上 下
25 / 27

25

しおりを挟む
私は元の姿に戻りました。巨大なエンシェントドラゴンの姿に。
翼を広げて天を覆い尽くすと、自分の存在を示すように咆哮をあげました。

「エピドートの方々、貴方達のせいで私は想いを遂げる事なく命を奪われる事になりました。楽に死ねると思わないでくださいね」

ひいいい!と叫びながらイザベラの父親が逃げ出しましたが、私はそれを尾で叩き潰しました。

「お父様!?」

それを見てイザベラが悲鳴をあげます。尾を叩きつけた場所には血溜まりができていました。

「ドラゴンだと?こんな巨大なものは見たことがないが」

「それはそうでしょう。本来エンシェントドラゴンが姿を現す時は文明が滅びる時ですからね」

「エンシェント……ドラゴン?最終試練の大穴に眠ると言う伝説の?」

多少は聖女の勉強をしたのか、イザベラも少しは知っているようです。

「今までドラゴンなど腐る程相手にしてきたわ!極大魔法で消し炭にしてくれる!」

エピドート公爵の放った魔法が顔に飛んで来たので、手で払いました。

「いたっ」

「私の極大魔法が掻き消されただと!?ぐおおお!」

少し手が痛かったので、お返しに炎のブレスで消し炭にしてあげました。残るはイザベラだけです。

「お父様……お爺様……」

肉親を失ったイザベラは茫然自失しています。
服もさっきのままで血みどろですし、まるでこっちが悪者ではありませんか。

彼女の記憶を覗いた時に、少し同情してしまったのですが、生かしておく程の理由にはなりません。苦しめるつもりでしたが、一思いに逝かせてあげる程度にしておきましょうか。

「結局、私は命まで貴女に奪われるのね。普通に暮らしたかっただけなのに」

「貴女から色々なものを奪ったのは先程の老人です。殺された私が加害者のように言わないでください」

私はイザベラを握り潰そうと手を伸ばしました。彼女はもう観念しているのでしょう。目を瞑って打ち震えるだけです。

「ごめんなさい……ごめんなさい……もし生まれ変わったら、次は聖女とは関係の無い世界に」

イザベラに手が届く直前で止まってしまいました。
別に私が悪いわけではないのですが。

「アビゲイル、待ってくれ」

後ろからクリストファー様が声をかけてきました。

「クリストファー様、それは私を殺したこの女を生かせと、そういう意味ですか?私達の仲を引き裂いたこの女を生かせと」

優しいクリストファー様は私が殺す事を躊躇ってしまったのを見ていたのでしょう。でも、イザベラを庇ったようにも思えて、私は思わずクリストファー様に威圧をしてしまいました。

「違うんだ。聞いてくれベアトリス」

クリストファー様もこの姿が恐ろしいのでしょう。震えながら威圧に耐えて、私に呼びかけています。

「僕は君にこれ以上人を殺して欲しくないだけなんだ。僕が不甲斐ないばかりに。さっきの兄上も君の仕業なんだよね?」

「私だって殺された恨みを晴らしたい気持ちがあるので、別にクリストファー様のせいではありませんよ」

「君は躊躇っているじゃないか。イザベラは僕が責任を持って、罪に相応しい罰を与えるから、元の優しいアビゲイルに戻ってくれないか」

もう元には戻れないのにそんな事を言われ、私は悲しくて咆哮してしまいました。そこまで言うなら私の怒りの根源を見てもらいましょう。

「クリストファー様、手に乗ってください。もう私がアビゲイルではない事をお見せします」

私が手を差し出すと、クリストファー様は手に乗ってくれました。

「ちゃんと掴まっててくださいね」

「どこにいくんだ?うわああああ!」

私はそのまま翼を広げて、大穴に向かって飛び立ちました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。

柚木ゆず
恋愛
 前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。  だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。  信用していたのに……。  酷い……。  許せない……!。  サーシャの復讐が、今幕を開ける――。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

さあ、お嬢様。断罪の時間です ~ある婚約破棄事件のその後~

オレンジ方解石
ファンタジー
 サングィス王国の王太子エルドレッドは、ソールズベリー公爵令嬢ベアトリスとの婚約を破棄。タリス男爵令嬢を王妃に迎えようとして、愚行をサングィス国王に断罪される。  ベアトリスは新しい王太子ウィルフレッドの妃となり、世間からは「物語のような婚約破棄事件」と称賛された。  しかし現実は物語のようには終わらず、三年後…………。 ※グロなどはありませんが、一応、死体や死亡展開があるので、R15 設定にしています。 ※ファンタジー要素は薄めですが、婚約破棄や悪役令嬢要素があるので、カテゴリを『ファンタジー』にしています。

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。

西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。 路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。 実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく――― ※※ 皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。 本当にありがとうございました。

【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)

との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。 今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。 ヤバいです。肝心な事を忘れて、  「林檎一切れゲットー」 なんて喜んでたなんて。 本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。 「わしはメイドじゃねえですが」 「そうね、メイドには見えないわね」  ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。 ーーーーーー タイトル改変しました。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

処理中です...