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ルピナス様とサージェント様は顔を見合わせいます。先程の様子だと信じてはもらえたと思うのですが。

「正直、君の父親の目に余る所業に閉口している。話すと長くなるからやめておくけど、最近の私達を取り巻く不穏な状況について、フリージアの話を聞いて全てが繋がったんだ。確かに君が案ずるように、君をこのまま王都に連れて行けば、危険に巻き込むかもしれない」

ルピナス様が恐ろしいことを言いました。その言い方だとお父様やアザレア様が私の命を狙うだけでは済まないように聞こえてしまいます。

「王国のためにもマトリカリアの聖女の血を絶やすわけにはまいりません。陛下の容体のことを考えるとあまり時間をかけられませんが、一旦帰還して環境を整えてから迎えに来た方が良いかもしれません」

「いや、それでは時間がかかりすぎる。不穏な連中を一掃するにはフリージアに力を見せつけてもらうのが一番だと思うんだ。できればこのまま連れて帰りたいくらいなのだが」

二人はよく分からない話を始めてしまいました。一応、私をこのままにしておいてとお願いしたはずなのですが、全く聞く気は無いようですね。
それと、不穏な連中の中にお父様が含まれているような気がするのですが。

「ああ、ごめん。私はフリージアに王都まで来て父上の病気を治してもらいたいんだ。先程、父上の病気が理由で後継者争いが起きていると言ったよね?それは父上が回復すれば一旦収まるんだ。なんとか頼めないかな」

また私は何か顔に出ていたのか、慌てたようにルピナス様が私を王都に連れて行く目的を話してくれました。国王陛下ではなく父上と言っているのは、少し心を許してくれたからでしょうか。

「本当に私の治癒魔法で治るのでしょうか。治らなかった場合が不安で仕方ないのですが」

伝承のパーフェクトヒールという治癒魔法が怪我も病も治す魔法だったとしても、私の治癒魔法が全く同じものとは限りません。責任を取れなどと言わないとは思いますが、治らなかったら私はどうなるのでしょうか。

「心配せずとも、王国の医者全てが治療できずに手をこまねいている。治らなかったとしても誰も咎めはしないだろう」

先程、ルピナス様が治らなければ村が消えるような事を言っていたサージェント様に言われても今ひとつ説得力に欠けますけど。

ルピナス様は思ったより強引な方のようです。私の立場上お断りできるような話ではないので、ここまで言われては了承するしかありません。

「私の身の安全を確保していただけるなら、謹んでご協力いたします」

「ありがとうフリージア。第一王子の名に掛けて、何者にも君に指一本触れさせないことを約束する。そして僕の治癒のことと合わせて、この恩には必ず報いるつもりだ」

ルピナス様は眩しい笑顔でそう言いました。彼が抱えている後継者問題という難問にそれだけ悩んでいるのでしょう。

「今は馬車もございませんので、護衛など準備してから出直した方がよろしいかと」

「それはそうだね。馬に乗せて行くわけにはいかないし」

話がまとまったようです。随分長いこと話し込んでしまいましたが、外で待っている人は大丈夫でしょうか。

「なんだか達観しているけど、ライラックも王都に戻って来るべきだよ。お前の調合知識はお前だけで身につけたものじゃないだろう。傷心で王都を去ったのは仕方ないけど、技術は後任にちゃんと引き継いでくれないと困る」

「酷い物言いだな。まあ丁度良い引き継ぎ相手が見つかったので、その辺りは考えておこう」

カラードさんとライラックさんは仲が良さそうなので、カラードさんは王都に戻って来て欲しいのではないでしょうか。
そして、ライラックさんが見つけた引き継ぎ相手というのは私しかいないような気がします。

「あまり遅くなっても変に勘繰る連中がおります。殿下、そろそろ引き上げましょう」

「そうだな。では我々は失礼する。フリージア、必ずまた迎えに来るから」

そう言うと、ルピナス様は二人を連れて診療所を出て行きました。私はどっと疲れて座り込みました。
ライラックさんも椅子に座っています。

「明日から君に調合を教える。そこそこの怪我を薬品で治療する技術を身に付けておくことは君の役に立つだろう」

ライラックさんに教われば、私は幅広い治療技術を身につけることができるはずです。そうすれば、お母様のように自分の力で人の役に立って生きていけるかもしれません。

ライラックさんは私が王都に向かうことを前提として調合を教えてくれるわけですから、私も覚悟を決めなくてはいけませんね。
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