピナス様の面影があります。ライラックさんが咄嗟に臣下の礼を取ったので、私も慌ててそれに倣いました。
「ちょっと叔父様、そんな堅苦しい紹介はやめてください。ここは王宮じゃないからそこまでしなくていいわよ」
「普通に貴族の礼儀だろう。教えておかないと困るのは本人達だ」
そう言いながらもマリーゴールド様は立ち上がってこちらに来ると、それは優雅にお辞儀をしました。
「貴方がライラックさんで貴女がフリージアね。二人が私の息子の命を救ってくれたと聞きました。王妃として母として最大の謝意を送りますわ。本当にありがとう」
私達の手を順に握りながらそう言いますが、私は成り行きでそうなっただけなので恐縮するばかりです。ライラックさんが「恐れ入ります」と言うだけでしたので、私もそう言っておきました。
「マリーゴールドは私の亡くなった兄の娘なんだ。お前たち、まあそういうわけだから座ってくれ」
私とライラックさんは顔を見合わせてから食卓に座りました。私は丁度マリーゴールド様の隣になりました。
マリーゴールド様は私をじっと見ると、ゆっくりと私の頭を撫でました。
「本当にカトレアの若い頃にそっくりだわ。私ね、貴女がこんなだった頃にカトレアに連れられた貴女に会ったことがあるのよ。覚えていて?」
マリーゴールド様は腰ぐらいの位置を手で示しながらそう言いました。どうだったでしょうか、王都の屋敷に泊まったことはぼんやりと覚えているのですが、会った人のことまで覚えていません。そのくらいの子供なんて目線はスカートくらいですから、誰に会っても同じにしか思わなかったと思います。
でも、私をお母様にそっくりと言ってくれて、そんな回数は会っていない私のことを覚えていてくれて、なんだかお母様に対してとても好意的な感じを受けました。そんな方に失礼なことは言えませんが私は正直に答えました。
「申し訳ございません、王都に連れてきてもらったことは覚えているのですが、お会いした方のことまで覚えていなくて。マリーゴールド様はお母様をご存じなのですか?」
「それはそうよね。まだ本当に小さくて可愛らしかったもの。私はカトレアとは魔法学校時代からずっと仲良くしていたのよ。彼女は私の唯一の親友と言ってもいいわ」
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