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アリアと会った翌日、私は本物の聖女の気配を追って貴族街をうろついていました。自宅であるオニキス侯爵家からそう遠く無い場所から気配を感じたのです。魔法で作った衣装で使用人のフリをして勝手口から出てきました。

修行が無いとこんなにも時間あるのかというくらい、何もすることがありません。いつまで化けていられるかは分かりませんが、お母様の言う新しい生き方を早く見つけないといけませんね。

聖女の気配を辿ると、案の定というべきかエピドート公爵家の屋敷に辿り着きました。

ことを公にする場合、証拠となる本物の聖女はアリアと合わせて消されてしまう可能性が無くはないので、できれば保護したいと考えています。いろいろと感づかれるので今すぐでなくて良いとは思いますけど。

イザベラ嬢の気配は無く、どうやら不在のようです。ついでに魔法で気配を殺したまま忍び込んで記憶を引き出そうと思っていましたが残念です。

諦めて私がそのまま自宅に帰ろうとすると、後ろから私を追う気配を感じました。歩幅を変えても一定間隔で追跡されているようです。
このままオニキス侯爵家に帰れば間者扱いされそうなので、私は別の方向に向かうことにしました。

足早に下町のある北区画に向かい、裏路地に入りました。そして、人気の無いところを見つけて姿を隠して相手を待ちます。何故なら、私を追跡しているのは覚えのある魔力の持ち主だったからです。

そして私の狙い通り、追跡して来た者が私の前に姿を現しました。相手は少し身なりの良い女性でした。彼女からすれば気配を消していた私が突然現れたので逆に驚いているようですけど。

「まさか生きているとは思いませんでしたよ、オニキス侯爵令嬢アビゲイル様。何か探っていた様子でしたが、エピドート公爵家にどのような御用ですか?」

そう聞いてきた彼女は、内包する魔力から私を洞窟で襲った者と考えて間違いありません。小柄な女性という身体的特徴も一致します。服装から想像するとエピドート公爵家に連なる貴族でしょう。銀髪の綺麗な女性ですが、年齢は私よりはだいぶ上かもしれません。

私が黙っていると、女性はスカートを手繰り上げてレッグホルスターからナイフを取り出しました。

そのまま有無を言わせず飛びかかってきたので、私は拘束の魔法で動けないようにしました。

彼女は驚愕した顔で私を睨んでいます。そのまま魔法を詠唱し始めたので、それも魔法で封じてやりました。

「全て無詠唱!?私がこうも簡単に押さえ込まれるなんて!」

かなりの手練れのようですが相手が悪かったですね。あの時も聖女の結界を避けて地面を崩すなんていう機転を働かせていましたし。

「貴女にはあの時のお礼をしなくてはいけませんね」

私を殺したお礼をね。そう考えると思わず殺気だってしまいました。命じた者がいるとしても、それは許せることではありません。
私が女性に向けて利き手を伸ばすと、彼女は憮然とした態度でこちらを睨んでいます。

「私は秘密を漏らさないように訓練しています。何をしても無駄なことですよ」

「貴女の頭に直接聞くので訓練など関係ありません」

強がる彼女に私がそう言うと、私の手から魔力で形成された手が彼女に向かって伸びていきます。

「な!何をする気ですか!?」

指一本動かせないように身動きを封じられた状態で未知の力を向けられ、彼女は流石に恐怖を感じているようです。

「安心してください。今は殺しませんから」

私はそう言いながら魔力の手をそのまま彼女の頭をすり抜けさせて、脳を直接鷲掴みにしました。

「ひいい!あっ!……あがが……」

記憶を直接探られることは決して楽なことではありません。彼女は魔法で拘束されたまま、変な声を出して涎を垂らしながら白目を剥いています。
これが謁見の間でこの魔法を使えなかった理由なのです。

さて、誰に見つかるとも限りませんので早く始めましょうか。
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