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『三田園子』という人
180話 それってもしかしてヤンデ……
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「……えっ。おわり?」
「中忍試験は」
「いいところで終わったねえ」
時刻は朝七時半を回るころです。おはようございます。隣の部屋の愛ちゃんの寝息が聞こえなくなって久しいですがだいじょうぶでしょうか。わたしと勇二さんはあぐらで。一希さんは右手で頭を支えてごろんと横になって。お腹のところでノリタケさんが添い寝しています。はい。愛ちゃん以外は完徹。そういうことです。
愛ちゃんは昨日、「原典至上主義者のあたしにアニメを観せる気か?」と真顔で尋ねてきて、そのまま隣の部屋へ直行。寝袋で即寝落ちていました。はい。ちょっとわたしもそうしたい気がしましたが、なにせ観ようって言ったのはわたしである手前「仮眠してからにしません?」とは提案できませんでした。長い一日でした。
「えっと……すいません。結局朝までつきあわせちゃって……」
「いえいえいえいえ、俺も観たかったので。めっちゃ観たかったので」
「おもしろかったよねえ」
一希さんが薄目になって寝入りそう。おやすみなさい。アニメに興味がないアラフォーおじさんなのにありがとう。すんごくレム睡眠からノンレム睡眠に移行しそうな感じなのに「あれだね、戦いモノだからか、女の子のキャラが少ないね。あとザブザよかった」とゆったりとした口調で小並感してくれました。
「……コーヒーかなんか買って来ましょうか」
よっこらせ、と立ち上がると体のどこかがバキっと言いました。「あー、うん。いっしょに行くよー」とノンレム気味返答がありました。勇二さんも立ちました。バキって言ってました。一希さんの応答がなくなりました。隣の部屋でごそごそ音がして、愛ちゃんが「……え、朝まで観てたん?」と言いました。はい。第一期を一話から二十五話まで。おはようございます。
結局駅チカのカフェでモーニングにするかーという話になったんですが、一希さんに「行きます?」と言ったら「うん」とおっしゃり、「眠かったら待っててくださっても。ノリタケさんもいるので」「うん」「じゃあおみやげにコーヒー買って来ますね」「うん」となりました。おやすみなさい。
昨日はあのあと、三十分もしないで一希さんも合流して。愛ちゃんが「あたしさんざん飲み食いしたから、三人でごはん食べなよ」とノリタケさんのエスコートを交代してくれました。愛ちゃんと一希さんは初対面だったんですけど、一希さんは「こんなにかわいらしい人だったなんて!」とか言って握手を求めてました。愛ちゃんは「かっわ……」と絶句していました。はい。ちなみにご飯食べながらなんかそういう話になったんですが、一希さんも勇二さんも独身だそうです。まあそうじゃなきゃここまで妹にかまっていられないよな。一希さんは「私はバツイチ。子どもはいない」とのことです。なんとなく解釈一致。
ちなみに、愛ちゃんからって届けられたオレンジジュースは、お酒でした。帰り際、勇二さんといっしょに「なんかふらふらする」と症状を訴えたら「カシオレとかジュースだろ」との供述がありました。二杯目のもお酒だったみたい。かんべんしてくれ。
月曜の朝なので、ちょっとブルーな表情の出勤者たちが足早に駅へ向かっています。その中わたしたちはのんびりと、どのカフェにしようかなんて言いながら歩きました。無難に全国チェーン店にしました。はい。わたしはモーニングAで、勇二さんも同じ。愛ちゃんは熱々のハムチーズにしていました。それもおいしそう。
あー、完徹とかひさしぶりにしたわ。たぶん愛ちゃんと会ったばっかりのときにマリーンズの試合アーカイブ見ながら号泣解説された真夏の夜の夢以来。あ、そのあとに年越しから初日の出までの愛ちゃん配信があって、そのままニューイヤー駅伝の街路応援て流れがあったか。若かったな。
ちょっと心配だったので、勇二さんに「今日、お仕事ですよね? だいじょうぶです?」と尋ねてみました。そしたら涼しい顔で「あー、よくあるんで。だいじょうぶっす」とのことでした。よくあるんだ。遊んでるのか。仕事してるのか。聞かないでおこう。
帰り際に一希さんから電話が。「みんなどこー」と。なんかあざといな! 眠そうだったのでお留守番していただいたこと覚えてないみたいです。おみやげに「愛ちゃんが食べたやつ」と指定されたので熱々ハムチーズを熱々コーヒーといっしょに買いました。はい。……つっこまないぞわたしは!
「じゃあ、帰るわー。昼配信あるし」
「ありがとうねー!」
おうちへ帰ることがわかったのか、ノリタケさんはしっぽふりふりしながら車の後部座席に乗りました。かわいい。一希さんが「配信? なに?」と聞いてこられたので、愛ちゃんが歌い手さんだとお伝えします。勇二さんも初めて聞いたみたいで、ふたりで「へー」とおっしゃってました。なんかあんまり似ていない兄弟だと思っていたけれど、驚いた顔そっくりだね。
「で、続きいつ観るの?」
一希さんが愛ちゃんの車を見送ったあとにおっしゃいました。え。また三人で観る気なの。わたしが勇二さんを見るとあちらもちょっと困った顔でこちらを見て、「えーっと、俺は午後に外せない仕事あるんで、それ次第です」と言いました。観る気かよ。
「じゃあとりあえず解散して、夕方にまた集結かねー」
「えっと、NARUTOってめっちゃシリーズあるんですよ。とりあえずどこまで観るかを決めませんか」
なんか延々と毎日来られる気がしたので、あわててわたしは言いました。とりあえず中忍試験がどうなるかは見たいね、ということで、そこまでね! と約束しました。……第一部の少年篇終わりまでってなったら、今の十倍の時間かかるからね!
一希さんが朝食を終えてから、解散。わたしはなんだか目が冴えてしまっていて、お風呂に入ってからキッチン周りのものを荷解きしました。レアさんがここのキッチン見たら、喜ぶだろうな。そう思って、夢の中で美ショタ様がおっしゃっていた『犠牲』という言葉を思い出しました。ここまでくると、さすがに、あれはただの夢じゃないことは理解できます。きっと『王杯』がわたしへ見せている、あちらの状況。――レアさん、どうしちゃったのかな。なにがあったの? 心配だよ。そして。
――空っぽの冷蔵庫を見て、わたしにはそこに食材を詰め込む勇気がないことに気づきました。
気分を変えるために、お昼はおしゃれカフェにおじゃましました。そこのWi-Fiで愛ちゃんの配信を見ていたら、五万円の赤い色の投げ銭が見えましたが、名前が『Kazuki』だったことは気づきませんでした。ええ。
で、マンションへ戻ったら、さすがに体力の限界でした。
――日差しが暑い。はっとしてわたしは周囲を見回しました。この前とは違うお部屋のすみっこにいる。書斎っぽいけど、もっとビジネスライクな感じ。机ではなく、ローソファに座っていらっしゃるオリヴィエ様の姿が見えました。そして対面側でこちらに背を向けて座っている後頭部は、ミュラさん。
「――夢を、見たんだ」
オリヴィエ様が、静かな瞳でおっしゃいました。とてもすっきりとした表情で、この前のように苦悩された様子はありません。酸素。酸素要りませんか。わたし今回はどうなの、光合成できるの。
「ソノコが……ここじゃないどこかにいる夢だった」
ミュラさんの後頭部が動きました。そして「そうですか。彼女はどうしていました?」と尋ねます。え、なに夢の話に素で返してるのミュラさん。あなたときどきふしぎよ。オリヴィエ様はミュラさんの反応を歓迎するような薄いほほえみを浮かべて、「元気だったよ」と答えました。
「友人たちと、旧交を温めていたようだった。自動車に乗ったり、こちらの蒸気機関車とは見た目も動力も違う列車に乗ったり、買い物したり、ファピーを観たりしていた」
「めちゃくちゃ元気ですね」
ミュラさんが声を上げて笑いました。そして「……よかった」とつぶやきます。顔は見えなかったけれど。心からの言葉だとわかりました。……心配かけてごめんなさい。
「……いっしょに買い物をしていた男がだれなのか、問いたださなきゃならないな」
ちょっといつもより低い声でオリヴィエ様がおっしゃいました。兄です。一希さんです。わたしは潔白です。とりあえず加西くんのことはバレてないっぽいのはよかった。
「しかも、違う男とも食事をして、あまつさえ結婚を申し込まれていたんだ。彼女は本当にどこに行っても人を魅了して回るな」
バレてました。しっかりバレてました。そこらへんちょっと融通利かせてくれてもよかったんじゃないでしょうか『王杯』くん。ミュラさんが「それは穏やかじゃないですね」と言うと、オリヴィエ様は悠然と「まあ、だいじょうぶ」とおっしゃいました。
「どっちが好き、と聞かれて、わたしの名前を答えていたから。ソノコは」
……ぎゃあああああああああああああああああはずかしいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!! なに筒抜けさせてんのよコップううううううう!!!!! 漏れるとかそれもうコップですらないだろコップううううううううう!!!!! それにしても自信に満ちあふれたオリヴィエ様すてき!!!!!
「……彼女が、なぜ私たちの元からいなくなったのか、理解できた気がする」
オリヴィエ様はすっと遠くを見るような瞳でわたしの方をご覧になりました。やだ見られてるはずかしい。ちょっと自分の姿を確認しようと思ったら、パキラみたいにあみあみの幹の木でした。なんで植物ばっかなの。
「どんな理由なんですか?」
ミュラさんがちょっと驚いたような声でおっしゃいます。わたしもそれ気になります! オリヴィエ様はわたしをご覧になったまま、「彼女は、人生を始めようとしているのだと思う」とおっしゃいました。なにそれ荘厳。思った以上にわたし重要なセンチメンタル・ジャーニーしてた。
「いろいろなことを、整理して、考えて。自分が往くべき道を、しっかりと自分で選ぼうとしているんだ」
「それなら、心配ないですね」
ミュラさんがあっけらかんと言いました。
「彼女は、行動できる人ですから。――最善を選択するでしょう」
オリヴィエ様はすごくやさしげにほほえまれて、「そうだね」とおっしゃいました。
「彼女の最善は私だからね。――じきに帰ってくるよ」
あれ。ちょっと瞳が怖い。えっ、あっ、はい。えっ? ……ふっと気がついたら十六時過ぎで、一希さんからのコールでスマホが震えていました。はい。
「中忍試験は」
「いいところで終わったねえ」
時刻は朝七時半を回るころです。おはようございます。隣の部屋の愛ちゃんの寝息が聞こえなくなって久しいですがだいじょうぶでしょうか。わたしと勇二さんはあぐらで。一希さんは右手で頭を支えてごろんと横になって。お腹のところでノリタケさんが添い寝しています。はい。愛ちゃん以外は完徹。そういうことです。
愛ちゃんは昨日、「原典至上主義者のあたしにアニメを観せる気か?」と真顔で尋ねてきて、そのまま隣の部屋へ直行。寝袋で即寝落ちていました。はい。ちょっとわたしもそうしたい気がしましたが、なにせ観ようって言ったのはわたしである手前「仮眠してからにしません?」とは提案できませんでした。長い一日でした。
「えっと……すいません。結局朝までつきあわせちゃって……」
「いえいえいえいえ、俺も観たかったので。めっちゃ観たかったので」
「おもしろかったよねえ」
一希さんが薄目になって寝入りそう。おやすみなさい。アニメに興味がないアラフォーおじさんなのにありがとう。すんごくレム睡眠からノンレム睡眠に移行しそうな感じなのに「あれだね、戦いモノだからか、女の子のキャラが少ないね。あとザブザよかった」とゆったりとした口調で小並感してくれました。
「……コーヒーかなんか買って来ましょうか」
よっこらせ、と立ち上がると体のどこかがバキっと言いました。「あー、うん。いっしょに行くよー」とノンレム気味返答がありました。勇二さんも立ちました。バキって言ってました。一希さんの応答がなくなりました。隣の部屋でごそごそ音がして、愛ちゃんが「……え、朝まで観てたん?」と言いました。はい。第一期を一話から二十五話まで。おはようございます。
結局駅チカのカフェでモーニングにするかーという話になったんですが、一希さんに「行きます?」と言ったら「うん」とおっしゃり、「眠かったら待っててくださっても。ノリタケさんもいるので」「うん」「じゃあおみやげにコーヒー買って来ますね」「うん」となりました。おやすみなさい。
昨日はあのあと、三十分もしないで一希さんも合流して。愛ちゃんが「あたしさんざん飲み食いしたから、三人でごはん食べなよ」とノリタケさんのエスコートを交代してくれました。愛ちゃんと一希さんは初対面だったんですけど、一希さんは「こんなにかわいらしい人だったなんて!」とか言って握手を求めてました。愛ちゃんは「かっわ……」と絶句していました。はい。ちなみにご飯食べながらなんかそういう話になったんですが、一希さんも勇二さんも独身だそうです。まあそうじゃなきゃここまで妹にかまっていられないよな。一希さんは「私はバツイチ。子どもはいない」とのことです。なんとなく解釈一致。
ちなみに、愛ちゃんからって届けられたオレンジジュースは、お酒でした。帰り際、勇二さんといっしょに「なんかふらふらする」と症状を訴えたら「カシオレとかジュースだろ」との供述がありました。二杯目のもお酒だったみたい。かんべんしてくれ。
月曜の朝なので、ちょっとブルーな表情の出勤者たちが足早に駅へ向かっています。その中わたしたちはのんびりと、どのカフェにしようかなんて言いながら歩きました。無難に全国チェーン店にしました。はい。わたしはモーニングAで、勇二さんも同じ。愛ちゃんは熱々のハムチーズにしていました。それもおいしそう。
あー、完徹とかひさしぶりにしたわ。たぶん愛ちゃんと会ったばっかりのときにマリーンズの試合アーカイブ見ながら号泣解説された真夏の夜の夢以来。あ、そのあとに年越しから初日の出までの愛ちゃん配信があって、そのままニューイヤー駅伝の街路応援て流れがあったか。若かったな。
ちょっと心配だったので、勇二さんに「今日、お仕事ですよね? だいじょうぶです?」と尋ねてみました。そしたら涼しい顔で「あー、よくあるんで。だいじょうぶっす」とのことでした。よくあるんだ。遊んでるのか。仕事してるのか。聞かないでおこう。
帰り際に一希さんから電話が。「みんなどこー」と。なんかあざといな! 眠そうだったのでお留守番していただいたこと覚えてないみたいです。おみやげに「愛ちゃんが食べたやつ」と指定されたので熱々ハムチーズを熱々コーヒーといっしょに買いました。はい。……つっこまないぞわたしは!
「じゃあ、帰るわー。昼配信あるし」
「ありがとうねー!」
おうちへ帰ることがわかったのか、ノリタケさんはしっぽふりふりしながら車の後部座席に乗りました。かわいい。一希さんが「配信? なに?」と聞いてこられたので、愛ちゃんが歌い手さんだとお伝えします。勇二さんも初めて聞いたみたいで、ふたりで「へー」とおっしゃってました。なんかあんまり似ていない兄弟だと思っていたけれど、驚いた顔そっくりだね。
「で、続きいつ観るの?」
一希さんが愛ちゃんの車を見送ったあとにおっしゃいました。え。また三人で観る気なの。わたしが勇二さんを見るとあちらもちょっと困った顔でこちらを見て、「えーっと、俺は午後に外せない仕事あるんで、それ次第です」と言いました。観る気かよ。
「じゃあとりあえず解散して、夕方にまた集結かねー」
「えっと、NARUTOってめっちゃシリーズあるんですよ。とりあえずどこまで観るかを決めませんか」
なんか延々と毎日来られる気がしたので、あわててわたしは言いました。とりあえず中忍試験がどうなるかは見たいね、ということで、そこまでね! と約束しました。……第一部の少年篇終わりまでってなったら、今の十倍の時間かかるからね!
一希さんが朝食を終えてから、解散。わたしはなんだか目が冴えてしまっていて、お風呂に入ってからキッチン周りのものを荷解きしました。レアさんがここのキッチン見たら、喜ぶだろうな。そう思って、夢の中で美ショタ様がおっしゃっていた『犠牲』という言葉を思い出しました。ここまでくると、さすがに、あれはただの夢じゃないことは理解できます。きっと『王杯』がわたしへ見せている、あちらの状況。――レアさん、どうしちゃったのかな。なにがあったの? 心配だよ。そして。
――空っぽの冷蔵庫を見て、わたしにはそこに食材を詰め込む勇気がないことに気づきました。
気分を変えるために、お昼はおしゃれカフェにおじゃましました。そこのWi-Fiで愛ちゃんの配信を見ていたら、五万円の赤い色の投げ銭が見えましたが、名前が『Kazuki』だったことは気づきませんでした。ええ。
で、マンションへ戻ったら、さすがに体力の限界でした。
――日差しが暑い。はっとしてわたしは周囲を見回しました。この前とは違うお部屋のすみっこにいる。書斎っぽいけど、もっとビジネスライクな感じ。机ではなく、ローソファに座っていらっしゃるオリヴィエ様の姿が見えました。そして対面側でこちらに背を向けて座っている後頭部は、ミュラさん。
「――夢を、見たんだ」
オリヴィエ様が、静かな瞳でおっしゃいました。とてもすっきりとした表情で、この前のように苦悩された様子はありません。酸素。酸素要りませんか。わたし今回はどうなの、光合成できるの。
「ソノコが……ここじゃないどこかにいる夢だった」
ミュラさんの後頭部が動きました。そして「そうですか。彼女はどうしていました?」と尋ねます。え、なに夢の話に素で返してるのミュラさん。あなたときどきふしぎよ。オリヴィエ様はミュラさんの反応を歓迎するような薄いほほえみを浮かべて、「元気だったよ」と答えました。
「友人たちと、旧交を温めていたようだった。自動車に乗ったり、こちらの蒸気機関車とは見た目も動力も違う列車に乗ったり、買い物したり、ファピーを観たりしていた」
「めちゃくちゃ元気ですね」
ミュラさんが声を上げて笑いました。そして「……よかった」とつぶやきます。顔は見えなかったけれど。心からの言葉だとわかりました。……心配かけてごめんなさい。
「……いっしょに買い物をしていた男がだれなのか、問いたださなきゃならないな」
ちょっといつもより低い声でオリヴィエ様がおっしゃいました。兄です。一希さんです。わたしは潔白です。とりあえず加西くんのことはバレてないっぽいのはよかった。
「しかも、違う男とも食事をして、あまつさえ結婚を申し込まれていたんだ。彼女は本当にどこに行っても人を魅了して回るな」
バレてました。しっかりバレてました。そこらへんちょっと融通利かせてくれてもよかったんじゃないでしょうか『王杯』くん。ミュラさんが「それは穏やかじゃないですね」と言うと、オリヴィエ様は悠然と「まあ、だいじょうぶ」とおっしゃいました。
「どっちが好き、と聞かれて、わたしの名前を答えていたから。ソノコは」
……ぎゃあああああああああああああああああはずかしいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!! なに筒抜けさせてんのよコップううううううう!!!!! 漏れるとかそれもうコップですらないだろコップううううううううう!!!!! それにしても自信に満ちあふれたオリヴィエ様すてき!!!!!
「……彼女が、なぜ私たちの元からいなくなったのか、理解できた気がする」
オリヴィエ様はすっと遠くを見るような瞳でわたしの方をご覧になりました。やだ見られてるはずかしい。ちょっと自分の姿を確認しようと思ったら、パキラみたいにあみあみの幹の木でした。なんで植物ばっかなの。
「どんな理由なんですか?」
ミュラさんがちょっと驚いたような声でおっしゃいます。わたしもそれ気になります! オリヴィエ様はわたしをご覧になったまま、「彼女は、人生を始めようとしているのだと思う」とおっしゃいました。なにそれ荘厳。思った以上にわたし重要なセンチメンタル・ジャーニーしてた。
「いろいろなことを、整理して、考えて。自分が往くべき道を、しっかりと自分で選ぼうとしているんだ」
「それなら、心配ないですね」
ミュラさんがあっけらかんと言いました。
「彼女は、行動できる人ですから。――最善を選択するでしょう」
オリヴィエ様はすごくやさしげにほほえまれて、「そうだね」とおっしゃいました。
「彼女の最善は私だからね。――じきに帰ってくるよ」
あれ。ちょっと瞳が怖い。えっ、あっ、はい。えっ? ……ふっと気がついたら十六時過ぎで、一希さんからのコールでスマホが震えていました。はい。
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