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先程のサージェント様の話だと、既にガーベラがマトリカリアの当主として認められているのです。
今更私が生存しているのがわかれば、お父様もアザレア様も血眼になって私を探し出して必ず始末しにくるでしょう。或いはアザレア様の実家のハイドランジア侯爵家が動くかもしれません。
私が黙り込んでしまうと、ルピナス様も私に詰め寄って来ました。
「私達には君の力が必要なんだ。フリージア、もし答えにくければ君が何者でも構わないから、私達と王都に来てもらえないか。賓客として遇することを約束するから」
そんな事をすれば必ずガーベラに遭遇して私の生存は筒抜けになります。
私は思わず後ずさってしまい、後ろにあった椅子に足を取られて尻餅をつきました。
「王都に行けば私はたぶん殺されてしまいます。お願いします、どうか私をこのままにしておいてください」
ルピナス様を見上げてそう言うと、私は人目もはばからず号泣してしまいました。
その場にいる全員が顔を見合わせて困惑しています。
王国の第一王子の要請に対して、こうも取り乱して拒絶するのですから無理もありません。
「困ったな、君が何を心配しているのか全くわからない。命の恩人である君を害するような事は私が絶対にさせないから、良かったら君のことを話してくれないか」
ルピナス様は泣いている子供をあやすようにそう言ってくれますが、貴族がどこでどう繋がっていて、誰が敵で誰が味方だとか全くわからない私には決心がつきません。
実際、サージェント様はお父様からガーベラのことを聞いたと言っていたので、知り合いなのは間違いないのです。
ライラックさんは苦笑いをしています。ライラックさんにも事情を全く話していないので困っていると思います。
「私が君をここに住まわせることは全く構わないが、もはやここまで来ると殿下達が本気で調べれば君の正体はすぐにわかるだろう。君がどんな悩みを抱えているのか私にもわからないが、彼らを信じて話してみたらどうだ」
ライラックさんも私を諭すように言いました。
確かにこのまま私が黙っていたところでフリージアの名前を出して調べられたら、あの人達に私のことが伝わるだけのような気がします。
「わかりました、全てお話しします……」
私は観念して、深呼吸して気持ちを落ち着けました。名前を名乗るだけでここまで緊張したのは生まれて初めてのことです。
「私の名前はフリージア・マトリカリア。先程名前が出たカトレア・マトリカリアの娘です」
改めてそう言うと、先程治癒魔法が使えることがわかり、やっとお母様の娘だと胸を張って言えることを誇らしく思えました。
幼い頃から魔法が使えなかった事で、私は自分の全てのことに自信を喪失していたような気がします。
「ということは、其方はマトリカリアの聖女ではないか。言われてみれば、どことなく母親の面影がある」
サージェント様はお母様の上司に当たるので、良く顔を合わせていたのでしょう。マトリカリアの聖女という呼び方はなんだか照れくさいのでやめていただきたいですが。
「サージェント様、先程マトリカリアの後継者は既に決まったと言っていませんでしたか?マトリカリアの聖女は一人しか生まれないはずですが」
カラードさんは私の家の事情に詳しいようです。そう問われたサージェント様はお父様から事後報告を受けただけらしく困惑しています。詳細を知るはずもないので私が説明しました。
お母様の死後にお父様がハイドランジアから後妻を迎えていたこと、娘のガーベラはその後妻との間に授かっていた不義の子であること、ガーベラにマトリカリアを相続させるために彼等が私にしたことを包み隠さず全て話しました。
「それで逃げてたどり着いたこの村でライラック様のお世話になりました。この半年間は自由にありのままの私でいることができ、ライラック様にはいくら感謝してもしきれません。許されるならこのまま私をここでそっとしておいて欲しいのです」
「そうか、あの日君が村の近くで倒れていたのは、そんな事情だったのか。とても辛い思いをしたのだな。私で力になれて本当に良かったと思う」
ライラックさんに優しい言葉をかけられて、話している時には我慢していた涙が再び溢れてきました。ちょっと泣き過ぎだと自分でも思います。
「ちょっと待って。マトリカリアの聖女には聖痕があるはずだ。君が本物なら見せて欲しいのだが」
カラードさんは本当にマトリカリアの事に詳しいです。マトリカリアに関して伝わる文献でもあるのでしたら、読んでみたい気がします。しかし、疑われたところで、こんな場所で大勢の男性相手に胸元を晒すわけにはいきません。
「お母様と同じように聖痕はありますが、ここで皆さんにお見せできる位置ではありませんのでご容赦ください。どうしても信じられないと言うなら、あちらの陰でカラードさんだけにお見せしてもいいですけど」
「……いや、あるならいいんだ。先程の治癒魔法で疑いようもない事実とは思う。すまない、興味本位で変なことを聞いた」
カラードさんは申し訳なさそうにそう言ってくれました。私は内心、本当に見せる羽目にならなくて安心しました。ルピナス様が言う通り、カラードさんは雰囲気とは違って真摯な方のようです。
今更私が生存しているのがわかれば、お父様もアザレア様も血眼になって私を探し出して必ず始末しにくるでしょう。或いはアザレア様の実家のハイドランジア侯爵家が動くかもしれません。
私が黙り込んでしまうと、ルピナス様も私に詰め寄って来ました。
「私達には君の力が必要なんだ。フリージア、もし答えにくければ君が何者でも構わないから、私達と王都に来てもらえないか。賓客として遇することを約束するから」
そんな事をすれば必ずガーベラに遭遇して私の生存は筒抜けになります。
私は思わず後ずさってしまい、後ろにあった椅子に足を取られて尻餅をつきました。
「王都に行けば私はたぶん殺されてしまいます。お願いします、どうか私をこのままにしておいてください」
ルピナス様を見上げてそう言うと、私は人目もはばからず号泣してしまいました。
その場にいる全員が顔を見合わせて困惑しています。
王国の第一王子の要請に対して、こうも取り乱して拒絶するのですから無理もありません。
「困ったな、君が何を心配しているのか全くわからない。命の恩人である君を害するような事は私が絶対にさせないから、良かったら君のことを話してくれないか」
ルピナス様は泣いている子供をあやすようにそう言ってくれますが、貴族がどこでどう繋がっていて、誰が敵で誰が味方だとか全くわからない私には決心がつきません。
実際、サージェント様はお父様からガーベラのことを聞いたと言っていたので、知り合いなのは間違いないのです。
ライラックさんは苦笑いをしています。ライラックさんにも事情を全く話していないので困っていると思います。
「私が君をここに住まわせることは全く構わないが、もはやここまで来ると殿下達が本気で調べれば君の正体はすぐにわかるだろう。君がどんな悩みを抱えているのか私にもわからないが、彼らを信じて話してみたらどうだ」
ライラックさんも私を諭すように言いました。
確かにこのまま私が黙っていたところでフリージアの名前を出して調べられたら、あの人達に私のことが伝わるだけのような気がします。
「わかりました、全てお話しします……」
私は観念して、深呼吸して気持ちを落ち着けました。名前を名乗るだけでここまで緊張したのは生まれて初めてのことです。
「私の名前はフリージア・マトリカリア。先程名前が出たカトレア・マトリカリアの娘です」
改めてそう言うと、先程治癒魔法が使えることがわかり、やっとお母様の娘だと胸を張って言えることを誇らしく思えました。
幼い頃から魔法が使えなかった事で、私は自分の全てのことに自信を喪失していたような気がします。
「ということは、其方はマトリカリアの聖女ではないか。言われてみれば、どことなく母親の面影がある」
サージェント様はお母様の上司に当たるので、良く顔を合わせていたのでしょう。マトリカリアの聖女という呼び方はなんだか照れくさいのでやめていただきたいですが。
「サージェント様、先程マトリカリアの後継者は既に決まったと言っていませんでしたか?マトリカリアの聖女は一人しか生まれないはずですが」
カラードさんは私の家の事情に詳しいようです。そう問われたサージェント様はお父様から事後報告を受けただけらしく困惑しています。詳細を知るはずもないので私が説明しました。
お母様の死後にお父様がハイドランジアから後妻を迎えていたこと、娘のガーベラはその後妻との間に授かっていた不義の子であること、ガーベラにマトリカリアを相続させるために彼等が私にしたことを包み隠さず全て話しました。
「それで逃げてたどり着いたこの村でライラック様のお世話になりました。この半年間は自由にありのままの私でいることができ、ライラック様にはいくら感謝してもしきれません。許されるならこのまま私をここでそっとしておいて欲しいのです」
「そうか、あの日君が村の近くで倒れていたのは、そんな事情だったのか。とても辛い思いをしたのだな。私で力になれて本当に良かったと思う」
ライラックさんに優しい言葉をかけられて、話している時には我慢していた涙が再び溢れてきました。ちょっと泣き過ぎだと自分でも思います。
「ちょっと待って。マトリカリアの聖女には聖痕があるはずだ。君が本物なら見せて欲しいのだが」
カラードさんは本当にマトリカリアの事に詳しいです。マトリカリアに関して伝わる文献でもあるのでしたら、読んでみたい気がします。しかし、疑われたところで、こんな場所で大勢の男性相手に胸元を晒すわけにはいきません。
「お母様と同じように聖痕はありますが、ここで皆さんにお見せできる位置ではありませんのでご容赦ください。どうしても信じられないと言うなら、あちらの陰でカラードさんだけにお見せしてもいいですけど」
「……いや、あるならいいんだ。先程の治癒魔法で疑いようもない事実とは思う。すまない、興味本位で変なことを聞いた」
カラードさんは申し訳なさそうにそう言ってくれました。私は内心、本当に見せる羽目にならなくて安心しました。ルピナス様が言う通り、カラードさんは雰囲気とは違って真摯な方のようです。
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