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「僕の要望はオニキス卿から聞いているね?先日も直接伝えようとしたんだ。君は兄上達の酷い仕打ちのせいか、話を聞いてはくれなかったけど」

ついにその話になるのかと内心ドキドキしていますが、とりあえずお父様が責められると困るので聞いていることは伝えました。

クリストファー様はおもむろに立ち上がると、私の横に来てひざまずき、そして私の右手を取りました。

「僕は今回の件で王位継承権を得て、ゆくゆくは王になる。その隣には君にいて欲しいんだ。僕の気持ちに応えてもらえないだろうか」

嬉しくて涙が出そうな言葉でした。生きてさえいれば、このエンシェントドラゴンの身体でなければ、頬を赤らめ目を潤ませて「私で良ければ喜んで」などと言っていたことでしょう。

「クリストファー様、私にはその資格はございません」

目を逸らしてそう言うしかありませんでした。

私はもう死んでいるのですから。

でもそう考えると涙が出てきました。愛しい人が私を求めてくれているのに、どうして生きていられなかったのでしょうか。

「アビゲイル、それでは意味がわからない。それに、なぜそんなに悲しそうにしているんだい?僕は何か君を傷つけることを言ったのだろうか」

「違います、決してそのような……」

クリストファー様の気持ちに応えることができないのがもどかしい。たとえ本心を口にしても、ただ思わせぶりになるだけです。

「資格というのは聖女でなくなったからという事かい?僕はそんな事で君を好きになったわけじゃない。でも、君がそれでも僕の思いを迷惑と思うなら、はっきりそう言って欲しい」

クリストファー様は優しい人だから、もしここでそう言えばしつこく迫って来ることはないでしょう。
……そんなの嫌です。私だって望んでエンシェントドラゴンになったわけじゃないのに。

「迷惑だなんてそんな訳ないじゃないですか。私だってずっとクリストファー様が……好きだったし、クリストファー様がそう言ってくれるのがどんなに嬉しいか」

結局ぶちまけてしまいました。矛盾の塊です。自分でも情けなくなります。終いには嗚咽を漏らしてしまう羽目になり、ますますクリストファー様は困った顔をしています。

「困ったな。君は何の問題を抱えているんだ。それは兄上達のことを解決しても駄目なのかい?」

「……全てが終わったらお話しすることはできます。でも私がクリストファー様を求めてはいけないんです」

結局思わせぶりになってしまいました。クリストファー様は悩んでいるようでした。

「では君が話してくれるのを待つよ。婚約式の後でいいから、その話を聞かせてほしい」

これでクリストファー様との話は終わり、彼と一緒に部屋を出て門まで見送ってもらいました。

「お前達、何をしている」

その道すがら、王太子様と鉢合わせてしまいました。相変わらず嫌らしい笑みを浮かべています。

「俺に婚約破棄された途端に別の王族に色目を使うなど、親子揃って権力欲の強いことだな」

酷い言い草にまた威圧しそうになりましたが、クリストファー様が間に立ってくれました。

「僕の方から彼女を呼んだのです。侮辱するのはおやめ下さい」

「ふん、お前は小さい頃から俺のお古ばかり与えられていたな。まあ聖女になり損なった女がお前にはお似合いだ。せいぜい頑張れ」

高笑いしながら王太子様は去っていきました。
まああと数日の命ですから好きに言わせておきましょう。

「すまない、我が兄ながら恥ずかしい限りだ」

確かに恥ずかしい人ですが、それはクリストファー様とは関係ありません。私は首を横に振りました。

そこからはお互い無言で馬車まで歩きました。

「君がどんな秘密を抱えていても僕は君を受け入れるから」

馬車に乗り込む時、私を見つめるクリストファー様にそう言われました。
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